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(旧)馬鹿王子 三馬鹿プラスワンに懐く

 突然押しかけてきたアデルアード馬鹿王子のせいでコテージは騒然である。


 朝ご飯邪魔されてイラッ☆っときてるお嬢様とシャルロッテ様が両脇を固めるソファの真ん中にデブが座り、馬鹿王子のお話を聞く。

 俺は下男らしいんでお嬢様の背後に控えてるわ。いいにおいする~~~。


「アポを取らなかったのは詫びておく。事情は察しろ」

「僕が殿下なら使わない手ですが、この場は察しておきます」


 アポ取ったら居留守使われるか用事があると散々断られてきたんだろうな。

 だがこれはアデルアードが悪い。模擬皇位継承戦とかいう面倒くさい争いに勝手に巻き込んだ張本人……はスクリエルラだがこいつも元凶だ。


 帝国は自由民主主義ではない。木っ端貴族の方々は己の頭ではなく有力者の風向きで投票する。中立派はアンチではない、権力闘争に巻き込まれるのが怖いから中立の旗の下に身を寄せ合っているんだ。


 ブタ王子が参加していればみんな安心してブタ王子に投票できたのに、三人の誰かに投票しなきゃいけない。投票したら「あれ、お前スクリエルラ派に鞍替えしたの?」みたいな難癖つけられるかもしれない。それがのちのちどんな形の災いになって返ってくるか……


 あの王女ドSすぎる。高笑いしながら大人達が頭抱えてるのを楽しんでそう……


「バイアット・セルジリア、票をまとめ僕の側につけ」


 デブがにっこり笑った。あれお前アデルアード派に鞍替えするの? アルヴィン様ーセルジリアが裏切りましたよー!


「申し訳ありませんが僕は学院で仲良しのクリストファー殿下に入れようと考えています」


 華麗にお断り!

 やるじゃんデブ。そう俺らには学院同期という貴重な大義名分があるんだ。これがあれば後でイイワケ無双できるもんな!


「……事は皇位継承、仲良しごっこではなく大局的見地から考えよ」

「この場で誰に投票したとしてもパパはグラスカール殿下推しを変えません。セルジリアの旗は大きな目線で見れば今もなお帝都の殿下の下にあるんです」


「ならば今一時で構わん、僕を押せ」


 食い下がるねえ。必死なんだな。


「何より殿下は交渉相手を間違えていると思います。僕ではなくてアイリーン様を説得しなければセルジリア系列票はまとまりません」


 アレクシス侯爵家の分家に嫁いだアイリーン様は高名な貴婦人なんで若輩のデブよりも影響力がある、という事にしたいらしい。デーブンパパの名前を出せば一発で票まとめできるのにね。


 おや、アデルアードが苦々しい顔になったぞ。元々悲壮感溢れてたけど。


「アイリーンには断られた。二度と面を見せるなとケツを蹴り出されたわ」

「なんでまたそんなに怒らせたのですか?」

「わからん。あの女は本当にわからん……」


 淑女の鑑とまで謳われたアイリーン様はマジ礼儀作法に厳しいからな、どーせくだらない粗相をしでかしたんだろ。

 ちなみにホストからお掛けなさいと言われたら微笑みを浮かべて会釈し、先にアイリーン様の手を取ってソファに座っていただいてから座るのが正しい。ホスト側が後に座るというのが正しい礼儀だけどレディーファーストは文字通りすべてに優先される!


 この馬鹿王子どーせ先に座っちゃったんだろ。


「もしかして王子が着席した瞬間に怒りだしましたか?」

「む……よくわかったな。そこな下男、お前はアイリーン・アレクシスの怒りがわかるのか?」

「レディーファーストをお忘れになったからでしょう」

「僕は王族だぞ」

「レディーファーストは家格を超越しますのよ。例え皇帝陛下でしょうがまずは女性をエスコートするべきなのです」


 シャルロッテ様が見事なアドバイスをしてくれたぜ。

 すげえ悩んでるアデルアードが苦悩の果てに頭を下げた。意外!


