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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
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調査の結果衝撃の事実が判明したんだ(リリウス談)

 マリアは朝日と共に目を覚ました。


「うおおおお! 朝だー、起きろー!」

「うおおおおい!?」


 まず山賊Tを蹴って起こした。

 すぐに奥の部屋に飛び込んでいった。無理やり起こされた山賊Tが呆然としている間に行われた早業だ。


「な…なんだあ……」

「「きゃははははは!」」


 奥の部屋から二人の楽しそうな笑い声が聞こえてきて、すぐに二人揃って居間にやってきた。


「起こしてきたぜ」

「起きたぜ」

「お…おう」


 山賊Tは完全に気圧されている。何ならオレより娘と仲がいいなって思ってるくらいだ。

 マリアの異能は知能と年齢が低いものほど強力に作用するのだ。王から仲良くしようと言われて抗えるのは自我の育った大人だけだ。


「井戸はどこだっけ、顔を洗いにいこうよ」

「いくぜ!」

「……こっちだ」


 細長い村を細長い道をたどって井戸のある広場まで向かう。

 その間は普通にしゃべってる。


「そういや山賊さんの名前なんだっけ?」

「もっと早く聞けよ。サナダだ、トキムネ・K・サナダ」

「トキムネ言いにくいよね? ねー?」

「ねー」

「パパの名前に言いにくいとは何だよ」


「マリアお姉ちゃんもリコも言いやすいよね」

「勝ち誇る幼女もカワイイな」

「だろ? うちの娘は世界一可愛いんだよ」



「そういえばトキムネさん幾つ? 年齢ね、年齢」

「22か23だったはずだ」

「へえ、思ったより全然若いんだ」

「老けて見えたか?」

「えへへへ! 若くて格好いいパパでよかったねえ」

「うん!」

「誤魔化しやがったが若くて格好いいに免じて許してやるよ」


「でもパパはカイショーナシなんだ。お仕事もすぐに辞めちゃうし」

「リコちゃん難しい言葉を知ってるね。パパは前は何してたの?」

「アドベンチャーズ! その次はゴールデンナイツだったんだよ!」

「騎士だったんだ……。仕事を辞めて故郷に戻ってきた感じ?」

「ここは妻の地元だ。そう気を遣うな、禁句ってわけじゃねえんだ」


 そうこう話している内に井戸に着いた。朝早くなのでけっこう賑わっている。洗濯に桶運びにと十人くらいが集まっている。……D組男子の姿は無い。

 何より驚いたのは村人の間で自分が人質の子で通っている事態だ。人質のねーちゃんとか言われているのが一番驚いた。


「そんな認識なんだ」

「のんびりした感覚なんだよ。わりぃな」


 別にわるくはないよねって思いながら洗顔終了。洗顔を終えると山賊Tが仕事があるって言ってどっかに行った。不用心だ。


 せっかくの自由だ。この時間を有効に使わなければならない。


「リコちゃん、村を探検したくない?」

「したぁ~い」


 したいらしい。よし、幼女が簡単で助かった。


「じゃあ探検開始だ! いくよ!」

「いくぜ!」


 村の正門を確認する。見張りっぽい男衆が二人だけ槍を抱えて立っている。二人とも年齢的にマリアと同じくらいのミドルティーンからハイティーンだ。


「おう、人質のねーちゃんじゃねえか」

「トキムネの兄ぃから聞いてるぜ。村を出たいのか?」

(出ていいんだ。え、いいの? よくないよね?)


 見張りの兄ちゃんが腰に差した山刀を鞘ごと渡してくる。


「出るならついでに何か獲ってきてくれ。どうせなら食いでのあるイノシシがいいねえ」

(完全に労働力だと思われてるじゃん!)


