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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 静かな死が灰被りの都を満たして
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帝都フォルノークへの帰還

 プリス卿から手紙が届いた。


『親愛なるリリウス・マクローエン殿へ、なんて書いたらサブイボが出るだろうからこの野郎くらいにしておくぜ』


 宛名書きからしてプリス卿らしいな。そこは何だっていいんだよ。届けば。


『一応今回の仕事の裏側を教えておこうと思ってな。事の始まりは本部の地下牢にご滞在あそばれていた銀虎卿と銀蛙卿が殺害された』


 ドルドムで捕獲した青の薔薇の幹部が殺されたってか。

 情報取得の意味で惜しいやつを亡くしたな。まぁやっこさんから出てきそうな情報が必要かと言われれば疑問だ。


 LM商会には死体からでも記録を抜き取れる英知の女神様がいるからな。確保した銀狐卿の死体から取得済みだ。


『常時五百名程度の騎士がいる本部で白昼堂々やりやがったんだ。こんなまねができる奴の心当たりなんざ、そう多くはねえ』


 五百人の騎士が徘徊する建物への潜入。ターゲットの暗殺から脱出なら困難なミッションって言えるだろうな。内部犯じゃなければな。

 まぁガレリアの仕業だろ。


『幹部会のお歴々が真っ先に思いついた名前がお前なんだ』


 さすが帝国騎士団、無能すぎるぜ!


『今回の俺達の任務はお前が青の薔薇とつながっているかの調査だったんだ』


 青の薔薇とつながっている奴はお前の部下なんだよ!


 さすプリス卿だぜ、さすプリだ、手紙一つでここまでツッコミどころがあるなんて天才だよ。天才の反対のバカボンだよ!


『リリアのことは許してやってくれ。お前に適当に話を合わせただけで本当は潔白なんだ』


 やばいよマジで面白いよこの手紙。

 ネタばらし付きで誰かに見せたいくらい面白いよ。本物の馬鹿の怖さがよくわかるよ。


『最後になるが、お前は帝都に戻らない方がいい。俺が匿ってやる、南方戦線に来い。ここより南方のカレッサに連絡員を置いておく。鋼鉄の轡亭のジュノーを頼れ』


 ったく、最後にいい格好しようとしやがって。みんなに見せてネタにする気が失せたじゃねーか。



◇◇◇◇◇◇



 十一月四日。レギンビークを発ち、帝都に帰る日がやってきた。

 トレーラーに乗り込んだLM商会の勇壮なる戦士達の顔つきを見てくれ、ひと狩りに行く気に溢れているだろ?

 確定でユノ・ザリッガーをドロップするレアモンス退治だ。大儲けの予感しかしないぜ。


 早朝の大外壁の外で、見送りに来てくれたクロードたち生徒会メンバーとお別れをしている。


「残念だよ」


 握手を交わすクロードがそう言った。


「その…色々とね。もっと長い付き合いになると思っていたから」

「なんだよそれ。休学っつったろ? また顔を出すよ」

「そう言って何年も顔を出さない気がするんだ」

「心外だな。女の子への連絡は欠かさないマメ男くんだぜ」

「俺には連絡をしないっていう証明じゃないか」

「冗談だ。顔を見に来るよ、ファリス先輩のついでにな」

「この野郎。約束したぞ、忙しいからって忘れるなよ」


 野郎との別れはこのくらいが丁度いい。あんまり恥ずかしいことを言うと再会が気まずくなる。

 バド先輩とも握手する。


「色々と世話になったな。色々あったようなそれほどでもないような、変な気分だ」

「たったの半年でしたもんね。再会の日には一杯おごりますよ」

「楽しみにしておくよ」


 ファリス先輩とハグする。


「離したくない!」

「え?」

「おい」

「……?」


 騒然とする生徒会にぶちかますぜ!


「ファリス先輩愛しています、俺と付き合ってください!」

「あはははは!」


 告ったら笑われた。腹を抱えて笑われたぞ!

 ちょ、涙が出るくらい面白かったのかよ……


「あー、おかしい。こんなに面白い告白は初めてよ」

「面白い要素ゼロでしたやん」

「リリウス君が告ってきたらそれが面白いのよ。……本気だったのならごめんなさい、次会った時に女関係を清算していたら考えてあげるわ」


 清々しいまでに脈なしだ。だが離れ際にほっぺにキスしてもらったのでよし。


 結局お別れに来てくれたのは生徒会だけか。アルフォンス先輩は昨夜痴情のもつれで刺されて医者のお世話になってるしな。あれは芸術的だった。

 雪上にぽつぽつと残された血の痕跡を追っていったらアルフォンス先輩が倒れていて、犯人の一年生が泣きながら自分ののどを突いて自殺しようとしていたんだもん。

 クソ面白かったんで死体と自殺子ちゃんと俺で一緒に記念撮影したぜ。


 今も生死の境を彷徨っているアルフォンス先輩はともかくとして他の連中は来てくれなかった。リジーなんてこれだ。


『明日帝都に発とうと思うんだ』

『おー、そうか』

『もしかしたらこれでお別れかもしれないんだ』

『マジかー、うん、元気でなー』


 これだぜ、あの子つめたいよ。

 エリンちゃんも「またなー」って軽かったしな。何かもう俺が何を言っても冗談にしか聞こえないらしい。


 おっとトレーラーがクラクションを鳴らしている。グズグズお別れやってんじゃねーよっていうナシェカからの催促だ。


「じゃあ行きます。みなさん、お元気で!」


 お別れはいつだって笑顔って決めている。もう会えないかもしれないんだし、最後の面が泣き顔なんてダサいじゃないか。


 ドゥシス侯爵領のレギンビーク市から支流街道を南下して大帝国交易路へ。交易都市バサムを通ってヘディン伯爵領に入り、だが交易路を外さずに南西へと進む。

 行きは五日かかった。だが馬に合わせる必要のないトレーラーはぐんぐん加速して交易路を驀進する。


 帝都フォルノークに到着したのは翌朝、日の出頃であった。

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