賠償金を稼ぎ出せ②
売り上げが微妙だ。結局売れたのはハンドブラスターが四丁だけで、レリア先輩たち考古工学部が買ってくれただけだ。40万PLの熱光線拳銃四丁で金貨200枚。大赤字の出血大サービスだな。
その後は全然だった。見てってくれる奴もけっこういたし興味も持ってくれていたんだがいかんせん金がな。貴族といっても学生だから自由にできる金なんて金貨の三枚や四枚だ。
乱暴な計算になるが銅貨一枚が日本円にして500円の世界で一枚の金貨は100万円くらいの価値がある。本当に100万かと問われればかなり疑問があるが、学生に一億や二億の物を買わせようってのは無理があった。
午後は冒険者を狙いでギルドで実演販売かなーって感じだ。
そんな俺らはA組の串焼き屋台で昼食だ。色々と露店巡りをしたが一番うまかったのがデブのプロデュースのここなんだよ。
「この怪しい白いタレがうますぎる。デブめ、俺にも製法を秘密にしやがって……」
「秘密は多いほど惹かれる。男と男のようなものだ」
串焼きを焼いているディルクルスくんが意味深な発言をした。
深いな、お前の性癖の闇が深いな。
「そうそう、じつはあそこを失った可哀想な先輩がたがいるんだよ。ディルクルスくんに紹介しようか?」
「あぁさっき話していた男根の腐り落ちた可哀想な方々か。興味ないな」
ネコなのだろうか?
どうでもいい理解を深めた瞬間だ。屋台の裏側で串の準備をしていたディルクルス派の男子たちが立ち上がる。
「興味がないのか!?」
「興味がないんだな!」
「重要なことだ、お前の口から教えてくれディルクルス。本当に興味がないんだな!?」
熱くてノーマルな男たちがディルクルスくん(ホモ)に詰め寄っている。
対してディルクルスくんは自虐的な笑みを浮かべて追及をかわしている。
「意味があるのか? 俺が何を言ったところで信じないお前達に、返答をする意味はあるのか?」
「くっ、俺達だって信じたい。大切な友だから信じたいんだ!」
相変わらずディルクルス派のコントは面白いな。当人たちはこの上なく真剣だから面白い。
面白い男たちを横目に作戦会議だ。
「午後なんだけどどうする? ターゲットを冒険者に切り替えようと思うんだが……」
「社長の商売がヘタすぎてLM商会が泥船に見えてきたんだけど」
「CEOが荒稼ぎしてるから俺は多少の赤字を出しても平気なんだよ。つかそこまで言うなら名案を出せよ」
「視野が狭くなってない? 現物を売る考え方に捉われすぎてない?」
「株式でも売れってのかよ。そんなものが売れるほどドルジア人の精神が成熟していると本気で思うのか?」
ちがうらしい。鼻で笑われた。
何だろうかナシェカから愛と信頼を感じる。扶養するべきダメ男だと認識されているのだろうか。
「ちゃうちゃう。コンテンツを配給すればって話」
「……? あぁそうか、お前ほんと頭いいな」
「元々リリウスのやってたことじゃん。まぁ他人の著作物でおかねを取ろうと考えつきもしないのは褒めるべきなんだろうけどね」
「褒めるべきなら褒めろよ」
「著作権の期限が切れていることを考慮できないのは良い子ちゃんじゃなくてマヌケでしょ。商売人ならそういうところも鋭くいかなきゃ」
褒めるどころかダメ出しだ。俺の代わりに雇われ社長をやらないか?
俺よりも商売がヘタな専務が会話についてこれず、素直に質問してきた。
「何の話だ?」
「超高額商品を貧乏人に売りつけるという無理めの商売をやめて、映画館を開いて大衆から小銭を集めようって話ぃ」
「塵を集めて山にする。薄利多売の話だ」
アバーラインをまたやってもいい。恋愛映画でもいい。他のアクションものだって面白いものは山ほどある。ミュージックビデオを流してもいいし音楽フェスの映像を流してもいい。
元手はゼロで儲けはウハウハだ。
「ナシェカ君、年末のボーナスは期待していいぞ」
「おっ、やった!」
「お前ら悪い顔してんな」
「仮にも商売をやってる人間がこの程度の顔もできないのは問題だと思う」
「……僕はそこまで卑しくなりたくない」
俺達は今どんなゲス顔をしているのだろう。知りたくない。
攻略祭二日目の午後、市の一角で始めた映画興行は噂が噂を呼ぶ口コミで広がり大成功を収めた。
どうやら必勝法ってやつを掴じまったようだ。
明日も明後日もこの方法で勝ちにいくぜ。
◇◇◇◇◇◇
人生には波がある。失敗は成功の母という言葉があるように運命のダーナはチャレンジする者に勝利と敗北を等しく与える。
勝利と敗北は一枚のコインの裏表。今日の敗者が明日の勝者になれば逆もまたしかり。
まぁなんだ、そういうこともあると身構えていたわけだが映画興行は二日目も三日目も順調で笑いが止まらなくなるレベルで儲かっている。
お一人様10ボナでの入場料で儲けは金貨うん百枚相当にものぼり、二日目の午後には四桁の大台に乗った。いやまったく元手の掛からない商売というものは罪深いものだ。この味を知れば他の商売が馬鹿らしくなる。
大きな利益はもろ刃の剣。商売人の勘を鈍らせ、大きな利益を出せない雇い人への要求が厳しくなる。
「いやまったくよくないよくない」
「好調だけど?」
「慎みを忘れそうになる己を諫めているだけさ。バランスを忘れては奈落に落ちるって師匠から忠告されているんだ」
「だれ?」
「航路の安全を守護する追い風の交易神ゼニゲバ」
「それでどうして商売ヘタなん?」
「まだ見習いのようなもんだ。仕方ないだろ」
商売の神様の教えを受けたところでこちとら起業一年ちょっとの新米社長だ。やりすぎ…出来すぎた部下のおかげで好調とはいえ俺自身は中堅どころの商人にも劣るのだ。
このうえ慎みまで忘れては商会がかたむく。個人宛ての賠償金請求を商会の資金で補おうなんてもってのほかだ。
支払いを終えたら帝都だ。ガレリアの本気とやらがどの程度か、いっちょ拝みに行ってくるかねえ。