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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
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山賊をやっつけろ!② 死闘、山賊B

 アーサー君がおねんねした。最後に血糊をどばーってやったので後の展開にも繋がるいい仕事だ。


 美少年変身魔法というトンデモねえ手品を使ってるナシェカが振り返る。イイ仕事しただろオラァンと言わんばかりの態度だが今だけは褒めてやる。でかした!


「では諸君、こういう感じでバッタバッタと倒していってもらいたい」


 振り返ればそこには山賊Tと山賊Bと山賊Rがいる。何故かついてきた山賊Fは俺と一緒に遊んでようなー、おじちゃんたちの仕事の邪魔しちゃダメだぞ。


 農民のような麻布の服に袖を通したにも関わらず、理由あって山賊まで落ちぶれた騎士っぽさが出ている山賊Bから質問があるらしい。


「オーダーは?」

「圧倒してもらいたいね。反抗する気も起きないくらいのちからの差を見せつけてやってくれ」

「心得た。LM商会での初仕事だ、完璧な仕事をやってみせる」

「任せたぜ」


 山賊Bの腕前ならぴよぴよの騎士学一年生なんざ片手でポポポイよ。

 だが一人だけ規格外な可愛い子ちゃんがいる。ドルジアの聖女サマだ。


「山賊Tには手強いのを任せたい。金髪のポニテの可愛い子ちゃんだが……」

「何だよ」

「元々の素質もあるんだが俺が鍛えている最中でな、他の連中とは比較にならないほど手強い。下手をすればそこのアルチザン家の男と同じレベルだ」

「そうかい。だがそいつは剣士なんだろう?」


 山賊Tが鞘から愛刀を半分だけ抜く。イルスローゼ時代から使い続けている長年の相棒だ。

 刃こぼれはあるし刀身にも歪みがある。大陸の鍛冶屋じゃ扱いきれなかった証だ。随分とくたびれた刀ではあるがこれは山賊Tと共に戦い抜いてきた歴戦の刀師であるのだ。


「それが剣士である以上誰が相手だろうがオレは負けねえ。まあ邪魔は入らないに越したことはねえがよ」

「ならば俺らは露払いといくか」


 山賊三人衆がザッと密林に入っていった。森人の斥候職を含む歴戦の冒険者チームだ。密林を逃げるぴよぴよひよこの追跡なんて朝飯前だろうぜ。


「ナシェカちゃんはー?」

「ここで俺とファルコとお留守番だなー」

「たい!」


 さあ茶番の開幕だ。往け、グラナイ山賊団! D組バカジョバカ男子をとっ捕まえてくるのだ!



◇◇◇◇◇◇



 密林の中を逃げるD組バカジョバカ男子の五人。必死の形相で逃げていく。

 リジーとウェルキンが怒鳴り合っている。


「まっ、町ってどっちなんだ!?」

「わかんねえ! だがわからねえ方がいい、街道に戻るのは危険だ!」


「町がわかんねえほうが危険だろ!」

「リリウスが慌てるような山賊だぞ! 来た道を戻っていったはずなのにすぐに捕捉されてアーサーが残ってんだ。これは挟み撃ちなんだよ!」


 進路に目を光らせていたマリアが口を開く。


「町を出る時点から狙われていたって考えているんだ?」

「考えたくはねえが冒険者ギルドも怪しい」

「も?」

「狙うやつは幾らでも考えられる。俺達は迷宮攻略者、人生あがりの財宝を抱えているんだぞ!」


 一陣の風が吹いた。走っている五人の背中を強い風が押す。あまりの突風に足が浮くほどの風であった。

 刹那の後、五人の前には雰囲気のある男が立ち塞がっていた。


 農民のようなチャチな麻布のシャツの内側から己の存在を主張する発達した胸筋をはじめとする筋骨隆々な男だ。とてもではないが農作業でついた筋肉ではない。

 冒険者の肉付きとも異なる。職業軍人の肉体だ。


 金髪をおろした男が鋭い眼差しを送ってきた。風となって迸る戦意がウェルキンとベルに剣を抜かせ、だが二人はなぜ自分が反射的にそうしてしまったのかわからず戸惑っている。


