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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
156/362

LM観光で観光⑥ 勝利の女神

 強くなる方法は大まかに分けて三つある。


 ①普通に鍛える 鍛えた肉体と技は己を裏切らない、一番おすすめの方法だが時間が掛かる。すごく掛かる。大変だ。


 ②強い装備を手に入れる お金を積んで強い装備を手に入れれば簡単に強くなれる。当然だが商品が手元に届いた瞬間に強くなれるのでおすすめだ。とはいえ地力が低い状態でこういう物に頼るのは日本人的な感性からしてどうなんだ?とは思うが効果だけは否定できない。

 貴族が強いのはこの方法が簡単に使えるからだ。神々の加護を引き継ぎやすい血脈とか色々な要素があるけどスキルや加護と同じでお金も強いちからの一つなんだよ。


 ③グロウアップ/ブーストポーションの服用 レベルを上げて物理で殴れという格言があるようにこれも大変優秀な方法だ。欠点としては②よりも費用が掛かる上に効果はコツコツ魔物を倒していっても代用できるので、資金力によほどの余裕がある人じゃないとおすすめはできない。


 今回エリンちゃんに施した強化は②と③だ。

 見てくれよ、この『目覚めてしまったぜ……』と言わんばかりの傲慢な顔つきを。借り物の魔法の腕輪の位置を直す仕草一つとっても『やれやれ本当は戦いたくないんだがな』と言わんばかりの態度でありながら本当は成果を見せたくてうずうずしているんだ。

 完全に調子こいてるぜ。完全にフラグの空気が出ているんで自信満々だった俺まで不安になってきたぜ。


 魔獣でうじゃうじゃの魔獣コロシアムを崖の上から見下ろすエリンちゃんがバッと腕を掲げる。……特に意味もある行動ではなさそうだ。

 袖をバサッと言わせたかっただけかもしれない。


「手を出すな、五分で終わらせる」


 エリンちゃんの豹変にみんなが恐れ戦いて一歩退いてるぜ。

 わかるぜ、今朝からニヤニヤしててキモかったもんな。おいおいこいつらまだ・・・・こんなレベルにいるのかよと言わんばかりの態度だったもんな。最高に調子こいてる時の俺でもここまでのムカつき加減じゃねーぞ。


「掃討する! フレイムスプレッド!」


 エリンちゃんの右腕から噴出した燃焼する炎の液がコロシアムを火の海へと変えていく。

 触れたら燃える粘性液体だ。モンスどもがパニクって一斉に駆け上がってくるぜ。慌てるなよー、慌てるとミスるぞー。


「≪その生命を収奪する 死の風を彼方に、我は死の風の繰り手なり 偉大なる冥府の王の眼からは逃れられぬ 王の眼よ開け≫」


 エリンちゃんの魔眼が発動する。対象は視界にいるすべて。

 迷宮モンスは正しい命の理にいるものではなく魔法力によって生み出された模造品にすぎないが冥府の王の眼は魔法力をも奪い去る。


 谷底から駆けあがってくるモンスどもの足が鈍った。決め時だ。


「終まいだ、チェインライトニング!」


 腕輪から発した無数の稲光がバリバリと凶悪な雄たけびをあげて面制圧する。ただまぁ電気の特性からして貫通はしねえから戦闘集団を焼き転がしただけだ。……チェインの特性が発現しなかったってことは術者の魔法力が足りなかったな。

 まだ終わってないぞ、気を抜くなよ!


