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(旧)クリストファー VS 帝国宰相ベルドール

 翌日のリゾートは昨日よりも少しだけ静かだ。


 大人達をほとんど見ない。誰かの別荘を通りかかる時に漏れ聴こえる誰かとの口論やアデルアードを罵る声から察するに意見調整や有力者の考えを調べているらしい。


 若者はほんと無邪気に遊んでるけどな! 午前中だけでお嬢様とシャルロッテ様が三回ナンパされたし。


 散っていった大宇宙の戦士たちに敬礼する。


「なんでこいつお空に向かって敬礼してるの?」

「リリウス君の行動は一々気にしない方がいいよ。マジ何の意味もないから」


 特に意味はないけど親父殿の別荘の様子見に行ったら厳重な警備体制だったんだ。理由を聞いたらスクリエルラ王女の命を狙った襲撃があったらしい。アデルアード派の仕業だろうな。それでうちの親父殿が重傷を負ったらしい。


「心中お察ししま……どうしてキョドキョドし始めたのですか?」

「あんたがいま心臓に悪いこと言ったからですよ」


 俺の心の中お察しされたら犯人わかっちゃうもんね。

 タイーホだよタイーホ。かんぜんに王族襲撃犯だよ。


「あぁごめんなさい。ですがお父上の容体は安定しています、重傷ではありましたがすぐに回復なされるでしょう。ご安心を! ……どうして舌打ちを?」


 どうやら切断してやった腕も繋がったらしい。残念だ。


 アデルアードの様子を確認しにラタトナ離宮にも行ったが敷地内をヴァルキリーシリーズがうろついてたんでやめといた。あいつらとは相性悪いんだ。


 一旦分かれた三馬鹿プラスワンとレストランで合流するとまたナンパされてたぜ。お嬢様はダイソ〇なの?


 二人組の貴公子がシタリ顔でしゃべりかけてるんだが内容がちょっと面白いんだ。

 いま話題の模擬皇位継承戦についてのお話で、どうやら先ほど詳しいルールが文章で届いたらしい。


「これがけっこう面白いシステムなんだ。参加者234人中侯爵家が……」


 侯爵家が3名、辺境伯家2名+当主格1名、伯爵家17名+当主格2、子爵家61名+当主格10名、男爵家60名+当主格が18名、準爵家14名+当主5名、騎士候家41名らしい。この騎士候家の六人はB組の連中だ。アーサー君の扱いはわからん。


 準爵家は基本的に騎士候家に毛の生えた扱いだから騎士候家としてカウントされるらしい。武功を挙げた平民あがりの騎士候家には爵位を与えられないから代わりに作られたのが準爵位、つまり爵位持ちに準ずる家格ってわけだ。

 当主格ってのは当主と隠居した先代当主、次期当主を指すんだ。


 こいつらを計算すると……


「ぴったり2000ポイント! つまり1001ポイント集めた方が勝利するんだ」

「「へえ~~」」


「はは、それだけ聞けば単純なゲームに思えるだろ。ポイントだけ見ればマクローエン魔導伯が一番大きい数字を持っててアデルアードが有利に見えちまうんだがじつはそう単純じゃない。色んな関係も考えないといけないんだ」

「キーワードは姻戚、これマジ大事」


 すげえどや顔だな。

 久しぶりに見たわこんなどや顔、ウェルキン君かよ。


「一人一人に投票権があるっていっても親父に言われたら逆らえないだろ? それと同じで下のモンは主家のご機嫌伺いをしなきゃいけない。こうして考えると一番票を持ってるのは300票持ってるセルジリアのぼっちゃんなんだ。二位は155票のドゥシスのドロシー嬢、その次は95票持ってるオージュバルトのエレンチュバル嬢だな。ここでさっきの話に戻すとマクローエン伯はじつは60ポイントしか持ってないってわかるんだ。あの一瞬でここまで考えるなんてスクリエルラ様マジ神」


「おっとそれだけじゃねえんだ。やっぱ家にも色々あるからさ、あるだろ仲のいい家わるい家って。オージュバルトとバイエルは特に仲が悪いんだ、ここもポイントさ」


 お前いま誰に声かけてるのかさえ知らないの?

