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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
課外実習編
188/362

班決めという名の公開処刑

 前回までのあらすじ

 迷宮探索の班員を決めなきゃいけないんだが、選ばなかった奴とは今後の関係に影響しそうで怖い。

 どうする、どうする俺?という悩ましい問題と直面しているのがナウ。


 悩ましい問題だ。今のところ売れ残っている知り合いで実力が多少なりとわかるのは考古工学部のお二人か。どっちも学院生のレベルではトップクラスだがボラン先輩が取るだろうし仲良し四人組を引き離すつもりはない。

 意外にも生徒会のファリス先輩も余ってる。美女先輩って手もあるが間違いなくクロードが取るだろ。あの二人はデキてそうだしみんな遠慮しているかな? じゃないとアルテナの癒しの術法を納めた先輩が余ってる理由がわかんない。

 ヒーラーって意味ではルリアちゃんという手もあるが、二年の彼氏と一緒になりたいだろうし選ぶのは気が引けるな。

 リジーがすごい拝んでくるんだよね。変なやつに選ばれるのが心底嫌なんだろ。……難しいな。


 中途半端に仲がいいからこそ選べないのってあるよね。そいつが一番仲がいい人を知ってる分、俺が選んじゃっていいのかっていう。そういう意味ではデブが安パイなんだよね。


 悩んでるとプリス卿が急かしてくる。


「悩むのなら俺にしとけよ(キラーン)」

「急かすなよ。うーん」


 考え方を変えるか。人間関係重視かガチ攻略か、今回の目的はナシェカの新兵器運用試験だ。それなりに歯応えのある敵を求めるなら迷宮深層だ。ガチで深層を狙うのなら……


「セリード先輩、本気を出す気あります?」

「おっ、俺か。リブを分けてくれるのなら構わないぞ」

「やった、じゃあお願いします」


 セリード先輩が「お先」ってアルフォンス先輩に言い残してこっちに来る。


 ディルクルス君は通称ディルクルス派を選んだ。クロードはなぜかファリス先輩を選ばずに聖イスカリオテを選んだ。エロの聖者が売れた!? 待って、恋人を選ばずにエロ聖者ってどういうこと!?


「遠慮させてしまっているのだろうが今回も生徒会メンバーはみんなのお手伝いがメインだ。ファリスは高位の癒しの術法を納めている頼れるやつだ、ぜひ頼ってやってくれ」

「それを先に言えー!?」


 俺の悲鳴を初めとする各所から絶叫が飛び交う。高レベル魔法剣士兼癒しの術師というお得な人材なのにみんな遠慮してたんだぞ!?


 五番手、ノクティス・アレサンドロとかいう二年生がファリス先輩を獲得していった。言葉もないわ。みんなのため息が一斉に漏れてるわ。

 クロードがにこやかに笑っている。何なら黒幕感のある微笑みだ。


「仲良し同士でつるむのも楽しいと思うぜ。でもたまには別の奴と組んでみろよ。意外に合うやつってのは本当に意外で、風聞だけじゃわからないものだ」


 高笑いをするクロードに触発されたのか、ここからみんなのメンバー選びが変わっていった。基本的に元の班員を集めていたのに、他の班からも指名するようになったんだ。


 意外だったのはボラン先輩がアルフォンス先輩を外した件だ。


「わるいね、ライバルは少ない方がいいんだ」

「ボラン、貴様ぁ!」


 課外実習で熾烈なラブゲームを繰り広げているんじゃねーよ。


 リジーはD組のエロ賢者が一人『痴のグラーフ』が確保した。ウェルキンも一緒なので安堵しているぜ。


 そして回ってきた三巡目。マリアが悩んでいる。


「ライザ、カモン!」

「断る!」


 断った! え、そういうのありなん?


「ライバルの軍門に降るつもりはなくてよ。あなたと私は好敵手、肩を並べて戦う間柄ではなくてよ!」

「プリスのあんちゃん、拒否できるの?」

「え、ダメって言ったっけ? 言ってないよな?」


 拒否オッケーなんかよ。さすがプリス卿の仕切りだ、後からどんどん裏ルール的なのが出てくる。馬鹿に仕切りは無理なんだよ。

 暗黙の了解として何となく拒否はダメなんだと決めつけてたわ。


 困ったマリアがベル君を指名した。地味ながらいい仕事をするからな。何一つとして秀でたところはないが欠点もなくて性格はまともだからな。……デブの上位互換なのでは?


