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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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芽生えたのは友愛と絶対に敵を破滅させてやるという強い感情

「色を揃えればいいと思うんだよ」

「うー? でもそれじゃあこの意味ありげな石碑は何よ。もうちょっと考えた方がいいよ」

「でもワケわかんねえし。これトライ&エラーじゃないと解けないって」

「エラー出した瞬間即死級のトラップが発動したらどーすんの!」

「男は愛嬌、女は度胸っつーだろ。度胸出していこうぜ」

「リリウスってば面倒くさがり屋だよね……」


 カジノの奥に古代遺跡にありそうな変な仕掛けがあった。いやこんな古代遺跡みたことねえけど。

 赤・青・金色の竜頭の台座が三つある。大口を開いた竜頭に、珊瑚の枝先に刺さった七色のオーブのどれかを嵌める系のギミックだと思われる。


 一応ヒントっぽいのがある。珊瑚の手前にあるモニュメントだ。


『強欲なる金の竜は真に価値あるものを欲し、穏やかなる青の竜はこの微睡みが永遠に続くを願い、猛々しき赤き竜は何物をも滅ぼさん』


 これだ。なんでカジノの倉庫に行くのに謎解きギミック置いておくんだよ。従業員の苦労を考えろよ馬鹿としか言えない。

 で、ギミックを解くと奥の大きな扉のロックが解除されるんだと思う。


 さあ考えてみよう。あとで答え合わせがあるぞ。


 ……

 …………

 ………………えい!


 面倒なんで扉を蹴り飛ばす。ガァンと快音が鳴り渡り、扉の片方が吹き飛んでいったぜ。


「よし、進もう」

「あー、盲点だったねそれ」

「人は選択肢を与えられると選択肢の中で悩んでしまいがちだが、そこで悩むこと自体が罠に陥った証なのである」

「おぉー、それっぽい名言出てきた。さすが世紀の大泥棒」


 好感度上昇したな。今夜はイケそうな気がしてきたぞ。


「ところで誰の言葉?」

「俺」


 トコトコ奥へと進んでいく。


 部屋一つまるごと剣山になってる部屋があり、天井をウインチが勝手気ままに動いている。ウインチを伝って奥に見える通路まで進めっていうギミックだ。

 ナシェカを抱えて天井を走ってクリアしたわ。


 幻灯機の影が踊る奇怪な部屋があった。不用意に踏み込んだ瞬間に影が襲い掛かってきたので撃退しつつ室外まで退避する。影は室外までは追いかけてこない。


「どういう仕掛けだろ」

「わからん。クリア方法の検討すらつかないギミックは初めてだな」


 ナシェカが幻灯機の動きをじぃっと観察している。俺はお手上げなので任せてみるか。


「ファーブルのシャイターンが残したセトラ・アーティラリーに似てるね」

「何それガチで知らねえ」

「光と闇の正章。いわゆる異世界原理魔法」


 あぁレスタト・ダークネスみたいなやつか。この世界の魔の法則とは異なる別世界の法則に乗っ取った謎魔法だ。セオドア師曰く世界は世界を定義しないの考え方によって生み出された主観世界論のおかげで存在を許されてるやつだ。

 これはあれ、人それぞれみんな別の形の世界が見えているんだよっていう異端を異端にしない優しい教え。別名を放りっぱなしや諦めともいう。


 晩年のセオドア師は学生の質問に対してこう言ったらしい。

『なに言ってるかわかんねえだろ。俺にもわからねえ!』


 千人近い弟子がいる大賢者さまなのに見栄を張らない格好いい男だ。俺もこうありたい。

 ちなみにこの話は雑学であり今回の解決法と何ら関係していない。


「ナシェカちゃんのお知恵にすがっていいかい?」

「原理をちょこっと知ってるだけで任されるのは困るなぁ。……最後の一個なんだけど仕方ないか」


 何かを放り投げた。

 転がっていった何かが爆発する。熱のない、暗闇が弾けるようなヘンテコな爆発だ。爆発後の部屋では光の消えた幻灯機が意味もなく回り続けている。


「何したの?」

「エネルギードレイン。光の精霊の使役式から依り代だけを奪ったんだけど効果ありっぽいね」

「ナイスナイス。うまくいきゃいいよ」


 室内を調べる。これといって扉っぽいものは無い。……まさか?


「これはまさか一繋ぎの財宝パターンか」

「ナニソレ?」

「ナシェカ、俺を見てみろ」

「うん?」

「ほっほっほ、ちからを合わせてここまできた仲間こそが最高の財宝なのじゃよ」

「物語だと感動するけど実際に自分でやられると腹立つね」


 最後にキスで終われるのなら悪くないと思うのは俺だけか。


「なおカジノの景品は実在するのでもう少し探してみよう」


 続きの道はよく探せば見つけられた。入り口の三メートル真上にあった。暗闇にしておいて頭上とか中々考えてやがるぜ。


 突然通路が爆発したり銃弾がやってきたり使い魔に襲われたり……

 数々の罠に襲われながらも俺らは進んだ。……いやもうほんと、何かを間違えているという予感だけを抱えながらね。


(前提から間違えた臭いな。B5じゃなかった。絶対にB5じゃなかった、それだけなんだろうけど言い出しにくいな……)

(外れだ、絶対に外れだけど帰りたがるリリウスを引き留めた手前言い出しにくい……)


 攻略に二時間もかかる景品置き場なんてあるわけねえんだよ!