「そこの二人、相手をしてやる」

「女とは戦いたくないってか?」

「女だって構わず襲うさ、山賊だからな」


 山賊Bが剣を十字に払う。傍から見ている分には何の意味もない、ルーティンのような行動だ。


「騎士候補生なんだろ? なら女を守って見せろ。実力不足だの何だのという問題以前にそいつが騎士として最低限の心構えだ」

「上から来やがる。気に喰わねえ。……マリア、そいつらを連れて逃げろ」


「協力して戦った方が……」

「そういう問題じゃねえ! こいつは俺に男の在り方を問いやがった。これに応えねえで男を名乗れるかよ!」

「馬鹿だこいつ。そんな場合じゃないだろー!」

「いいや、ウェルキンに賛成だ。ここで格好つけたらモテるかもしれないしね」

「ベルまで……」

「大見得切ったからには死なないでよ。そんなん笑えないからね!」

「たりめーだ。行け」


 マリア達が走り去っていく。酷暑の密林でまったくどこを目指しているのか、何とも先行きの不明な逃避行だとウェルキンも笑えてきたらしい。

 こりゃあリリウスの言うとおりに逃げたのが間違いだったかな、そう思い始めている。


「あんた、元騎士か?」

「ただの山賊さ」

「そうかい。どこをどう道を間違えたんだか知らないが―――俺達に手を出したのは失敗だったな!」


 ウェルキンが斬りかかる。二刀流の真髄は対モンスではなく対人にあり、初撃は相手にガード行動を強制し、二撃目こそが本命であるのだ。


 だがウェルキンは二刀の真髄を発揮することができなかった。

 山賊Bが掲げた腕から放たれた突風に足を止められ、次の瞬間には痛烈な膝蹴りを顎に貰っていた。


「ぐがっ!」

「その二刀は新調したものか? まだ手に馴染んでいないようだ」


 この瞬間にベルが動く。膝蹴りを放った男を突き殺そうと動いたが一本背負いでぶん投げられてきたウェルキンの体に邪魔をされて阻止された。


「そっちは連携を弁えているが小兵だな。先頭で体を張る体力がないだけか」


 山賊Bの蹴りがウェルキンの背中を打ち、D組男子は二人まとめて地面に転がされた。

 ウェルキンが地を舐めたまま剣をぶん投げる。この奇襲はカァンと軽やかに弾き飛ばされただけに終わった。


 三者の間にあるのは圧倒的な実力差だ。何をどうしたところで通じない、圧倒的な差があるだけなのだ。


「後輩指導の気分でいたがこの程度ではな。最後だ、上の戦いを一手見せてやる。これで終わりにしよう」

「くそったれ!」


 ウェルキンが叫ぶ。

 憎々しく見上げる山賊Bが飛翔魔法を用いて空高くへとあがっていく。……かつてその身は重たい鎧甲冑によって大地に縛り付けられていた。

 先頭に立ち仲間を守るために欲した頑丈な鎧だった。強大なモンスターに対抗するために欲した頑丈な盾であった。

 だが今の彼を縛るものは何もない。


 大空を駆ける最速の一族の技を邪魔するものは何もない。風の魔法力が緑光の帯となって彼を覆っていく。その絶大なちからを見上げるウェルキンがありったけの憤怒を込めて叫んだ。


「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょおおおおお!」

「ちから無き己が腹立たしいか。よかったな、その想いがあればお前はまだ強くなれる」


 山賊Bが放つのはマクローエンの秘術エーテルストライク。逆巻く風を纏いて突撃する雑兵突破の戦技でしかないこれだが、ウェルキンとベルは高空から急降下する嵐の塊に跳ね飛ばされて気絶するしかなかった。


 マクローエンの剣の前では彼らなど所詮は雑兵でしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] バトラの活躍とか何百話振りだよってレベルwww
[一言] バトラ一家かよ!! 転職!よく騎士団許したな。
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