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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 静かな死が灰被りの都を満たして
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悪魔は嗤う

 学生結婚ってだけでも珍しいのに殴り込み&殴り込みの相手と結婚宣言をした馬鹿どもがいるらしい。

 大立ち回りの末に抱き合いながら結婚宣言だ。当初はカンカンだった皆さんも途中からイイ話だなーってなっていた。勢いで誤魔化した感がある。


 神父さんよ、どうしてプロレスのレフェリーみたいになってるんだい? あんたこっちが本職でしょ! 地下コロシアムか何かの!


「病める時も健やかなる時も落ちぶれた昔の女が身売りにきた時もナシェカ嬢を愛すると誓うか!」

「誓う、俺はナシェカを愛し続ける!」

「私も誓う。どんな時もリリウスの隣でこの剣を振るう!」


「俺と!」

「私は!」


「「結婚します!」」


「はい誓った! 此度の婚礼は太陽神ストラの名において成立した! 何者も意義を唱えることは許さん!」


 結婚を誓った二人の腕を掲げて勝利のポーズを取らせるのは何か違くないかな!?

 やっぱりあんた地下コロシアムの審判でしょ!


 そして流れるように移動して上の階での披露宴。せっかく注文してもらった料理と酒が無駄になっちゃうからな。

 まぁなんだ。親父殿が苦々しい顔してるぜ。


「お前なあ、偽装カノジョならそう言えよ。何も言わないからおおごとになっちまっただろ!」

「おおごとにしたのは親父殿な。……まぁその、すまない」

「謝れば済む話ではない。まぁ手の込んだサプライズだと思われているようだが……」


 学院からの出席者からすればナンデエリンと?って感じで俺の恋人はナシェカだっていう自然な認識があったからな。最初からこういう演出だったんだろって感じで済んでる。

 まぁフラオ家にはお詫びの品を持っていかねばなるまい。演出だったんだで済まねえよ。全員集合してるフラオ家からすれば何事だよって感じだろ。


「幸いマクローエン家は帝国一のやべー一族で知られているからな。この程度の良識を欠いたサプライズなら許されそう」

「馬鹿を言うな。お前も俺もこの後は誠心誠意の謝罪行脚だぞ」

「うす」


 何人かはクラスメイトも来てくれたよ。

 主にディルクルス君のお友達連中な。


「本当に結婚するのかと首を傾げていたが本当に結婚して驚いたよ。おめでとう」

「ありがとう」

「なあに、賭けには負けたが楽しめたよ」


 お前らも俺の結婚でトトカルチョやってたのかよ。

 聞けば元締めはクリストファーらしい。あの野郎ふざけやがって。あがりの一部を提供させてやる。


 やってきたクリストファーがちっこい巾着を渡してきた。


「なんのつもりだ?」

「ささやかな祝い金だ」


 銀貨五枚。こいつにしては奮発したな!

