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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
153/362

LM観光で観光だ③

 本当は昨日のうちにドルドムントに行くつもりだったが旅の疲れを取るよい機会になったアキレイサス市での一泊を終えての翌日。うだるような暑さの密林を馬で駆けていく。


 マリアは馬の扱いもうまい。騎馬民族出のウェルキンと比較しても遜色がない。きっと王威が動物にまで影響しているのだろう。

 乗馬技術だの何だのあるけれど、馬から好かれる以上の天性は存在しないってわけだ。


「いい森だね。人が住んでいるのに調和が崩れていない」

「人の存在感の小さな地域なんだろうな」


 あの二人が先行している。俺らはちょっと遅れ気味で並走している。


 この街道はボロボロであちこち穴が空いてたり倒木なんかもあるが、幸い結界は機能していて魔物なんかは近寄ってこない。


「これから行くドルドムントはドルドム男爵領の領都だ。アキレイサス市のような大きな町と比べると小じんまりしているが古い町なりに見ごたえがあるよ」

「古いのか? この辺りの町は戦後にできた聞いてるぞ」


 ジモティーのリジーからいい質問だ。

 彼女の家は辺境伯家お抱えの鍛冶師っていうからな。本当なら知っていてもおかしくないんだが知らないのか。


「オージュバルトの時代からもある町だよ。ミスリル鉱の採掘拠点だったらしい」

「そんな話聞いたこともないけどなー」

「そりゃあ随分と昔の話だからな。鉱物資源を掘り尽くして百年も前に捨てられた町だ。当時の人口は千人足らずだったと聞くが現在は四千人から五千人の規模の住人がいるよ」

「へえ、けっこう大きいんだな」


 ここでアーサー君から質問がある。


「鉱脈を掘り尽くした町が昔よりも栄えているのか?」

「そうなるな。つか俺らがどうしてドルドムントに行くのか忘れたのかよ」

「あぁそうか、迷宮ができたから栄えたのだな」


 正解。迷宮ができると冒険者が集まる。冒険者の温かい懐を目当てに色んな奴らが集まってくる。迷宮っていうのはお金の流れの中心にある存在なのさ。

 人界の繁栄は迷宮を中心に回っている。アシェラに言わせれば迷宮を育てているだけの危険な行為なんだろうがこいつは止めようが無い。迷宮を排除した世界ではいまの人口も繁栄も支えられないからだ。


 霧の煙る密林を先行するマリア達が馬を止めた。見えてきたか?

 アーサー君も察したようだ。


「着いたかな」

「ああ、あれがドルドム迷宮に一番近い町、ドルドムントだ!」

 って言ったのにまだ町が見えてもいないじゃんよ。


 代わりに騎兵の群れが土煙を巻き起こしながらやってきて……


「どけ!」


 俺らをどけて走っていった。

 と、思ったら途中で急停止。先頭の男が振り返る。見覚えのある顔だ。キャッチコピーはたしか母親の胎内に知能と品性を置き忘れてきた男だったかな?


 ドルドム三兄弟の三男オルテガだ。俺は色々前情報ありきで見ているけど、初対面の人から見たら堂々たる体躯の厳つい貴族戦士だ。


「見ない面だな、どこのモンだ?」

「騎士学院282期生ウェルキン・ハウルだ!」


 俺の出番かな、って思ったがウェルキンがみんなを庇う形で前に出る。

 こいつのこういう男らしい部分だけは評価されていいと思うぜ。


「へえ、はるばる帝都からご苦労なこった。目当ては迷宮か?」

「ああ」

「女連れでうちの迷宮とはイイ気なもんだぜ、と言ってやりたいところだがお前とそこの赤毛、青いのも相当に腕が立つな」


 知能を忘れてきた男だが眼力はいいな。

 それに雰囲気がある。こうして向かい合っている限りは堂々としたもんだぜ。


「過信はせずまずは浅い階で慣らすがいい。深層を狙うのなら女連れはやめておくんだな」

「あんたは……?」

「名乗り忘れていたな。オルテガ・ザ・ドルドム、この地を治めるドルドム家の者だ。歓迎するぜひよっこども」


 じゃあな、と言い捨ててオルテガが騎兵を率いて去っていった。

 なんかハードボイルドな空気出してたな。小者感がなかった。ウェルキンも渋い男の面構えをしているし。


「っけ、手強そうな野郎だぜ。みんな、さあ行こうぜ」


 リーダー風を吹かせるウェルキンを先頭に密林を駆け、今度こそドルドムントが見えてきた。


 市の正門では騎士学の学生証を提示する。

 地味に知られていないのだが学生証は信頼性の高い身分証として機能する。手荷物検査が軽く済むとか、行列に割り込んですぐに町に入れてもらうといった機能だ。これを機能というのはおかしいんだが実際に効果があるからいいんだよ。


