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(旧)ラタトナでいちばんやべー奴

 模擬皇位継承戦とかいう何だかよくわからねえ状況になったぜ。

 一度別荘に戻った俺らだったがどうも寝付けない。状況があまりにもわからなすぎるからだ。こいつはステルスコート先生の出番だな!


「あれ、出かけるの?」

「おう、ちょっくら様子を探ってくる」

「僕も行くよ」


 どうやらデブも色々な背後関係が気になるらしい。

 別荘を出ていこうとしたらシャルロッテ様までついてくるとか言い出した。こいつらアジリティ低いから正直足手まといなんだよなあ……


「露骨に邪魔みたいな目しやがるわねー」

「正直者でごめんね!」

「あんたのそーゆーところ嫌いよ」

「どこを治したら好きになってくれます?」


「顔面」


 それは無理そうですねぇ……


 夜のリゾート調査の前に騎士団の詰め所に寄ってく。どこのコテージやホテルの部屋に誰が泊ってるみたいな情報は騎士団にも報告される。これを悪用すればどこの誰が恋仲だとか、お付き合いがあるとかまるわかり……


 閣下と仲良しのブタ王子がこのリゾート作ったんだよな。まさかここまで考えてた?

 アイリーン様の傑物発言のせいで深読みしちまったがさすがそれはないだろ。どんな知能犯だよ。でも高級リゾートは金銭的余裕のある上級貴族の内情を知るのにぴったりな場所なんだよな……


 まずは親父殿の様子から見に行く。

 改めて考えてみればいくら親父殿でも王女様は口説かない。というか接点が皆無だ。おそらくはアルヴィン様の仕掛けで動いているのだろうな。


 バートランド家所有のお屋敷は二階の一間だけ明かりが点いている。ベランダにさっと飛び移って入室す……

 俺らはすぐに引き返してきた。


「大人ってあんなことしてるの……?」

「もしゃ」

「めっちゃ普通に盛ってやがった……」


 うん、親父殿がね、スクリエルラ王女を後ろから抱き締めながら鬼畜な顔して色々とね……

 これ以上は無理言えない。十八禁というかおうちの恥だからだ。


 俺はとりあえず向かいの別荘の屋根に飛び移り……


「≪天に瞬くストラの星に請う!≫」


 全魔力最大解放!


「≪集え集えちからよ集え、天に瞬く星々からさえちからを徴収し我が名の下に従わせよ! 我が名はリリウス・マクローエン邪神ティトの最も高き信徒なり 我がちからは如何なる壁にも妨げることは叶わず 灼熱の腕よ来たれ、その暴虐なるちからにて大地を灰燼と化すがいい ファイヤーストーム!!≫」


 バートランドの別荘を燃やし尽くしてやった……魔法防壁に弾かれてやがる。


 爆炎の中から無傷の別荘が出てきた。公爵家の物件に付与された障壁を貫通できなかったんだ。特攻文言付与したけど俺いちどきに放出できる魔力量少ないからなあ。


 爆発に驚いた親父殿がマッパで長剣持ってベランダに出てきた。チャンス到来!


「往生せいやぁぁぁあ!」


 反射的に剣を掲げた親父殿だがぶん投げた俺の大戦斧が奴の剣ごと左腕を切断していったぜ。


「ファウル様!」

「来るな、敵襲です! ぐぅぅぅ……どこだ、どこにいる……?」


 なんか親父殿が俺をキョロキョロ探してるのでリクエストに応えて第二波いきまーす!