「あれれ……?」

「あれれじゃねーよ、外の雑魚と一緒に考えるな。もう一回死眼だ!」

「まっ、待って! そう何度も打てる技じゃないんだってば!」


 訓練次第じゃできるんだよ。できないのはデスの加護の鍛錬を怠ってきたツケだ。……まぁ初回にしてはよくやった方か。


 この後はみんなで迎撃したった。事前にそこそこのダメージを与えておいたとはいえ第六層のモンスだからしぶとかった。

 みんなで剣を手に取りワーワー言いながら迎撃した。


 その後は怒れるみんなからの事情聴取タイムが待っていて、エリンちゃんと俺だけ正座させられている。


「悪いのは筋肉なんだ。これを使いこなせればどんな迷宮も楽勝だって言うから!」

「まさか魔力が足りなくて想定されていた威力が出ないとはこの俺の目を以てしても……」

「私のせいにするつもりか!?」

「はいはい、不毛な争いはすんな。昨日一日どっかに行ってたと思ったらこんな小ネタを仕込んでいたのか」


 小ネタて。まぁ効果は小ネタ止まりどころか無駄に魔物を怒らせただけになったが。

 ナシェカがエリンちゃんの頭を優しく抱きいれる。


「わかるよ、焦っちゃっただけなんだよね」

「うううぅぅぅぅ……ナシェカぁ」


「エリンは悪くないよ。同じ出来ない子だと思ってたリジーより出来ないから焦って悪魔の手を取っちゃっただけなんだよね。悩んでたんだよね。気づいてあげられなくてごめんね」

「どうしてナシェカが謝るんだよぅ。悪いのはわたしじゃんか」


 今度はマリアが肩に触れる。


「ううん、誰も悪くなんてないよ。ちょっと背伸びしてちょこっと失敗しただけじゃん。悩んでたのにあたしも気づいてあげられなくてごめん」

「マリアまで。……ちくしょう、みんな優しすぎるよ」


「エリン元気出せよー。大丈夫だってみんな怒ってなんかないよ。なあ?」

「おう、別にこの程度で怒ってたらリリウスなんて百回は死刑台に吊るされてるぜ。つか俺もたまにやらかすしお互い様だろ」

「だよね。このくらいのやらかしはウェルキンで慣れてるよ」

「失敗は誰にでもある。そしてキミにはミスを補ってくれる大切な友人がいる。次からはそこの赤いのじゃなくて僕らに相談してくれ」

「アーサー様まで……」


 温かい人の輪が生まれた。気のせいかその輪に俺だけが含まれていない気がするぅ。

 掃き溜めって言葉があるけどもしかしてそれかな?


「おい赤モッチョ。エリンに変なこと教えんなよ」

「最高クラスの魔法具と戦法を与えたのにひでー扱いだぜ。仕方ない、次の層で本物のチェイン・ライトニングを見せてやるよ」


 エリンちゃんと同じ腕輪を装備して次の層へと歩く間もずっとチャージする。十五分チャージにチャージを重ねて増幅したチェインライトニングを七層のコロシアムに放って全滅させたった。


 アシェラの秘術チェイン・ライトニング。連鎖する怒れる神の大槌を浴びた者は体内の魔力を勝手に使われて連鎖するいかづちを複製する工場に変えられてしまう。

 単純に純粋な雷撃ダメージに加えて高電圧によるスタン。詠唱阻害。その他諸々のバッドステータス付きのえげつない術法だ。何がえげつないって強力な一個体ではなく軍団を相手に真の威力を発揮するこの術法の本当の使い方は一発放てば自動的に複製される雷撃が四方に伸びていき軍隊をも葬るのさ。

 ハイザヴェールの神雷という神話で砂の国の軍団を滅ぼしたのがこの魔法なんだ。


 まぁそこまでの威力を出せるのはアシェラ神くらいのものだろうが俺でもこの程度はできるってわけだ。


「な? 簡単だろ?」

「キミの一番良くないところはそういうところだ」


 アーサー君からぼそっと文句を言われつつも迷宮攻略は進んでいく。

 再び戻ってきたドルドム迷宮第十一層。暗闇に包まれた天井に潜む毒牙に怯えながら進まなければいけない魔の神殿をどう攻略するのか? これが問題だ。

 まさか無策で戻ってきたわけじゃないと思うが……


 先頭を歩いていたアーサー君が振り返り、勇ましい態度で言う。


「ここに来るまでの間にドロップした魔石や他の冒険者の遺骸から回収した金品で十分すぎるほどの成果が出ている。ここでとんぼ帰りしたって戦果は充分だ。それでもいくか?」

