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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
ヴァカンス&ダンジョンシーカーズ
135/362

オージュバルトの娘達⑤ 大怪獣決戦

 キスが世界を救った。邪悪な王は再び眠りにつき、愛に満たされて世界は平和でハッピーエンドを迎えた。


「何なの! 本当に何をやらかしてますのあなたがたは!?」


 愛が世界を救っても残った問題が勝手に解決しているなんてことはないんだなあ……

 そんな実感を思う俺とお嬢様は床に座らされ、デブの従姉のアイリーン様からガンガンに叱られている。


「ご友人を害されたのは結構。ならば決闘をなさい決闘で名誉を回復なさい! 突然別荘に押しかけて襲撃するなんて―――恥を知りなさい! 野犬じゃありませんのよ!」

「けっとう?」


 血統、血糖、けっとう?

 けっとうナニソレ?


「決闘からわからないって顔をするんじゃありません。あなた本当にマクローエン家の人なのよね!?」

「アイリーン姉ちゃん、リリウス君はじつは人間社会に適応できてないモンスターだから仕方ないよ」


 激高するアイリーン様を宥めているのか俺を貶しているのかわからないデブはクリストファーの別荘襲撃の報を聞きつけて慌てて駆け付けたのである。マジ何してんのリリウス君っていう視線が妙に痛いぜ。


「あなたはあの四人の中で一番まともだと勘違いをしていたわ!」


 アイリーン様の怒りが今度はお嬢様に向く。


「どうして襲撃をお許しになられたのか、どんなイイワケが出てくるのか是非お聞きしたいわね!」

「あぅ、わたくしだってこんな形になるなんて思わなかったのよ……」

「この野犬が何をどうするか想像もつかなかったと!? うちの肥えた小ブタちゃんでさえ理解していたのに!?」


 デブが小ブタちゃん呼ばわりである。何の違和感もないな。

 その後もお説教が続く。決闘の作法についてだ。


 ①使用人を通じて果し合い状を渡す。

 ②両者合意の下で公正な裁きの可能な立会人を指名する。

 ③決闘の勝利報酬や日時の取り決めを行う。

 ④決闘をする。

 ⑤立会人が責任をもって敗者の亡骸をお家に届ける。


 ちょっと聞いたことのない世界の温すぎる闘争ですねえ。

 俺の知ってる決闘は①敵対したからぶっ殺して残党狩りで終了だ。其の二なんてあるわけがない。其の一で全部終わらせる。


「遺恨があるのは結構。決闘がやりたければおやりなさい。ただし正式な作法に則っておやりなさい!」

「よろしくてよ」


 扇子をぱちんと閉じて銀髪の美女が前に出てきた。

 ドS皇女のスクリエルラだ。人望がないのがハッキリした可哀想な人だ。


「このスクリエルラが立会人を務めます」

「「お前には無理だ」」


 くっそ、クリストファーとハモった。


「無理とは何ですの」

「「弱いから」」


 またハモった。


「貴方達ほんとうは仲がいいんじゃありませんの……? では別の立会人を指名なさいな」

「デブ、閣下をお連れして」

「その必要はない、立会人は俺が務めよう」


 お呼びするまでもなくガーランド閣下がウルドを連れてやってきた。ナンデ完全装備なの? 戦う気満々だったの?


「フィア・スクリエルラに置かれましてはどうかご自重を。か弱き身でこやつらの決闘を判じることは敵うまい」

「まぁ貴方でしたら文句はありませんわ」


 火事と喧嘩と馬鹿騒ぎが大好きと評判の第一皇女様にしてはあっさりと引き下がったもんだ。


「クリストファー、決闘に勝利し何を望む?」

「ウルドに奪われた装備品の返却を願う」


 ……?

 俺もだがみんなして頭上に疑問符が浮かんでいる。奪われた装備品だと?