◇◇◇◇◇◇



 試行185、トラップワーム召喚による直下からの攻撃に失敗。召喚直前に床を踏みつけて魔法石を砕かれる。前回の反省を踏まえて処理能力を圧迫させた状態にもかかわらず失敗したため、同様の手段に対する完全な対策がなされていると断定する。


 試行186、契約精霊による掃討を試みたが二発で依り代を破壊される。推定消耗率の大幅な再考が必須。


 試行187,踏むと屁の音が鳴る床が思わぬほど効果的な時間稼ぎとなるも消耗に繋がる成果は得られず。仲違いを誘発させる方針へと切り替える。ルートKJ-02を解放、隔壁の操作にて誘導する。


 試行188―――


 ガイゼリック・ワイスマンは疲労から眼を閉じる。数秒から十数秒先の未来を視る異能は負担としては軽いが、ここまで積み重なるとけっして軽いとは言えない疲労度になってきた。


 罠を組み合わせて大きな試練を作る暇もなくなってきた。侵入者が人造迷宮製作者の思考に慣れ、先を読み始めたからだ。彼らにその自覚は無いのかもしれない。だが罠の突破に要する時間が急速に減ってきた。後手に回らざるを得ないシーンばかりが続いている。


(手強い。ここまで苦戦するか、ここまで俺を追い詰めるか。……痛い目をみて帰ってもらおうというのは虫が良すぎたか?)


 鞭を打ちここは危険だと学ばせて、もうここには来ないように躾てやるつもりだった。ルートを操作して似たような場所をグルグル回らせていたが、気づかれる未来が増えてきた。頃合いだ。


(……負けを認めよう。まさかこの俺を破るとはな)


 彼らの会話は聞いている。実際には起きなかった仮初の未来も含めれば何十度も聞いた、とある言葉が印象に残っている。


(古い時代の大賢者セオドア・ラマは世界の在り方を観測者効果的に例えた。世界というたった一つの器をして万人が信じる形の万個の世界があると極論したのだが暴論とは呼べまい。所詮人の理解できる世界など可視化光線が照らし出した些末なものでしかなく、調べられるのも熱量や重量と簡単に計測可能な物差しの範囲までだ。オーガの眼の見る世界とトールマンの眼が見る世界が同じであるものか。未来視の眼を持つ俺の知る世界を誰も理解しえぬようにな)


 ガイゼリックは負けを認めた。

 だから彼らには彼らの納得できる結果を与えてやる。


「なあリリウスくんよ、キスで終われるなら悪くないってのは俺も賛成だ。もっともリアリストな女子には理解されないようだがね」


 予言者の冷たい笑い声が暗いレストランに木霊する。


 最後の罠がリリウスとナシェカに迫る、というのは誤りなのだろう。罠は動かず、人だけが収束する未来へと突き進むのだからだ。……それを己の意思であると信じ、何者かの手のひらの上の出来事だなんて疑念さえも抱かずに。



◇◇◇◇◇◇



「ようやく次の罠部屋か……」


 数々の罠を潜り抜け、友情と信頼を深めてきた俺らの前にまた罠部屋が立ちふさがる。正直勘弁しろと言いたいところだが……


「いくぞ」

「いこうか!」


 俺達は結束した。この性悪トラップを絶対に攻略してこれを作った馬鹿野郎に大損害を与えてやるという負の同盟を結成した。俺達の間に愛は存在しない。だが友愛と敵の破滅を願う負の友情だけはある。

 背を預け合った頼もしい相棒と共に部屋に突入する!


 一段と暗い部屋だ。今度はいったいどんな罠が……

 部屋の中央まで寄った頃だ。ガコンと大きな音がして入り口の扉が施錠されてしまった。また毒ガス系か?


「リリウス」

「何が来るかわからない、油断するな。あの程度の厚みの扉なんて蹴破ればいい」

 室内に光が満ちる。突然の眩しさに目が眩んだがすぐに慣れて……


 なんだこの部屋?

 部屋の奥にでかいベッドが一台あるな。隣のは簡易シャワールームだろうか。そんな感じだ。あとルームとはいったが敷居はない。すりガラスもない。丸見えだ。

 まぁ問題はそこじゃない。


 問題はベッドの両脇にどどんと存在するのぼりだ。あれを見た瞬間俺もナシェカも声を失い、周囲への警戒も疎かになった。


『セックスしないと出られない部屋』


 なんで?



 答え:金竜には珊瑚を食わし、青竜と赤竜には触れてはならない。


 竜は魔素を好み鉱物を嫌う習性がある。長い時をかけて育った珊瑚なんかはごちそうです。

 寝たい青竜には触れず、触れると怒る赤竜にも触れてはいけない。赤竜はオーブを嵌めた瞬間にブレスを吐く殺意の高いトラップです。

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