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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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カジノの夜③ お詫び

 このカジノはやばい!

 銀狼団の半獣人どもは訓練された守銭奴だ。マネーの竜とまで呼ばれた財界の超新星が徹底的に訓練したエコノミスト集団だ。


 え、あいつらは傭兵じゃないのかって? マネーの竜の手下が傭兵なわけがあるか! 戦闘力の高すぎる商人なんだよあいつら!


 銀狼団経営のカジノはやばすぎる。絶対ひどい目に遭う。三時間足らずの間に手持ちの金全部スった俺が言うんだから間違いねえ。


「―――デブ、カジノがやりそうなアクドイ手口を知ってるか?」

「最初に言ったと思うけど僕も遊び慣れてるわけじゃないんだって」

「じゃあ教えてやるよ。最初はチマチマ勝たせておいて今度は少しずつ毟り取っていくのさ。博打の味を覚えた客が入れ込んで足しげく通うようにするためにな」


 ナシェカが危ない!

 ポーカーテーブルに急行すると―――


「うぎゃああああ! ナシェカの馬鹿ぁああああああ!」


「まっ、ギャンブルは時の運ってね。元手ゼロにしちゃ遊べたほうでしょ」

「うわぁーん、私のイース宝石店パーラーがぁああ!」


 エリンちゃんがナシェカちゃんにすがりついて泣き喚いてる。くっ、駆けつけるのが遅かったか。


「リリウス君じゃん。どしたんそんなに焦って? ……さてはタカリにきたな?」

「ちゃうわい」

「そりゃよかった。お恥ずかしながらこっちも素寒貧になってね」


 二人に近寄って耳元で……


「このカジノはやばい。おそらくはマネーの竜の住処だ」


 マネーの竜って何だよって目つきされたわ。そりゃそうだ。中央文明圏の裏社会では有名だがこっちではまだ無名だからだ。


「とにかくこのカジノはやばいんだ」

「借金漬けにして人身売買とかすんの?」

「そこまではさすがに聞いたことないな」


 精々が借金のカタに銀狼商会経営のショップの店員にさせられるくらいだ。給料が高いから返済しながら安心に暮らせるらしい。あいつその辺はうまいんだよ。

 そこまで考えて奴の目論見を看破できた。カジノを使って帝国で活動可能な人材を確保するつもりか! 貴族を借金漬けにできれば最高だ。横のつながりを使って貴族社会の情報収集ができる!


「まぁ借金なんて背負いたくないだろ。悪いことは言わないから早く出よう」

「構わないけどさ、ねっエリン」

「そうだなぁ」


 なんだよ。


「このカジノに行こうって言い出したのリリウス君だよねって」

「あんなやばい奴が関わってるなんて俺も知らんかったんだよ。不手際は認めるから責めないでくれ」


「ふぅん、キミってば色々企んでそうに見えて抜けてるよね」


 男性としての評価が急降下した気がする。


 マリア様とリジーを探してホールを彷徨う。しかし見当たらない。探査魔法を打ち込もうとしたら権限にノイズが走った。貴族家の邸宅なんかによくある干渉術式が組まれているな。通常の術式じゃ突破できない。


「デブ、可能か?」

「たまに思うけどリリウスくんじつは人間社会に適応できてないよね」


 デブが近くの従業員を呼び、連れがいないんだけどどこにいるか調べてくれるように命じる。副支配人さんがダッシュでやってきた!


「バイアット様のお連れになったご学友様でしたらV.I.P.ルームでプレイなさっております」

「あぁあそこか。僕らも連れて行ってもらっていいかな?」

「畏まりました。さあどうぞこちらへ」


 俺一人で大騒ぎして慌てた感じになっちまったぜ。


「気を落とすことないじゃん」

「まっ、そういう時もあるって」


 何だか二人がすごく優しいぞ。

 変にナンパテクとかに頼らないで弱いとこ見せて母性本能をくすぐった方がいいやつですか?


 最近金も地位もできてモテるようになったせいで忘れてたけど俺のナンパ成功率カスだったわ。この場は素直によしよしされておいた。


 二人とも優しいな……



◇◇◇◇◇◇



 V.I.P.ルームはカジノの地下にある。というのもギャンブルの歴史は魔法やトリックとの戦いだったからだ。

 心を明かす鑑定眼。術者の操り人形と化すチャームパーソン。古今博徒たちはあらゆる手段を用いて賭場を荒らしてきた。


「ですがこのV.I.P.ルームでは安心して大きな勝負をお楽しみいただけるのです」


 エレベーターで地下に降りているマリアとリジーは色々と説明されている。要約するとトリックとかないから安心して遊んでねって内容をものすごい長く言われただけだ。

 なおこの二人はイカサマって何だ?っていうレベルの純真ガールズなので逆にカジノが怖くなってきた様子である。


「大人の世界は怖えーな」

「だねぇ」


 エレベーターが開く。地下カジノは地上階よりも広そうだ。

 本当に広々としている。密を避けるみたいにテーブルが点在し、あちこちのテーブルで紳士たちが食事と酒を楽しんでいる。……レストラン?