 ウルドが固有世界という名のストレージからオリハルコンの剣を取り出す。え、神器エルジオンじゃん。他にも神話級っぽい装備が出てくるじゃんよ。


 閣下が問う。


「待て、そもそもの原因であるが何がどうしてこうなっている?」

「私は被害者だ、迷宮の探索中にこの女から奇襲を受けたのだ」

「賞金首を狙って何が悪いというのじゃ」

「それで死にかけていれば世話がないな」

「迷宮探索で疲弊しておらねばおぬし如きに負けんかったわ」

「コンディションを見誤りイイワケか。ハイエルフとはいえ所詮は女か」


「喧嘩はやめろ。ウルド殿もお控えになれ、そこもとの言い分もわかるがこれはリリウスとクリストファーの決闘だ」

「ふんっ、わかっとるわい」


 詳しく聞いてみる。迷宮探索中にクリストファーを見つけたから矢をぶっぱして殺しにいったらしい。じつはレスバ族だったの?


 迷宮探索中の殺しは冒険者としてもマナー違反だ。とはいえ賞金首であるし問題はない気がするが一般的な判断が難しいところだ。まぁセーフだろ。美少女だからセーフ。

 俺からも口添えをしておこう。


「一方的に被害者を気取れるほど生易しい犯罪歴じゃねえだろ」

「わかっている」


 わかってねえだろ。わかっている方が性質が悪いんだよ。

 偽証精霊事件を忘れたとは言わせねえ。何食わぬ顔で故郷に帰ってきて皇子様だからセーフだとか思ってんなら殺してやる以外の手がねえ。

 わかっていながらまだのうのうと生きている時点で救いがねえんだよ。


「謝罪はしない。罪を背負い憎しみを受け入れよう。だが我が身を引き裂きたくばちからを示せ」

「決闘者リリウス・マクローエン、勝利し何を望む」

「望み…か」


 今更だ。今更こいつに何を期待すればいいというのか。

 大勢を殺戮しておいて帝国でも大勢を殺すつもりでいるこの男に何を期待すればいい?


 何も期待できるはずがない。復讐を誓った男には何も期待できない。決闘の報酬だろうが何だろうがこいつは必ず踏み倒す。


「何も望みません」

「何故だ?」


 閣下の問いへの答えはじつにシンプルに答える。


「この男は誰との約束も守らない。約束も誓約書も何者もこいつを縛れない、こいつにとって唯一価値あるものは復讐あいだけだからですよ」

「嬉しいよリリウス」


 クリストファーが笑っている。

 本当にうれしそうに笑っている。かつて俺の隣に居た時と同じようにだ。


「あぁ本当にうれしいよ。お前だけだ、お前だけが私を理解している。お前がいるから私は孤独ではない」

「うるせえよ」

「だから残念だよ、お前を失うのがな」


 本当に残念そうに微笑むこいつが今は愛おしいな。

 そうだな、俺も残念だよ、まだ寝かせておくつもりだったとっておきのシャンパンを今夜にも開けるのがな。


「では決闘の日時を決める。双方よい日時を申告せよ」


「この後すぐがよい」

「奇遇だな、俺もすぐに殺りたい」

「よかろう。だが場をしつらえるのに時間を貰うぞ。では各自決闘の備えをしていろ。場が整い次第人をやる」


 クリストファーとの決闘が決まった。この長い因縁に決着をつける時が決まった。

 場はラタトナリゾートの浜辺から南へと二キロの位置。海のド真ん中に氷柱をぶっ刺して構築したバトルフィールド内だ。



◇◇◇◇◇◇



 BBQパークでの労働は地獄である。

 腹ペコの状態でせっせと食材を運び、時には焼くお手伝いをする。腹ペコの状態でだ。いい香りを漂わせるBBQを楽しむ人々の中でだ。この炎天下でだ。


 網を鉄ダワシでごしごしこすり荒いをするエリンは泣いている。マリアはそんなエリンを慰めている。


「どうしてこんなひどい労働を。わたし何か悪いことしたか……?」

「エリンは悪くないよ。あたしも悪くないよ」


 悪いのは資本主義だ。悪いのは格差社会だ。リゾートは貧乏人の敵なのだ。

 しかしリゾートを離れる気にはこれっぽっちもなれない。労働は辛いけど食事は美味しいしビーチ遊びは楽しい。

 友達もみんな楽しんでいる。


 混雑しているBBQパークに目を向ければナシェカとリジーとアーサーが忙しそうに客の間を走り回っている。うん、楽しい。マリアは自分にそう言い聞かせた。


 その時だ。林の方からウェルキンとベルがやってきた。背中にせおったしょいこに山盛りの炭を積み込んで汗をドバドバ噴き出しながらやってきたのである。

 で、忙しそうに駆け回っているビジュアル良い組を見つめる。二人の眼差しは切なさに溢れていた。


「あっちは眩しいな」

「差があるよね……」


 美形組は楽な接客業。ナシェカなんかは「こうやって焼くんですよー」とか言いながら実演で焼いた肉を頬張っている。話術が巧み過ぎてそういう仕事なんだと思われていそうな気がする。

