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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
課外実習編
200/362

第三ピット深層③

「双牙ッ、ドラゴンフィスト!」


 喧嘩屋ちゃんがオーラを凝縮してぎちぎちに言ってる両拳で猛ラッシュをかけている。

 ボコられてる虎男は「ちょっ、待てよ」と言わんばかりに中途半端に手を出してるだけで何もできずに撲殺された。無念キムタク虎男なにもできずに沈没。


 そのまま流れるような動きで、セリード先輩の使役するまどわしの虚狼にガブられて地面を這う虎男の頸椎を踏みつぶし、デブが一対一で対峙する虎男に背後から回し蹴り。


「ドラゴンウイング!」


 うん、あれフェイの使う竜翼打だ。うわー、マジのやつだー。


 回し蹴りで頸椎を破壊した喧嘩屋ちゃんが流れるように精妙な、だがヘンテコな盆踊りのような動きで次なる敵へと向かう。本物すぎる!


 あのクソダセえ動きがニセモノのわけがない。俺でも衆人環視の前では使用を躊躇う九式竜王流とそっくりだ。


「天覇ッ、ドラゴンズ・ブレス!」


 曲がり角の向こうからやってきた増援を特大のオーラキャノンで呑み込んでいった。と思ったが収束させるべきものを広げたせいで威力が足りなかったな。一瞬足止めしただけだわ。


「セリード先輩、押し留めていただけません!?」

「別に倒してもいいんだろ? 切り裂け、トライエッジ!」


 影から出ていった小柄な人影が六人の虎男を一瞬で細切れにして、自分自身もそのまま解けて消えていった。

 やべえ、セリード先輩もすごいことやってんだけど壱式竜王流が気になりすぎて何も入って来ない。


 戦闘終了。四体ほど死体が溶けてなくなり、それなりの大きさの魔石が残った。

 みんなで死体を漁って魔石集めをしているところに……


「喧嘩屋ちゃん、ちょっと来いや」

「なんですの?」


 話を聞いてみようと思ったが敵が近づいてきている気がする。


「敵襲! 警戒、背後ね!」

「なるほど、一番槍をくださると?」


 そういう理由で呼んだわけじゃねえ、と否定する時間も惜しい状況だ。


「気の利いたプレゼントをありがとう。私はこのような贈り物を好みます」


 廊下を走ってくる虎男剣士部隊へと喧嘩屋ちゃんが走っていく。狂戦士! あの数あいてに一人は無理だっての!


「誰でもよい、一発大きなので崩してくださる?」

「ではわたくしが」


 お嬢様が収束ファイヤーボールでトラ剣士隊を王宮の一角ごと吹き飛ばし、吹き飛んでいったトラ剣士の残党に喧嘩屋ちゃんがトドメを刺していく。高笑いしながら戦うタイプー。


 おっと警笛が鳴り響いて増援が。本当に忙しいなこのエリアは。


「幻の海に沈め、エラ・イススム・ハルゲルト!」

「交竜牙、ブリッツアンカー!」

「あんまり前に出られると援護しにくいのよね。フレイムニードル、射出」


 この階層の虎男ってけっこう強いのに鎧袖一触って感じだ。リリウス班マジでいいんでね?

 俺とデブだけ見学みたいになってる。


「ねえリリウス君は何もしないの?」

「お前だって何もしてねえじゃん」


 俺は働いている。言うなれば俺はみんなの未来を守っているのだ。別名をベンチ入りともいう。代打の切り札かもしれない。


 この戦いは途切れもなく、ちょこちょこと現れては迎撃する感じの地味な耐久戦闘となり、喧嘩屋ちゃんに問い質す機会は結局訪れなかった。



◇◇◇◇◇◇



 そろそろ帰るのでマリア班を呼びに行ったら下の城の中庭でエンドレスバトルをしていた。


 頭上から狙ってくる弓兵はさらに頭上を飛翔するナシェカが狙撃し、マリア班は中庭の中央に陣取っての近距離線スタイルだ。……死体の数がえげつない。よく洋館で悲鳴をあげられたなこいつら。


「お前らー、そろそろ帰るから準備しろー」

「まだ魔石を獲ってない!」

「死体漁りをする時間はねえ。転がってるやつだけにしとけ。ナシェカー、魔石を回収する隙をくれ」

「はーい」


 空から声が降ってきたと思えば、マリア班を取り囲むトラ兵士団がビームガトリングに打ち砕かれていった。パワーレベリングの女神はこういう時に輝くな。引率やっても他のやつに経験値がいくんだもの。