 俺の指名順がきた。治癒術師が欲しいなーって思ってたが、ライザちゃんがすごい目でこっち見てる……


「マリアに勝つにはあなたの班しかないとこの目が言っておりますわ。私を選びなさい!」

「プリス卿、逆指名オッケーなの?」

「え、断る気かよ? せっかくの逆ナンだぜ、受けとけよ」


 ガチ攻略を目指す身としてはつよつよメンバーを選びたいところだし、マリアとタメ張るくらいなら充分か。


「じゃあ喧嘩屋ちゃんで」


 フィストプリンセス確保。次こそはヒーラーを獲得しよう。


 色々な人間ドラマと絶叫が飛び交う三巡目が終わり、運命の四巡目がやってきた。この後は助っ人枠だからな。ここで選ばれないと……


 いや、ここまで残っていた時点でハズレ枠なのか。


 42の班長が合わせて126人を指名していったのだ。ここに残っている45人は一年と二年の最底辺。云わば最下等の人間。人間のゴミなのだ。


 見ろよ彼らのしょんぼりした面を。切なそうな顔で地面を睨んでいるだろ。これはもう公開処刑だよ。

 デブとアルフォンス先輩が残ってるのが面白すぎて笑うわ。


 アルフォンス先輩はわかる。伝説の八股事件の当事者だ。噂しか知らない一年も警戒して班に入れようとしないわけだ。


 デブは俺が獲得しないせいで使えない奴だと思われているのかもしれない。学院生の標準よりは上の性能してるのにモッタイナイな。


 指名順は先頭に戻り、今のところ課外実習班長で一番だと評価されているマリアだ。売れ残り組を見ながら仲間達と相談し合っているね。


「マリア、バランスを考えなよ」

「そうだねえ。あたしとベルで前衛、エリンは後衛、ナシェカは万能。となると?」

「すでにバランスがいいな」

「治癒術師がもういないのが痛いね。どうしよう?」


 悩むマリアが助っ人枠に目を留める。


「じゃあココアさんで」

「ハーイ、お手伝いしましょう」


 ナンデ!? なんで狂犬ココアがいんの!? あいつ極北の修道院に送られたはずだよね!


 幸い俺には気づいていないようだ。よし、やりすごそう。バレたらガチの死闘が始まる気がする。


「……貴方、どこかでお会いしたかしら?」

「別人です(裏声)」


 なんで帝国にアルチザン家が集まってきてるんだよ。あれか、一匹見かけたら30人はいる一族なのか?

 うううぅぅぅぅ、めっちゃガンくれてやがる……


「ねえ、やっぱりどこかで会ったわよね?」

「気のせいだ(裏声)」


「……おら、吐け」

「だから気のせいだって言ってんでしょが(裏声)」

「おーい、リリウスお前が選ぶ番だぞー」

「リリウス……リリウス・マクローエン!?」


 くそっ、気づかれた。プリス卿は俺にいったい何の恨みがあるんだぁああ!


 修道服に入った深いスリットの下に隠していたレイピアに手をかける狂犬ココアの背後に回ってコブラツイストをかける。が、完璧に入ったと思ったのに無理やり外されてしまったので逆エビ固めに変更だ。


「こっ、この不可思議な組み技はやはり怨敵リリウス・マクローエン!」

「怨敵とはまた恨まれたもんだな。さあ北の修道院にお帰り」

「うちの助っ人が早々に赤モッチョに倒されている……」


 人選が悪いとしか言えんな。

 待てよ、もしかして他にも知り合いいるんじゃね? 助っ人枠をよく確認してみよう……


 プリス卿、お前ではない。お前を選ぶつもりはない。


 じと目のロリもありだな、と思いつつユキノちゃんはパスで。ウルドの一件もありつつお嬢様のお傍にいることで何かと誤解を受けそうだしね。ロリコンだと思われたくないしね。


 ん~~、よく見ると見知った顔がちらほら。悪魔騎士隊だし当然ではあるが俺の知らない人もそこそこ……

 リリアがいるじゃん。悪魔騎士になったんだ。すっきりした顔立ちの凛々しい男装の女騎士が小さく手を振ってる。どうやらリリウス君と遊びたいらしいな。


「リリアって癒しの術法を使えたよね」

「軽くね、軽く。本当に簡単なのだけね」


 擦り傷、打ち身、捻挫、その程度の治療をしてもらった覚えはある。歩く軟膏かな?

