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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
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山賊をやっつけろ!①

指名依頼『山賊団をやっつけろ』

 ドルドムント近郊に凶暴な山賊団が出没中。冷酷非道で無慈悲な山賊団の手によって財産を奪われた行商人は数知れず、このままではドルドムントは干上がってしまう。

 生活物資の多くを輸入に頼っている弊市にとって街道の安全は死活問題なのですぐに解決してもらいたい。

                     報酬額200ヘックス銀貨



 翌朝。山賊退治に向かう最中、馬車の荷台でウェルキンたちがグチグチ言っている。ダラケムードっていうか燃え尽き症候群っぽい感じだ。


「あ~あ、迷宮のあとは山賊退治かよ。忙しいヴァカンスだぜ」

「そう言わないの。困ってる人を見捨てられないよ」

「いい子ちゃんぶるなよベル。困ってる人をどうにかすんのはここの冒険者と男爵家の義務だろうが、どうして余所者の俺らが出張る必要があるよ」


「ナシェカ、困ってる人を見捨てる男ってどう思う?」

「クズ」

「だよね! 俺もそう思ってたんだ!」


 一瞬で山賊退治する側に回るウェルキンの調子のよさには脱帽するぜ。嫌いじゃない、この調子のよさだけは嫌いじゃない。

 しかし女子から見たらナンダこいつって感じらしい。


「デスきょの姉御、あいつマジのクズですぜ」

「ウェルキンはもうウェルキンという名称のクズ男だから」

「せっかく見直したのに勝手に自爆していく……」


 もうあいつの期待するのやめようぜ、とは言わないがな。


 山賊退治の作戦はこうだ。村人に変装した俺とナシェカが荷馬車を操っての囮役。山賊が出てきたら荷台に積み込んだ藁束の下に隠れたウェルキンたちが出てきて迎撃っていう古来から使われてきた古典的な山賊釣りだ。


 ジョン? いなかったから置いてきたよ。宿の主人の話じゃいつも餌の時間になると戻ってくるのに昨夜からは戻ってきてないそうだ。どっかでエロい雌犬でも見つけたんだろ。


「はいはい荷物が騒ぐなー、大人しくしてないと山賊が出てこないよ」

「お前ら、ナシェカちゃんの仰せのままにしろよ!」


 みんながピタリと黙る。でもリジーちゃんがぼそっと言う。


「一番うっせーのはウェルキンだろー」

「悪かったな。ちくしょう、どうして俺が荷物役でリリウスが御者なんだよ。俺の方が村人っぽいだろ」

「それは確かに」

「わかる。赤モッチョを見たら普通の人なら逃げるって」

「だから騒ぐなってのー」


 いやぁみんな元気だね。注意されたくらいじゃ大人しくしねえんだ。世の校長先生の苦労が偲ばれるぜ。


 街道をのんびり馬車で行く。たまに倒木があったり、穴に車輪をとられたりするけどのんびりしたもんだ。俺こういう旅も好きだぜ。のんびり流れていく景色を眺めながら次の町を思い浮かべる時間って楽しいんだ。


 こういう話をするとナシェカもわかってくれた。


「いいよねえ、こういう旅」

「わかる。なんか普通の人っぽいよな」

「普通がいいよねえ」

「異常者どもがなんか言ってる」

「荷物がしゃべるなー」

「理不尽だ。ここ暑いんだよ、今からあたしも村人役になりたーい」

 って言ったマリアが一瞬黙り込み……


「来たね」


 山賊の気配を察知した。早いな。藁の下に隠れながらこれを察知できるのか。

 随分と遠いが射手がいる。距離にして200m前後ってところだがよくわかるな。


「弓を引き絞る音が一つ。すごくいい音、たぶん妖精弓だ」

「へっ、おびき出されて出てきやがったか。出るか?」


 ウェルキンがそう言ったが制止する。


「焦るな。前方約200m前後だぞ、いま出れば逃げられるだけだ」

「マリアの耳はどうなってんだよ……」


 ほんとそれ。マリアの五感の鋭さは異常だ。


「リリウス、変に態度に出して悟られるんじゃねーぞ」

「誰に言ってやがる」

「いやお前態度に出るから」

「うん、超出やすいから言ってるの」

「マジかよ……」


 なるべく平素を装いながら手綱を握り締める。

 あれ? 気のせいか風の魔法力が集まっているような……? やっべえ!


「散開! さんかーい! でっけえのをぶち込む気だ、みんな森に飛び込めー!」


 間に合いそうもないので荷馬車を掴んで街道脇にぶん投げる!


 嵐の矢が放たれた。威嚇するように直上を駆け抜けていったストームブリンガーが絶大な威力を見せつけるかのように轟音を奏でていく。今のが直撃したら何人か死んでたぞ!?


