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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
154/362

LM観光で観光だ④ ドルドム迷宮

 ドルドムの日はまだ高いが確実に夕方に向けて時を刻んでいる。

 十六時になった。約束の時間になっても女子が戻ってこないので、宿の食堂に集まってトランプで遊んでいた俺らも何かおかしいなって思い始めている。


「観光に夢中なのかトラブルか、俺が見てくる」

「お前は座ってろ。俺が行くぜ」

「どうして一人で行こうとするんだ。みんなで行けばいいじゃないか」

「……アーサー君、こいつらはカードの負けが膨らんできたから逃げようとしているだけだよ」


 失敬な。ウェルキンの思惑はともかく俺は紳士として女子の身を案じているだけだ。

 え、カードの負け分? ……銀貨588枚です。


 宿を出ると大通りの向こうからマリア達がやってきた。この心配し損よ。まぁマリアがいれば田舎のチンピラや冒険者なんざ問題にならねえか。

 と思ったが様子が変だ。妙に後ろをちらちらと気にしている。


「いやー、まいったよ。変なのに絡まれちゃってさあ」

「ナンパか?」

「うん、すごいでしょ!」


 ナンパされたってだけで得意げになるドルジアの聖女サマである。世の中の男の目は腐っているのか?

 しかし得意げだったのもこの一瞬だけで、がっくり肩を落としてる。


「でも面倒そうなやつだったんだよね」

「マリアがそういうなら相当だな。冒険者?」

「いやいや、権力のほうの面倒さ」


 話を詳しく聞くに繁華街で三人まとめてナンパしてきた四十絡みの中年男が屈強な兵隊連れで、ドルドム男爵家を名乗ったらしい。暇なら酌をしろとか金なら弾むぜ的な下品なお誘いだったらしい。

 この品性のなさは間違いなくドルドムだな。間違いない。


「それは本物のドルドムだ。噂のドルドム三兄弟だ」


 長男のガイアは脳みそを胎内に落としてきたような馬鹿で、女遊びの好きなロクデナシ。

 次男のマッシュは頭の中が空洞のカボチャ頭でロクデナシな女好き。

 三男のオルテガは胎内に知性と品性を忘れて出てきた馬鹿のロクデナシで、大の付く女好き。


 こういう説明をすると三人娘が怪訝な顔つきになる。なぜかウェルキンとベル君にアーサー君までも同じような呆れた顔つきで俺をじっと見てくる。


「あんたじつはドルドムの四男だったりしないよね?」

「しねえよ! あのおっさんどもと若くハンサムな俺が兄弟のわけがねえ。どっちかっていうと親父殿世代だぞ!」

「でもなー」

「だよな。特徴が完全にリリウスなんだよな」

「じつは親戚だろ」


 くっ、否定はできない!

 ドルドム三兄弟の噂を聞いた時からちょこっと思ってたんだけどさすがに不名誉すぎて言い出せなかった。言い出せなかったけどそっくりなんだ。……マクローエン家に似てるなあってさ。


「なあウェルキン、俺そんなロクデナシに見えるか?」

「自分の胸に手を当てて考えてみろよ。学院に来てから三ヵ月で何人落としたよ?」


 何人…なんにん?