 デブに止められたぜ。離せ。


「リリウス君、キミは本当に衝動的にやらかすよね……」

「うるせえ、親父の不倫現場目撃した息子の正常な行動だろうが!」


 俺はあのファウル・マクローエンとかいうクズ野郎が大嫌いだ。俺の浮気性質はあいつの遺伝に違いないからだ。


「気持ちはわかるけど……」

「わかるなら離せ。あのクズ野郎はここで殺す」

「……大人ってあんなことするの? 怖い」


 シャルロッテ様はまだ先ほどの衝撃的映像から回復できていない。顔真っ赤にして怯えている。

 この世界エロ本とかAVないからさ、箱入り娘は本当に性知識ゼロなんだ。


「ねえ、あれは何をしていたの? 私達もいつかああいうことするようになるの……?」

「僕らの口からはね……」

「ちょっと伝えにくいな」


 この問題は将来彼女を娶るであろうどこかの貴公子に任せよう。

 俺らも年頃の男子だ。冷静な状態で情事の説明をするのは本当に恥ずかしいんだ。


 そうこうしてたら騎士団詰め所から分隊が急行してきたぜ。あばよ親父殿、次は殺す!


 お次はクリストファーの別荘に向かう。

 模擬とはいえ皇位継承戦に乱入した思惑って奴を知りたいんだ。


 国営レストランの近くにある海辺の別荘を訪ねると何やらギャーギャー騒がしい。二階のお部屋を覗いてみると……


「その時、老婆が私の背中に包丁を突き立ててきた。そしてこう言った。お前が夕飯になるんだよ!」

「ひい!?」

「うひゃー……」

「あわわわ……」


 怪談やってましたね!


 なんか知らんがエレン様とマリア様とナシェカもいて、クリストファーの怪談聞いてるんだ。エレン様だけシーツかぶってブルブル震えてる。意外!


「後で聞いた話だがそこは旅人を食べて暮らしている村だったんだ。優しそうな人々に見えたのは擬態さ。廃屋の中には大きな穴が掘ってあって、そこは旅人から抜いたモツを捨てる……」

「聞きたくない、聞きたくなーい!」

「えぐぅ……」


「クリス様背中刺されたんですよね。チェインでも着込んでいたんですか?」

「いや、私の肉体はミスリルでも傷一つつかないから」

「「パーフェクトソルジャー!」」


「ね…ねえ、その話おわりまして? もう耳塞がなくてもよろしくて?」


 小動物みたいでエレン様超かわいい。

 いつも強気で高飛車な彼女にもこんな弱点あったんだなー……


 透明解除!


「お前を食べちゃうぞー!」

「「あばぁあああああ!」」


 深夜の別荘に魂の飛んでいきそうな悲鳴が轟いたとさ。てへ!


 五分後、俺はエレン様からめっちゃ足蹴にされてる。パジャマ姿の美少女から蹴られるとかご褒美かな?


 マリア様はベッドに下に隠れてるけど震えるお尻だけ見えてる。

 ナシェカの姿はない。と思っていたらズブ濡れで戻ってきた。窓から海へ飛び込んだんですね。


 クリストファーはさっきからゲラゲラ腹を抱えて笑っている。どんだけ面白かったんだろうな。ひーひー言ってる。


「あばーって……クククク…あばーってクハハハ!」


 面白かったのは半泣きで叫んだ女子の驚きっぷりらしい。

 俺はとりあえず模擬皇位継承戦に参加した理由を聞いてみる。


「面白そうだから参加してみた」

「最低な理由だな」

「もしゃもしゃ、クリス様もけっこうやべー人だよね。もしゃもしゃ」

「王族って変な人多いのね」


 俺らの忌憚のない率直な意見にちょっとだけムッとしたらしい。難癖つけてきた。


「そもそも君の兄君が引き起こした混乱じゃないか」

「元をたどれば鳥籠事件が発端だろうが」


 つまり元凶はフーベルトとかいうケチな詐欺師だ。ちなみに生きてる。スラム街に放置したら食人されるみたいなことを言ったがあれは厳冬期のお話で、春夏間の食糧事情はそこまでじゃないからね。騎士団本部の地下牢に入れられたわ。


「で、どんなスタンスなんだ。街頭演説でもして政策を訴えるのか?」

「静観する」


 やる気ねー。


「本当になんのために参加したんだ?」

「現時点で私にどれだけの票が集まってくるか知っておきたい、みたいなまともな理由を期待しているのか? 皇位継承権など重荷でしかない。捨てる機会を利用しただけだ」

「もしゃもしゃ、クリス様ならいい線いくと思いますのに」


 エレン様がデブのポップコーン食べてる。叫んで暴れてお腹空いたんですね。


「その気があるならオージュバルトから推して差し上げてもよろしいのですよ?」

「よしてくれ、まったくその気がないのに変な夢を見てしまいそうだ」

「クリス様には夢を掴む実力もおありでしょうに」


 ん~~~~~危険センサーが反応してる。誤作動かな?