「攻略者になろうってほどの意気込みはないけどここを越えずに帰ったらもやもやしそうだし、あたしは行きたい」


 マリアがそう返し、みんな頷いている。

 こないだまでリーダー風吹かせていたウェルキンだが今回は大人しい。アーサー君の方がリーダーに相応しいとようやく気づいたのか分際を弁えたのか。


「じゃあ行こう。目標は十一層の踏破。これでいいな?」

「うん、そうしよう!」


 アーサー君がモンスターにも悟られるのを覚悟で魔力探査を解き放つ。


 俺なら裸眼でも見える距離だが常人には厳しい距離だし何よりこの暗さだ。だが魔力視野で見えてしまったから慄くのもわかる。

 天井や壁にはたくさんの蛇が這いまわっている。こいつらが魔力探査の刺激に引き寄せられるふうにうじゃうじゃと入り口付近の天井へと集まってくる。

 廊下からもだ。床をするすると這う蛇どもが暗闇の向こうから顔を出している。

 やべえな、階層中の蛇が集まってくるぞ。多すぎて数えきれないぜ。


「この数は……」

「すごい、ものすごく大きな気配が近づいてくる……」

「やべーって。これはやべーって……」


 そこにパンパン鳴り響くナシェカの手を叩く音である。


「はいはい、呑まれている場合じゃないよー。じゃあ倒そっか」

「やっぱり帰らない?」

「マリアってば普段のクソ度胸はどこにやったの? この程度のモンスなんて次元迷宮と比べれば楽勝じゃん」


「あそこは見通しがよかったしぃ、頭の上を気にしなくてよかったもん……」

「じゃあ降ってくるやつはナシェカちゃんに任せな。マリアは地面の蛇だけに集中。どう、いけそう?」

「……いけるかも」


 ナシェカがにっこり微笑むとつられてマリアも笑顔になった。積み重ねてきた信頼だけが呼び起こす戦意高揚なのだろう。

 続いて複数の発光魔法球を飛ばして闇を暴き、潜んでいた蛇どもを明らかにした。


「ふぁっきんがいず! 頭上の警戒は全部ナシェカちゃんにお任せしろ! てめえらの仕事は横列一枚でずんずん前進すること! 赤モッチョはやばいところのフォロー!」

「へいへい、フォローは任せろ」


「上を一人でカバーするつもりなのか。とんでもない数だが……」

「しゃらっぷ!」


 必殺のナシェカつんつんがアーサー君の額に炸裂する。

 痛いというか戸惑いって感じの反応だ。


「エストカント市帰りのナシェカちゃんは無敵なんだぜ? 1000億PLの女の実力を見せてあげるよ!」


 ナシェカがトランスフォーム! ……どうしてラザイエフ社は変身バンクを仕込んだんだ。俺の金で好き放題やりやがって。


 変身を終えたナシェカは黒髪を青みがかった白髪に変え、やけに肌面積の多いボディスーツ姿になっていた。

 だが何よりも目を惹くのは両腕に装着したでかいガトリングガンと、肩に備えた巨大砲だ。自信喪失してたウェルキンが一瞬で息を吹き返している!


「すげえよ、ナシェカちゃんマジ美しいよ! 女神だ!」

「私に見惚れて蛇に噛まれんなよー。じゃあ作戦開始だー!」


 前衛剣士部隊ことウェルキン、マリア、アーサー、ベル、リジーの五人が階段場から飛び出してアナコンダへと斬りかかる。


「うわー、強そー」

「てめえらは確かに強いがッ、一対一に持ち込めればぁあああ!」

「足並みを乱すなウェルキン!」

「そうそう仲間を頼りなってね!」

「そうだ、俺にはナシェカちゃんが付いている!」

「あー、もう! やけくそだ、やってやるぞー!」


 あのアナコンダどもは確かに硬いがこちとら聖銀装備だ。天下のイース海運サマで売ってる装備だぜ、これで斬れなかったらサポート窓口に文句言ってやる。


 前衛剣士部隊が地を這う蛇どもを相手に前線を押し上げる。

 頭上から降ってくる蛇は地上に落ちる前にナシェカのビームガトリングがひき肉に変えている。……星座の神殿とはよく言ったもんだぜ。

 天を覆う星々のごとく大量の蛇どもが潜む天井を見上げれば真っ赤な眼が無数にあるんだからよ。


 だがナシェカは降下する蛇どもを漏らすことなく撃ち砕き続けた。たまにお腹を開いてマルチターゲットビームを放ってるのはマジで人間辞めてる。この制圧能力は明らかに俺を凌駕しているな。