 そちらのいまイラっときた御方がバイエル辺境伯家のシャルロッテ様ですよ?


「バイエルとセルジリアのお二人はじつは婚約者なんだ。つまりオージュバルトを口説き落としちまったらセルジリアとバイエル票の目が消えちまうんだな。やっぱ同じ労力かけるなら票が多い方を見極めないとな」

「「ふ~~~~~ん」」


 お嬢様とシャルロッテ様の息がぴったり合っておられる。これはクソつまらないお話を聞き流すために体得した社交界テクニックなんだ。政治の話なんて興味ないもんね!


 そしてこれは俺ら手下への早く助けに来んかいボケェという催促なのである。


 白馬の王子様? ここにいるよ! よく裏社会のドンと間違われるけどな!

 さっそくナンパしてる野郎二人の肩に腕を回してやるぜ。


「おう、お前らぁぁ(重低音)」

「「……な、なんでしょうか……?」」


「わいのご主人様に手を出そうたぁいい度胸じゃねえか、アアン!?」


 みんなに質問だ。機眼SS持ってるレベル87のSランク冒険者にイチャモンつけられたらどうなると思う?

 答えは彼らのように涙目で財布差し出してくるんだ。


「殺さないでください」

「田舎に帰りますぅ」

「待ちな!」


 呼び止めただけで腰を抜かす存在、イエスそれがマクローエン。

 俺の人生歪んでるのたぶんこの目つきのせいだと思う。いわれのない迫害がリリウス君を作ったんだ……

 スプーン? 知らん。


「小銭はさ、とっとけよ」

「「兄貴ぃ……」」


 銅貨だけをそっと手で包んで渡して、彼らにはご退場いただいた。

 へ、泣きながらありがとうございますって頭下げるのはよしてくれ。紳士として当然の振る舞いさ。


「お、虫よけが帰ってきた」

「遅いじゃない。おかげで変なのの相手させられたわ」


 そうならないためにデブ置いてったんですけどねえ……


「デブはどうしたんですか?」

「なんか腹立ったから砂浜に埋めてきた」


 何があったんでしょうねえ。

 聞けば性知識の説明を求められたデブがイケメンふうにまだ早いよ子猫ちゃん的なことを言って腹が立ったらしい。

 リリウスロスを埋めるために慣れないボケをがんばったのか、無茶しやがって……

 これこの後俺も埋められる奴だな。


「お嬢様セックスって聞いたことあります?」

「性別でしょ」

「シャルロッテ様はペニーって何かご存知ですか?」

「あんたの友達?」


 無理すぎる。俺にこんな純粋無垢な方々を汚すことはできねえよ……

 地上に舞い降りた天使じゃん天使。


「この知識はお二人の愛する男性からしかるべきシーンで説明してもらってください」

「でも気になるのよね」


 思春期だなあ。

 でも俺学んでる。ちゃんとわかってる。これ教えたら教えたで途中で蹴られる奴なんだ。理不尽だと思うけどさ、絶対なんてこと言うのよみたいな感じで蹴られるんだ。だから断固教えなかった。


「こいつも埋めちゃおっか」

「ばいばいリリウス」


 俺はデブの隣に埋められた。ひでえ。


 お二人のスコップが俺にめっちゃ砂を撒いてる時にクリストファーがやってきた。エレン様とバカジョもいる。


「彼どうしたんだい?」

「ナマイキだから埋めておりますの。クリス様もおやりになります?」

「任せてくれ!」


 躊躇なく俺の顔面にぶち込まれたスコップはべっこり曲がって壊れた。


 なんでみんなはそんな怪物を見る目をしているの?


「こいつ人間離れしてんなーとは思ってたけど……」

「マジモンの人外だったか……」

「そんなスコップごときで大げさな」


 この後みなさんが水遊びを始めた。本来なら身分とか色々あって一緒に遊ぶ関係にはならないはずなんだがお嬢様は俺のおかげで下級貴族への偏見ないからね。超楽しそうに水かけ合ってるぜ。


 帝国では水遊びは真夏にしか楽しめない珍しい遊びだから、帝国人は海見ると知能落ちて童心にかえるんだ!