 まあいいや、リリアで決定だ。


「じゃあリリアにお願いするよ」

「おいおい俺にしとけって!」


 邪魔すんなよプリスのあんちゃんよぉ……


「だってプリスのあんちゃん深刻な馬鹿だし」


 部下の方々が一斉に噴き出す。以前から思ってたけどさすがに言えなかった暴言を他人から聞いたら人はこうなるんだよ。よく言ったっていう気持ちがオモシレー男だに脳内変換されるわけだ。


「深刻な馬鹿ってなんだよ。昔はよく勉強教えてやったろー」

「全然覚えがないんだけど捏造するのやめてもらえる?」

「ほら、チャージド・ストライクの訓練手伝ってやったじゃん」


 そういえばそうだっけ。

 ラタトナ事件のあと帝都に拉致されて本部で訓練漬けの日々だった頃に基礎練に飽きてね、プリスのあんちゃんからマナ系の強化戦技を教わってたんだ。……今思えばマナとオーラの区別がつかず大きな迷走をした原因がプリス卿だ。

 感覚派って教えるのド下手くそだよね。


「ほら、俺を選ぼうぜ。絶対俺のほうがいいって」


 どうせ俺を言いくるめて迷宮探索をサボリ休暇に変えたいだけだろうな。プリス卿ってのはそういう人だ。だってデブの親戚なんだぜ。

 女、金、働きたくない、この三大欲求に正直に生きている、騎士っていうよりもサラリーマン気質な人なんだよ。


「じゃあリリアで」

「やった! よろしくねリリウス君!」

「友情……」


 すまんがプリスのあんちゃんとの間に友情はねえんだわ。人間的には好きだけどお小遣いをくれる親戚のあんちゃん以上の気持ちはない。


 他の奴らが指名をしている間にパーティーメンバーにリリアの紹介をしておく。


「こちらは帝国騎士団のリリア・エレンガルドさんです。むかし困っているところを助けて以来縁があって仲良くしてもらっています」

「ご紹介にあずかったとおりの者だ。ガーランド騎士長閣下直属アークデーモンズ所属、階級は少佐だ」


 豆知識、騎士学院を卒業して帝国騎士団に入団すると准尉からキャリアが始まる。特に問題がなければ一年で少尉に昇格する。

 尉官・佐官・将官。これを下級・中級・上級騎士と呼んでいる。現代の階級と古い時代の呼び名がごっちゃになっている程度だと考えてほしい。さらに古い時代では騎士はそれなりの権力者の名称だったので上中下なんて区分けもなかったって聞くけど、騎士団が皇室の管理になってから公務員化が進んだんだ。

 豊国なんかは今も地方の騎士が権勢を振るっているらしいね。


「得意なバトルスタイルは自分を癒しながら戦闘でガンガン体を張る感じだけど、学院生のレベルに合わせれば万能型とも言えるし。まあ頼ってもらっていいよ」

「こんなふうに言っているけど実際実力は高めなんで頼ってください」


 チームメンからも自己紹介がある。お嬢様だけは面識があるよね。

 で、最初の話題はやはりチームバランスだ。


 現在リリウス班はこんな感じになっている。

①無敵の救世主リリウス(万能)

②頭のおかしい極大火力のロザリアお嬢様 (後衛)

③秘密兵器のセリード先輩 (後衛)

④喧嘩屋ライザ(前衛)

⑤脳みそ筋肉のリリア(前衛・治癒)

⑥指名待ち


 基本能力の高さを基準に選んできたけどバランスはよさそうだ。斥候は俺がやるとして前衛を強化するか、後衛を厚くするか、中衛を入れて前後の動きを安定させるか。この程度の問題でしかない。

 一つ気になったのは……


「セリード先輩の従妹さんってどうなんです?」

「わるいがこちら側ではない。我らデュナメスの秘儀を修めていない普通の女の子さ」

「じゃあやめておきます」


 この会話が気になったのかお嬢様から質問だ。


「こちら側って何なの?」

「世の中には知らない方が幸せなこともございます」

「そうですそうです。どうしてもお知りになられたいのであれば後ほど閣下にお尋ねください」


「また仲間外れ?」


 うっ、ちょっと病んでる目つきもカワイイって思ってしまう俺がクズすぎる。

 仲間外れも何も親切心のつもりなんだがな。


「セリード先輩が明かさなかったのに俺から明かすわけには参りません。お嬢様だってバートランドの真実を吹聴されたらお嫌でしょう?」

「うちの真実って何よ」

「突っかかってこないでくださいよ。らしくないですよ」

「わたくしらしさって何?」


 何だろ、デブを選ばなかったから機嫌が悪いのかな?