 何人だろうなあ……


「ちょっとオモイダセナイ」

「それだ、それがもうすでに答えなんだよ」


 やべえ、いつの間にかアルフォンス先輩並みのクズに成り下がっていたというのか。

 そろそろ身辺整理をした方がいいのかもしれない。このままだと救世主の死因が痴情のもつれになりかねない。


「ナシェカは?」

「自室にいるはずだ」


 なお外から声を掛けても出てこない。


 マリアが窓から侵入して事情を聴いてからドアから出てきた。


「今日は疲れたから寝てるって」

「それじゃあ仕方ないな。俺らだけで潜るか」

「逆に君はなんで元気なんだ?」


 おっと、アーサー君のツッコミが激しさを増しているぜ。

 俺という存在に適応してきたのか。困るぜ☆


「は? お前ナシェカちゃんと遊んでたのか? どうして俺を誘わない?」

「逆にどうしてウェルキンを誘う必要があるんだよ。逆に考えてみろ、同じ立場なら俺を誘うか?」

「誘わないけどよぉ」


 ウェルキンよ、それが答えだ返しだ。

 ずるいずるいとうるさいウェルキンは放置。マリアが何かを探している。


「ねえ、ジョン戻ってない?」

「戻ってないな。だがそのうち帰ってくるだろ」

「でも迷子になってるかも」


 あわや人類の敵指定を受け掛けたウェルゲート海でも屈指の悪辣冒険者を迷子呼ばわりとは剛毅な聖女サマだぜ。


「あいつが賢い犬なのは知ってるだろ。そりゃあ時計は持ってないかもしれねえが観光に飽きたら戻ってくるさ」

「たしかにジョンは賢いけど……」


 本気で心配しているけど中身がクリストファーだと教えた方がいいんだろうか?


 黙っている理由もなければ本人も黙っててくれとは言ってない。いつもきゃんきゃん吠えてるだけの畜生ぶりだ。……まぁ黙っておいてやるか。

 効果的なシーンでネタバレした方が面白そうだし←


 という感じでドルドム迷宮を目指して歩き出す。のんびり歩いて三時間というし日没前には着けるだろ。



◇◇◇◇◇◇



 騎士団の評価したドルドム迷宮の難度はDランク。雑草のような一束幾らの冒険者ならいざ知らず、騎士階級からすればダンジョン初体験にはちょうどいい難度だ。

 迷宮モンスの強さは高すぎず低すぎず、きちんとした装備を整えていれば万が一にも事故なんて起きない難度らしい。……迷宮の正体を知ってる側としては迷宮舐めんなって思うがね。


 だが現実に騎士階級や貴族階級にとって迷宮は便利な資源地でしかない。資源の宝庫であると同時にレベル上げスポットであり外交の道具であるのだ。


『うちの息子もそろそろ学院でね、おたくの迷宮に潜らせたいんだがいいかな?』

『どうぞどうぞ。案内にうちの息子を寄こしますよ』


 こんな感じだ。領地に迷宮があると社交界でも人気者なのさ。マクローエンにもあればよかったのにね。


 騎士団の評価したドルドム迷宮の難度はDランク。だがこれは第五層『旧ハウスラ砦跡』までの話だ。

 異空間化してゾーン分けがなされている迷宮の次の層『魔獣コロシアム』からは笑うぜ。ケツを蹴ってコロシアムに突き落としてやったウェルキンも悲鳴をあげるほど喜んでいる。


「どわあああああ! なんだこの数ッ、どうなってんだ!?」


 円形にくりぬかれた谷底にはモンスターがうじゃうじゃいて、そいつらが一斉にウェルキンに襲いかかっているんだ。


「マリア、ウェルキンが落ちてる!」

「もー! 何やってんのよ、アーサー君、リリウス、行くよ!」

「わたしは?」

「エリンは! ……待機で」

「戦力外通告か……」

「デスきょの姉御はあたしとこっから魔法支援だなー」


 マリアとアーサー君が傾斜角60度近い石の壁を駆けおりてウェルキンの救援に向かっている。がんばえー。


「ウェルキンの馬鹿! マヌケ! どうして落ちるのよ!」

「ちげーよ、誰かに突き落とされたんだよ!」

「言い争いは後にしろ。数が多い、壁を背に半円の陣で迎撃するぞ!」


 谷底の壁を背に位置取りここを陣にするつもりのようだ。

 押し寄せる魔物の群れを斬っては蹴飛ばしてと安定感がある戦いぶりだ。アーサー君の指揮って安定感があるよね。


 適当に遠間のモンスを遠距離から魔法攻撃してるリジーとエリンだが決定打になっていない。三人を巻き込まないように遠い敵を狙うせいで威力減衰が起きているんだ。


「無駄打ちになってるぜ。効果的にやろう」

「いや数数数、あの数はやべえだろー!」

「そこまで強そうなモンスもいねえしあの三人なら平気だよ。狙うのなら背後を取りに来るやつだ」


 モンスターの中には谷底の壁を壁走りして、壁を背に陣を敷く三人の背後を取ろうとしている奴もいる。押し寄せる群れが百体だとすればその内から二体とか三体でしかないがこいつらに背後を取られたら危険だ。