 リジーは「まだ小さいのに大変だな」って普通にご飯を頂戴している。本当においしそうに食べるもんだからあげた方もニコニコだ。

 アーサーなんて女性客に群がられている。大変そうだが最近は客あしらいが板についてきた。一番順応しているまである。


 ウェルキンからどでかいため息が出てきた。


「この差は何だろうな……」

「顔面偏差値」

「どうしようもねえ」

「エリンって真実を突くのがうまいよね」


 四人揃ってどでかいため息が出てきたのである。

 炭をスペースに置きながらウェルキンが何気なく言う。


「そういや面白い話を聞いてきたんだよ。リリウスが決闘やるらしいぜ」

「あの無駄な筋肉が輝く時がきたのか」

「誰と?」

「クリストファー皇子だとよ。あの二人仲悪いもんな、いつかやると思ってたぜ」


 なお二人の仲が悪いというのは女子にはあんまり想像がつかないらしい。いつもいがみ合っているし気づいたら殴り合っているが決闘するほどとは思わなかったというのが本音だ。

 マリアだって喧嘩するほど仲が良いの延長線上だと考えていた。


「なにそれ本当に?」

「本当かどうかは知らねえがよ、そこいらでみんなしゃべってるぜ」


「いつ?」

「場が出来次第って話だ。けっこうな騒ぎになっててよ、リゾートの奴みんな集まってるんじゃないかって感じらしいぜ」

「へぇー、勝てるわけがないと思うけど筋肉を応援してやるかな」

「いやあいつトンデモなく強いよ。小銭皇子の方が危ないと思うけど」

「バイトもそろそろ終わるし見に行くか?」

「うん、行こう」


 エリンが懐中時計を開く。そろそろ十三時だ。バイトは忙しい十二時の一時間だけなのでもうおしまいだ。


 BBQパークの責任者にまた夕方にと挨拶をして浜辺を歩いて南へ向かう。たしかにけっこうな騒ぎになっている。ウェルキンが大げさに言っているだけと思ったが本当にリゾート客のほとんどが集まっていそうな数が浜辺を埋めている。

 まぁBBQパークも混んでいたのでいいところ五割六割といったところだろう。


 この騒ぎの中でガイゼリックを発見した。


「さあ世紀の対決だ! ドルジア皇室が誇るクリストファー皇子殿下とS級冒険者リリウス・マクローエンの対決を見逃す手はないぞ!」


 奴こそがパラソルとテーブルを並べて特別観覧席を作りチケット売ってる詐欺師である。

 さらにはトトカルチョを開催して両者の勝敗で儲けようとしている詐欺師である。


「共に中央文明圏での留学帰り。両者の実力は互角! 二人は共に冒険者として肩を並べて戦っていたこともある―――」

「あの馬鹿何してんの……」

「そりゃあ大儲けでしょ」

「いやいや馬鹿騒ぎが好きなだけでしょ」


 浜辺では氷入りのジュース歩きが大声を発し、美味そうな屋台も出ている大騒ぎだ。双眼鏡の販売までやっている。みんなして胸にWの刺繍のあるシャツを着ている。全部ガイゼリックの仕込みなんだろうなあってみんなが確信した瞬間である。

