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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
学院入学編(入学できるとは言ってない)
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運命のフラグメント其の一

 念願の学院での生活が始まった。一か月遅れで入学したあたしにとって、一か月先に入学して授業を受けてるみんなについていくのはけっこう大変だ。……教材も自己負担だとは思わんかったわ。お父ちゃんが教材費を忘れてたせいだ……


 誰が出してくれた捜索依頼なのか分からないけど報酬の200テンペルで授業料と教材費、入寮費その他諸々を支払えた。本当に感謝してる。

 依頼主が誰かは不明だ。学院の先生かと思って学院長先生に聞いたけど学院側としてそういう依頼を出すことはないそうな。


 B組担任のマイルズ教官にも尋ねたら……


「捜索依頼を出すなら騎士団に要請する。騎士階級の家の娘とはいえ冒険者ギルドを頼ることはないよ。謂わば貴族階級の失態に準じる話だ」


「そうなんですか」

「実利を考えれば冒険者を使った方が効率的な問題でも、冒険者を使うのは恥だと考える方々も多い。特に帝国はそういう考えが根強い」


「他の国はちがうんですか?」

「他の国も大概はそうだな。大きな国ほど、貴族のちからが強いほどそういう傾向が見られる。逆に小さな国は冒険者をうまく使う。優れた冒険者には地位を与えて子飼いにするなんてのは大体は小さな国の出来事だ。レグルス・イースのような例は稀も稀、あれは絵本の中の夢物語だ」


 冒険者事情に詳しいマイルズ教官は元々他国の冒険者で、武者修行を名目に他国をぶらぶらしていた猛者らしい。

 旅の途中で知り合った変わり者の男に誘われて帝国に仕官したんだってさ。こうして面と向かってしゃべっててもわかるくらい強そうな雰囲気が出ている。位階がキニナルけどそれは教えてくれなかった。


「学費を稼ぐためとはいえ冒険者をやっていた事実は学院では伏せた方がいい。マリア君にとって良いことは何一つない」


 学院は、というよりも貴族社会は冒険者に厳しそうだ。

 先生がたの中にも冒険者や騎士候家を軽く見る人は多いそうだ。


「何かあれば私かパインツ主任を頼るといい」

「パインツ主任って……あのドワーフの先生ですか?」

「故郷の村では問題がなくてもこうした場で種族の話をするのはやめた方がいい。そしてこのような意識の違いが大きな問題に発展するのも学院という場所だ。口は災いの素とは言うが種族・信仰・縁故関係、これらを話題にする時は慎重に他者に倣うといい」


「難しそうですね」

「それが貴族社会というものだ。私も苦労した分教えられる教訓は多いはずだ」


 困ったらマイルズ教官を頼ろう。よし覚えた。


 しかし授業についていくのは大変で、みんなが一か月かけて覚えたことを詰め込みながら覚えていく。午前授業が終わる頃には甘いものが欲しくなるぜ……


 さっそく友達が三人もできた!

 同室のナシェカの友達のエリンとリジーだ。


 エリンは濃い目のブラウンカラーの髪をショートボブに切りそろえた大人びた子だ。おない年よりも先輩に見える感じだけどしゃべってみると年相応でギャップが面白い。あと普通に面白い。人格的な意味で面白い。


 リジーは派手な格好をした子で、見た目が二つ三つ下に見える程度には幼い。あと性格も幼い。わがままばっか言ってナシェカに切れ味鋭いツッコミを入れられて怒鳴り返してる姿ばかりを見る。

 容姿は可愛い。八重歯も可愛い。制服を着崩してアクセサリーをジャラジャラ付けたリジーと清楚キレイ系のナシェカが歩いてると男子の視線が熱量を感じるほどに集まってるのがわかる。あたしも見ろ。学院の男子も目が腐ってんのか?


 午前の授業が終わると学食に直行だ。二年や三年には指定席なる文化が存在して学食は常に混雑している。一年はトレイを持って芝生やベンチで食べる感じだ。

 薔薇園の方にあるお洒落なカフェは上級貴族の社交場と化しているのであたし達に出入りできる場所じゃねえ。


 学食には限定メニューがあるので四限終わりは戦争だ。ダッシュ大会だ。こういう時に頼れるのがナシェカだ!


「いっけえリジーミサイル!」

「あきゃああああああああああああああああああ!?」


 十二時になった瞬間に学食の方向へと向けてリジーをぶん投げるナシェカ素敵!

 おかげで限定メニューのミルククラウンパンがゲットできる。何度見てもこの光景に慣れないエリンがどん引きしてる。


「なあマリア、毎回思ってんだけどミサイルって何なん?」

「遠距離攻撃用のランチャーの亜種でしょ」

「そうだよ」

「知ってんのかよ。常識なのかよ。わたしが知らないだけなのか……」


 迷宮アタックではよく使ってたし冒険者用語なのかもしれない。 


 空に浮かぶ雲みたいに柔らかくて甘いミルククラウンパンは銅貨10枚だ。冷たい紅茶とサラダ付きでだ。ラティルトの物価ほんとに外道。


「マリアの財布って年代物だな。先祖代々的なアイテムなんか?」

「ううん、あたしの会いたい人のお財布なの」

「?」


 すり切れても直して大切に使ってきたと思われる200枚の金貨の入った革袋にはLMのイニシャルが縫われている。たぶんあたしを探してくれていた人の名前だと思う。


 その人も学院にいるんだろうか?

 会ったらお礼を言いたいし、どうして探してくれていたのかも聞きたい。ロマンチックな理由だったら最高だ。


「これはあたしの王子様のお財布なの」

「……そう」

「へ~~~~、そう」


 後日、あたしのことをネコババ令嬢って言ったやつがいるらしい! 変な噂が広まってた!

 犯人は誰だ! ナシェカぁあああああ!

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