「ほほぅ、帝都の学院の方々ですか! どうぞどうぞ、お通りください!」


 この通りである。自分で判断する権力のない、しかし貴族を怒らせるわけにはいかない田舎の衛兵なんて学生証で一発よ。

 ビバ貴族身分。冒険者やってる頃はナンダあいつらとか思ってたけど自分がこの側に回ると権力を使わずにはいられないぜ。


「悪いやつだな……」

「正しい権力の使い方だよ」

「兵隊の無知につけ込んだ詐術も同然のこすいやり方だけどね」


 アーサー君よ、言い方にトゲがあるよ。


「まずは宿だよな宿。拠点を決めねえと始まらねえ」

「そうだね。問題はどういうランクの宿にするかなんだけど」

「女性もいるんだ。多少高く付いても安全な宿がいいね。観光ガイドの意見は?」

「へいへい、きっちり調べてあるよ」


 ドルドムントでは三日月亭という宿がおすすめだと聞いた。裕福な商人が泊るような高級宿で馬小屋もある。一泊27ボナの値段に相応しい良い宿なんだそうな。……全然高いと思えないのは俺の金銭感覚がぶっ壊れているだけなんだろうな。


 ツインの四部屋を一週間の宿泊とする。そんなに泊まらないかもしれないけど小刻みに宿泊を伸ばすと他の客に部屋を取られちゃうかもしれないからね。


 お昼は宿の食堂で済ませる。本日は二種類のキッシュのようだ。飲み物はフルーツティーだ。

 材料が不明で香りも独特なキッシュをパクつきながらウェルキンが仕切る。

 みんなを仕切る俺格好いい。ナシェカちゃん見てる?とか思ってそうな顔つきだぜ。


「別に疲れはねえしこのまま迷宮でもいいと思うんだがよ。みんなはどうだ?」


 現時刻が午後の一時。迷宮に入る時間としては遅いし、ドルドム迷宮は町からやや離れた場所にある。歩きで向かえば潜る頃には夕方になっているかもしれない。うーん、馬を盗まれた黒歴史を思い出すぜ。


「あたしもいいと思う。さっきの人も言ってたし今日は浅い階で腕試し。本格的に潜るのは明日以降でいいと思う」

 マリア賛成。毎日潜るつもり満々のベルゼルガーだ。


「あたしもそれでいいぞー、このメンバーなら楽できそうだしなー」

 リジー賛成。やや寄生する気が見えるが二個下なのでセーフ。

 JCに体を張らせるとかジャパンなら事案やぞ。


「雑魚は任せな、わたしの魔眼が火を噴くぜ」

 最近みんなが忘れがちな魔眼設定を持ち出したエリンちゃんも賛成。キミの魔眼は生命力の奪取だから対モンスだとやや手間取ると思うよ。


 まぁ女子がやる気なら男子が日和るわけにはいかねえな。

 昼飯後に三時間ほど自由時間を作り、準備を整えてから迷宮に向かう予定となった。


「ナシェカちゃん、俺と観光に行かない!?」

「パス」


 いつものウェルキンならここで撃沈していた。

 沈艦ウェルキンの異名は伊達ではない。だが違ったのだ。ウェルキンが食い下がったのだ。


「初めての町で不安だろ。俺が守ってやるから!」

「そういうセリフはナシェカちゃんに一回でも勝ってから言ってくれるかな♪」


 し…沈んだー!

 ウェルキンが沈んだ。装甲パネルで装甲を強化したらしいが二連装砲撃にあっさりと屈した。無念……!


「泣くなよ」

「そうだよ、ウェルキンは頑張ったよ。少なくとも僕は男気を感じたよ」


 テーブルを支えにずるずると崩れ落ちているウェルキンを励ます俺らと、あっさり出ていく女性陣の対比構造である。マリアからもこの扱いってお前の好感度がどうなってんのか数値で見たいよ。絶対面白いことになってるから。


 さて、俺も準備に出かけるか。

 旅の間に消費した携帯食料のおかげで出来たリュックサックの空きスペースに野菜や肉を詰め込むとしよう。魔法薬は全然使わなかったし補充の必要はないな。


 とりあえず市場を探そうかなーって宿を出ると傍の路地裏から伸びてきた手によって引き込まれてしまった。犯人はナシェカだ。


「そろそろ教えてほしいんだけど何を企んでるわけ?」

「まぁお前を騙せるとは思ってなかったけどな」


 ナシェカだけはどっかで仕掛け人の側に引き込まないといけなかった。というのも戦力的な問題で、トキムネくんじゃナシェカに勝てないからだ。

 いやあいつ稀に奇跡的な勝利を持ってくるけど奇跡だからな。期待していい確率ではない。


 路地裏で密着するナシェカが足を絡ませてくる。やめろ、きちんと話すつもりだったのにこのままでは色香に屈したみたいな格好悪い形になる。腹の上でのの字を書くのはよすのだ。どうして俺の性感帯を熟知している。


「そんなに信用できない? わたしはさ、とっくに剣を捧げたつもりだったよ?」

「不安にさせていたのか?」


 ナシェカが面をあげる。潤んだ瞳を震わせる、泣き出しそうな顔を見た瞬間に感じたのは戦慄である。

 どこでそんな技を覚えた!