 リジーだけ俺の体に砂のおっぱい作って遊んでるんだ。地元民だもんね。


「変態、乳盛っとくかい?」

「Gカップで頼むよ」


 クリストファーは俺の隣に座り込んでる。

 お話がある奴だな。


「次に狙われるのは私だろうが君も一応気をつけておけ」

「何の話だ?」

「昨夜スクリエルラが襲撃された。おそらくはアデルアードの仕業だろう」

「すまん、それ俺なんだ」


「は?」


 この後めっちゃ早口で経緯を説明した。

 うちの親父殿が王女殿下のイケナイ部分を掻き回していたからついカッとなってやってしまったって奴だ。


「マクローエン卿はどういう人物なんだ?」

「淑女専門の凄腕ハンターだ。下は十五から上は五十までというとびきり広範囲な女こましだ。奴には気をつけな」

「君も苦労してるなあ」


 ちなみにこいつの親父は好色王とか呼ばれてる。俺らの気が妙に合うのは似通った境遇のせいかもしれない。


 盛りに盛ったSカップ級の俺のビッグボインに写真を突き刺してきた。ほとんど真っ暗でよくわからないが……人の姿らしき陰影がある。


「ガイゼリックとかいう奴が売り込みにきた写真だ。おそらくは昨夜の気配の正体だろう」

「これはどこの写真だ?」

「レストランのあたり、つまりあそこだ」


 クリストファーの指差した辺りから別荘までは約100メーター。そりゃ俺の危険センサーも鈍いわけだ。だが監視者の側だって見える距離とは言えない。俺でさえ夜間視力は百に届かない。


 遠見の魔眼か千里眼か……


「ま、お前を助けてやる義理はねえか」

「冷たい奴だな」

「自業自得だ」


 そして夜になる。月齢が満ちるまであと二日という明るい夜だ。

 夜は暗殺者の時間。殺人者は夜にやってくるんだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 少しだけ開いた窓から砂のように入り込んだ黒い影。音もなく二台のベッドへと近づいていき、逆手に握った殺人ナイフをその枕元へと突き立てた。


「!?」


 影がシーツを剥ぐと中からは丸まった布団がこんにちは。


 すぐに失敗を悟った暗殺者が二台目のベッドへと振り向いた刹那にそいつは心臓に穴を空けられた。

 背後から一突き、鮮やかな技だ。


 神代において最強と謳われた伝説の暗殺者の技能をコピーされたナシェカとその同類にしかできないアルザインの秘奥バックスタッブ(EX)。


 ただ背後から心臓を貫くというだけの行いを極限まで磨き上げて生まれた殺しの芸術。すべての暗殺者が夢見た殺人技能の頂点は殺した事実さえ気づかせない。


 僅か六歩離れただけの二台目のベッドへと歩いていく暗殺者は四歩目でちから尽きて床に崩れ落ち、己の胸からドクドクと零れ出す血を不思議そうに見つめている。そのままなにもせずに息絶えた。


