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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
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青の薔薇を捕まえろ⑤ 決着、そして当然のように崩壊する遺跡

 地下遺跡をぐるっと一周するふうに別のルートを進んでいるとちょうどマリアと銀蛙卿のバトルシーンとかち合った。


 まだ早いかな? まだ勝てないかな? と不安はあったがそんなことはなかった。マリアとアーサー君は着実に護衛のアンデッド兵を減らしながら銀蛙卿を追い詰めつつある。


 護衛が一体まで減った瞬間にマリアが飛ぶ。


「神速のぉ―――ブッチギリだあ!」


 音速を凌駕する突撃斬撃だ。惜しくも銀蛙卿の魔導防壁に防がれたが続く二撃目三撃目と順調に防壁を削っていく。英雄の領域ではミスリルはもう通じないんだが聖銀剣ってこういう時に輝くよな。対魔法特攻として。


 ゴリゴリと防壁を削られている銀蛙卿が迎撃の魔法弾を面制圧の数で放つが、マリアはこれを軽やかに避けていく。


「ぐっ、ちょこまかと!」


 銀蛙卿がタクトを振り上げる。

 するとそれまで虚ろな表情のまま俯いていた人質数十人が一斉に立ち上がった。冥府の魔法力を飲ませ続けられた人々の哀れな姿、生きながらにしてアンデッド化の進行したグール化の状態だ。


 ゾンビのごとき動きは一瞬だけ。次の瞬間にはこいつらが全員ダッシュでマリア達へと群がってきた。

 ティト神の祝福で冥府の魔法力を散らせばワンチャンある。と思って大きく息を吸い込んでブレスの準備をしていた俺であったが、意外なことに意外な野郎が手を貸しやがった。

 銀狼卿シェーファだ。


「くだらん横やりを。シェルルクならば優雅な戦いを心掛けるのだな」


 やつが放った冷気を浴びたグールどもがバタバタと倒れていく。冥府の魔法力による命令をより強力な魔法力で上書きしたというかショックで昏倒させたらしい。


 マリアの眼差しがシェーファに向く。疑問を投げかける目つきを押し返すようにシェーファが叫ぶ。


「やれ、マリア! この程度の男にヤラれるほど可愛げのある子ではないだろ!」

「???」


 なんで激励されたのか、こいつが誰なのかわかってなさそうなマリアがこくんと頷き、また銀蛙卿へと立ち向かう。


 いやはやどういう心境なのやら。とりあえずこいつの隣に移動して一服するわ。


「よお」

「おう」

「……まさかシェルルク内に仲間を潜入させていたのか?」


 オルテガよ、こいつは仲間じゃなくて最低な知り合いだ。

 銀仮面の集いの正規メンバー様がどうしてマリアに手を貸すのか興味があるだけだ。


「どういうつもりだよ、まさかシェルルクを裏切るつもりか?」

「この程度の輩では利用する価値もないと判断したまでだ」

「同感だよ。こいつら弱っちいもんな」


 背嚢をめくれば銀虎卿とご対面だ。白目剥いて気絶してる雑魚卿の醜態を拝んだシェーファが勝手に俺の葉巻ケースから一本取り出して紫煙を吹かせる。


「あぁキミは本当に私の足かせになってくれるんだな」


「何の話だよ」

「約束をしたろう? ラシャナ市で、正しい道を示し続けてやるって。何度だって私の過ちを問い質し続けてやるって。とっくに反故になったと思っていたのに律儀にもこんな地の果てまで追ってきて」