「まったく情けない話だが僕は社交の場を知らない。皇室主催のパーティー以外に参席したことはなく、その手の作法に疎いのだ。手間をかけるようだがアイリーンを怒らせぬマナーを教えてはくれぬか?」


 こいつ度胸あるな、俺でさえ二度は会いたくないアイリーン様に再アタックする気か。

 俺らは顔を見合わせた。どうする?って奴だ。


 相談タイム!


「どうします?」

「こうして落ち着いて話をした感じそう悪い子には思えないのがね……」

「すぐに頭を下げてきたのを見るに、根は悪い奴じゃあなさそうなのよね」

「色々と経験不足ってだけだと思うなあ」


 円陣を組んだ俺らがチラっとアデルアードの様子を窺う。

 本人は気にしていないフリをしているらしいがすげえソワソワしてるぜ。貧乏ゆすりしながら俺らの相談を気にしてるんだ。


「俺の見立てでは横柄ではあっても善良ですぜ?」

「わたくしもそう思うわ」


 アデルアードは頭を下げてまでマナー講座を求めている。

 ここで問題なのは俺らの性質だ。天使、天使、善人、邪神の信徒、このとおり根っこがいい奴しかいないんだ。多少横柄ではあってもきちんと頼まれたら大変断りにくい。邪神の信徒が泥をかぶれよとか言わないでくれ、俺はただの下男なんだ。


「ちょっと教えるくらい構わないけど、問題はアイリーン様なのよね……」


 礼儀作法とひと口に言ってもパターンが膨大すぎるんだ。膨大な量の基礎だけ覚えても何の役にも立たない。

 マナーは相手に見せる己の品格だ。格下・同格・格上と分かれてから年下・同世代・年上と細分化され、相手によって異なる応用まで心得ないといけない。もちろん男女のちがいによっても作法は異なる。


 外交親善大使なんかで他国に行く方々はあちらの作法にまで通じているんだぜ! こんなん生まれた時から徹底的に教育されてないと身につくはずがねえよ。


 しかもあのマナーの鬼アイリーン様はタイミングが悪いと怒り出すんだ。呼吸や足運びまで計算し、瞬時に相手に合わせつつもパートナーの気遣いまでしなくてはいけないんだ。マジ料理を摘まむ余裕もなかったよ! 俺なんか半泣きで夜会の終わりを待ってたよ!


 学院入学前にお嬢様にお願いして二ヵ月間徹底的に帝国のマナー仕込んでもらったのにまだ及第点なんだぞ。しかも友達割引の甘い見立てでだ。たった数日でアイリーン様納得のレベルなんて無理だわ。

 こう見えてデブもシャルロッテ様もすげえんだよな……


「う~~~ん、会食に関するマナーだけならどうにかなるかしら」

「お食事はお食事でまた大変ですが……」

「少なくとも訪問したり招いたりするよりは難しくないと思うわ。そう応用を利かせる場面もないでしょうし」


 お嬢様はできない奴の気持ち理解できないモンスターの系譜だから心配だぜ。


 でも鶴の一声で結論が出た。朝ごはんの間だけマナー教えてあげるって方針だ。俺ら朝ごはんまだなんだよね。

 アデルアードと護衛の騎士をゾロゾロ引き連れてレストランで豪華モーニングだ!


「ではシャルをアイリーン様と見立てて接待していただきますわ。殿下がご招待し、アイリーン様が後からやってきた形からスタート。はい!」


 お嬢様がパンと手を叩くと……

 シャルロッテ様を騎馬戦する騎士たちがホテルの方からやってきたぜ!


「ぱからっぱからっぱからっ!」


 一人演技派な騎士がいるな。さては小さな兄弟のお馬さんしてた奴だな?


 騎馬戦馬車が停車して、シャルロッテ様が降りてきた。ちなみに少し遅めの朝食時とはいえそこそこ人がいる。すげえ奇異の目で見てくるんだ。


「……これはどんな辱めなの?」


 顔で選ばれた皇室近衛にKIBASENさせてるワガママお嬢みたいに思われてそう。ガンバ!


 シャルロッテ様はフットマン役のデブの腕を借りてレストランへ。

 案内されたテーブルに着席しているアデルアードは緊張してるぜ。お嬢様が激おこだ!