 月明かりの生んだサークルに佇む黒髪の乙女がニャハハと笑う。


「お貸しいただいたこのレイピアすごく使いやすいです」

「おわりましたの?」


 階段に隠れていたエレンが顔を出す。

 倒れている暗殺者が動き出すのではないかとおっかなびっくり遠回りしてナシェカの下に駆け寄る。


「すごいのね貴女。暗殺者を気づかせずに倒したんですの?」

「いやー、武器がいいからですよぉ」

「武器がよくてもわたくしにはできそうもありませんわ。騎士候家でしたわよね、当家に士官なさいません? わたくしのガードになりなさいな」

「私そーゆー堅苦しいの向いてないからなあ。リリウスでも誘ってみたらどうです?」


 そういう断られ方をするとは思ってもいなかったエレンが小首を傾げる。どうしてその名が出てきたのか不思議だ。


「たしかに腕の立ちそうな人だとは思いますけどそんなにですの?」

「ええ、私が五十人いても殺せないのはあいつだけ……いや、あのコンビだけか」


 不思議な言い方をするのでエレンは何かのたとえ話だと思った。まさか言葉のとおりだなんて思いつくはずもない。同じ人間が五十もいるわけがないからだ。


 黒幕を追うのはガレリアの殺人機械五十人を相手に勝利したタッグ。そう考えれば可哀想にもなる。


「あの二人の相手をしないといけないなんて、誰だか知らないけど大変だニャー」


 他人事みたいに笑っていられるのはもう殺人機械じゃないから。


 あれは最悪の敵だけど味方なら最強だ。彼女の頭の中にある壊れて機能不全を起こしている記憶の欠片がそう言っている。あのタッグに敵う者なんていないって。



 ◇◇◇◇◇◇



 月光を浴びた海原が金色のヴェールをかぶっている。

 月はあんなにも明るいのに反比例するみたいに静かな夜。打ち寄せる波の音だけがざわめきだ。


 防波堤の街灯に立つ男は事態の推移を遠見の魔眼で見守っていたがどうもうまくいかなかったらしい。表情を曇らせている。


「おりませんか。そうですかそうですか……」


 嫌に粘着質な声だ。汚物のように汚らわしい。


 ホテルの屋上で透明化した俺らはあんぱんをパクつきながら街灯に立つ男を品定めしている。見覚えはないが気配に覚えがあるという不思議現象。


「トゥルーヴァンパイアの気配に近いな。近いだけでちょっとちがうけど」

「あれは一応生きている人間だ。処女の生き血を呑んでいるなんて噂もあるがね」

「知ってる奴か?」

「帝国宰相ルスカ・ベルドール、面倒くさい奴さ」


 ちなみにゲームにはそんな奴は出てこない。つまり政治パートのある革命期までに死んでる奴ってわけだ。史実バリアー回避! そんなバリアーは存在しないけど。


「お前が模擬継承戦に割り込んだ理由ってこいつか?」

「こいつと限っていなかったがな」


 世の動きには色んな理があり今回は金貨の理だ。


 ブタ王子一強体制ではあまりに盤石すぎて宮廷にご機嫌伺いに来る連中が少ない。だがブタ王子が失脚して二人三人と候補が出てくればそいつらに取り入ろうとする連中がゾロゾロやってくる。

 結果宮廷貴族が儲ける。セッティング料を要求するとか贈り物を中抜きするとかそういうやり方だ。


 鳥籠事件をきっかけに宮廷は第四王子のカードを切ったはいいが皇位継承権を剥奪されては第四を使って儲けることはできない。234人という大勢の貴族は証人であり反アデルアード、となればアデルアードの皇位継承権を保持する方法は一つ。対抗馬を消す。


 こいつはあの時そこまで読んで自分を囮にしたわけだ。スクリエルラが殺されるのは構わないが殺されたらアデルアードの背後がわからなくなる、だから自分を狙わせてとっ捕まえて吐かせる。どんだけ自分に自信あんだよ無茶するぜ……


 で、聞いたらどうせ君を信じているからできたみたいな歯の浮くセリフ言うんだろうぜ。


「一応言っておくと俺が協力する理由はこいつが鳥籠事件の余波だからだ」

「イイワケの先回りはかっこわるいぞ」


 鼻で笑ってやがる。や~~な奴。


「では私は正直になろう。どうせ後々殺す相手だ、早めに始末したかっただけだ」


 ベルドールが現れてから続けているチャージはすでに五分。上級強化でソッコー決めるぜ。


「投擲系はよせ、確実に接近して仕留めるぞ!」

「承知!」


 俺とクリストファーが跳躍し、街灯上の男へとビクティムスマッシュを! ってさけるんかーい!?