 これはいけるのでは、と思った瞬間だ。曲がり角の向こうから大物の気配がする。気配が近づいてくる。


 やがて曲がり角からヒドラのような巨大な蛇が顔を出した。


「慌てんなよー、デカブツもナシェカちゃんにお任せだー! アキネイオンバスター・シュート!」


 肩に装着した巨大砲が真っ青なプラズマ榴弾砲を射出。山なりの曲線を描いて放たれた榴弾砲がヒドラ級に直撃。頭部をべっこりと破壊して倒しちまったぜ。

 明らかにオーバーキルすぎる。直撃と同時に四散した高電圧プラズマがアナコンダどもを巻き込んで焼き焦がしてやがる。


「進めー、野郎ども、ナシェカちゃんの道を舗装しろー!」

「うおおおお! ナシェカちゃんのために!」

「ナシェカのご命令だ、蹴散らせー!」


 こんな感じで割合あっさりと十一層を踏破した俺らは勢いに任せて十二層に突っ込んだ。さっきの階層のリプレイ動画を見ているような気分であっさりと十二層も踏破。


 恐ろしい強さだ。適正レベル50程度の迷宮をレベル450くらいのやつが練り歩いているようなものだ。

 古代魔法王国の軍需産業が掲げるハイスペック兵装だ。マジな話現代で使っていいレベルの武器ではない。剣と盾で肉弾戦やってる野蛮な現代文明にガンダムを放り込んだようなもんだぞ。


 留まることを知らないナシェカフィーバーにみんなが沸きに沸いている。1000億PLの女の名は伊達ではないな。

 ちょっと進言しておこう。


「なあ、レベル上げが目的なんだけど大丈夫?」

「へーきへーき。だってナシェカちゃんには魂や種族紋章なんて概念はないもん。リリースドエナジーもいい感じに分かれてると思うよ」


 パワーレベリングの神かよ。ナシェカがどんなに暴れても経験値は他の連中に分配されるってか。こいつの存在が便利すぎて怖いぜ。


「それにさ、強さはレベルがすべてじゃないよ。ここってみんなからしたらかなり危険な場所なんだよ。そんな場所で戦った経験が無駄なわけがないじゃん」

「それは……」


 そうだろうな。このアナコンダどもはマリアやアーサー、ナシェカならともかく他の連中の地力では勝ちえない強敵だ。

 背伸びした装備を使おうと死の危険の中でアナコンダどもと戦った経験が無駄であるはずがない。レベルアップなんてこの価値と比べたら些細な問題なのかもしれないな。


「だからナシェカちゃんから言えることは一つ。みんなをもう少し信じてあげて。リリウスがヘタクソな演技して導かなくてもきちんと強くなるからさ」


 すごくいいこと言ってるふうに聞こえて、ディスりが耳に痛いぜ。


「だがこの後には強敵が待ち構えているんだ」

「それをどーしてみんなにやらせるのさ。あんたと私がやればいい、そうでしょ? それがダメだってんなら納得できる理由を聞かせてよ」

「……」

「みんなを危険に放り込む理由さえ説明できないのなら協力はできない。だってさ、私はもうマリアもエリンもリジーも好きになってるもん」


「お前から見れば俺はひどい男だよな。わかった、迷宮を出たら全部話す」

「それってここで死ぬやつが言いそうなセリフだよね」

「ばぁーか、俺ほどのフラグ踏み倒しマンはそうそういねえぜ」


 破竹の勢いで突き進む迷宮潜は十四層を踏破し、残すは最下層のみとなった。

 最下層を臨む階段の入り口で、休憩がてら鍋を突きながら話し合いをしている。第一議題は俺から放り込む。


「もう一度聞いておくが攻略はしないんだな?」

「しない」


 アーサー君が汁をすすりながら断言する。

 迷宮攻略者という莫大な富を前にして迷いなく言い切れる男は少ないがアーサー君はこの少ない事例に沿う男であるのだ。

 見ろよウェルキンとベル君のそわそわした顔を。ワンチャンあるって思ってるよな。


「無論キミが一人で挑むのを止めるつもりはない。……実際どうなんだ、キミなら迷宮の守護者を倒せるのか?」

「楽勝だけど」

「楽勝なのか……」


 豊国のMAP兵器の災禍を鎮圧したのを誰だと思ってるんだ。世界広しといえど俺ほどの迷宮専門家はいねえぜ。


 LM商会は迷宮コンサルタント業務もやってる。迷宮都市と契約を結んでアシェラ信徒を派遣し、暴走の予兆を見つけ次第コアをお仕置きする仕事だ。

 フルオプション契約なら年間2000ABドルだ。このABドルってのはアーバックスが発行する紙幣なんだが価値はイルスローゼのユーベルと等価だ。


 コンサルタント業務を広める際にナルシスがひどい手を連発したおかげで今じゃあ二百近い迷宮都市と契約を結んでいる。つまり何も起こらなければ年間40万ユーベルの不労所得を産むわけだ。……うううぅぅ追い出したいのに優秀すぎてナルシスを追い出せない。