 そして意外なことにアーサーがリリウス勝利の賭け札を買って戻ってきた。


「アーサー君賭けたの? こういうの嫌いそうなのに珍しいね」

「我が友リリウスの勝利を願ってといったところだね」


 アーサーがそんなことを言うとは思っていなかったのでマリアもちょっぴり驚いていて、でも見かけに寄らず熱いところがあるので当然かもと納得した。


「男なら誇りと勇気を持ち、友のために戦うべきだ。勇敢な男は応援してやるべきだ」

「じゃああたしも買うかなー」

「アーサー様が買うならわたしも。勝てば地獄の労働から抜け出せるしね」

「この流れは乗るしかないねー。マリアは?」

「ううーん、でも小銭皇子が負けるとも思えないっていうか」


 どっちも強い。それはマリアもわかっていて、どちらが強いかを計れるほどの実力が自分にはない。そしてどちらも応援したいし、決闘なんてしてほしくない。

 そういう本音がマリアに賭け札を買う手を止めさせた。


 遠洋というほどでもないが遠い沖では決闘場が出来上がりつつある。グリフォンに騎乗した騎士団がサーマル飛行でグルグルしながら氷柱を拡大させて強化させていく。海上にどどんと存在するテーブルのようなものが決闘場だ。


 やがてガイゼリックが近づいてくる。トトカルチョ場でご高説を垂れ流すのを従業員に任せてこっちにやってきた詐欺師はホクホク顔だ。


「あんたどんだけ儲けるわけー?」

「右往左往する大衆が好きな口でな」


 最低な発言である。


「マリアは買わなかったな。英断だ、勝てぬ勝負はしないに限る」

「胴元がそれを言うか。つかあんたはどっちが勝つと思う?」

「リリウスでは勝てない」


 やけにハッキリ言うものだからナシェカがダッシュで賭け札を買い増しに行った。おそらくだが彼女の中でガイゼリック・ワイスマンへの信頼があるのだ。こいつが言うからには必ずそうなるという嫌な信頼だ。


「ハッキリ言いきれるんだ?」

「何故だろうな、俺にもわからんが世の中には確実な出来事があるのだよ。リリウス・マクローエンではクリストファーに勝てない。何度やろうが何十度繰り返そうが何百度起きようがこれだけはひっくり返らない。まるで因果律が固定されているかのようにな」

「いんが…何それ?」


 ガイゼリックがストロー代わりの植物の茎で吸ってる氷水入りのコップを掲げて見せる。


「これを逆さにするとどうなると思う?」

「はへぇ、あんたの言うこといつもわからないんだけど?」

「正解はコップを逆さにするこうなる」


 水が落ちて浜辺を黒く染めた。それだけだ。それが何だって話だ。


「コップを逆さにすると中身が落ちる。因果があり結果が出る。二人が戦えば必ずクリストファーが勝つ。こういう話をしている」

「あんたリリウスに負けたんでしょ。それでも負けるって言い切れるんだ?」

「怒るなよ可愛いな」


 お前にカワイイとか言われたくないしって思っているマリアである。


「あんたはリリウスに負けたしそのリリウスが小銭皇子に負けるってんならあんたも小銭皇子に負けるってこと? それが因果律?」

「そうではない。俺ならあの二人なら苦もなく勝てるのさ。このガイゼリック・ワイスマンこそが地上最強の魔王であるのだ」

「ますます分からないな。まぁあんたがすごい魔導師なのは認めるよ。あたしじゃ逆立ちしたって勝てやしない凄腕だってね。因果律? それがどうにもわからないな」


 本当にわかってないマリアに、戻ってきたナシェカが言う。


「ガイゼリック、マリアはアホの子だから難しい話してもわからないよ」

「ちょ―――ナシェカぁ!」

「だからこう言えばいいの。リリウスとクリス様じゃ相性が悪いってさ」

「あ、相性の話なんだ!」

「いや相性ではないのが……」

「いいっていいって、あんた頭いいけどそういうところ馬鹿だよね~」


「……まったくキミはいつもそうだな。要領がよくて頭がキレて俺の足りないところを補ってくれる」

「ナシェカちゃんそんなことしたっけ?」

「したさ。こことは違う時空、今よりも先の時間軸に俺とキミが親友だったこともあると言ったとして信じてもらえるとは思えんがな」

「さらっと重要そうな発言したね……」

「信じるか?」

「うーん、一考には値する感じぃ」

「だろうな。……始まるな」


 予言者が告げた瞬間、大勢の声がワァっと膨れ上がった。

 ラタトナ離宮のある丘から決闘者が降りてくる。左右に従者とオージュバルトの姫を従え、剣も持たずにやってきた。


 まるでこの肉体こそ最強の武器だと言わんばかりの態度だ。真実はメインウェポンをウルドに強奪されているせいだ。


 歓呼の声に迎えられたクリストファーは見物客の多さに不愉快そうに顔をしかめたが、すぐにどうでもいいとばかりに視線もやらなくなった。彼はマリアにも誰にも気づいていない。確認する余裕もないらしい。

