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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
課外実習編
222/362

レギンビークの攻略祭③ 格の違いを見せつける(敵味方問わぬ爆撃)

 ステージでは吟遊詩人の演奏が行われている。魔王を倒すために旅立った勇者の物語だ。魔王アルルカンの話で草ァ!


 同時に勇者の末路も判明しちまって笑うに笑えないぜ。これがいつの時代の話なのか知らんがアルルカンならピンピンしてるんだぜ。絶対負けてるじゃん。


 吟遊詩人の見事な演奏と詩歌はスルーして舞台裏に回る。いつも騒々しい一年D組のメンバーが血走った目つきで裁縫をしている。衣装を燃やされたせいだ。


「よお、救世主さまの登場だぜ」

「今ちょっと相手してる時間がないの!」


 マリアよ、面倒な男扱いしないの。

 今日の俺はお土産を持ってきてるよ。


「せっかく今お前らが一番欲しい土産を持ってきてやったのによぉ」

「本当に! 海賊!?」


 JK聖女さまの一番欲しいものが海賊ってどんな世紀末?

 さすがの救世主さまでも無から海賊は生み出せないよ。


「すまんが海賊の手持ちはない」

「役立たず……」


 このやり取りが面白かったんだろうな。

 他のクラスの連中が笑い出した。


「衣装もなし。舞台装置もなし。そんなもんを見せられる連中が可哀想だぜ」

「ほんとうにね。準備ができていないのなら辞退すればいいのに」

「よせよせ所詮貴族とは言えない平民もどき。エンターテイメントの何たるかも理解していないのさ」


 嫌われているな。元々D組への当たりはきつかった。

 騎士階級の子弟の多いD組は他のクラスの貴族階級・・・・の子弟からすると領民もどきでしかない。なのに今期の一年D組は目立っていた。

 容姿に優れ、知力に優れ、武力に優れていた。それこそA組に迫るほどに。

 だから嫉妬を買った。D組メンに劣る己を認められずにあいつらは生意気だと己の想いを変換した。


 別に非難はしねえさ。精神的に未熟な子供の陥りやすい穴だからな。……だからこいつらに腹が立つのも子供なら当たり前なのさ。


「エンターテイメントの何たるか…ねえ。面白いセリフを吐くねえ三下くん」

「挑発のつもりか?」

「そうだよ」


 そうだよって言った瞬間、三下系小者男子がファイティングポーズである。俺が怖いんだね。なのに最初は大物ぶろうとしたんだね。嫌いじゃないよ。


「吐いたツバは呑み込めねえぜ?」

「くっ、なるべく痛くしないでほしい!」


 負けを認めるの早すぎだろ。


「野蛮人じゃあるまいし暴力なんか使わねえよ。真のエンターテイメントってやつならステージに立ってもいい、そういう話だろ?」

「どういう話?」


 何もわかってなさそうなマリアよ。こういう話だよ。


「俺が時間を稼ぐ。その間に衣装と舞台装置を完成させろ」

「なるほど! みんな、リリウスが死ぬまでに完成させるよ!」

「ちょっぱやだぞ、あいつのことだソッコーでブーイングと共に退場してくる!」

「急げー!」


 待って、デフォルトで俺への風当たりが厳しいのはなんで?

 せっかく助けに入ってやったのにD組メンめぇ。


 ナシェカが心配そうにこっちに来る。


「どうするの、無駄にハードルを上げたからにはいつもの滑り芸は通用しないと思うけど?」

「未開な猿どもに見せてやるのさ、千年二千年の時を越えて受け継がれてきた最高のエンターテイメントってやつをな」


「不安しかないんだけど?」

「そうかいそうかい。ところでナシェカ、アバーラインは何作目が一番好き?」


 3Dホラグラムプロジェクターを手に笑う俺の姿に、ナシェカの目にお察しの輝きが宿り、俺は勝利を確信した。



◇◇◇◇◇◇



 大勢の民衆が宴会をする広場が宇宙空間に包まれる。暗獄のごとき宇宙は加速して無数の星々が流れていく。

 大騒ぎしていた民衆が声を失い、突如もたらされた眼前の光景の戸惑う。


 宇宙の果ては暗黒の星の領域。光さえも吸い込む超重力の星のさらに奥に一人の男が浮かんでいた。

 男はかつて戦士であった。だがいまは戦い燃え尽きた戦士の残骸であり、使命を終えた彼はブラックホールの底で静かに朽ち逝く……はずだった。


 ―――起きて


 ―――わたくしのアルス、どうか今一度立ち上がって


 ―――あなたのちからを必要とする人々のために、どうか


「眠らせてもくれないのかい女神様。泣けるぜ」


 超重獄の底に沈み往く男が微笑みを浮かべる。


 暗転と共に大きな呼吸音が響き渡る。隙間風のような特大の呼吸音が不安を掻き立て、高鳴っていく心臓の脈動がどんどん強くなっていく。

 闇の向こうに心臓がある。無数の鎖に縛り留められた心臓が脈を打ち、鼓動が鎖を引きちぎり、鎖が減る毎に心臓の音が高鳴り続ける―――!


 アンリミテッドハァァァット!

 アンリミテッドハァァァット!

 アンリミテッドハァァァット!


 特大のシャウトボイスと共に鎖が一斉に千切れ飛んでオープニング映像が流れ出す。民衆のみなさんはポカーンってなってる!


 雨中の町をさすらう超絶イケメン俳優ゲオルギー・マクレーンは記憶喪失の男という設定で花売りをする少女役のレイスパトゥー・ニャニャージャに拾われるという映画冒頭の単調でつまらないシーンを音楽のちからで乗り切っている力技なオープニングなんだ。


 ちなみにこのゲオルギー・マクレーンはカトリ一押しのイケメン俳優なんだが俺もフェイもユイちゃんも満場一致でルキアーノのそっくりさんだと思っている。ルキアに革ジャンとジーンズ穿かせた姿とそっくりなんだよ。


 冒険活劇アバーライン・ジャスティスハート劇場版『不倒の英雄アンリミテッド・ハート』の衝撃的な導入に民衆が引き込まれていく。

 抵抗など許されない。娯楽に乏しい帝国で育ってきた民衆にはパカが培ってきた娯楽映画四千年の技巧に抗うすべがない。圧倒的な臨場感に感情を押し流されていく。


 映画の世界に迷い込んだかのような3Dホロ映画の大迫力に圧倒される現地民を見つめる俺は勝利しか確信していない。時間稼ぎは大成功だ。


 背後からナシェカが腹パンしてこようが痛くもかゆくもないね。


「卑怯すぎる。全世界興業収益歴代第一位のアンリミは卑怯すぎる。つかシリーズ物の38作目から体験させるなんて邪道すぎ」

「劇場版ってのはそこから入ってもいい作りになっているのさ。説明は要らない、感じろってスタンスでも充分楽しめる」


 実際アンリミはいい出来だ。設定など気にせずアバーラインの本質である勧善懲悪を楽しめる。

 ラストの無法都市の市長オマーン博士とのバトルも摩天楼三次元バトルもクソほど格好いいのでとにかく嵌る。……あのCG盛り盛りのクソ難度の真アバーライン・フェニックスを生身で再現できるルキアの異常性がね。


「ねえ、この後に私らの素人演劇を披露すんの? それって羞恥プレイって言わない?」

「そうだよ」


 最高のエンターテイメントからの一年D組の素人演劇だ。会場はきっと盛り下がるだろうが俺は俺の仕事をした。

 マリア、後は任せた。王のちからで頑張ってくれ。

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