 魔法のステッキを一振りして魔法弾で壁走りするモンスを叩き落す。けん制のつもりだったが倒せたかも? さすが俺。


「こんな感じでやろう。連戦続きの迷宮内戦闘ではマナの消費を抑える効果的な戦術を考えなきゃ」

「おー、さすが筋肉。脳みそが筋肉になってるだけはあるな!」

「言っておくけど俺エリンちゃんより頭がいいからな?」

「姉御に勝っても自慢にはならないんだよなー……」


 中二のギャルが遠い目をして中二病の高一に意味ありげな視線を送っている。

 でも俺キミが学年でドンケツから四番目の点数とったの忘れてないよ。得意の実技で期末は挽回してたけど。


 ドルドム第六層『魔獣コロシアム』、迷宮のフロア一個を丸々使った巨大な谷底で大勢の魔物と戦う俺ら。谷の上から支援魔法、谷に降りてのデコイと掃討で切り抜ける。

 モンスターの中には別の場所から谷の上に出てきて支援組を襲いに来るやつもいたけど、こっちには俺が残ってるからね。問題ない。


 十分かそこらいの時が経ち、コロシアム内の魔物もだいたい片付いた。


「ようやく一息つけるな」

「それ下の奴らのセリフな」

「筋肉ほぼサボってたじゃん」

「効果的な支援を試みた結果けっこう暇だっただけだよ」


 キルスコアは大雑把に下の三人が各人40ずつくらい。上の三人はまとめても10体ってところだ。

 サポートに徹した理由もいいわけが付く程度にはある。


「魔力は強いやつに従いたがるんだ。俺が積極的に手を出したらここにあるマナは俺の総取りになるぜ。せっかくの迷宮なんだから位階上げの成果が欲しいだろ?」

「そりゃあそうだけどなー」


 何だか不信感を抱かれている気がするぜ。不思議だな、こんなにもサポートする気に溢れているのに(黒幕のセリフ)。


 下の三人と合流する。おい、三人揃って不信感に満ちた眼差しはやめろ。


「おい、俺を蹴落としておいてよく平気な面して降りて来られたな?」

「怒るな怒るな、数はいたが雑魚ばっかりだったしウェルキンなら大丈夫だと思ったんだよ」

「最低限悪いことをしたという謝意は見せろ!」


 この程度で謝意を感じていたらこの一件が終わる頃には俺の頭は地中に埋まっているぞ。


 モンスターの死体をザッと確認する。まぁ大したやつはいない。受肉もできていないような粗悪な複製品ばかりで、すでに何体も消失しているような有り様だ。いま残っている死体にしたって小一時間もすれば迷宮が呑み込んでしまうだろう。


 ふと違和感を感じた。


「やはり狼男系統の亜人モンスはいねえか」

「あん? リカントなんてここに来るまでも出なかっただろ」

「そうなんだよな、今回はまだ見ていないんだよ」


 以前潜った時っていうともう何年も前の話なんだが四層だか三層だかでとあるご令嬢がたがアンダーリカントの群れに襲われていた。当時は妙に強い魔物だとは思ったものの疑問まではいかなかった。

 だがやはり妙だ。あそこよりも階層の進んだこの魔獣コロシアムでさえあれだけ強い魔物は出てこなかった。そもそもリカントの系統種がいないんだ。


 考え込んでいるとウェルキンが言ってきた。


「今回はってなんだ?」

「むかしソロで最下層まで降りたことがあるんだよ」

「おまっ、やけに詳しいと思ったら来た事があったのかよ。むかしっていつだ?」


 どうしてそんな部分が気になるのか。


「十一歳の夏だな」

「四年や五年前にここを単独でかよ。くそっ、文句を言うつもりも失せるぜ……」


 乙女心はいまなおワカランが男心も繊細で複雑なもんだ。

 ここで文句を言ったらガキの頃の俺よりも弱い男の証になるから言いたくないのだろうな。


「当時は攻略を諦めたぜ」

「迷宮踏破者になれってか。いいぜ、やってやるよ!」

「こういう単純な馬鹿大好き!」

「てめえ!」


 やべえ、声に出しちゃった!