 LM商会の大きなプロジェクトのほとんどはナルシス発だからな。


 色々と話し合う。アーサー君からの真剣な質問が多いのは迷宮の守護者にまつわる大げさな噂話が恐怖心を植え付けているからだろう。


「迷宮の守護者が怖いか?」

「怖いさ。魔法が通じない、戦技が意味を為さない、聞けば聞くほど戦いたいとは思えなくなる噂ばかりだ」


「その噂を撒いたやつが本当に守護者と戦ったことがあるかは不明だが一部は正しいと言っておく」

「一部なのか?」

「魔法が通じないと考えたのはそいつの実力不足からくるものだ。魔法抵抗力を打ち破るだけの実力がなかっただけだろ。戦技にしても同様だ。物理耐性を持っている守護者にかち合ったんだろうな」


 理路整然と事実を並べていく。

 迷宮の守護者には大きな迷信が宿っている。一つ一つの噂は本当かもしれないが全てに対応した無敵の守護者なんて、いないことはねえが極々稀な存在なのさ。


「弱点は無い。だが耐性には隙がある。そこを突ければただの強いモンスターでしかないさ。たしかマリアもラティルトで守護者を倒しているんだよな?」

「う~~~ん、とんでもなく強いのは確かだったな。倒したって言っても大勢の仲間とだしこの人数じゃあ負けてたと思うよ」


 これは弱気な発言ではなかった。

 だってドルジアの聖女の眼はキラキラとした戦意に燃えている。


「あの頃のあたしは今よりもずっと弱かったからね。今のあたしのちからを試してみたい、そういう気持ちはあるんだ」

「ベルゼルガーだ……」

「ベルゼルガーだよね」

「もうマリアの二つ名にしちまおうぜベルゼルガー」


「狂戦士呼ばわりはやめてってば。つかリリウスとナシェカにだけは言われたくないんだけど!」

「いやいや俺は愛と勇気の荷物持ちなんで」

「ナシェカちゃんも愛と平和の使者だしぃ~」


 おや、どうしたんだいみんな。嘘つきを見るような目をして。


 だが決まったな。最下層に往き、迷宮を攻略する。ドルドム迷宮の思い出をこれで締めくくろう。


「作戦はどうする?」

「ナシェカちゃんが一発でかいのをぶちかますから怯んだところを一斉攻撃かな?」

「ナシェカぁ、作戦が狂戦士になってるよ」

「いや、ナシェカちゃんの作戦なら勝つに決まっている。俺も乗ったぜ」


 メシ休憩を終えてから最下層を目指して階段を降り始める。

 ナシェカが巨大な砲を両手で構えている。


「チャージ完了次第最下層に降りるよ。先制攻撃はお任せだぜ」

「重粒子サークルブラスターかよ。マジで迷宮が崩落しそうな武器じゃん」


 ウェルキンが噛みついてくる。


「おい、迷宮は頑丈だから崩落の危険はねえって言ったのお前だろ」

「いや、これそういうランクの武器じゃないんで。直撃したらドラゴンの頭だって吹き飛ばす超破壊兵器なんで」

「マジかよ、ナシェカちゃんはどうしてこんなにも美しくて強くて美しいのか……」


 ウェルキンよ、哲学っぽくアホ言うんじゃねえよ。噴き出しかけただろ。


 最下層に降りる。

 朽ちた石柱が整然と並ぶ神殿は空だった。……おかしいな。


「以前はあそこらへんにでかいのが丸まっていたんだがな」

「奥に行っただけだろ」


 かもしれないし、そうではないかもしれない。

 だが迷宮で違和感を覚えたなら最悪の想定をするべきだ。迷宮は狡猾なマンハンターだ、油断だけはしてはならない。


「俺が飛び出して様子を見る。だから女子は応援よろしく!」


 そして始まる人柱連呼である。

 くそぅ、熱い生贄扱いを受けながら囮役いきまーす!