「……十秒で泣ける天才小役みたいな技は使わなくていいから」

「っち、バレたか」


 一秒で化けの皮の剥がれる化けタヌキみたいな態度はもっとダメだぞ。


 懐中時計を確認……するまでもないか。


「三時間あるしベッドで一勝負するか? 俺に勝てたら何だってしゃべってやるよ」

「ふーん、勝てる気なんだふーん……」


 何なんだよその自信は。もしかしてライザエフ社で小技でもインストールしてきたのか?


 だが甘いな、蜂蜜よりも甘い考えだぜ。俺は繁殖神の最高司祭なんだぜ?

 たかだかサキュバスの異能ごときで勝てると思っているのなら甘すぎるぜ。俺は愛の救世主だからエンシェントドラゴンとだってまぐわえるし孕ませることも可能なんだぜ。


「先に言っておく、ナシェカお前では俺には勝てない」

「みなさん聞きましたか? これが敗北フラグですよ?」

「みなさんって誰だよ。おっし、やったろうじゃねえか」


 ナシェカと肩を組んで宿にとんぼ帰りする。

 ギッタンバッタン大騒ぎだオラァ!



◇◇◇◇◇◇



 三時間の休憩時間は長いな、と思ったアーサーだったが初めての町だ。観光だと思えば妥当な時間かもしれないと思い直した。


 軽くジョギングで流しながら町を一周する。すぐに思ったのは無計画な町だという感想だ。民家の多くは戸建てではなく三階や四階建ての集合住宅。これが円筒の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれているのだと感じた。


 道を往けば途中で民家に阻まれたりと何とも変な街並みだ。市政にやる気がないのかもしれない。第二市外壁を作れば町を広げられる。かなりの予算が掛かるだろうが迷宮の利益があれば出せないはずがないのに出さない。ならばそれは怠慢だ。


(未来の無い町だ。迷宮から富を持ち帰る冒険者に頼り切った、何も生み出さない浪費するだけの町……)


 市場は活気に溢れているのに貧しい町だ。

 昼間だというのに路上に立ち続ける痩せた少女たちの姿をいつも元気なマリア達と比べてしまい、ひどく哀れに見えた。


 ふと思い出したのは以前リリウスの言っていた表現だ。

 腐った国。最盛期を過ぎ去って静かに腐り落ちていく帝国という名の腐乱死体だと。……聞いた時は詩的な表現だと思ったがそれが真実なのかもしれない。


 最後に古くからあるという大きな水門を見上げ、タオルを水路に浸して頭にかぶり、熱を取る。


 宿に戻る。するとリリウスと同室のドアが開いてナシェカが出てきた。


「な……」


 ちょっと声の掛けられない顔をしていた。

 虚ろな眼差しをして足元もふらふらだ。表情を失った顔には悲壮感がずどーんって言っている。


「どうしたんだ?」

「……」


 ナシェカは何も答えずに隣の部屋に入っていった。

 ちょっと気になったので扉に耳をつけて盗み聞きを試みるも何も聞こえてこない。


(本当にどうしたんだ?)


 部屋に戻ると半裸のリリウスが窓を開いて、葉巻をスパスパ吸っていた。

 ベッドの乱れが事後って感じだ。


「ナシェカはいったいどうしたんだ?」

「なぁに、絶対に越えられない頂点ってやつを思い知らせてやっただけさ」

(何だかわからないが詳細を聞けば心が汚れそうな気がするな)


 アーサーくんは賢明な男なので深入りを避けた。賢明だ。

 別にわかりたくもないが、ウェルキンが可哀想だなと思ったアーサー君であった。




対ウェルキンにおける各人の好感度

質問内容「ウェルキンのここが嫌い。ここが悪い、欠点だと思うところ。それと付き合う相手としてどう考えるか?」


ナシェカ 32% 

「嫌いというほど嫌いではないし良いところもあるとは思うけどぉ、やっぱウェルキンはウェルキンかなーって」


マリア 41%

「学院だとただのしつこいストーカーだと思ってたけど旅に出てから奴は変わったよ。けっこう男らしいし出来る男だよね。うん、旅に出てから見直したよ。それだけかな?」


エリン 49%

「改めて聞かれるとどこが悪いってほど悪い部分はないな。そういえば無い。不思議なほどに無い。でもウェルキンだし無いかなーって。まあ頼りになるとは思うけどな」


リジー 68%

「悪いやつではないなー。ただ付き合う相手とは見れないなー。そこはウェルキンだしナシェカ一筋を変えないと思うけど変えたら幻滅するかなー。ほら、もしウェルキンがあたしに告ってきたとすんじゃん。そしたらナンダコイツってなると思うんだよ。だってあたしらはナシェカに散々告ってきた歴史を見てるわけだしなー」



 総評:意外に好感を持たれていて笑うに笑えない結果となった。別に面白くも何ともない結果すぎてネタにもならない。特にリジーに関して言えば信用できる男友達としてかなり高い数値を叩き出している。以上!

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