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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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カジノの夜①

 現時点までの四人娘のリリウスへの印象


 マリア:筋肉

 エリン:愛想のいい筋肉

 リジー:面白いやつ

 ナシェカ:何か企んでそうな感じがする~、要警戒かな?

 リリウスは決意した。必ずやあのクソつよ神器を回収するんだと決意した。

 しかしリリウスにはカジノの場所がワカラナイ。いやね、むかし調べたことはあるんだよ。聖女専用武器をかっぱらって自分の強化に充てようと企んだことはあるんだ。


 ラタトナリゾートから連れ去られて帝都で騎士団の訓練漬けにされてた頃の話で、どうにかして逃げ出そうと画策していたっけ。ううぅぅぅ当時の記憶がフラッシュバックすると吐き気が……


 しかし帝都にカジノは存在しなかった。いわゆる賭場的なものはあったから適当に回ってみたけど景品を置いてあるような上等な賭場はなかったんだ。


 でも最近カジノがオープンしたらしい。これはデブが教えてくれた。こんな感じだ。


『昔リリウスくんの言ってたカジノが新市街にできたんだけど行く?』

『別にいいや』


 神器の一つや二つ今更手に入れてもな、って断ったんだ。

 しかしマリア様には必要だ。絶対に必要だ。だって昼休みに見せてもらった剣が鈍器だったし……


 たしかにゲームでも初期装備はゴミだったけどあの鈍器だったのか。アイアンハート家どんだけ貧乏なんだよ。


 というわけでカジノへ往く。

 デブの家の馬車を出してもらって貴族街の丘を下りていく。箱馬車に揺られること30分。ようやくカジノが見えてきた。


 夕刻の繁華街の喧騒にも負けずに豪華絢爛に煌めくカジノ『ヴォルフ・ガウ』を見上げる俺とデブとマリア様ご一行は、別世界に迷い込んだ田舎者みたいな顔になっている。マジで驚いてる。


 中央文明圏でもここまでのカジノは中々あるもんじゃない。電飾のような魔法照明をふんだんに使った光り輝くマネーの城だ。ドルジアみたいなド田舎にこんなカジノができるとは……


「幻術かな? マリア様、俺のほっぺつねって」

「えい」


 むぐ、普通に痛い。幻じゃねーわ。


「存在するのか、ここまでのカジノが……」

「そうみたいだねー。てゆーか何でマリア様? あたしえらい人じゃないよ?」


 あなたは将来的に出世するえらい人だよ。


 みんなにお小遣いを配布する。魔竜退治の報酬1600テンペルが捜索依頼と相殺しても1160も余ったから全部使おう(金銭感覚が狂ってる)。五人で割って230ずつ。端数はとっとく。


「ほっほっほ、リリウスおじいちゃんからのお小遣いじゃよ。みんなカジノを楽しんでね」


 お小遣いを配布すると、白衣が似合いそうな目つきがやや悪い系女子エリンちゃんが衝撃におののく。


「こんな大金手にしたの生まれて初めてだよ。リリウス君気前良すぎない?」

「こないだギルドの依頼で稼いできたからね」

「うひー、格差社会だぁ。S級冒険者ってそんなに儲かるの?」

「依頼一個で1600テンペルとかザラだよ」

「マジか。私も冒険者になろうかなー……」

「エリン、あたしもちょこっと冒険者やってたけどそんな依頼見たことないよ」

「なんだよ、嘘かよー」

「ほんとだよ。ドラゴン関連の依頼はごろごろ転がってるよ」


 なにしろ受ける奴が存在しないからドラゴンクエストはギルドの壁に何年も張られ続けている。いわゆる塩漬けクエスト化しているんだ。

 そして沸く女子達。ドラゴンに興味あるみたいですね。


「ドラゴンなんて見た事ないぞ。やっぱでかいのか?」

「このカジノと同じくらいでかいな」


 なんておしゃべりしながらカジノに突入する。同じ頃にカジノに入ってきた客を見るにドレスコードがありそうだが、学院の白ブレザーは社交界に出ても問題ないという品のある服だから問題ない。まぁ本当に制服で行くやつはいないらしいが。


 カジノのエントランスホールの印象は映画館みたいだ。プレイホールとは防音扉で隔てられている。

 他の客の動きを見るにまずはカウンターに行くようだ。

 並ぶ必要はない。十人や二十人一斉に来ても対応できるだけの窓口と職員がいる。待たされることなくカウンターで手続きをする。手続きはデブに任せる。パパさんや付き合いのある子弟たちと何度か遊びに来ているんだそうな。


 コンシェルジュっぽいナイスミドルがデブに対して深々と一礼をする。


「バイアット様、再度のご入店、店主に代わりお礼を申し上げます。こちらはご友人の方々でありましょうか?」

「学院に入学したからね、彼女たちは同期の子なんだけどカジノ遊びは初めてらしいんだ」


 コンシェルジュが視線で問いかけてくる。

 デブが首を振る。やり取りの意味は不明だ。


「僕も見栄を張れるほど遊び慣れているわけじゃないしガイドはお願いしたいね」

「畏まりました。ルカ、バイアット様は大事なお客様だ、意に沿った案内を任せる」

「バイアット様、セルジュ副支配人の代わりにわたくしルカがご案内を致します。ご不便があれば何もかもお申し付けください」

「頼むね」


 デブすげぇ。これは相当遊び慣れている態度だな。セルジリア伯爵家の放蕩息子の名は伊達じゃないぜ。

 つまりナイスミドルの視線の意味はご自分でリードなさいますか?ってやつだったんだな。


 カウンターで手持ちのかねをチップに交換する。物質解析をした感じ何らかの呪いを埋め込んだマジックアイテムだ。まぁ複製対策かなんかだろ。


 防音扉を潜るとカジノの全景が広がる。

 すり鉢状になっているカジノは入り口からすべてが見渡せる構造だ。プレイホールをぐるりと囲む、いわゆるコップの縁の部分はバーカウンターとかいう休憩場。


 たった六段だけの階段を下ればスロット機がずらりと並び、下へ下へと段を変える毎にカジノは遊び方を変えていく……


 スロットマシーン!?