 リリースドエナジーの流れ方はマリア六割ココア四割か。マリアの戦いが多くの魔力の気を惹いたってわけだ。大したもんだとは思うが他の連中が可哀想になるな。


 実力差のある冒険者チームが長続きしない理由もこれだ。派手な魔導師や強いやつばかりがレベルが上がり、弱かったり地味な奴はいつまで経ってもレベルが上がらない。実力差が開いていく。貢献できない。だからチームから切られる。

 俺に言わせればソロ効率が一番いい。だがそれは命綱のないクライミングだ。想定よりも敵の数が多いだけで死ぬような危険なやり方だ。


「増援は俺とナシェカで対処する。魔石を集めろ!」

「みんな、お小遣いになるんだからしっかり集めてね!」

「死体のは放置しろよ! 時間ないから!」

「でも死体の方が大きな魔石が獲れるよ!」


 ぐっ、さすが元冒険者。金の稼ぎ方はしっかりご承知ってわけだ。早くライザから話を聞きたいって時に時間がかかりそうだが仕方ない。うだうだ文句を言わずにしっかり守ってやろう。


 結局死体の魔石も集めたんでけっこうな時間がかかってしまった。それでも20分で区切らせた。このままだと今倒している増援の分も集め出しかねないからだ。


「これ以上はこの階層に置いていくぞ。撤収!」

「横暴だ!」

「補填ー!」


 エリンちゃんよ、どうして俺が補填しなきゃならない。馬鹿いってねえで帰ってこい。


 マリア班を率いてリリウス班のところに戻るとまた死体が積み重なっていた。このエリアは無限湧きなのかと言いたくなる繁盛ぶりだ。

 そいつらを積み上げてきたと思しきセリード先輩の影の軍勢が廊下の隅に待機していた。やってることが魔王なんだよなあ。


「先輩、みんなの警護お疲れ様です」

「この程度なら問題ないよ」


 グラッツェン大迷宮の深層でこの程度ときたもんだ。頼り甲斐があるねえ。

 マリアが不思議がってる。


「こいつら何なん?」

「セリード先輩の使役獣。先輩はモンスターテイマーなんだよ」

「ひえー、そうだったんだ……」


 先輩から訂正がないのでそういうことにしておこう。


 何か違うっていうレベルじゃない違和感がある。魔導協会の認定するモンスターテイムとは確実に異なる手法を使っているが先輩が訂正しないならテイマーでいいよ。

 イル・カサリアの五尊家の秘術だ。神々の術法であることは疑いはないし、そこに深く踏み込んで決裂する気はない。あとでアシェラに聞けばわかるってのもある。


 帰還ゲートを潜って谷底に帰る。ゲートを潜る時は必ずお嬢様を抱き抱えておく。何の意味があるのかとみんなから不思議がられても絶対にやる。

 今日は視線を感じないが油断してやるつもりはない。俺が離れたことで動きがあるかと思ったが……

 まぁ動くつもりがないのならそれでいいさ。


 寄宿舎に戻って先生に報告。今日はきちんとしたフォーマットの書類も書いて提出した。収穫物の提出も行う。これは迷宮騎士団の買い取りとなり翌朝には査定を終え、支払いがなされる。


 今朝の時点で五位にまで転落していた順位が二位に回復したと判明するのは翌朝の張り出しでだ。だが今はそんなことはどうでもいい。


「喧嘩屋ちゃん、ちょっと部屋まで」

「不埒なマネをするつもりならナニをもいで……」

「ちげーよ。壱式竜王流についての話だ。ちなみにだが俺の使う技は九式竜王流だ」


 なぜに察しろとワードを出した途端に構えるのか。

 こらこら、戦う気はねえぞ。戦う相手だって俺じゃねえ。


「話を聞きたい。それだけだ」

「くだらない」


 くだらな……え?


「我らは喰らい合う竜のさだめにある者。言葉は不要、語るならばこの拳で!」


 確信した。この子はフェイの姉弟子だ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 200話達成おめでとうございます。 喧嘩屋ちゃんは姉弟子かぁ、後何人残ってたっけ…
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