 貴族令嬢らしい素っ気なさと執着のしなさが機能していない。余裕がないのか? どうして?


 ヒートアップしそうな俺達を見るに見かねてセリード先輩が俺の肩に触れる。このコミュ強ぶりよ。


「リリウス、別に秘密ってわけじゃない。明かすのは構わない」

「そうなんですか?」

「そうでも言わないとこの場は収まらないだろ?」


 気遣いか。偲びねえな。


「我らがデュナメスの郎党はかつてはイル・カサリアの五尊家に数えられた家なのです。惑わしの大神ロキを崇める神官の家だとお考えください」

「五尊家というのは帝国でいうところの公爵家のようなものです」

「訳知り顔での補足をありがとう。我らが大祖父ジルヴァーノは四代前のマクローエンを頼って帝国に帰参したと聞いております」


 ようやくお嬢様の癇癪の気配が薄れる。


「そんなご縁があったのね。亡命ということでして?」

「詳しい経緯は聞いておりませんが似たようなものであると」


 絶対知ってると思うけど話したくない時は知らないで通す。貴公子の小技だ。政治家もよくやる覚えがございませんだ。


「まぁこちら側というのは神々の術法を行使する神域の術法使いという意味です。俺もリリウスもリバイブエナジーと呼ばれる神々のエナジーを使って強大な神話降臨の術を使います」

「このエナジーは抽出の手法が面倒かつ金も時間も掛かるのですが、今回は俺から提供する形でセリード先輩に協力してもらうのです。……誤解を招く表現をお詫びします」

「ほんとよ。そうやって話してくれればわたくしだって……」


 リリアに背中をばしんとやられる。


「女の子の扱い下手になった?」

「かもしれねえ」


 ダメだな。大人になったつもりでも何かが欠けている。どうにも上手くいかねえ。

 こういう時は何もかも投げ捨てて隠遁生活をしたくなる。晴耕雨読でスローライフだ。……からの三日で飽きて町に降りる自信がある。


 いつの間にか指名順がマリアまで戻っていた。最後の一人、まぼろしのシックスメンを決める番だ。

 助っ人枠を除外すると場には五人しか残ってない。


「って! デブとアルフォンス先輩まだ残ってんの!?」

「……もしゃ」

「…………」


 いやそんな恨みがましい目つきをされてもな。自業自得でしょ。はよ成仏して?

 そしてマリアが……


「じゃあアルフォンス先輩で」

「よし! バイアット君、お先に!」


 意気揚々とマリア班に来たぜ。さすがのクソ外道も公開処刑から脱却できて嬉しそうだ。

 そして指名番が俺に回ってきた。


「じゃあデブで」

「…………」

「僕は傷ついたよみたいな顔すんな。あとでメシおごってやるから!」

「リリウス君は何もわかってないよ」

「ほんとよね」

「結果よければ全てよしだろー」

「過程も大切にしてよ」


 くっ、面倒くさい奴だ。


「熾烈な課外実習で仲良しこよしの気分でいるんじゃねーよ。俺はガチで上位を狙って……」


 そういえば上位入賞って何かあるんだっけ?

 たしか掲示板のお知らせには上位入りした班にはご褒美があったような?


「プリスのあんちゃん。これって上位入りで何か貰えるんだっけ?」

「おっ、そうだそうだ、すっかり忘れてた!」


 ガバい、ガバすぎる、さすがだぜプリス卿。やはり馬鹿に仕切りは無理なんだよ。


「ユキノ、何だっけ?」

「プリスの馬鹿。今回の課外実習にはドゥシス侯から景品が出る。上位五班にはドゥシス候お抱えの名工のオーダーメイド装備一式」


 ふぅん、すごいじゃん。

 どうせ聖銀製だろうけど学生レベルでは嬉しいよね。剣、鎧、盾、脚甲、その他諸々で一人当たり金貨1000枚相当だと考えれば25人で25000枚。かなりの大盤振る舞いだ。


「それと最優秀の班には迷宮産のすごい宝剣を出すって」


 みんな思った。口には出さないけどみんな思ってる。それを先に言えよ!