「悪いがそんなに古い約束は覚えていない」

「覚えてもいないのに約束を守ってくれるとはな。……どうしてそこまでしてくれる? キミに何の利益がある?」


 仮面の奥に真摯な眼差しがある。それを見た瞬間に頭がカッカと熱くなって怒鳴り散らしてやりたい気分になって、自制しようと思ったがやっぱり無理だった。


「甘えるんじゃねえ! 俺に甘えようとするな、簡単に絆されるんじゃねえ! その程度の想いなら、この程度で揺らぐ決意ならどうしてカトリを殺した!」


「……落とした盃は戻らない。わかってはいるさ」

「その殊勝な態度は何だ? まさか命乞いのつもりか?」

「それは大きな勝算を確保したものだけに許されるセリフだ」


 鼻で笑われた。本当に腹の立つ野郎だ。


「イザールはキミの正体を知りたがっている。カトリーエイル・ルーデットのその駆け引きの材料になりえ、彼との契約の際に提示された条件がこれだ」

「手品の種明かしを聞かされた気分だ。お前は?」

「私がどうしたと?」

「何を願ってガレリアの手を取った」

「私の願いは今も昔もただ一つだ」


 シェーファが葉巻を放り捨てて踏みにじる。この幕間のような時間に終わりを告げるように。


 会話の合間に役者が勢ぞろいした。荷車を引いてやってきたトキムネ君やリゾートで雇った騎士団長とかその婚約者とかがマリア達の戦いを見物している。

 マリアとの戦いで忙殺されていた銀蛙卿も目を剥いて驚いている。


「ガーランド・バートランド……! そうか、ここで終わりか」

「貴殿を銀蛙卿と見受ける。すまんが帝都までご足労願うぞ」


 この部屋の入り口は二つだけ俺の陣取るここと、閣下の陣取るあそこだけ。

 もう逃げられはしないと観念したように俯いた醜いガマガエルが仮面を投げ捨て、高らかに笑い出した。テンプレ悪党ならここで自白しながら自爆するよな。

 閣下の放った干渉結界の中で自爆できるもんならやってみろって感じではある。


「僕が銀蛙卿だって? その程度か、その程度だからお前達はいつまで経ってもあの御方にはたどり着けない!」


 おや、何か面倒くさいことを言い出したぞ?


「あの御方の助言でシェルルク・カスケードは中止になったのだよ! お前達は誘い出されてきたにすぎない!」

「罠であると?」

「ああそうだ! ここは裏切り者である銀狼卿とお前達を始末する処刑場だ!」


 これは遺跡が崩壊して逃げる系のイベントだな。

 銀蛙卿なのかそのニセモノなのかわからん男が狂ったように笑っている。自爆する前のボス感がじつに素晴らしい。


「くはははははは! 僕としてはもう少しあの御方に仕えたかったのだがね。それだけは残念だよ。だがあの御方の予言が外れるはずがなかったね」


 予言?


「ちょっと待て、予言ってまさかあの御方ってのは未来予知ホルダーなのか?」

「お前達がそれを知る必要はない。では諸君、冥府への道行は僕が案内仕ろう!」


 しかし何も起きないのである。

 戸惑う銀蛙卿のニセモノが何やらやってるが何も起きないのである。だって昨晩の内ににここに仕掛けられていた巨大炎上術式は破壊してあるからね。


「なっ、なんで!?」

「どうやら貴殿からは多くの情報が取れそうだな」

「まっ、待て! これは何かの間違いだ、間違いなんだ。あの御方が誤るはずがない!」

「どうぞ閣下、俺からのささやかな婚約記念のプレゼントです」

「うむ、じつにありがたい」


 閣下が銀蛙卿の頭をごんと殴る。魔導防壁をぶち破るゲンコツだ。威力がイカレてるぜ。

 俺もささっと素早く銀蛙卿の首に魔封じの首輪を嵌める。アシェラ神殿の悪徳信徒が使う最高位の魔封じの首輪だ。


 で、捕えたこいつを荷車にポイと投げ込んで……


「残るは三人。銀羊と銀鳥と銀狼卿ですね」

「であるな。さて、そこもとは……」


 ガーランド閣下の厳しい視線がシェーファに向く。


「どういった立場であるのかな? 我ら帝国騎士団と敵対する青の薔薇のシェルルクであるのか、それとも我らが主人たるフォン・グラスカールが弟君であるのか」

「青の薔薇の内情を知るために潜入していた後者であると言えば?」

「情報提供者は多い方がよい」


 シェーファが仮面を投げ捨てる。本当に気づいてなかったらしいマリアとアーサー君が驚いているが、それは仕方ないな。

 ガーランド閣下が上機嫌に笑っている。この世の何もかもを手のひらの上で動かす尊大な貴族のようにだ。


「素晴らしい功績だ。フォン・クリストファー皇子殿下、これは貴殿を飾る勲章となるであろう」

「そうであろうな」


 シェーファが怨敵を睨むような目つきで閣下へと歩み寄り、だがすれ違う。


「何もかもを操ったつもりか?」

「そうだ。お前に瑕は必要ない、すべての傷は俺が負う。お前は俺の大切な金剛石のキングだからな」

「……今は言わせておいてやる。今だけはだ」


 何がどうなっているんだろう?っていう表情をしているマリアには説明をしてやる。表向きの説明だ。


 帝国第二皇子クリストファーは青の薔薇と接触して内部の情報を探っていた。今回の拠点攻略は彼の情報が役に立ち、見事ドルドムに張った拠点を潰せた。というニセモノの手柄話だ。俺の活躍なんてかの字さえも出てこないね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 原作ブレイク!スカーレイクの未来はどっちだ! [一言] シェーファ的にはやはり敵対しててもリリウスは好感度は高いんだろうな。 つかこの二人が組むとイザール以外に負ける未来が見えない。
[一言] いやほんと、このクソ野郎何考えてこんな態度取ってるんだろうか。 もしまだ許されるとか思っているなら本当にクソとしか言いようがない
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