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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
課外実習編
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課外実習②

 課外実習二日目の早朝。大外壁と大外壁に挟まれた練兵場に整列した200余名の学院生を前にクロード会長が本日の予定を説明する。


「本日は迷宮探索を行う。まずは慣らしだ、軽く潜ってグラッツェン大迷宮を体験する。特別なアクシデントがない限りは十四時まで継続される」


 十五時からこの練兵場で班ミーティング。反省点を話し合ってもらう。

 十五時半から全体ミーティング。内容はまだ秘密。


「以降の予定に関してはミーティング後に明かす」


 みんなどよめいている。色々と深読みできそうな内容だったからな。まぁ与えられた情報の中から正しい情報を選び出す能力も求められているんだろう。

 憶測の飛び交う様子にクロードが微笑んでいる。悪戯成功なのか学院同意の知的な罠なのかは不明だが、クロードは独断ではやらんな。こいつは正しい人ではない。正しくあろうとする人だからやらない。


「では徒歩にて迷宮へと向かう。先導はコーデリア隊長の小隊だ。部屋番号202番から順についていくように」


 白角隊長の部隊が練兵場を突っ切っていき、一番奥にある意味ありげな門が持ち上がっていく。

 おお、昨日から気になっていたんだけどこういう用途なのか。


 迷宮騎士団ともなれば市内を通らずに済む迷宮への最短ルートを秘匿していてもおかしくない。普段からここを使って秘密裏に色々やってるのだろう。


 谷底までの最短ルートだ。右手は傾斜角度35度というきついスロープ。左手は同じ急さの石階段。

 煙る谷底を目指して石階段を下りていく。


 なぜかジョンを頭に乗せているマリアが素朴な疑問を投げかけてくる。


「ドルドムといい霧の多い場所にばかり行ってる気がするね」

「迷宮なんだから当然だろ」


 マリアよ、お前は本当に狂戦士だな。

 学のない冒険者の間でも常識なんだがな。


「煙って見えるのは大気濃度が濃いからだ。空気中に含まれる魔素トロンが多いのだ。つまりこれが迷宮の空気ってわけだ」


 正確にはドルドムを含むランダーギアは魔素の濃い地域だった。害のない種類とはいえ魔樹も多かったし、変な系統進化を遂げた魔物も多かった。ああいう土地だから迷宮が生まれた。

 だがここはもう完全に迷宮に浸食されている。この霧の部分から下は迷宮なんだ。


 説明の最後はそうだな。助言っぽいのにしておこう。ただの雑学お兄さんだと思われるのも癪だからな。


「この空気を覚えておけ。どんな場所どんな瞬間でもこの空気は危険信号だ。これは強い悪魔の出る前兆でもあるからな」

「わかった、気をつける」


 真剣な眼差しで頷くマリア。そしてなぜかお嬢様とデブも頷いている。

 みんなの中の俺なんなの? 予言者とか? 言っておくけど俺の話って九割意味のない豆知識だよ?


 下調べは済んでいる。迷宮騎士団から提出された資料も昨夜の内に読み込んである。白角隊のレディース……お姉様がたもいる。

 課外実習ではここ数年事故も起きていないってデータもわかっている。何かが起きそうな胸騒ぎもしない。

 しかし何故だろうか、ここまで安全が確保されていながら逆にそれが罠に思えてしまうのは。


 何か見落としている? わからんな。

 なお背中に感じる男子達の殺意の眼差しはスルーする。こっちは日常なんだよなあ。



◇◇◇◇◇◇



 谷底を徘徊するモンスターを相手どり学院生が方陣を組んで戦っている。

 編成はくさりかたびらの陣。六人一班を最小の部隊編成とし、これを中央から◇形に布陣して前進する。

 従って編成はこのようになる。


   ⑧

  ⑪④⑬

 ⑥②①③⑦

  ⑫⑤⑩

   ⑨


 42分隊でこのような方陣を組む。損耗した分隊は下げて内部の分隊がカバーする。戦闘において必ず発生する部隊の消耗を均等にするという考えで用いられる方陣だ。

 現代戦術は治癒の奇跡を考慮して組み立てられている。短時間での戦線復帰は難しくとも魔法攻撃さえ可能なら戦力として問題ないためだ。


 谷底の戦闘が激しさを増す。斬り倒し、焼き払い、知恵の低い迷宮のモンスターを蹂躙して兵団が前進する。


 一際巨大なトロールが大岩を投げる。超重量の投擲物は大勢を圧し潰す惨劇を招くかに思われたが、空中でピタリと停止する。

 次の瞬間には大岩が当初よりも何倍もの速度で撃ち出されて巨大なトロールを打ち砕き。召喚された七羽のプラズマの炎鳥が戦場を蹂躙する。


 猛火に包まれた戦場を前進する学院兵団、彼らの活躍を谷の上から観察しているプリス卿が双眼鏡を覗き込みながら口笛を吹く。


「やるねえ、今のはロザリアお嬢様かな? あの幼さで華炎鳥七羽を自在に操るとは恐れいる」


 チャラい! 口を開いただけでチャラいのがわかるプリス卿である。

 そんなプリス卿が気に入らないのが口調からわかってしまうユキノが指摘する。


「消耗を抑えるべき状況で場にそぐわない大火力。個人戦闘能力は評価できても判断力や協調性の面では減点」

「厳しいねえ、小さな子には優しくしろってママから教わらなかった? ってママがいねえんだったっけ!?」


 プリス卿はチャラい上に無神経だ。


「いやー、ごめんごめん。ついうっかり。マジごめんっしょー」


 ついでに馬鹿だ。


「でもあの幼さで頑張ってると思うんだよ。年上のお兄さんお姉さんの中で頑張ってるところは評価してやろうぜ」

「いや私と同い年のはず。プリスの親戚の小ブタ君と同じ年のはず」


「え、嘘? てゆーかユキノって何歳だっけ?」

「16!」

「マジで!? あー、ユキノもちっこいのに頑張ってたんだな」

「プリス嫌い」


 プリス卿からがしがし頭を撫でられているユキノは割りとマジな想いで死ねばいいのにって思っている。常に思ってる。

 何を言っても通じてない感のある上司とか最悪だ。


 ここに集うのは帝国騎士団長ガーランド直属の精鋭部隊アークデーモンズ。今回の迷宮探索において学院生に同行し、評価をするという楽な仕事に飛びついた愉快な方々だ。


「なまっ白いおぼっちゃんどもの面倒を看るだけで半日休暇が三週間か。楽な仕事だぜ」

「閣下から頼まれた別命も忘れないで」

「適当に難癖つけて襲っちまえば楽勝だよ。なあ、リリアもそう思うだろ?」

「そうね。適当に難癖つけて襲ってしまおうか」


 青の薔薇の広域監視員リリア・エレンガルドもまた密命を帯びてここにいる。

 バラの芽は地中よりいでる。美しく咲き誇る日を夢見て。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ド忘れしちゃったんですけど、リリアちゃんって今回以前に青薔薇に入ったっていう話ありましたっけ?それとも初出でしたか?
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