 皇族からの祝い金が銀貨五枚なのではない。ドケチで有名な銀狼商会の会長からの銀貨五枚だ。武功でいえば大将首くらいのレアリティだぜ。


「こんな日くらいはありがたく頂戴しておくよ」

「そうするとよい」


 そうしよう。祝い金を突き返すようなまねをすれば、もう話し合いの余地もない獣でしかない。それと新生活は何かと物入りでな。新しいベッドも欲しいしな。


 ワインも差し出してきた。


「気遣いのあるこった」

「めでたい席だからな」

「そうかい」


 話題がないから会話なんてあるわけがない。

 本音でぶつかると殺し合いになるからな、避けるともう本当に何もないんだ。


「デブから報告は受けた。これからの動きと、何をするかについてな」

「そうか。そちらはどうする?」

「LM商会は帝国から撤退する」


 よほど意外だったらしく驚かれてしまった。

 何だろうねえ。まさかてめえ如きを俺様が命懸けで仕留めにいくとか、お前を倒さない内は絶対に退かないとか浅はかにも考えていたのかねえ。


「お前もガレリアも操って己が野望を果たそうとする男がいる。その勝率がどんなに低いものであったとしても邪魔をするつもりはない」

「随分とあっさりと言うんだな?」

「敬意があればこそだ。帝国の命運を握るのは俺である必要はない。帝国を愛していない者にそんな資格はない」


 皮肉は通じたらしい。

 俺にもお前にも帝国臣民の命運を左右する資格はない。それでも権利を主張する愚か者なら帝国の守護神がその野望を阻むのだろうぜ。


「一つだけ忠告してやる。あの御方は手強いぞ、俺なんざ比較にならねえ」

「わかっているさ」


 誰もが譲れぬ願いのために戦う。勝利でしか願いを掴み取れないからだ。

 勝てないから戦うな、願いを諦めろなんて言えるわけがない。


「そうそう、トトカルチョの儲けだが幾らになった?」

「これだ、すごいぞ」


 救世主の本気のナックルが小銭皇子の横っつらを打ち砕き、見事強奪に成功した。



◇◇◇◇◇◇



 アシェラと電話で話をしている。彼女はいまイストリアでイース財団の動きをどうのこうのしているらしい。仕上げは後で確認して驚いてくれだそうだ。


「本当にこれでよかったのかな」

『ガーランドに協力しても構わないと思うよ。でもその場合は銀狼陣営と協調路線になりキミもボクらも豊穣の大地プランを実行する手駒になるね』


 再確認のような会話だ。


『ガレリアとの対決は豊穣の大地プラン完遂後になる。新しい体制を築く瞬間にこれまでスクラムを組んだ相手との蹴落とし合いが始まる。ボクらの出番はそこまでないよ。青の薔薇を抑え込んだ以上もう帝国でできることなんて何もない』


 何度も話し合ってきた内容の再確認のような会話のあとで彼女はいつだってこう言う。


『それとも盤面をひっくり返してみるかい? ガレリアと叩き潰し、イース財団を叩き潰し、戦うちからを失った帝国という名の邪悪を叩き潰すために立ち上がるであろう周辺諸国も全部叩き潰してキミが王となるんだ。……きっと人類史上最大の版図を持つ大帝国ができあがるよ』


「そんなことできるわけがない」

『できるよ、キミとボクなら』


 彼女はいつだって俺を唆そうとする。いやちがうな、変な提案をして俺に否定させたいだけなんだ。

 でもそれはアシェラの半分の本音が込められた変な提案で、半分程度はその方がいいと考えている。


「言い方を変える。やりたくない」

『そうかい。でも覚えておいてね、これが最良の選択肢だったって』


 冗談がすぎるぜ。とは言い切れないんだろうな。

 逆らうすべてを叩き潰した先に何がある? それは誰にもわからない。わかりたくもない。



◆◆◆◆◆◆



「そうかい。でも覚えておいてね、これが最良の選択肢だったって」


 って言ってから通話を切る。

 何だか無性に笑いが堪えきれなくなって、イザールは足をバタバタさせて笑い転げてしまった。


 愉快だ愉快だと笑い転げるのがやめられない。ネタばらしをした時にどんな顔をしてくれるのかと想像するだけで笑ってしまう。


「大切な話は面と向かってしなきゃダメだよ」


 なんて言えば勘づかれてしまうから言えないけど言いたくて言いたくて仕方なかった。


 でも堪えなければならない。ネタばらしの瞬間まで秘密にしておかなければならない。キミの軍団はとっくに壊滅しているんだよ!って。


 イザールが次の対象へと電話を掛け始める。


「あぁもしもし、ボクだよ!」


 アシェラ神の声マネをして電話を掛ければ誰も疑いはしない。

 クラン神狩りの戦士たちを指定の場所に派遣して確保する。彼らが旅の扉と呼ぶポータルに罠を仕込んである。あれを潜れば最後だ。能力を封じる空間内でこちらの大部隊が待っている。


 丁寧に丹念に羽を一本ずつもいでいく。羽を失った翼は羽ばたきを忘れ、彼はどのようにして堕ちるのだろうかと想像するだけで笑ってしまう。


 最後のステージが整いつつある。すべてを失った男が発する絶叫はどれほどに甘いのだろうと悪魔が嗤う。

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