 拳を振り上げて追いかけてくるウェルキンから逃げ回りつつ次の階層に誘導する。さあみんな地獄はこっちだよ!


「あれはどう思う?」

「何か企んでそう……」


 みんなの勘の良さには驚きだよ!

 やっぱ態度に出てるのかな? 人を騙すって難しいな。



◇◇◇◇◇◇



 ドルドム第七層も六層と変わらぬ円形のコロシアムだ。共食いを重ねるモンスの中に進化個体がいたが問題なくクリア。

 みんなしてドルドム迷宮楽勝だなって言ってるのが微笑ましくて草。


「怖えーよ、リリウスがずっとニヤニヤしてて怖えーよ」

「この先に何かあるな。用心するぞ」

「ダメだ、やっぱりナシェカを引きずってでも連れてくるべきだったよ。ナシェカじゃないとコントロールできないよ」




 ドルドム第八層もまたまたコロシアムだ。中堅どころの冒険者チームには鬼門と呼ばれている難所だが思ったよりもあっさりクリアしている。アーサー君がいるせいでヌルゲーになってるんだ。


 剣を持てば準英雄級の前衛戦士。後方に下がれば治癒の奇跡の名手。そのまま指揮官にも変わる戦場の支配者だ。普段は静かな読書少年なのに戦場では存在感を増すな。

 だがこの先なら、この先なら苦戦するはずだ。


「悔しそうにしてんな」

「もしかしてここ難所だったの?」

「分からない。分からないがあの顔を見ていると気分が晴れるな」

「アーサー様って時々すごいことを言うよなー……」




 ドルドム第九層は今度もマルディアス……じゃなかった! コロシアムだ。ここまで来れるのはB級冒険者で構成されたクランだけであり第九層を制したならドルドムは卒業という格言もあるほどだ。

 そして当たりを引いた。共食いを重ねるコロシアムにモンスターの姿は雄々しく立ち上がる一頭のみ。

 コロシアムのモンスを駆逐し王となった環境最強個体が新たに生まれる雑魚を食料に無制限に強くなっていったのだ。見ろよ、あのティラノサウルスのごとき雄々しき亜竜の御姿を。絶対苦戦するぜ。