 のんびりした村すぎる。とてもではないが山賊の拠点とは思えない。

 何かの罠じゃないだろうな、と疑いながら山刀を突き返す。


「いや、外には出ないから」

「そうか。気が変わったら言ってくれ」


 何だろうか、普通に気のいい少年達だ。

 普通にいいやつなので山賊村の住人とは思えない。山賊なら捕らえた乙女を襲えって言いたいところだ。いや困るけども。


 村を適当に見て回る。D組男子の姿はやっぱり見かけない。もしかしたら村の外で働かされているのかもしれない。

 代わりにギョっとする人を見つけた。ドルドムだ、噂のドルドム三兄弟のオルテガが畑のド真ん中に縛られてカカシ扱いを受けていた。


「けっこう容赦がないなこの村……」

「あくにんだからね!」


 幼女からも悪人扱いだ。やはりドルドムはロクデナシで有名らしい。

 マリアは抱えている水瓶を下ろして柄杓で水をぶっかける。ドルドムが目覚めた。


「おっ……てめえは? 村のモンじゃねえな、いや待て、たしかウェルキンと一緒にいた学院生か」

「よく覚えていたね」

「ばかにしてんのかよ。どうしてこの村にいる?」

「あんたと同じ捕まった身なの」

「そいつは災難だったな。すまねえ」


「なんであんたが謝るわけ?」

「街道の安全を保証するのは領主家の責務なんだよ。それとあんたはやめろ、オルテガだ」

「マリアよ。何だか噂よりまともだね?」


「噂…か。どんな噂を聞いた?」

「知能と品性をお母ちゃんの腹に忘れて出てきた乱暴者のロクデナシ。気に入った女がいれば無理やり犯っちゃう女好き」

「……そいつはデマカセだ」


「そうなの?」

「兄貴達は知らねえが俺はそんなマネはしねえよ」

「しそうな外見してるけど?」

「ばかをいうな、俺は童貞だ」


 衝撃の告白だ!

 この立派ながたいの巨漢から童貞発言だ。驚きしかない。リリウスと同じ空気がしている分だけ驚きだ。


「まぁ驚くよな。よく驚かれるんだ」

「マジ?」

「マジだよ。だいたい妻以外の女と寝てみろ、どこの男と作ったかもしれないガキを連れて認知しろって言いに来るんだぞ。領主家の男がそんなヘマを踏めるか。血筋ってのは大事なんだよ」

「金だけ渡せばいいじゃん」

「ガキが可哀想だろうが」

(なんかまっとうなこと言い出したなこいつ)


 見た目がこれで発言がこれだ。ちょっと信じ難いが疑われるのも慣れているらしい、こんな状況なのにくつくつ笑っている。


「別に信じる必要はねえぜ。馬鹿な男がずっと前に故郷を出ていった女を想っていただけだ」

「純愛じゃん」

「まあ女は大都会で別の男とガキをこさえて出戻ってきたんだがな」

「可哀想じゃん」

「そうかい、そう言ってくれた子は初めてだな」


 何だか幼女が静かだ。そう思ってリコの姿を探すと随分と離れたところにいる。近寄ると喰われるとでも思ってそうな距離感だ。まぁ気持ちはわからなくもない。

 身の丈200センチ近い大男だ。ごりっごりのゴリマッチョだ。幼女の目にはモンスターに見えるのかもしれない。


「クククク……随分と嫌われたもんだぜ」

「マリアお姉ちゃん、そいつから離れてよ。ママをユーカイした人なんだよ」

「俺じゃねえ。って言ってもトキムネも信じなかったが俺じゃねえ」

「どういうこと?」


「トキムネの野郎は俺が妻をさらったと思い込んでやがるのさ。俺が吐かねえもんだから野郎領主館の襲撃を計画してやがる。……ま、なんだ、野郎が山賊を始めたのは俺をおびき出すつもりがあったんだろうぜ」


「本当にやってないの?」

「やらん。やる理由がねえとは言わねえが、やってない」

「なんだそのやりそうな返答は」

「だから疑われているんだよ」


 何となく察した。さっき言ってた故郷を出ていって子供を連れて戻ってきた女ってのがリコちゃんのママなんだろうっていう察しだ。正解だ。


「心当たりはないの?」

「あれば何もかんも洗いざらいしゃべってるさ。俺だってトゥールをさらわれたままにしておきたくない。……今頃あいつがどんな目に遭わされてるかを考えただけで吐きそうなくらいなんだぜ」