「それが貴婦人を待つ態度ですか!」

「すっすまない!」


 アデルアードが立ち上がった! お嬢様が銀のトレイをフリスビーにしてぶん投げ、第四王子様のご尊顔に炸裂させたぜ!


「立つの後! わたくしが言っているのはその強張った顔よ顔。堂々と構えつつどこかソワソワしながら待つの。アイリーン様がいらしたらきちんお喜びになるの! わかった!?」


 お嬢様それはご自身の願望もはいっていませんかね……?


 はいテイク2。


「ここからやらなくてもよくない!? レストランに入ったシーンからでもいいよね!?」


「ぱからっぱからっぱからっ!」

「ぱからっぱからっぱからっ!」

「ぱからっぱからっぱからっ!」


 今度は同僚さんたちもワルノリしていい雰囲気だな。完全に馬車になり切ってやがる。シャルロッテ様の真っ赤なお顔に不覚にも萌え死にそうだぜ。それともうすげえ数の見物人来てるんだけど見世物だなこれ。


「死にたい……」

「お腹減ったなあ……」


 ちなみにそろそろ午前十時。俺らはまだパン一つ食べられていない。

 アデルアード次こそは頼むぜ……


 ちなみにレストランの海辺に臨むオープンテラスの席にいるアデルアードは挙動不審してる。初デートなんだけど来てくれるか心配してるのソワソワ感だ。


 そしてシャルロッテ様がテラスに出てくると立ち上がって笑顔でハグ。


「お嬢様いまのは?」

「ま、おーけーとしておきましょう」


 俺の目から見ても完全にアウトなんですけど……

 もしかしてお嬢様クリストファーからされたいマナー仕込んでません? あれ家族と恋人以外がやったら大ひんしゅくな奴ですよね? もしかして馬鹿王子で遊んでます?


「よく来てくれたな。さあこちらへ」


 きちんと椅子を引いてエスコートしてるわ。最低限の作法はあるらしいね。


 そして両者座ると給仕がメニュー持ってきた。

 受け取るアデルアードはクッソテンパってやがる。お前まさかレストランも初めてなんですか?


「いやハハハ、どれも美味そうだなあ、どれも美味そうだなあ……ぜんっぜんわからぬ」


 アデルアードお前には高級レストランはまだ早い。初心者は写真付きのファミレスから始めるべきなんだ。この世界ファミレスないけど。


「シャルロッテ・バイエル、貴女はどうされる?」

「殿下にお任せいたしますわ」


 悲報、シャルロッテ様もドS。

 注文に困ってパートナーに投げたはいいが剛速球で投げ返されたね。みなさん馬鹿王子をオモチャにしてますね。


「……ではこのジューレエスカポワレと子羊の香草焼きシャルヌークを添えて、それとバヌークとガルガンジーをよこせ」

「こんのッ、粗忽者ぉぉぉ!」


 アデルアードの顔面に二枚目のフリスビーが炸裂した!

 ちなみに俺はお嬢様に銀のトレイをお渡しする係。アパム弾もってこーいアパーム!


 ちょっと鼻血の出てるアデルアードは早くも半泣き。


「……どこに怒ったのだ?」

「いまが何時かお考えなさい! 朝です、わたくしたちはまだ寝起きです。そんな肉肉しい料理食べられません。味の濃い物も控えなさい。それとシャルは今しがた馬車で到着したばかり、この暑い中をです。まずはパラソルを手配するべきなのです!」


 うん、さっそく応用編が入りましたね。

 真夏のサマーテラスでの食事だ、日焼けの観点からも淑女にはパラソルを用意するべきなのである。


「まずはパラソル。それとよく冷えた飲み物を至急用意なさるべきです。お料理は会話などで落ち着いてから頼むべきでしょう」

「し…しかし注文が遅れては待たされてしまうのではないか?」

「淑女の朝食は二枚のパンとポタージュで充分なのです。そんなもの頼んですぐにとどきますわ。あぁそれとご気分でサラダを注文するのも手でしょう。デザートは冷たい物を」


 はい、テイク3!