「呆然とすんな! 俺とナシェカで迎撃する、お前らは町に逃げ込め! 早く!」

「あたしも戦う!」

「あれが威嚇だってこともわからないマリアじゃないだろ!」


 背後のマリアがどんな顔をしているのかはわからない。だが傷つけてしまった気がする。


「強敵なんだ! 俺達で足止めをする、リジーとエリンを守って逃げてくれ!」


 遥か彼方の大樹の枝先で、そこに小鳥のように立つ森人が嵐の矢を番える姿が見える。

 間違いなく強敵だ。茂みを掻き分けていく音が遠ざかっていく。それでいい。……後はうまくやってくれよと祈るのみだ。



◇◇◇◇◇◇



 密林を駆け抜けるD組メンバーは必死の形相で走っている。背後から聞こえてくる激闘の余波は時に強く背を押す追い風となり、振り返れば大量の土砂が地面から舞い上がる光景が見えた。

 幾つもの竜巻が吹き荒れている。幾多の木々をなぎ倒して空へと巻き上げる異様な光景が、彼らの脚をさらに早めていた。


「なんだあれ!? リリウスは何と戦ってるんだ!?」

「わかんない! わかんないけどぉ!」

「うひゃー、なんだあの竜巻は。最近の山賊はあんなんなのかよ……」

「あの二人だ、万が一ということもないのだろうが……」


 と口にしたアーサーが足を止める。

 背後の木立を見つめたまま動かず、じっとりと額を汗で濡らしている。


「どうしたの?」

「先に行け、僕も後から追いつく」

「そこに敵がいるのか?」

「いいから行け! 君達の敵う相手ではない!」


 足を止めてしまった足手まといどもを一喝して先に行かせる。


 彼らの背が見えなくなった頃になってようやく木立の陰から刺客が現れた。魅力的に跳ねた巻き毛の金髪と少女のようにほっそりした顔立ち。服装こそ何の変哲もない庶民の麻布であるが、見れば見るほどにアーサーの心がざわめいていく。……この少年には気配が存在しない。


 体温が存在しない。呼吸が存在しない。生命の息吹を感じない。

 美しい少年の姿をした器物、と呼ぶ他にない。


「何者か聞いてもいいかな?」

「……」

「どうして僕らを襲う。依頼主はだれだ?」

「……」


 器物めいた少年が逆手に握った殺人ナイフを掲げる。

 その刹那にアーサーが感じたイメージは己の死だ。……磨き抜かれた刀身に写り込む己の表情は怯えていた。


「何者…か? 当ててみなよ」

「殺人教団ガレリア」

「正解」


 暗殺者が初めて人間らしい表情を浮かべた。

 今夜のおかずにするためにニワトリを扼殺する子供のような、嫌で嫌で仕方ないといった顔だ。


「アーサー=アルトリウス・アルチザン王子殿下、依頼主には本当に心当たりがないので?」


「……クレルモン家か?」

「貴方は帝都を出るべきではなかった。フィア・ラストの傍を離れるべきではなかった。ではさようなら、お可哀想な王子様」


 アーサーが会話の間に用意した必殺の魔法を放とうとした。

 だが干渉結界が彼の魔法を消し去ってしまい、この動揺の中で意識が遠のいていった。


「なに…が……?」

「殿下は僕らが何者かをご存じだったはずです。僕らはアサシン、毒の専門家です」


 アーサーを昏倒させるのは揮発性の麻酔薬。地面に仕掛け、極まるまでに時間はかかるが、会話の間に必殺魔法の詠唱を終えようとしたアーサーだから引っ掛かった。


 アーサー=アルトリウス・アルチザンは強力な魔法剣士だがコンプレックスを抱えており、強敵に対しては剣術技能ではなく魔法を頼る。

 データさえ揃っていれば罠に嵌めるなど簡単だ。ガレリアの保有する膨大な殺しの手口その一つがうまく嵌った。それだけだ。


 昏睡に落ちていくアーサーの首に、殺人ナイフが振り下ろされる。

 血しぶきは薔薇のように真っ赤に美しく。




ガレリアのキリングドール

 プラントで生産される命無き兵隊。

 ガレリアの子供のアサシンはどこにでもいる。その暗がりにも、あなたの背後にも。

 殺害の刃から逃れるすべはない。


 至高神アル・クライシェの加護を受ける娘達。誰も知らぬその祈りは唯一人彼女の愛した男へと捧ぐ。

 ―――寂しがらないで、わたしはいつもあなたの傍にいる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] モッチョって何? [一言] 原作と違ってガレリアがガチ参戦で難易度あがってるなぁ… しかしアーサーは姉と違って物理!じゃなくて魔法!なんですね。
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