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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
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青の薔薇を捕まえろ② 世紀の名マッチが始まった

 現在地下四階。青の薔薇の拠点襲撃は順調を通し越して笑えてくる。


 青の薔薇の兵隊どもはバラバラにワァーっと襲ってくるのではなく、訓練された動きで防衛ラインを引いて大勢で迎撃の態勢を取ってくるので、俺はボーリングの玉みたいにブルーローズの兵隊どもを蹴散らすだけだ。

 わざわざトドメを差してはいないが俺のタックルとラリアットを喰らってるんだ。九割九分は死んでいる。


「死守せよ! 通してはならない、シェルルクだけは守り抜くのだ!」


 じつに威勢のいい一般兵だ。もしかしたら指揮官タイプの兵隊なのかもしれない。

 見分けがつかないから角を生やしたりカラーリングを赤くするような努力をしてもらいたい。


「おーおー、元気がいいもんだ。じゃあまた来世で!」


 リリウスタックルが簡易バリケードごと兵隊どもを粉砕する。俺のタックルの威力は時速800キロまで加速したモンスタートラックの体当たりのようなもんだ。人体なんてスーパーボールみたいに飛んでいくぜ。


 まぁ俺じゃなきゃ苦戦しているだろうぜ。ウェルキンとベル君なら曲がり角からちまちま魔法撃ちながら睨み合いになってるところだ。青の薔薇の諸君には悪いが相手が俺で可哀想ですねって感じだ。


 俺の後ろをついてくる役割の人みたいになってるオルテガが苦々しい顔をしてるぜ。


「マジで桁違いだな。S級冒険者ってのはみんなこんななのか?」

「まあ弱いのはいねえな」


 防衛線を第四まで突破した頃にようやく手強そうなのが出てきた。

 お高そうな黒い鎧甲冑に身長ほどの長さの短槍。顔の下半分をマスクで隠している女性だ。おばちゃんまでは行かずとも若いとは言い難い……

 36…38? 四十路まではいっていないような気がするが……?

 くっ、気になる!


 それはそれとして短槍を構えるおば……お姉さん戦士から強いオーラが溢れ出す。


「へえ、見覚えのある顔だ。最年少で特級にあがったっていう坊やじゃないか」


 どっかで会ったっけ?


「覚えていてもらえて光栄だな。俺との熱い夜を忘れられなかったのかい?」

「帝国騎士団かと思ったが冒険者とはね。いったい何を目当てに夜襲を仕掛けてきたっていうんだい?」

「そいつを知りたきゃパンツを下ろすんだな。枕を共にして語り合おうじゃねえか」

「貴様らには会話をしようという考えはないのか」


 オルテガつっこみがまっともー!

 とはいえ向こうも会話をする気はなさそうだ。槍を構えていまにも突撃チャージする雰囲気がある。つまらない男なら殺すとか思ってそう。


 俺の正体だけバレてんのはつまらんな。そっちの正体も明かしてやるか。


「銀狐卿ディオネラ、たしか普段は帝国南部及び諸王国同盟で活動するS級冒険者だったか?」


「へえ、腕っぷしだけの坊やじゃないってわけだ」

「大物ぶるのは構わないぜ。だが瞬殺される雑魚が見栄張るのは滑稽だからやめておけよ」

「恐れ知らずも程度を弁えるんだね」


 殺人ナイフのトリガーを引く。知覚拡張の呪術『雷帝マキリ』を発動する。

 俺の背後に現れた老いた雷帝が俺の肉体に重なっていく不気味な光景をまばたき一つせずに見つめる胆力は褒めてやる。まばたき一つしてみろ、その瞬間に潰すぞ。


「遊んでやる。まずは全力で回避に徹しろ」

「冗談!」


 銀狐卿ディオネラが槍を構えたまま突進してくる。その一歩を踏み出した瞬間に虚空を渡っていった俺の膝がディオネラの顔面を捉える。ひしゃげた顔面が脆い人形みたいに取れて、俺の膝にくっついたまま、壁へと着地すると同時に離れて落ちた。


 必殺のシャイニングウィザードとはいえ簡単に極まると笑えるな。いやだねえ、実力の衰えを小手先の技術で誤魔化して実力を保った気になっている古い戦士って。


「え…S級に弱いのはいないんじゃなかったのか?」

「例外もいたらしいな」

「そうか……」


 オルテガが多くの疑問を呑み込むみたいに言った。長話をしている場合じゃない、何しろトゥールちゃんを誘拐されている設定だからな。

 本当に誘拐されたのかって? させるわけねーじゃん。


 円卓の間を目指して地下遺跡を小走りで進む。ちょこっと思ったのは……

 まぁなんだ、太陽の超人級というのは大げさすぎたな。こんな奴ら五人まとめてもアルシェイス一人にも及ばない気がする。

 