 もうなんかすげえ数のやじ馬集まってきてるぜ。耐性持ちの俺でさえ他人のフリしたいもん。


「ぱからっぱからっぱからっ!」

「ぱからっぱからっぱからっ!」

「ぱからっぱからっぱからっ!」


 美形の近衛が爽やかな汗を掻いてるな! でも周りのがんばってーって声援はおかしいな。負けるなーはもっとおかしいよ。何と戦ってるように見えたの? ワガママお嬢?


「……近衛の方々も大変ですのね」

「じつはけっこう楽しんでおります! ひひーん!」


 いい性格してるぜ。

 諸々があって両者着席、パラソルは頼んですぐに持ってきてくれたぜ。

 ここでようやく俺らも席に座れる。そろそろ十時半だ……


「なんかもうお昼も済ませておくか?」

「がっつりいきたいよね」

「わたくしもお腹ペコペコ。ねえねえどーする?」


 おやおや、お嬢様の眼に不穏な輝きが。ニコニコしながら膝の上にフリスビーを隠してらっしゃるのは俺へのテストですかね?


 フッ、だが俺はバートランド家マナー講座初級落第のリリウス君だぜ。余人ならともかくお嬢様相手のマナーに関しては及第点!


「お嬢様、いまのご気分はどのような感じでしょうか?」

「そうねえ、お腹を満たしたいけど味付けの濃い物は避けたいわ。さっぱりしたものがいいわね」

「俺もそんな感じです。ハニートーストとエンペラーサラダとオイゲンパスタ、先にミルクアイスを頼もうと思います」


「いい感じね。わたくしも同じ物にします」


 フリスビー回避!

 デブは肉料理を端から端まで頼んでいるぜ。こいつの二食分マジすげえな。


 そしてアイスティー片手に談笑する隣のテーブルでは……


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 会話が死んでる。雰囲気はわるくないが気まずそう。話題がねえんだな。


 王宮からほとんど外に出ないひきこもり王子のコミュ力で淑女を楽しませられるはずがねえ。特にシャルロッテ様は大勢のハイレベルな貴公子から言い寄られているから男性審美眼肥えてるんだ。最終的に全員シャルパパに追い払われてるけど。


「お嬢様、アドバイスは?」

「ちょっと休憩しましょ」


 飽きてるー!?


 さすがお嬢様超フリーダムだぜ。最初は楽しかったけど飽きちゃったんですね。それかマジ空腹だからご飯後に再スタートなのかもしれんが、シャルロッテ様のあの困った顔を見なさいよね! 親友ですよね!?


 アイスティーとアイスクリームを楽しんでいると食事が運ばれてきた。


 ハニートーストは牛乳(牛ではないと思う)に浸したパンをバーナーで焼き、スパイシーな蜂蜜は瓶でやってくるのでお好みでどうぞって仕様だ。


 エンペラーサラダはうん、シーザーのパクりだわ。野菜のおいしい季節だしね。


 オイゲンパスタは薄味の冷製塩ラーメンみたいな奴。具材はスライスしたパプリカだけさ。真夏の帝国では特に好まれているね。下町で出てくる奴はまずいを通り越してるんだがやはり国営レストランはレベル高いわ。


 マナー講座放棄して普通にご飯食べてるとクリストファーとエレン様がやってきた。王子様のくせに全身刀傷だらけの歴戦の傭兵感まるだしなあいつの腕にエレン様が絡まってるんだ。うん、次の展開見えたね。


「あらロザリア様、奇遇ですわねえ」

「ええ、本当に……昨日も思いましたがどうしてクリス様と?」


 ロザリアお嬢様はクリストファーとエレン様が同じ別荘に泊っている事実を知らない。俺が意図的に情報封鎖したせいだ。昨日はB組バカジョとアーサー君も一緒だったけどさ。二人きりだとさすがに気づくよね。恋人みたいにべったり張り付いてるし……


 お二人が女の戦いをバチバチ繰り広げる最中、アデルアードはクリストファーに目を留めている。ビビってるらしい。


 そのうちB組の連中までやってきた。どうやらエレン様が昨夜のお礼にと全員を招待したらしい。馬鹿どもはちょっと離れた席に案内されていったぜ。すげえ騒がしい。

 一番騒がしいのがクリストファーってどういうことだよ! お前昨日の激戦でテンション上がったまま戻せてないの!?