「床をご覧ください。間もなく次のレースが始まります」


 このレストランスペースの床の一部はガラス張りになっていて、その下には六頭の犬が檻に入れられている。

 檻が開く。ガシャンと大きな音を立てて檻が開くと同時に犬が走り出す!


「ドッグレースです。着順の正当を賭けて楽しんでいただけます」

「なるほど」

「へえ、おもしれえなー」

「それとこの階での飲食は無料となっております」


 マリアは飲食無料に反応し、リジーはふぅーんって感じだ。日頃の生活力の差が生み出した反応だ。ちなみにリジーの実家は中々の金持ちだ。


 続いて階段でさらなる地下に降りていく。なぜかパチンコがあった!


「ここはうるせえな。いいや」

「あたしもここイヤー」

「そうですね。わたくしもここは苦手です」


 案内人さんが苦笑を零してさらなる地下へ。

 地下三階は落ち着いた雰囲気のカードゲームフロアだ。ポーカーやブラックジャックなんかのトランプ遊びを楽しめる。


 しかし客は自らのプレイを捨てて奥のテーブルの野次馬をやっている。


「本日は大きな勝負が行われておりますので皆様観戦に夢中の様子」

「大きなってどのくらい大きな勝負なんですか?」

「当カジノの利権を賭ける程度には大きな勝負です」


 二人して「ふーん」って感じだ。他人の勝負とかどうでもいい、自分が楽しみたいのである。


 お客の着いていないブラックジャックのテーブルにつく。ルールわかんないのでディーラーさんから教えてもらう。ディーラーも暇なのか親切にしてくれて、まずは練習をしてみることになった。この二人は愛嬌とコミュ力で生きている。


 ルールなんてそう難しいものじゃない。ブラックジャックは手札の数字を合わせて21か近い数字にすればいいだけのゲームだ。勝てなそうなら降りると宣言してしまえばいい。初心者ならそんなもんだ。


 練習を終えてさっそくゲームを始める。


「マリアもう21揃ってんじゃん!」

「うん、これならもうヒットしなくていいよね? ですよねディーラーさん!」

「お嬢様がた。一応わたくしは相手側ですので、尋ねても手札を教えてはなりませんよ?」


「えー!?」

「ディーラーさんに見捨てられたら困るぞ。わかんなくなった時マリアじゃ頼りねーし困るぞ……」

「仕方ありませんねえ」


 ディーラーが降参して三回だけ何を聞いても知らないフリしてくれる回数券をくれた!

 この結果には二人もニヤリ。……ニヤリ?


(チョロ)

(兄ちゃんたちくらい簡単なおっちゃんだなー)


 ゲスめに笑うご令嬢どもである。この二人は自分が他人からの好意で生きている自覚がある。おこぼれを貰うのは超得意!


 この卓での最低掛け金は10ヘックスコイン10枚からだ。だいたい金貨三枚である。

 勝ったり負けたりを繰り返して一時間かそこいらの時間が経って、ちょっとだけ儲けが浮いた頃だ。


 大勝負のテーブルが沸騰する!

 野次馬の紳士たちが大フィーバーだ!


「おおっ、ここでセブンフォールを決めるか!」

「これはワイスマン卿も厳しいな。かなりの額が動いただろ」

「そろそろ不味いのではないか? 面白くなってきた!」


 あっちのテーブルではサシのカード対決が行われている。ゲームはセブンフォール・ナインブリッジ。帝国貴族階級の間で古くから親しまれるトランプ遊びだ。


 カジノの経営者であるワイスマン子爵は難しい顔をしながら使用人に命じて追加のチップを持って来させている。

 対するは銀の仮面を被った男。獲物を睨みつける狼を模した仮面の男は悠然と足を組んでいる。両サイドには10テンペルコインが連峰のごとく積み重なっている。


「ここいらで一度清算をしないか。私の調査ではワイスマン卿の総資産は3250万テンペル相当。手持ちの額面はその一割ないしは二割と見ている。そろそろ底が見えてきたのではないか?」