 ご褒美があるのと無いのじゃこっちのテンションも変わる。成績だったり女子と仲良くなったりを目的に班を作ってた連中が天を仰いでやがる。


 ガチ攻略を目的に班を作っておいて正解だったな。



◇◇◇◇◇◇



 阿鼻叫喚の班作り。別名、公開処刑イベントを終えた俺達は新たな仲間達と共に新たな部屋を与えられた。……割り振りを変えただけだ。


 別に部屋番のプレートとか掛かってないけど便宜上マリア班は一号室。リリウス班は二号室。成績順だ。


 宿舎の二階の部屋はまぁ狭い。三段ベッドが左右に一個ずつ。奥はテーブル一脚と明り取りの小窓。荷物を置くスペースもうんざりするほど小さい。寝返りさえ満足にできない狭くて天井の低い三段ベッドの足元に置くしかないユーザー非フレンドリーだ。

 この宿舎を作ったやつはきっと居住性よりも機能しか考えなかったに違いない。


「じゃあ俺はこっちのベッドの一番上で」

「リリウス、そういうのはカードで決めようじゃないか」

「セリード先輩の言うとおりだよ。僕だって一番上がいいし」


 男女比が三対三なので男子の三段ベッド女子の三段ベッドという形で使うことになった。


 一番上のベッドを使う権利を賭けてトランプ勝負をする。女子の方はすんなりと決まったらしい。

 女子ってこういう些末な問題を一緒に解決する能力が高いよね。男子は何かにつけて勝負でケリをつけるからね。


 はい、勝負おしまい。一番上の段がデブ、二段目が俺、一段目がセリード先輩だ。最後は譲られたな。


「デブがイビキを掻くと考えて回避しましたね?」

「知恵とはこのようにして使うのだよ」


 どやりおったわ。


 荷物置きとベッド決めを済ませてから本当に就寝という機能以外は存在しない、息苦しい部屋を出て練兵場に向かう。明日からの迷宮探索の相談をするためだ。


 迷宮騎士団から提供を受けたグラッツェン大迷宮の地図の写しを広げて、円陣を組むように座る。


「じゃあ攻略会議を始めましょう。周知が一つ、明日からは迷宮探索用の物資提供があります。スタミナポーションが人数分なので六本。マナポーションも同数。解毒ポーションは十二本ですが其々特定のモンスターに対応した解毒薬なので六人分です。これの効能は服薬後数時間程度はその種類の毒を抑えてくれますが、毒が蓄積すれば当然効能は薄まります」


 無効化というわかりやすく安心な表現は使わない。モンスターとの戦いに安心できる要素など一切存在しない。毒を大量に浴びれば解毒ポーションでは対応できなくなる。最悪その場で心停止する。

 解毒ポーションは慢心してよい物ではなく、もしもの時の備えでしかない。


「大事なのは毒を浴びないこと。攻撃を回避する、血しぶきを避ける。特に眼球は必ず守る。モンスターの血を浴びたまま適切な処置もせずに放置して目玉を溶かした冒険者も多いです。ご注意を」


 提供された資料には特に危険なモンスターの種類が記載されている。

 これも各自が読めるように広げておく。


「この会議のあと俺は町に降りて各種アイテムの購入を行います。会議の途中で気づいた必要なアイテムがあれば俺に言ってください、買っておきます」


 ここで喧嘩屋ちゃんが俺を見て、ニヒルに唇を歪める。

 この子マジでJK? 世界観がジベールの大闘技場だよ?


「特級冒険者の仕切りは楽ね。問題提起の必要もなさそう」

「嬉しい感想だね。前衛で体を張るライザには特に注意してほしいって言わなくてもよさそうだ」

「当然。伊達や酔狂でフィストプリンセスを名乗っておりませんわ」


 そのフィストプリンセスがワカラナイんだが。

 え、みんな流してるけど俺だけワカッテナイ感じ?


(ん~~、フィストプリンセスって何なのかしら?)

(フィストプリンセスってなんだ?)

(マジなんなんだろうねえ)

(どうでもいいような気になるような。あれ、もしかして私以外みんな分かってるやつ? 若い子の間では常識なの?)