 階段から出ていく。最下層のひんやりと空気からゾーンの切り替わりを感じるぜ。……上か。


 直上からの落下物をダッシュで回避する。階段のすぐ上、壁で隠れて見えないところに潜んでいた守護者が落ちてきたのだ。

 階層を揺るがす激震も一瞬のこと。怪獣級の巨体に八本の脚を持つ蛇がキモい足捌きで追ってきたぜ。


「おっ、早いな」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」


 守護者の怪獣が咆哮。鼓膜が破れそうな大音響と共に尻尾をどかんどかん暴れさせながら突進してくる。……だがまぁ俺に追いつけるほどではない。


 反転、迎撃に移る!


「リベンジマッチだ、さあやろうぜ!」


 この巨体にこの圧力。並みの攻撃で止められる怪物ではない。

 となれば全力でいくだけだ。


「マリア!」

「へ?」

「見せてやるよ、武器を振り抜くという動作から無駄を極限まで削ぎ落し、威力を高めるという努力を惜しみなく注ぎ込んだ究極の一刀ってやつをな」


 大顎を開いて噛みつきに来る怪獣。空渡りで軌道を調整してすれ違い様に放つ技はスマッシュだが―――

 こいつは紛れもなく俺がたどり着いた極点の一つだ。


「ビクティム・スマッシュ!」


 振り抜いた大戦斧が怪獣の大牙を華麗に両断する。

 すれ違っていく怪獣が尻尾による打撃を繰り出すも華麗に回避。さあいけるだろ、ナシェカ、そいつをぶっ放せ!


「シュート!」


 この瞬間、俺の強化知覚を以てしても捉えきれない亜光速の砲撃が怪獣を貫いていった。

 一撃で頭部を切断したブラスターが刹那の間のみ恐るべき射程を誇るソードと化す。加速機構内で光速まで加速した重粒子を使い切るまでの人間の知覚では刹那と呼ぶが相応しい閃光の時間内に、機械生命体だけに可能な超精密可動で怪獣をバラバラに切り刻む。


 俺からしても僅かな時間だったが、ウェルキンのような常人からすれば何も見えなかったに違いない。


 その刹那に怪獣がバラバラの死体と化し、最下層に転がっていった。


「え……?」

「何が…起きた? 何をやった?」


 戸惑う者どもが一斉に勝利の女神を仰ぎ見る。そして憎たらしい笑みを浮かべる女神ちゃんが二本指を掲げてピースサインだ。


「ナシェカちゃんは勝利の女神なのさ。ぶい!」


 歓声が巻き起こり、これがあっさり風味な守護者戦の終了を告げるものであった。

 正味48秒とはな。迷宮守護者戦の世界レコードだろこれ。そんな記録付けてるやつがいるとは思えないけど。



◇◇◇◇◇◇



 迷宮の守護者の死体が光の粒子となって解けていく。

 守護者の死体から剥がれ落ちた膨大なリリースドエナジーはリバイブエナジーと呼んでもいい密度だ。


 爆発するみたいに溢れ出した光の中で、これらからしたらほんの僅かな量を用いて奇跡がおたからを生み出す。

 死体のあった場所に新たに生まれたのは鞘に納まった刀だ。ナンデ東方刀?


 守護者ドロップに浮かれる連中がやってきて刀を話題にわいわいやってるのを余所に、俺は迷宮コアを探す。

 迷宮のコアからは良質なリバイブエナジーが大量に手に入るから俺のような亜神にとっては貯金箱みたいなものだ。


「おーい、リリウスぅ! ドロップ品だよドロップ品!」

「俺は興味ねえからそっちで勝手に分配してくれ。使うも金に換えるも好きにしろよ!」

「いいのか!?」


 みんなが大喜びだぜ。クケケケ、真に価値ある物が何かも知らずによぉ。

 リブは神々のお金だ。こいつなら神々から神器が買えるんだよぉ←


 俺は走った。みんなに黙ってリブをネコババするために走ったのである。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] グロウアップ/ブーストポーションとかでお手軽(要金)レベルアップしますけど、 この世界って時間経過(老いとか)でレベル下がるんでしたっけ? なんか前作で維持に金かかって大変とかあったよ…
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