「まだだ! 明け渡しはしない、お前のような若造に帝国のホテル王の座を明け渡してたまるか!」


 どうやらホテル王の座を懸けて争っているらしい。


 仮面の男が嘆息をつく。つまらない男のつまらない矜持に付き合ってやる気はない、そういう態度だ。


「その闘志は褒めておく。だが清算を行わない=支払い能力がないと看做すぞ」

「くっ、ヴァンデル! 銀狼卿のコインを清算してやれ!」


 走ってった従業員が今度はカートを押して戻ってきた。山盛り載せた木箱の中身が金貨のようだ。

 銀狼卿が命じる。


「サリフ、確認してくれ」


「……これを全部あたしがかい?」

「そうだ」

「これを全部あたし一人でかい?」

「そうだ。何度も言わせるな」

「無理に決まってるだろ馬鹿って意味だよ!」


 銀狼卿が殴られた。卿はなんで殴られたかわかってなさそう……

 ちなみにお付きの護衛ってなってるライカンの女戦士は算数が苦手だ。ギリ二桁まで数えられる。


「……何も全部数えろとは言ってない。箱の中身がテンペル金貨であるか確認するために一つか二つの列を抜き取って確かめてくれという話だ。サンプル計算法だが教えなかったか?」

「初めからそう言やいいんだよ!」


 怒鳴りつけられた銀狼卿が絞り出すような声音で「すまん」って言った。絶対に自分は悪くないけど雰囲気だけで謝っておく。そんな態度だ。


「おそらくは一箱につき金貨二十枚の積み重なりとなっているはずだ」

「はいはいやっとくよ」


 態度の悪い護衛である。そんな態度だから恋心を抱いているなんて気づかれないんだ。


 ここからは現物で勝負するようだ。互いに木箱を卓に置き、勝負を再開する……

 その瞬間だ。銀狼卿の眼差しがマリアの方に向いた。じぃっと見つめられているマリアはどことなく居心地が悪そうにしている。


 やがて銀狼卿が言い出す。


「今宵はここまでにしておこう」

「どういう意味だ?」

「お前の首をつなげておいてやると言っているんだ」


 ワイスマンが困惑する。ワイスマン・グループを潰しに来た男が土壇場で引くと言い出した意味がわからない……とは言わない。

 気づかれたか?とワイスマンが舌打ちする。


「どうして引く。まさか臆したか?」

「そうだな、突然取り戻した威勢の意味がいまの安い挑発で理解できたかもしれない。やはり止めておいて正解なのだろう」


 カジノオーナー・ワイスマン卿には切り札があり、それが不発に終わった瞬間である。

 銀狼卿の手がカートに伸びる。金貨一千枚入りの木箱を三箱テーブルに積み重ねていく。


「お前のカジノには景品制度があったな。これでそこのご令嬢二人に何か見繕ってやってくれ」


「……承知した。あの二人は何者だ?」

「一人は以前迷惑をかけた娘というだけだ。もう一人については名前も知らん」


 銀狼卿が席を立つ。まだ木箱の中身を確認している途中の護衛が慌ててカートを押して後を追う。

 帝都の奥深いところで行われた大勝負の結果―――


 なぜかマリアとリジーが宝石を貰った!



◇◇◇◇◇◇



 V.I.P.ルーム行きのエレベーターを待つ。なぜこの世界にエレベーターが、とはさすがに思わん。ガレリアと契約したのならその技術を手に入れてもおかしくない。

 悪魔ガレリアは契約者の願いを惜しみなく叶える。いつか破滅するその日までは……


 エレベーターがやってきた。チン!とホテルのロビーに置いてある呼び鈴みたいな音を立てて開いた扉の向こうから嫌な奴が出てきた。舌打ちしちまうぜ


「「っち」」

「仲いいねえ」


 よくねえよ。

 サリフはほっといて睨み合う。


「イカサマカジノの店主が出てきやがったか」

「相変わらず情報収集能力が足りていないな。どけ」

「どうしてどいてやる必要がある」

「じゃあどこから出ていけというのだ。でかい図体で通り道を塞ぐな」

「うるせえ」


 睨み合ってるとナシェカちゃんのボディが俺のボディに突き刺さる。な…中々いいパンチをお持ちで……


「はいはいどけどけー、このままじゃ私らも入れないじゃん」

「どーもうちの筋肉がすいませんねえ」


 マネキンみたいに担いでどかされる俺氏。けっこう重いはずなのに軽々とやられたな。

 銀仮面つけた馬鹿が去っていく。


 やや悪い気分でエレベーターで地下層へと降りる。マリア様とリジーちゃんはすぐに見つかった。レストランフロアでドッグレース見ながらカタログ見てたぜ。

 もしかして心配して損したのか?


 つまりまぁなんだ、一人で大騒ぎした馬鹿が結局心配し損をした夜である。



 フォース・リング:一時的に身の守りを300程度上昇させる。サイズ可変型。魔石交換式。また美麗な外観から宝飾品としても高い価値を持つ。


 スマイト・ダガー:破砕の呪言を宿した短剣。攻撃力650。美麗な外観から淑女の携帯用護身具として高い価値を持つ。聖銀を含むバラライト合金製であるが破魔のちからは軽微という他にない。


 アクセルギア:疾風のちからを宿したイヤーカフスの神器。特殊な文言を唱えることで素早さに200の加算がある。使用回数無限。

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