◇◇◇◇◇◇



「ばかな! 俺の剣が折れたぁ!?」

 というマヌケな大声をあげた銀虎卿レイザーエッジを腹パンで沈める。


 剃刀のように鋭い斬撃という二つ名なんだろうがリリウス君を覆うオーラを斬るには到らなかったようだ。


 確保した銀虎卿の手足の関節を外して折り畳んで背嚢に詰め込んでいく。

 背嚢の口を広げてナイスなお手伝いをするオルテガもそろそろ慣れてきたらしい。


「貴様いくら何でも強すぎやしないか?」

「まだ本気すら出してないぞ」

「マジかよ……」


 マジ。張り切って十二の試練を一個外しただけの舐めプ状態だ。


 よし、銀虎卿確保。無線で連絡だ。


「ハローハロー、バトラ兄貴聞こえる? こちらリリウス、銀虎卿の確保に成功」

『こちらバトラ。人手は必要か?』


「要らね。そっちは?」

『地上の制圧は完了している。俺とラトファで正面入り口の安全を保持、トキムネは地下にやった』

「おっけー。シェルルクが出てきたら確保してくれ」

『ミーティングでは追跡に留めるという話だったろ?』

「思ったより雑魚だ。兄貴とラトファなら倒せるよ」

『承知した』


 無線というか通話が途切れる。よし、ミッションは順調だ。

 オルテガがまた何か聞きたそうにして呑み込んでいる。俺の邪魔をするわけにはいかないが気になるって感じだ。


「これ? 遠くと言葉を交わせる魔法具」

「そいつは便利なもんだが、思念話ではならんのか?」

「思念話は範囲内にいるある程度以上の術者に盗み聞きされる危険性がある。結界によって阻まれたりもする。これはそこら辺の心配がない道具なんだ」

「また便利な道具だな。商会で取り扱っているのか?」

「悪いが販売はやってない」


 オルテガへと振り向いた瞬間だ。怒声をあげるおっさんが剣を腰溜めに構えてヤクザのように走ってきた。オジキのかたきとか言いそう。


「オルテガぁあああ!」

「兄貴!」


 オルテガが俺を庇う形で前に出て、マッシュへと体当たりをぶちかます。

 両者そのままごろんと横に転がり、すぐに起き上がって両手をがっぷし組んでのレスリング態勢になる。


「てめえ何し腐りやがってんだゴルァ!」

「兄貴こそ! 青の薔薇なんぞに手を貸すとは気でも狂ったのか!」


 おっさん同士のガチムチレスリングが始まってしまった。

 きたない、絵面がとにかくきたない。しかしプロレスファンとしてはこのきたなくも暑苦しい対決にキュンとしてしまうのである。鍛えぬいた鋼の肉体をぶつけ合うレスラーより格好いい男なんていねえんだよ。


 この暑苦しいレスリングの合間に交わされる会話によるとドルドム次男のマッシュは男爵位が欲しくて長男と三男を蹴落としたいのだそうな。長男と次男の悪評を流したり青の薔薇に協力して兵隊を借りる約束をしたり……

 まぁ色々言ってるけどマッシュは洗脳されている。精神を誘導されて青の薔薇に協力すれば男爵になれると思い込んでいるって事前に鑑定師から報告されているんだ。


「トゥールまで巻き込みやがってぇえええ!」

「何の話してやがんだあああ!」

「しらばっくれるつもりかああ!」


 暑苦しっ!


「なあ、俺が手伝っても……」

「待て! すぐに終わる!」


 オルテガが飛行機投げをぶちかます!

 おおっ、迫力あるぜ! ぶっ倒れたマッシュの頭にゲンコツをぶちかまし、鼻血を噴いてそのまま倒れるかに見えたマッシュが堪えて反撃の金的掌打! これは痛い!


 マッシュ選手痛烈な反則だ。追撃に来たが俺が止めてやる。


「ブレイク! ブレイク!」

「なんだてめえは!」

「今のは反則だ。レフェリーとして厳重に注意させてもらう!」

「反則ってなんだよぉ!?」


 切なそうな顔で首をブンブン振ってるオルテガの回復を待ってファイト再開!


 こんなにも熱いプロレスはそうお目に掛かれるものではない。キンキンに冷えたビールが欲しい……!

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