 うん、よくわかんないしスルーしよう。

 背中に喧嘩道を背負ったライザがすべての戸惑いを置き捨てて未来に進むように発言する。


「今回の迷宮探索では上位を狙うと窺っておりますが、具体的なプランを聞かせてもらいたいわね」

「具体的なプランね。最低でも攻略はするよ。最下層に往き守護者を倒し、コアの状態を視認する」


「攻略が最低と? なら最高は?」

「グラッツェン大迷宮の在り方がまだ不明でな。オクタグラム・ピットと呼ばれる構造が八つの異なる迷宮なのか、深部で一つにまとまっているのかが不明な内は何とも言えない。ゆえに俺の答えはこうなる。探索を進めていった後にようやくキミの質問に正しい答えを出せる」


「ではその時まで待ちましょう」

「ライザの目的はマリアよりも良い成績なんだよな?」

「ええ、それがライバルというものです」

「あっちはドルドム迷宮攻略チームの主力揃いだ。狂犬シスターも加えてむしろパワーアップしているから生半可な覚悟じゃ置いていかれるぜ」

「望むところですわ」


 人品を見極めるつもりでやる気を煽ってみたら望むところってゆわれた。帝都に帰ったらフェイを紹介してみようかな。たぶん気が合うと思う。


 じゃあ会議を進めよう。


「基本的な編成を今の内に決めておこう。俺が先頭に立って斥候をやる。罠や索敵なんかを担当する」

「そのガタイで? 貴方スカウトでしたの?」

「何でもできるよ。後方から神をも殺せる大魔法も撃てるし前衛に出て神話の獣と殴り合うこともできる。だがこの面子の中に斥候のできるやつがいないから俺が担う」

「ふぅん」


 あ、心に響いてない感じだ。


「で、ライザには俺の後ろにいてほしい。適当な数の魔物を通すから倒してくれ」

「心得ましたわ」


「デブはライザの後ろな。視野を広く保って指揮官をやってくれ。俺も気をつけるが、特に警戒してほしいのはサイドアタックだ」

「もしゃもしゃ。うん、任せて~」


 何も任せられない返事だがデブは自分の仕事はそつなくこなす男だ。基本能力は高いし頭がいいから体力に余裕を持たせられる指揮官をやらせる。

 逆に言うと指揮官以外の役割分担には期待できない。今回馬脚を現わした根性のない上級貴族の子弟筆頭がデブのような奴らなんだよ。


「お嬢様とセリード先輩はデブの指示を聞いて遊撃をやってください。基本的にのんびりしていてもらって、指示があったら動く感じで」

「ええ、わかったわ」

「楽をさせてくれるわけだ。ありがたいね」


「リリアは一番後ろでバックアタックの警戒をして。俺達に花を持たせようなんて考えなくていいからモンスも適当に蹴散らしてよ」

「ほいほい」


 気安い返事だが任せて平気だろ。ラタトナ迷宮経験者やぞ。あのド畜生迷宮から生還したってだけで並みの斥候なんかより信頼できる。


「編成は各自の動きを見てからより合ったものに変更するかも? まあそこは臨機応援にやろう。疲労度によって休憩を挟むし急な用事なんかもあると思うが報告・連絡・相談は欠かさずにね」

「急な用事って? 迷宮で?」

「あー、そこはほら、トイレとか」

「あぁなるほどね。わかったわ。え、トイレってあるの?」

「あるわけがない」

「じゃあどうするの?」

「そこはほら、壁側に寄ってそこで済ませたり……」

「セクハラよ」


 お嬢様、それはリリウス君に対するモラハラです。

 あれ、もしかして今まで野外トイレしたことなかったの? そういえばお嬢様が外でトイレしてるの見た事ない。鋼の膀胱かな?


 そのあとも色々と話し合って攻略会議もそろそろ終了って頃だ。一応確認しておく。


「じゃあ買い物に行ってきますが欲しい物はあります? 投げナイフとか松明とかポーションの買い増しはやっておきますが」

「特にないわね」


 なかった。まぁまだ谷底をうろちょろしただけだ。本当に必要な物を感じるのは苦戦してからだし仕方ない。


 冒険者の中には投擲具としてラウンドシールドを何枚か持っていくやつがいる。投げてよし、殴りつけてよし、収納も簡単なので便利だ。専用のショルダーバッグを自作しているやつもいるくらいだ。

 必要だと感じるアイテムは人によってけっこう変わる。俺の欲するアイテムがイコールみんなの欲する品とは限らないわけだ。


「じゃあ会議終了です、お疲れ様でした。夕飯は十七時からです。それまでは明日に備えてゆっくりしていてください」


 さて町に買い出しだ。昨夜は少しだけ町の様子を見てきたが、日の出ている内は初めてなので楽しみだぜ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつ誰だってキャラが結構出てきたけど、リリアってファラと一緒に居た子か懐かしいw ファラは何してるんだろうな~
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