 偶然かな? 偶然だよな? 俺の無敵のステルスコート先生を見破って……ますね。


 防波堤へと逃げた黒衣の宰相ベルドールが確実に俺らを認識してやがる。


「あぁ殿下、殿下ぁお久しゅうございます。ベルドールめにございます」

「改めて自己紹介せずともお前のように薄気味悪い男を忘れるものか」

「おや、そうでしたか。ではどうしてわたくしめに剣を向けるのですか?」


 ひどい声だ。聞いてるだけなのに耳をペロペロされているくらい気持ち悪い。伯爵―、ボイスチェンジャーと美少女変換フィルターを早く開発してくれー!


「私に暗殺者を差し向けておいてよくもほざく」

「いえいえ、わたくしはただ殿下の身を案じていただけですよ。あぁまったく不甲斐ない老骨と笑ってください。老いさらばえたこの身では殿下の下に馳せ参じることもできませなんだ……」


 俺らのホテル急降下攻撃をよけておいてヌケヌケと言いやがるぜ。

 しかし老骨ねえ、見た目は四十代なんだが……


「もしかしてこいつ生命の領域に踏み込んでる系魔導師なのか?」

「さっき言わなかったか?」


 もしかして処女の生き血うんぬんだけで察しろと? お前の中のリリウス君どんな小粋なナイスボーイなんですか。


 軽く会話をした感じのまともな会話の通じるタイプではない。不祥事隠してる国会議員を非難するくらい労力の無駄だ。


「コンビネーションで仕留める、オフェンス1031!」

「承知!」


 今のダジャレで何がわかったんですかねえ。こいつ知ったかするんだよなぁ。


 クリストファーが投擲した武器を超加速させるドリッド・スローを放つ。命中して全身の半分ぐらいが吹き飛んだがまったく効いてない予感がする!


「踊れ神器よ!」


 飛翔する神器エルジオンがジグザグに曲がりながら何度もベルドールを刺し貫くがやはり効いていない気がする。ティトの加護が奴の生命力が僅かしか減っていないと感覚的に教えてくれるんだ。


「オリハルコンでは効果は薄い。聖属性で攻めろ!」


 という俺はミスリル銀の大戦斧でぶち込みにいく。アンデッドの大敵ミスリル銀さんはこの手の輩に対しては最強なんだ!


「ナ・ウランガ!」

「旋風斬!」


 広範囲光属性の爆発を避けるために空中を滑っていくベルドールを一瞬で追い越す。俺は地上最速の戦士リリウス君だぜ!


 横回転するミスリルの斬撃とその勢いを利用した聖属性付与ナックルでぶん殴ってやると効果あり。ついでにこいつの黒衣の下に隠れた実体も視認したがさすがに気味がわるいぜ。


 黒衣の下のこいつの肉体はほとんどが千切れ飛んでいる。腕や足なども繋がっていないのに浮遊して意のままに動かせるらしい。


 上位アンデッドのような気体生命体かと思ったがどうやら根本からちがう理屈で動いているらしい。

 稀にこういう魔導師とかち合う。大系化された教科書に載ってる魔法ではなく長年研究した自らの魔法でよくわからない異常な進化を遂げている連中だ。


 だが生命力は減少している。やはりミスリルは効果がある。


「あぁ貴方は厄介ですねえ。先に仕留めさせていただきますよ―――≪ハウンド・ロア≫」


 ベルドールが放った黒くて噛みついてくる謎魔法をものともせずに距離を詰める。

 連発してくるらしいが判断が遅い。間に合わない上に俺のレジストを突破できねえのも理解してねえ。


「潰れろ!」


 ミスリルの大戦斧を立て、ハンマーで潰すみたいにベルドールを地面に叩きつける!


「ガァハッ!?」


 何度も地面に叩きつける。餃子の皮みたいに薄くなるまで叩きつけてやる。とっくに頭も脳もミンチになってるはずなんだがまだ半分しか減っていないか。やはり異常生命の謎を解く方が先か?

 いいや、このまま叩き潰す!


