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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
課外実習編
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第三ピット『亜人王国』③ 救世主 VS 機械天使

 亜人兵のうろつく王宮にビームガトリングの嵐が荒れ狂う。嵐に追いつかれた奴の末路ならあちこちに転がっている。鉄混じりの肉片だ。


「うおおおお! 厳選しただけあって高性能だああああ!」


 最高の装備を買ってやったキャラが裏切って最高の装備で襲いかかってくるクソイベントだ。ゲームなら酷評の嵐だぞキーファだけは許さねえ!


 やけに高い吹き抜けから飛び降りる。一階、二階、三階と下りてって途中で通路に入る。安心感を得たいがためだけに一番下まで下りる奴は素人だ!


「どっ、どうしてバトルになっちゃったの!? あんたまた何かしたの!?」

「何を聞いてたんスか」


 頭上から天井貫きのビーム砲がやってくる。っけ、さすがはセンサー類盛り盛りのハイエンド機だ。迷宮の内部でも俺の居場所を正確に掴んでくる。


 いやあ、強い強い。笑うしかねえ。打つ手がねえってレベルでつよつよでやんの。


「……なに笑ってるのよ?」

「何ででしょうねえ」


 俺の座標を把握している奴にかく乱行動は無意味だ。

 なら誘ってやるさ。一直線に走っていればお前なら先回りしてくれるだろ?


 本丸から下の城につながるような回廊に出た。出たがナシェカの姿はない。……最高だぜ。


「つまんねえマネすんなってか、本気でやろうってか……イイねえ」


 返答のような榴弾の雨が降り注いできた。そいつは威力はともかく範囲が狭いな。

 最悪榴弾はまともに貰うつもりで気配を移した幻影身を先行させる。……狙撃された。幻影の頭部どころか全身が捻じれ切れていくグラビトンライフル狙撃だ。


「けけけけけ、容赦ねー」

「楽しそうね?」

「まさか。引き返しますよ」


 榴弾の着弾の寸前に城内に退避する。爆風がー、すごい威力だー、とかそういうのは雑魚の役割であって救世主は爆風なんかに追いつかれないんだよ。


「わたくしが邪魔なら置いていってもいいのよ?」

「置いた瞬間に殺されますよ。ズドーンです」

「うっ、本当に?」

「本当です」


 お嬢様にはワカンネエか。こいつは俺の男としての器を見せる勝負なんだよ。

 勝つために女を見捨てる程度のゴミか。女を切り捨てられずに一緒に死ぬ程度の雑魚か。そういう話なんだよ。

 救世主の看板掲げるてめえはどんな男なんだって問いなんだよ。


「≪魔王の刃を此処に 飛翔せよ、ワンダリングブレード≫」


 天井貫きでぶち込まれ続けるビーム砲を辿るようにマジックブレードを飛ばす。嫌がらせには丁度いいだろ。


「さてさて反撃の手はどうっすかなー?」

「ねえ、やっぱり楽しんでない?」

「いいえ全然」


 回廊に出た時にナシェカの位置を探ってみたが見つからなかった。しょうもない呪学迷彩くらいなら瞬時に見破ってやれたんだが高性能だな。


 砲撃を辿って射手の位置を特定するのはワンダリングブレードに付与した疑似視界でもうやった。フェザービットに無理やり装着した追加アームでやってやがって、周囲にはフェザービットによる包囲射撃態勢ができてた。


 俺に近づかれたら詰む。そういう話か? まだ完熟訓練が終わっておらず俺相手のシビアな近接戦闘には自信が無い? それともそう読んで必死こいて接近してくる俺を狙うためのブラフか?


 刹那、斬撃が飛んできた。ブレードパッケージによる連続遠距離斬撃を必死こいて前進回避していく―――


 サーキュラー階段に出た。手すりの上に立つナシェカが背部ブレード二本に手を掛けている。俺もまた片手斧を構えて対峙する。超電磁抜刀+AAA機体の性能だ。マリアなんぞの斬撃でわかった気になっていたらバラバラにされるぜ。


「てめえとの対話は楽しいぜ?」

「今のところはいいとこ無しだけど?」


 言ってくれるぜ。


 極限まで集中をし今という時間を固定する。できないなんて雑魚の発言は出来ない奴の諦めだ。努力しろ。時間を停止させろ。根性で。


 放つぜ、これが俺の究極斬撃!


「―――神歩抜刀」

「エンリー・ライ・アシェッド・ハウロ・リーン・バゼット」


 互いに放った斬撃が衝突して刃が砕け散り、体勢も崩れる。

 同じ威力。同じ速度。ばかな、とは言わねえよ。サーキュラー階段から下の城区画へと互いに落ちていく最中にナシェカの微笑みが見えた。


「やるな?」

「そっちもね?」


 ナシェカの腹部が機械仕掛けのようにパカっと開く。アキネイオンバスターかよ!