 台風一過のあとでアデルアードがポツポツとしゃべり出す。


「学院はどうなのだ。楽しいか?」

「それなりに刺激的でしてよ。変なのも多くて困っちゃいますけど」

「変なのか?」

「そこの下男とか」


 やはり顔面を治さないと仲良くなれないようですね。

 なんかコミュニケーション不足な父と娘の会話みてーだが、とりあえず話題もできて悪くない雰囲気だ。自然な笑顔も出てきてるしな。

 あとは一夜漬けマナーがアイリーン様に通じるかだが……


 なおディナーにご招待したアデルアードは開幕からアイリーン様にハグしようとして扇子を叩き込まれたらしい。

 翌朝愚痴をこぼしにきた本人は桟橋で体育座りしてぼんやり海を眺めている。


「なんか懐かれてませんかこれ?」

「もしゃ……構ってほしいみたいだね」

「親しい友達なんていなかったんでしょーねー」

「迷惑だからどっか行ってほしいのに……」


 ちなみにリゾート内にはこんな噂が流れている。ロザリアお嬢様が馬鹿王子をおもちゃにしているという何も間違っていない噂だ。

 やっぱ貴族って本質を見抜く目が養われているんだな。



 ◇◇◇◇◇◇



「アイリーン票はどうしても欲しい。どうすればよい!?」


 桟橋に座らせとくと邪魔なんで中に入れてあげたら開幕こんなことを言ってきた馬鹿王子だった。


 俺発案のトレーディングカードゲーム『ドラゴン&ブレイブス』で遊ぶ俺らはふぅ~んって感じだ。


「もうお前達しか頼れないのだ!」


 デブが手札から『接収』を発動。土地コスト三枚を相手から徴収する魔法効果のせいでお嬢様が使おうとしていた『魔王レザード』は手札で腐ることになった。ATK・LP共に30の最強カードだけどマナコスト15もあるからなあ。


 お嬢様のデッキはロマン溢れる大鑑巨砲主義。デブは妨害魔法をたっぷり積んだ陰湿デッキ。ゲームってほんと性格出るわー。


「オークキングを召喚して分裂でもう一体特殊召喚。時の経過でターン三回分だから特殊効果でオークソルジャー六体の固有召喚、ターンエンド」

「甘いわねバイアット。天地崩壊で場のフォロワーすべてを墓地に送ります!」

「はいカウンター。アシェラの加護で僕のフォロワーを守るね」

「ちょ……」


 お嬢様のモンスターカードだけ墓地送りになったぜ。青デッキはカウンター多いからきちんと使いこなすとえぐいんだよな。デッキ事故起きると即リタも多いけど。


「……勇壮なる大城壁を設置。ターンエンド」


 LP10分のダメージ減少を無効化する大城壁はオークキング二体の突撃でおなくなりに。オークソルジャー×6の攻撃で12削られてお嬢様のLPは残り3。終わったな。


「ええと……これ使えるかしら。ねえリリウス、これ使えば挽回できるよね?」

「いやいや、デブはまだターンエンドしてませんよ」

「へ?」


「お嬢様ごめんね。ライフドレインでLP削り切っておわりだよ」


 デブの魔法発動でゲーム終了。お嬢様に有利なLP50制でやったのに終わってみればデブのLP残機53という圧倒的な結果だった。


「うわーん、シャルーかたきを取ってー!」

「任せて、とは言い切れないわね。バイアット強いもの」

「じゃあハンデマッチにしますか。初期手札二枚増みたいな奴」

「そういうのはつまらないから真っ向勝負といきましょうか。下男のデッキ貸しなさいよ」


 ちなみに俺のあだなが下男で定着したらしい。シャルロッテ様曰くピッタリなんだそうな。野良犬から下男ってむしろランクアップしてるな。ようやく人様になれたぜ。


「俺のデッキ難しいですよ。使いこなせます?」

「だいたいは掴んであると思うわ。ま、やってみましょ」


「お前達は僕を無視して何をやっているのだ……?」


 馬鹿王子が無視に耐え切れずにデブにすがりついてきた。

 軽く説明してやる。


 フォロワーや魔法カードを駆使して相手のライフを削り切る遊びだって奴だ。


「はぁ~~市井にはこのような遊びがあるのか」


 美麗なイラストの描かれたカードを不思議そうな目つきで表にしたり裏にしたりしてるね。興味あるなら売りますよ? 俺の商会で売ってるよ?