「リリウス避難しろ!」


 砂浜で戦う俺へと異常な高波がやってきた。直接魔法は効かないから水を操ったか。この程度の高波でどうにかなる俺ではないが、大量の海水のせいでベルドールを見失った。


「まぁだいたいわかるけど」

「私から逃げられると思うなよベルドール!」


 俺とクリストファーがびしっと指を差した海面からベルドールが浮遊する。原型を維持するちからはもう無いらしい。右腕と上半身と頭くらいしか再現できていない。幾ら切り刻んでも再生していた黒衣もボロ布同然になっている。


「……驚きましたよ。まさかわたくしをここまで追い詰めるなんて、ねぇ」


「普通なら高笑いとともにベラベラ犯罪歴を語り出すのを待ったり、長話に付き合って回復する時間を与えるところなんだろうが俺は甘くねえ。ステ子やれ」


 ステルスコートから射出された六本の闇刃が宙を走ってベルドールへ。ベルドールは空へ逃げようとしたが闇刃は奴の真下で垂直上昇を始め―――奴を串刺しにした。


 うん、何かを吸ってるね。

 謎の命の原理で動く不思議怪物でも吸収しちゃうのが俺の相棒なんだ。一番怖いのはお前だよステ子!


 五秒ほどでベルドールは消えてなくなった。


 うん、ちょっとすっきりしないがこんなもんだろう。クリストファーもどうも消化不良な表情で肩をすくめている。俺のステ子が超兵器すぎるんだ。さすがヴァルキリーシリーズと共に天界を蹂躙した最強兵器、ステ子に比べれば現代の魔導師なんてカスよカス。


「打ち上げにバーでも行くかい?」

「ナシェカにも働いてもらったしメシでも食わせてやろう」


 この後エレン様も加えて朝まで飲んだぜ。

 ナシェカが酔い潰れる介抱イベントはほんと要らないです。こいつハーフフットだから帝国人の飲みニケーションにはついてこれないんだよね。



 ◇◇◇◇◇◇



 ラタトナリゾート生活も三日目。明け方に帰ってきて四時間だけ眠った俺は朝食を食べに行くという三人に叩き起こされた。昨夜はあんなに活躍したのにひでえ。


「もぉ~~~~、なんでそんなに疲れ切ってるのよ」

「すんません。色々あってクリストファーと朝まで飲んでて……」

「あんたねえ、そーゆー時はわたくしも誘いなさいよ」


 お嬢様とクリストファー引き離し隊なんで無理っす。


「それに色々って何をやってたわけ?」

「そいつは秘密ですよ」


 帝国宰相とかいうお偉いさんを殺したテロリストどもがリゾートにいるんだ。クリストファーとかいう王子の事だな。ちな俺は透明化してたから……


 途中から面倒だから解除してたわ。あれ、深夜の大バトル誰かに見られてたら俺やばくね?


「吐~き~な~さ~い~~~!」


 お嬢様に胸ぐら掴まれてガックンガックン揺すられてるけど黙秘する。色々の部分を教えたら俺逮捕されるもん。


 外の桟橋に出て、桶に張った水で顔を洗う。


「まだ三日目なのか。リゾートの時間って濃厚だなあ」


 リゾートに来てから色々あったので体感一週間はある。黒幕のベルドールもぶっ倒したしノルマ達成だな。あとはのんびり遊ぶぜ! お嬢様へのセクハラもまだしてないしな!

 夜になるとなんでいつも邪魔が入るの!?


「まぁもう邪魔者はいないし今夜こそは大丈夫だろ」


 とか思ってたら桟橋の向こうから誰かがやってきたぞ。

 護衛の騎士をゾロゾロと引き連れて誰かが……見覚えはあるな。


「おいそこの下男!」

「下男って俺のことですか?」

「お前以外に誰がいる。あぁいい、謝罪は不要だ。いいからお前の主人であるバイアット・セルジリアを呼んでこい。模擬皇位継承戦について話がある」


 ば…こいつアデルアードだ! 馬鹿王子だ!?


 だから俺はすっかり忘れていたのだ。まだ何も終わってねえって事実を馬鹿王子のお馬鹿発言のせいで思い出してしまったのだ。最悪!

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