「スロットマシーン!?」


 スロットマシーン!??


 な…なんでこの世界にスロットマシーンが……

 いやいや確かに原作にはスロットマシーンはあったけどこの機械文明の未発達な世界にどうしてこんな物があるんだ? 中央文明圏でも見たことないぞ!


 ふっ、こんなんやるしかねえ。電子制御のされてないスロットマシーンなんて体感時間操作で0.0001秒の世界を見る俺の敵じゃねえ。


「リリウスくん?」

「俺はこいつで稼いでおく。みんなも好きなもので遊びなよ」

「じゃあ後で合流しようか」


 案内人がみんなを引き連れていく。


 さあ勝負を始めよう。

 日本のものと比べるとかなり大きなスロットマシーンと向かい合う。10ボナ・コインの一枚掛け、五枚で全リール適用、十五枚掛けまで可能なタイプだ。


 とりあえず一枚掛けで様子見する。レバー・オン。

 リールが回転する。六枚のドラムが其々別の速度で回る。面白いな、ドラムによってコマ割り数がちがうのか。


 1ドラム目は120コマ、2ドラム目は144コマ。なるほど、回転速度がちがうのはドラムの大きさのせいか。どうなっているんだろう。中身を見てみたいな……

 挙動を確認する。ボタンを離すのが停止アクションではなくボタンを押した瞬間か。1リール目はボタン押下後0.712秒で停止。他のリールも一定という感じではないがやはり電子制御の形跡は感じない。


「勝てる……!」


 確信した。今晩中にカジノを廃業に追い込むレベルで勝てる。まぁそこまではやらねえよ。必要分の景品をふんだくるだけで済むからさあ……

 一枚掛けで数回まわしてみる。リール停止のタイムラグは若干ある。これは乱数的な不確定要素になるが回数で補える。


 配当表はスルー。狙うはジャックポットのみ。Vのマークだけだ。

 古いスロットにはジャックポットという大当たり機能が存在する。これまでの客が投入し続けてきた大量のコインを一気に吐き出す機能だ。


 俺は颯爽と10ヘックスコイン・スロットへと向かう。



◇◇◇◇◇◇



 どうも、スロットで全部スッた馬鹿です。


 惜しいところまではいったんだけど大当たりを引けなかったぜ。ボタン押下後に停止するまでの不安定な挙動に邪魔されて六連のVがどうしても揃わなかった。もう少し手持ちのかねがあればどうにかなったと思うんだが……(クズ男の思考)。

 へへへっ、ちなみにカジノの付近には消費者金融がアリのごとく大量に湧いてるらしいぜ。


 恐ろしい冗談は置いておいて他の連中を探しにいく。

 デブはバー・フロアにいた。スティックフルーツをもしゃりながらソファでのんびりしてる。


「よう、お前も大負けか?」

「軽く遊んで済ませたよ。ボナを使って勝ち負けで増やそうっていう趣向は理解できなくてね」


 さすがは帝国最大のミスリル鉱山の持ち主一家だ。こいつにとって金は湯水のごとく湧き上がるもので、負けを知らないエコノミック・ウォーゲームの勝利者なんだ。


「お前もってことはリリウスくんは大負け?」

「尻の毛まで抜かれたぜ」


 ウエイトレスを呼び止めて酒を注文する。おっとカジノコインで払うのか。

 素寒貧なもんでデブに払ってもらったぜ。デブはどうやら余らせたコインをここで使い切るつもりらしい。


「他の子達はどうしてるか分かるか?」

「ナシェカとエリンはポーカーテーブルで見たなあ。随分と大勝ちしてたよ」

「マジか」


「ディーラーのポーカーフェイスには見破るコツがあるとか言ってたね」

「なにそれすげえ」


 どっちだろ。ナシェカちゃんの方か?

 あの子本気ですげえな。多才すぎる。


「よし、精々ご利益にあやかりに行くとするか」


 デブと一緒に一番底の大ホールにあるポーカーテーブルへと移動する。野次馬が群がってるんスけど。

 客席が八つもあるポーカーテーブルは実質ナシェカとエリンちゃんの物だけになっている。対面に立つディーラーが可哀想なくらいコインが積みあがってる!


「キャー! ナシェカ素敵ー、抱いてー!」

「ははは、愛いやつめー」


 大富豪と愛人みたいになってんな。

 すっげ、あれ全部10ヘックスコインか。いったい何千枚あるんだよ……


 声を掛けてみる。


「調子はどう?」

「見ての通り」


 ですよねー!


「そっちは?」

「素寒貧」

「こっちも似たようなもんだねえ」

「あははは! そんな君達にはナシェカお姉さんからお小遣いをあげよう」


 100ヘックスコインの一山を貰ってしまった。

 銀貨1000枚ゲット!


 その後、ナシェカちゃんはカジノの奥から出てきた凄腕ディーラーと思われるおじさんから別室に誘われたが断固ここに留まる模様。特別なお客様のためだけの特別なルームとか闇のゲームが開催されてそう……

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