 瞬時に空を踏んで突進する。発動前に阻止するつもりが―――逆にカウンターの縦斬撃をバッサリ貰ってしまった。

 そのまま地面に叩きつけられたがすぐに起き上がる。だが間に合わないのだけはわかっている。


 飛翔するナシェカを見上げる。絶望のように輝くアキネイオンバスターが眩しくてパンチラが見えない。


「二択を迫られると勇敢な判断をしようとする。弱くて臆病だった頃の反動だね?」

「どうやらまだ気づいていないみたいだな? てめえの太ももを見てみろ」


 本気勝負なら絶対に見ない。そんな隙は絶対に作らない。だが互いに答えを求め、答えるためのこの勝負なら見てくれるさ。

 そして愕然とするがいい。てめえの太ももに今の一瞬で刻んだ『正』の字をな。


「……いつの間に?」

「斬られながらな」


 あの瞬間に最大のオーラ防御膜を発動しながら正の字を書いたのさ。おかげでカウンター斬撃をモロに食らっちまったが、ダメージはあっちの方が上だろ。何しろ乙女としての尊厳に関わる。


「馬鹿じゃん、その時間があれば避けられたよね」

「欲しいのは答えだろ?」


 ナシェカがブレードを背部に収める。闘争の停止ではない。ブレードパッケージ『ディノ・ファンデールEXE』は鞘から解き放つ瞬間の超電磁加速こそが本領だ。鞘に収めるのは続けようって返答なんだよ。


「そろそろ出たかって言おうとしたんだが、どうやらまだ試し足りないらしい」

「そうだね、そろそろ本気でやってほしいな。私も全力でやりたいし」


 機械仕掛けの綺麗な黒瞳が答えを欲して叫んでいる。

 その足手まといを捨てろと。お前の本気を見せてみろと。この戦いに余人を立ち入らせるなと。


「全力なら出していいぜ。こっちはこれでいく」

「舐めてるの?」

「まさかな、てめえは俺が本気でやらなきゃ倒せねえ戦友ともだ。だが勘違いするんじゃねえ」


 片手斧はここまでだ。自動修復機能があるったって使い潰す場面じゃない。

 代わりに掲げるのは拳だ。最大のオーラ、最大の魔法力を融合させて調和を為した真に救世主の一撃と呼ぶべきナックルだ。


「てめえの目の前にいる男を見誤るんじゃねえ! 救世主の看板掲げたからにはただ一度の敗北だって許されないんだよ。俺の覚悟を侮るってんならてめえの底に知れたぞ、ナシェカぁ!」

「それが答えか。上等ッ! 張った意地なら後悔するんじゃねーぞ!」


 そして終幕の一撃が放たれた。……と思ったんだがな、まさかこれが向こう20分に及ぶ激闘の合図となろうとはさすがの救世主さんにも想像もつかなかったぜ。


 ナシェカ手強すぎんよ。



◇◇◇◇◇◇



 激しさに激しさを足してガソリンとハイオクで煮詰めたような極限バトル ~わらわらやってくる亜人兵を添えて~ の結末は唐突だ。


 ナシェカがブレードを納刀し、ブレードパッケージ兵装を拡張空間内にしまい込んだ。


「頑固者」

「覚悟ってのはこういうことだ。敗北とは俺の死を意味する、ゆえに全力で抗うのさ」


 鼻で笑われた。っち、膝の揺れを見抜かれているか。

 負傷はないが重い疲労がある。まだまだやれるコンデションではある。だがそんな俺に勝っても意味はないってか。


「覚悟はわかった。口だけじゃないってのもね。だから言っておく、日和るなよ?」


 やべえ、今のは背筋にゾクッときたぜ。


「今後あんたが日和った、守りに入ったと感じたら何度だって試すからね。敗北が死を意味するのならあんたは覚悟と共に死ね。途中で諦めるなんて絶対に許さない。その時はナシェカちゃんが殺してやる!」

「物騒な女ー」


 ナシェカがニヤリとやる。俺の茶化しなどどこ吹く風と傲慢に気高く微笑んでやがるぜ。


「そこは優しいでしょー? あんたが救世主の看板を掲げる間は何百年でも何千年でも付き合ってあげるっつってんの」

「はっ! もう嫌だって泣き喚く度に俺のケツを蹴飛ばしてくれるわけだ」

「パイルバンカーでね」

「ケツの穴が増えちまいそうだ」


 ナシェカが背を向けて歩き出す。言葉なんかこれ以上は要らない。答えは行動で示し続けろってわけだ。

 いいぜ、俺の闘争はてめえが見届けろ。俺もケツの穴を増やしたくはねえんでな、なるべく泣き言は言わねえようにする。


 あぁ背筋がゾクゾクするぜ。まったく面倒くせー女だ。面倒くさすぎて笑うしかねえ。


「イイねえ」


 最高にイイ女だ、惚れたぜ。

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