 クリストファーもどこか様子がおかしい。悪意に反応しているが相手の場所までつかめていないといった様子だ。


「なんだと思う?」

「わからん。だがリゾートに着いてから度々影のようなものに視られている感覚がある」


 俺らは超レベル戦士だ。戦いの中で研ぎ澄ませてきた感覚はスキルの有無を除外しても常人より遥かに鋭い。時々犬が何もないところに向かって吠えてる時あるよね、あれと一緒。何かいるの。目に見えない何かが。


 エレン様が俺らの話に混ざりたそうにしてるぜ。


「何の話ですの?」

「影のような変な監視者がついてるってお話」

「……怖いお話ですの?」


 怪談じゃないよ。現在進行形の危機だよ。

 ゴーストという感じではない。もっと慎重で狡猾で知性のある存在なんだろうな。


「寝入ったフリをして誘い込んでみるか?」

「いや、気づいたのがバレたらしい。いなくなった」


 危険センサーの反応も治まった。

 どうやら厄介な隠形術の使い手らしい。


「マーキングできないか?」

「直接この手で触れることさえできれば可能だが……」

「たしかにそれは問題だな」


 居場所のはっきりしない影に触れるチャンスがあるなら先に殺すわ。

 どうやらこの模擬皇位継承戦、穏やかには終わりそうもないらしい。



 ◇◇◇◇◇◇



 ラタトナリゾートが誇る国営ホテルは帝国にしては珍しい鉄筋コンクリート八階建て。地上四十メートルの屋上から夜景をカメラに収めるエロ賢者ガイゼリックが笑っている。


 最大望遠600メーターも夜間となれば100にも届かないが、撮影は不可能でもレンズを通して目視することはできる。


 レンズ越しに見たリゾートの夜景。防波堤沿いに等間隔に立つ魔導街灯の上に奇怪な人物が立っている。何かに気を取られているのか、海辺の別荘の方をじぃっと見ている。


 ガイゼリックはその人物へと向けてシャッターを切った。優れた相棒ルーシェ・ブレイブファイターは盗撮モデルだ。シャッター音はしない。


 それなのに街灯上の怪人は盗撮を察知したみたいに夜の闇に溶けていった……


「リゾートに謎の怪人あらわる。号外を出してもいいタイトルだな」


 怪人は去ったがシャッターを切る価値のある夜景はいまだレンズの向こうに広がっている。惜しむらくはこれらをきちんと写真に残すことができない点だ。


 夜の世界はこんなにも美しいのに、写真にして永遠に残せない。まるで夜そのものが拒んでいるかのようだ。


「人の世はかくも目まぐるしい。人生は短いからこそ美しい。フッ、夜の海は少年を詩人にするな」


 ガイゼリックがくつくつと笑う。この世を支配する魔王のように、全知全能の神のように、何もかもがうまく運んでいる喜びを押さえきれずにくつくつと笑う。


 彼は手元にあるB組バカジョ四人組の更衣室での写真へとキスをし……

 ガハハ笑いを始めてしまった。


「待っていろよお客様どもご希望の写真なら大漁だ。明日も撮って撮って撮りまくるぞッ、大儲けだ!」


 大混乱のラタトナリゾートでただ一人だけ望みの結果を得た男がいるらしい。ガイゼリックとかいうガチンコの性犯罪者だ。


 騎士団は早くこいつを捕まえた方がいい……

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