「見様見真似の奥義―――ブッチギリ!」

「アルチザンの火を此処に―――ファイヤドラゴンスレイヤー!」

「決めるぜ、旋風斬!」


 あ、俺の希望が炎の海に倒れていったじゃんよ……

 君達けっこう強いよね。あれはけっこう苦戦すると思ったんだがなぁ……




 ドルドム第十層もやっぱりコロシアム。モンスターの群れがようやく仕上がってきた連携プレーに屈していった。

 もう何も言わないよ。君達はすごいよ、A級冒険者並みの実力があると言っても過言じゃないよ。……えー、うそー。絶対無理だと思ったのになー。

 ナシェカがいてどうにかここまで来れると思っていたのにまさかの快勝とはな。


「特に何もなかったな」

「手強かったと言えば手強かったがな。まあそれ以上に調子がよかった俺の敵じゃなかったけどよ」

「調子がいいのはいいけど調子に乗るなよー」

「まぁあたしらも成長してるってことでしょ。ねえリリウス、何を企んでたわけ?」


 別になんも企んでねえけど。ここでは何も企んでねえけど。


「簡単にクリアされると悔しいじゃん」

「おまっ、そんな理由で含み笑いしてたのかよ」

「想像を超えるしょうもなさだ。あんたってそういうやつだよね……」


 マリアよ、キミの中のリリウス君はそこまでしょうもない奴なのか……



 ドルドムは第十一層からやや赴きを変える。砦跡、コロシアムときて次は神殿に変わる。

 灯した魔法球の明かりでは高い天井までを照らすことも、巨大な通路の先を照らすこともない。


 徘徊する魔物もなく、ただただ不気味な神殿を前にみんなが生唾を呑んでいる。


「経路は?」

「一本道。まっすぐ行くだけでいいけど天井に……」


 おっとネタバレ禁止だ。

 の精神で男女合同キャッキャウフフの青春ダンジョン潜りを楽しんでもらおうと思ったが。


「天井が何よ?」

「まあ言っちまうか。天井からでかい蛇が落ちてくる。俺は噛まれたことがねえからわからねえが毒に気をつけてくれ」

「おおぅ、そんな重要な情報を伏せるつもりだったのか……」

「言ったじゃん」

「聞き返さなかったら言わなかったじゃん」

「喧嘩すんじゃねーよ」


 リーダー風を吹かせるウェルキンが割り込んできた。


「その蛇だが強いのか?」

「わからん」

「また秘密かよ。秘密クンかよ」

「ちげーよ、戦ってねえんだよ」


 ドルドム十一層からはモンスターの種類が一元化される。すべて蛇の系統になる。そして見るからに強そうな見た目をしていたので、当時の俺は興味本位での戦闘を諦めてステルスコートでスキップした。


 それまではチマチマ戦ってきたんだ。レベル上げが目的だったし自分が今どのくらい強いか知りたかったからな。

 だがレベルアップを放棄した。その程度には強力なモンスターだと感じていたわけだ。


 こういう説明をしているとみんなの顔が青ざめていく。脅かすつもりじゃなかったんだがな。


「ガキの頃とはいえリリウスが戦いを避けた蛇か。エリン、リジー、お前らは階段に避難しておけ。マリアは階段前で直掩、モンスが階段に踏み込むとは思わないが一応な」

「わかった。ウェルキンは?」

「俺が引き寄せて戦ってみる。アーサーはマリアの傍で待機。やばそうだったら助けてくれ」

「心得た」


 最初から俺を数に入れていないのが素晴らしいね。観光ガイドというスタンスをご理解してきたようだ。

 観光ガイドは観光のお手伝いだからな。それ以上はね。


 今回はこのあと青の薔薇の精鋭と戦うみんなのレベル上げが目的だからね。


 ウェルキンが慎重に歩を進めていく。牛歩という言葉を思い出すくらい慎重に五分の時間を費やして十数メートルを進んでいる。

 ノロマかよなんて野次を飛ばせる空気ではない。みんなが勇気あるウェルキンの姿を見つめて固唾を呑んでいるのだ。


 俺の感覚に反応がある。僅かに乱れた空気の流れをキャッチしたのだ。


「天井から降ってくるぞ、小さいのが五匹!」

「多いな!」


 ウェルキンがパッと飛び退くとそこにアナコンダのような大きさの蛇が五匹落ちてきた。そいつらはすぐに舌を出してウェルキンへと威嚇を始めた。


「いきなり五匹か―――まいったなあ!」


 ウェルキンが大振りのトゥーハンドソードで蛇の頭を弾く。些細な打撃ダメージに留まり、他の蛇がこの隙にしゅるしゅると近寄ってくる。けっこう早い。


「うらあ、怪我したくなけりゃそこで大人しくしてやがれ!」


 二本のトゥーハンドソードをぶんぶん振り回して蛇をけん制しているが……


 あ、まずいな。新手が降ってきた。


 ウェルキンの直上から新たに降ってきた二匹の蛇モンスは俺が魔法弾で迎撃しておく。微妙なダメージでしかないがとりあえず方向は変えられた。


「七匹は多すぎるな。マリア、加勢に行ってくれ」

「おっ、ここは任せていい?」

「お嬢様方のお守りはガイドの仕事だぜ。任せろ」


 マリアがウェルキンと並んで前衛につく。

 アーサー君も動こうか迷っているが手振りで気持ちを抑えろと意思を交わし合う。毒持ちが相手なら解毒の術法は必ず必要になる。この状況で一番やってはいけないのが唯一の治癒術師であるアーサー君を毒の状態異常にしてしまう愚行だ。