「純愛じゃん。ん~略奪愛?」

「んなのどっちでもいい。なあ、頼むからトキムネに信じさせてくれ、俺の身なんて引き裂いてもらっても構わん。だがトゥールだけは心配でならねえんだ」

「その心配は不要だぜ」


 突然の声にギョっとするとリリウスがこっちに向けて歩いてきているところであった。

 相変わらず本気で気配を消したらわかんない奴だな、と思いながら声をかける。


「元気そうじゃん」

「そっちもな」

「脱走したの? みんなは?」

「いいや、協力と引き換えに従っているだけだ。何しろ女子を人質に捕られているもんでな」


 つまりはマリアと同じ身の上だ。互いに人質を押し出しての仕事を命じられていたわけだ。


「一晩かけて領主館まで行って潜入調査を終えてきたところだ。結論から言えば領主館に山賊の奥さんはいなかった」

「いなかったんだ。じゃあやっぱり……」

「犯人はこいつじゃねえ。次男のマッシュだ」


 驚愕するオルテガである。マリア的にはあいつか!って感じだ。ちょっと前になるが町でナンパしてきたのがマッシュ・ドルドムだったのだ。


「何だと、マッシュ兄貴がどうして!?」

「奥さんは腕の良いアルテナ神官らしいな。その腕を欲している連中に売りつけるつもりらしい」

「くそっ! だがマッシュ兄貴ならやりかねねえ。その連中ってのはどこのどいつなんだ!」

「帝国革命義勇軍『青の薔薇』だ」


 こいつの調査能力高いなあって感心するマリアである。


「いまドルドムには薔薇の幹部シェルルクが集まっている。これが奴らの拠点の位置だ。今夜にもここで売り渡すつもりなんだ」


 リリウスが地図を広げる。色々と書き込まれた地図に赤いマルが付いている。元なんとか村跡地らしい。


「これが昨夜の内の村の状況だ。奥さんはどうやらこの古い遺跡に囚われているらしい」


 次の地図は村の配置図だ。遺跡跡地をベースにその周囲を囲むふうに造られた村のようだ。さらに遺跡内部の情報まである。

 こいつの調査能力が異常すぎるって驚くマリアである。ここまでやるなら助けてこいよって感じだ。


「ねえ、ここまでやるのなら助け出してこれなかったの?」

「人質を連れて逃げるのは難しかったんだ」

「ほんとぉ?」

「難しかったんだ!」


 いまものすごく嘘っぽいと思ったマリアであった。


「ここの山賊と協力すれば助け出せると思って戻ってきたんだよ。何より救出に主力を出せば手薄になったここからみんなを助けて逃げ出せるだろ!」

「理屈はわかるけど。……普段のあんたなら絶対そのまま助けてきたと思う」

「いいいいやいや! 幹部めっちゃ強そうだったから! 無理だったから!」


 慌てるところに何だか違和感。めっちゃ違和感。

 理屈は通っている。しかし理屈以外の部分に違和感がある。


「あっ、青の薔薇の幹部には懸賞金がかかっている。多額の懸賞金だ!」

「何故か知らんけどいいわけをされればされるほど違和感が強くなるんだけど?」

「たまには俺を信じてくれ!」


 何だかわからないけどとっても疑わしく思えてならないマリアなのであった。



◇◇◇◇◇◇



 今宵は月明かりのない暗黒の夜。絶好の襲撃日和りだぜ。

 古い時代の遺跡を見下ろす丘の上にいる俺らは山賊団さ。


「じゃあ青の薔薇の拠点を襲撃するイカレたメンバーを紹介するぜ! 隊長はこの男、妻を奪われた悲しき男山賊Tだ!」

「任せろ!」


「その協力者、山賊Tとは冒険者時代からの古い友達の山賊ビィー!」

「完璧な仕事をやってみせよう」


「山賊Bの頼れる奥さん、山賊Rだ!」

「ねえ、もう撃っていい? いいよね?」


 お次はどうしてお前が仕切ってんだよと言いたげなバカジョバカ男子だ。


「潜入工作はお手の物、帝国騎士団諜報部のスパイ学生ナシェカだ!」

「いえーい、元アサシンでーす!」


「D組女子のナンバーツー、隠れ剣豪のマリア!」

「なんだこのノリ」


「じつは豊国の王子様だ、アーサー君!」

「ガレリアのアサシンから救ってもらった恩があるゆえ協力する。それとリリウスには後で問い詰めたい事が山ほどあるから覚悟しておいてくれ」


 おっと茶番だとバレていそうな雰囲気があるぜ。まいったな。

 なお他の連中は置いてきた。正直この戦いにはついて来れそうもない。


 敵は革命義勇軍の六幹部、別名が六人の中ボスだ。マジな話すると現状のマリアでギリギリだと考えている。


「じゃあ最後だ、ドルドム三兄弟の末っ子オルテガ!」

「まさかお前と共闘するはめになるとはダーナの織り糸とはかくも不思議なものだ。なあトキムネ」

「かもな。オレもこんな日が来るとは思いもしなかったぜ」

「だろうな。元をたどれば身内の恥だ、マッシュ兄貴は俺に任せてもらおう」


 このイカレたメンバーに俺を合わせた八人が突入メンバーだぜ。

 作戦は当然だがGOGO突撃さ。急増チームの寄せ集めなんでこれしかないよね。

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[一言] オルテガはガチでトキムネ君嫁が好きだったのか… だからあの何話か前の回想であんなんなってたのか。 童貞…?!
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