 彼の隣に立つエレン姫がヒロインのように言う。


「武運をお祈りしております」

「不要だ。すぐに終わる。……終わらせてやったはずなのに化けて出た亡霊を始末をするだけだ」


 クリストファーが海を踏んで決闘場へと向かう。


 続いてリリウスが海上コテージの桟橋からやってきた。こっちにはブーイングが飛んでいる。最低最悪な模擬皇位継承戦とかいう地獄のカーニバルからみんなを救ってくれた皇子に挑む馬鹿には相応しい態度である。

 しかし馬鹿は憎たらしい態度でブーイングにやあやあどうもと応じている。


 あまりにも余裕すぎるので観客からのブーイングもヒートアップしていき、陶器のコップが宙を舞う。


「お、D組のバカジョバカ男子じゃん。俺の賭け札買ったか?」

「バカって。応援し甲斐のねえやつだな」

「応援よろしくな。その分儲けさせてやるから頼んだぜ」


 砂浜が爆ぜる。リリウスが大ジャンプで決闘場へと向かっていった。

 米粒みたいに小さくなっていったリリウスの姿を見てウェルキンが気づいた。


「遠いな。俺でもこの距離は無理だ」

「双眼鏡が必要だね。でもけっこう高いね」

「そんなことだろうと思って用意してある」


 詐欺師のエロ賢者が人数分の双眼鏡を配り始めた。こいつは詐欺師だ、しかし便利な男なので憎むに憎めないD組メンバーであった。

 ガイゼリックが魔導防壁の範囲を広げる。


「ブレスからは守ってやる。各自勝手に判断して対処しようとするなよ、この防壁から出れば命の保証はできん」

((決闘なのにブレスって何だ?))


 みんなが疑問に思った瞬間にグリフォン騎兵がトランペットを鳴らす。決闘開始の合図だ。

 決闘の開始と同時に遥か彼方の氷のテーブルにでかい銀の毛並みの狼が出現する。


「わおーん!」


 ドドドドドドド!(聖銀のブレスが海面に炸裂する音)

 ずがん! ずがん! どどーん!(真っ黒い骸骨の怪物が大ナタを振り下ろす音)


 開始直後から始まった怪獣大決戦によって決闘場が一瞬で崩れ落ちた。


 四本の尾を持つ銀狼から凍結の茨が解き放たれる。黒い骸骨の怪物の一撃で尾が引きちぎれ、だが別の尾が大ナタに絡みついて動きを止めている。


((……????))


 みんな思った。なんだアレ? なんだアレ?

 誰にも理解できない怪獣大決戦である。


「神歩抜刀オデ・ストライク!」


 ずどーん!(海面に衝突した狼によって水柱があがる音)

 パキ…ピキピキピキピキ!(瞬く間に海が凍りついて冷気が浜辺までやってくる)

 ずももももも……!(原初の暗闇が凍りついた海を覆っていく)


「わおーん!(殺意の思念が衝撃波となって観客まで届き)」


 すべてを凍らせる竜巻が無数に出現する。

 青空はすでにない。立ち込める暗雲と稲妻が支配する空で怪獣どうしが戦っている。グリフォン騎兵も逃げてきている。


 みんな呆然としている。皇族と知らん貴族の決闘なので観劇気分で来たら大怪獣決戦に遭遇したのだ。クリストファー皇子はどこ?って思っている者もいる。まさかあの狼が探している皇子だとは思いも寄らない。