 ドルドム十一層『星座の神殿』、激闘の火ぶたが静かに切って落とされた。

迷宮潜のメンバー詳細


マリア・アイアンハート

 役割ロール:前衛剣士A

 主な武装:聖銀のロングソード『スラー』


 王の大号令A:王からの親愛、王への信頼に応じて配下の能力を格段に向上させる。

 統率者A:配下を高揚の状態にする。精神への攻撃を大きく防ぐ。


 バトルにおいては基本的に冷静に大きな流れを調整する調律者の能力に優れているが、強敵に際しては熱くなって視野が大きく狭まる事もある。調律者としての能力を放棄する代わりに個人の戦闘能力が急激に向上する。



ウェルキン・ハウル

 役割:前衛剣士B

 主な武装:22%程度の聖銀を使用したトゥーハンドソード『レックレス』×二本


 大草原の勇者B:騎乗時に戦闘能力が格段に向上する。

 大剣マスタリーD:大剣装備時に技量及び攻撃性能がやや向上する


 攻撃こそが最大の防御と考えているイノシシ型の戦士。攻撃に偏った意識は多少の被ダメージを最初から想定している……

 と言えたらいいのだが想定はしていない。闘気による防御膜が強く多少のダメージは物ともしないがあくまで低いレベルの話である。



アーサー・アルチザン

 役割:①後衛魔法剣士A+ ②治癒術師A

 主な武装:純聖銀のロングソード『ハプテノス』


 治癒の奇跡B:負傷者を癒しバトルへと復帰させる。部位欠損のような重傷を癒すにはバトルからの離脱が必要になる。

 忌まわしき覚醒B:失神時においては狂戦士化する。近接戦闘能力が格段に向上するが敵味方の区別がつかなくなる。また魔法攻撃能力を一時的に喪失する。



リズベット・カーネル

 役割:①中衛の軽剣士C ②後衛魔法職E-

 主な武装:聖銀のマジックレイピア『フレースヴェルグ』


 天性の閃きD:生来の勘のよさでクリティカルを見逃さない。技量値依存であるが技量が低い。

 細剣マスタリーD:細剣装備時に技量及び攻撃性能がやや向上する。


 臆病のパッシブ持ちのため本質的に実戦に向いていないのだがマリアの統率者と組み合わせることで実力を発揮できる。場違いなまでに強力な武器を所持しているため浅い階層においては問題なく役割をまっとうできる。だが第二ロールはゴミと言わざるを得ない。



エリンドール・フラオ

 役割:後衛魔法職E-

 主な魔法:サンダースラッシュ


 死の魔眼D:対象の生命力及び魔法力を奪取する。

 エルドビア流転D:奪取した生命力を媒介に魔法攻撃力を一時的にやや向上させる。


 あぁ実戦経験、実戦経験が足りない。戦闘系魔導師がヨダレを垂らして欲しがる黄金のスキルをコンボで有する前途有望な魔導師のくせに経験が足りなくて何もできない。

 死の魔眼を打ち魔法力を回復し、エルドビア流転で強化してまた魔法を放つ。これができたならリソース不足で苦しむ迷宮潜では大いに活躍するのだが……



リリウス・マクローエン

 役割:観光ガイド

 主な行動:応援


 がんばえーA:応援しているつもりなのだろうが煽りになっている。仲間達はみんなイラついている。

 荷物持ちA:各種魔法薬に加えて食品の用意も欠かさない。快適な迷宮潜りを約束するみんなの頼れる荷物持ち。

 お助けリリウス君SSS:ピンチの時は救世主が助けてくれる。みんな喜びな、最悪でも生還だけは約束されているぜ!

 最大罪業EX:善も罪も悪も何も気にしないフリーダムな倫理観と、何でも受け入れられる神のごとき広大すぎるガバガバな寛容さ。自分で決めたルール以外は知ったこっちゃねえがモットーだ。カルマ値の低い善良な人間は常に煽られているふうに感じる。


 馬鹿野郎お前も戦え!とみんなに思われながらも役割をまっとうする救世主。みんなイライラしているゾ!

 まぁ何かあったら助けてくれるだろ、という希望的観測で許されているだけでここを踏み越えたら人間関係終了待ったなしだ。大丈夫か? 本当に大丈夫なのか?

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