「こっちじゃまだ流行ってはいませんがサン・イルスローゼでは世界大会が開かれるような人気ゲームなんですよ」

「なんと世界大会か!」


 嘘は言ってないぜ。アメリカンベースボールなのにワールドシリーズなくらい嘘は言ってない。総ゲーム人口約2000人の世界大会!


「やってみます?」

「よいのか?」


 デブとシャルロッテ様がバトルスタートした横で、お嬢様とアデルアードの対戦が始まる。俺は初心者の馬鹿王子のアドバイザーだ。スタンダードパック(赤)に俺のフルコンプアルバムから数枚足してバトルスタート。


 ルールはエキスパート。デッキは30枚以上なら何万枚でもおーけー、ただし同名カードは二枚まで。LPは大会ルールに合わせて30。


 初期手札は六枚。ではお手本もかねてお嬢様からどうぞ。初心者にもわかりやすくなるべく効果は声にだしてくださいね。


「地脈を二枚発動、デッキからマナカードを四枚設置してデッキをシャッフル。手札からマナを一枚設置。五マナ消費してバーバリアン召喚ね。ターンエンド」


 本気すぎるだろ!

 ATK5でLP6の大型フォロワーを開幕ぶっぱとか大型パワーデッキの黄金パターンだ。初心者相手にひでえ……


「このカードを倒せばいいのか?」

「そうですね、先にフォロワーを処理しないと詰むでしょうね」

「灼熱の大地? これを出してゴブリンか」


 次のターン、LP共に1のクソ雑魚カードは無視されてお嬢様がプレイヤーアタック。


「……カードを倒さずとも直接攻撃していいのか?」

「デコイのような特殊なカードが置かれていない限り攻撃先はプレイヤーの任意です。その辺は戦略的にやりましょう」

「難しいな」


 こういうのは遊びながらぼちぼち学んでいくものだ。

 お嬢様が張り切りすぎててすぐに終わりそうだけどな。と思ったらいいカード引けたわ。


「殿下、いま引いた奴を使ってください」

「うむ、これなら使えるな」

「フォロワー除去はやめなさいよ」


 魔導師の操り糸でお嬢様の大型フォロワーを三ターンこちらのフォロワーとして扱うわ。ゴブリンと合わせてダイレクトアタックで六ポイント削りますね。


「仕方ないわね、カウンター魔法で全消去するわ」


 レジェンドカード天地崩壊でゴブリンとバーバリアンがおなくなりに!

 初心者接待って言葉は知らないみたいですねえ。


 お嬢様のデッキに対して超有利なはずの赤単アグロはその後五連敗した。すべて神引きで補っておられるのがすごい。


 デブとシャルロッテ様は三回やってデブの勝ち越し。俺の白単アーティファクト多めだからデブとは相性悪いんだ。てゆーかデブは俺専用キラーデッキ組んでるんだ。


 遊んでるとお昼になったぜ。バーベキューの予約入れておいたからパークへ直行。アデルアードはそろそろ帰ったらどうなんですかね?


 でかい貝を食べているアデルアードがどうやら本来の目的を思い出したらしい。


「こんな事をしている場合ではないのだ!」

「「っち、誤魔化せなかったか」」

「お…お前達……」


 このまま何もかも忘れてお帰りいただこうと思ったんだが思い出しやがったか。俺とお嬢様がもう一度舌打ち。


「頼むから真面目に考えてくれ。もうあまり時間もないのだ」

「諦めればいいのに」

「そうはいかぬ、皇位継承権だけは失うわけにはいかないのだ! ロザリア・バートランド、バイアット・セルジリア、シャルロッテ・バイエル、お前達しかすがれる者がおらんのだ!」


 後日アデルアードが泣きながらバートラント公爵家にすがりついていた噂になるがそれはこの日の午後すぐのことだ。

 正直この馬鹿王子を持て余している俺らはBBQ後すぐに閣下にご相談に行った。

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