 音速の壁を破壊しながら疾駆する銀狼を影の刃が貫く。

 殺害の王の権能にして本物のバックスタッブが銀狼を串刺しにして海面に落とし、海面を覆う暗闇から飛び出してきた影の刃が無数の槍となって串刺しにする。


 氷の彫像が砕けるように銀狼が破砕する。

 同時に暗雲から咆哮がやってくる。白銀の装甲に覆われた巨大な聖銀竜が出現し、水蒸気を常に発する不可思議な水流のブレスを解き放った。

 水流のブレスは放たれた形状のまま凍りつき、冷気が浜辺に押し寄せてくる。


 リゾートを覆う魔導防壁が軋んでいる。余波だけでゴリゴリに削られている。


「シェーファぁあああああああああ!」

『羽虫があああああああああ!』


 真っ黒い骸骨が聖銀竜の首を両腕で扼殺し、聖銀竜が骸骨の頭部を噛み砕く。


 この激闘につられて深海の怪物どもがやってきた。海の魔物クラーケンが触手を伸ばし、クラーケンを食べに来たエントリアルどもが立方体の金属体を振動させながらドリル回転で群がり、稲妻を従える機械的なフォルムの巨大なシャチが大怪獣どもに向けてビームを放つ。

 天空からやってきた赤竜が焦熱のブレスを吐き散らし、島ほども巨大なクジラに乗った乙女が三つ又槍を掲げて轟雷を呼ぶ。


 もはや何が何だかわからない怪獣大決戦は夕方まで続いた。

 なんかもうみんなして悪夢でも見ているのかな?っていう気分だったのである。



◇◇◇◇◇◇



 世紀の激闘となった俺と小銭皇子の決闘はご覧いただけたでしょうか?


 途中から謎の乱入があったりしたが喧嘩に乱入はつきものだ。ギルドの酒場での喧嘩とか百パーセントの確率で視聴者参加型になるよな。酒瓶と椅子で殴り合うやつだ。

 そして当事者どうしを差し置いてヒートアップする乱入者どうしのガチンコ勝負のせいで、当事者が冷めて馬鹿馬鹿しいってなるのもお約束である。


『あれは何がどうなっているのだ!』

「俺が知るか! なんだよあのドラゴンどっから湧いて出たんだよ。つかあのでかいクジラは何んだよ!?」

『私が知るか! それよりもあの全身に砲門を持つシャチをどうして省けた! あれが一番怖いぞ!』

「あれはハザク神だ!」

『知ってる神なら説得しろ!』

「無理に決まってるだろ、あれは星の頂点に立つ究極生物だぞ!」

『ナンデそんな怪物が参戦してくるんだ!』

「知らねえよ!」


 くっそ、外野が騒々しくて集中できねえ。あいつら俺らを積極的に狙ってくるんだよ。ターゲットを切り替えようとするとシェーファの馬鹿が狙ってくるからこっちを先に仕留めないとどうにもならねえんだよ。

 くそー、数を減らさないとどうにもならねえのに減らしにいけない。


 ハザク神の放つマルチターゲット誘導ビーム砲がウザすぎる! はぁー、アホらし。帰るか。


『おい、どこへ行く』

「アホらしい、冷めたぜ。こんなんやってられっか」


 ナンデ神話の怪物が集結してんだよ。アホらしい。ハザク神って言ったら神様ランキングやったら上位一桁っていう怪物だぞ。

 ハザク神は異星の最高神格だ。殺害の王やアル・クライシェと同格のマジモンのキチガイだぞ。草野球にメジャーリーガーが乱入してきたようなもんだろうが。


『待て、待ってくれ! キミがいなくなると私に攻撃が集中して―――』


 知るか。勝手に戦ってろボケぇ。


 混沌極まる大怪獣決戦から立ち去る。必死になって暗雲の空を駆けまわる銀狼に轟雷が炸裂し、ハザク神によるフルバースト・ストリームが叩きこまれている。

 あいつ恨み買いすぎだろクソワロ。……やっぱりこの海の平穏を脅かす者に鉄槌を的な総攻撃なんだろうか。


 俺は帰った。容赦なく帰った。

 何だかんだで深夜になっても激闘の音が聞こえてきたからがんばって生きてるようだぜ。生き汚さだけは見直してやるよ。

 赤竜グレイズルミガー「守護竜レスカとの盟約によりこの地は我が守護する」

 クラーケン「ここは俺の縄張りだ」

 エントリアル「今夜はクラーケンを食うつもりだったがあいつも美味そうだ」

 ハザク神「我らが母なる海を汚すもの一切は悉く滅ぶべし」

 蒼海の女神クライシェ「我らが海を脅かす者には神罰を与えなければ!」

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