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(旧)ドS王女の殴り込み

 王子二人の密談を盗み聞きした女子が二人いるらしい。死刑かな?


 クリストファーの両脇に小荷物みたいに抱えられたマリアとナシェカはこの後待ち受けるかもしれない仕打ちに……少しドキドキしていた。


「これはアレだよね、お前の体にわからせてやるって展開だよね?」

「クリス様も男だねー、憧れの優しくしてねとか言っちゃう?」

「定番すぎる。もっとひねったのないの?」


「ご歓談中のところすまないがね、そーゆー面白い展開にはならないから期待しないでくれ」


 本当につまらない展開だ、そのまま一階のパーティーホールまで連れて来られてしまった。


 ソバカスの愛らしい美人給仕からワインを受け取って四人揃って壁まで移動する。お話があるって態度だ。


「醜態をさらしたな。これは私からの詫びだ、飲んでくれ」

((このワイン無料の奴だよね?))


 しかしグラスを掲げる姿がキマっているので細かいことは気にしないことにした。だって小銭大好きドケチ王子だもん。


 このやり取りにおかしみを見出したのかエレンが声を殺して笑っている。きつめのお顔立ちだけど素の表情は意外に愛らしい。


「覇気のある殿方の姿を醜態と思う淑女はおりませんよ。あのフレーズ特に痺れました、交渉というものは対等のちから関係にあって初めて成立するでしたか?」

「裏社会のドンの使いそうなフレーズですけどねー」

「いやいやあれは真理だよ。うちの父ちゃんもよく舐めた行商人の髪の毛掴んで池に頭つっこんであんな交渉してましたもん」


「「え……?」」

「マリアそれカツアゲだよ。アイアンハート家マジどーなってんの?」


 アイアンハート家の闇が軽く暴露された一幕だった。

 でも三人は深くは考えないことにした。たぶん軽いノリの出来事だったはずだからだ。そう信じたいだけだ。


 お話は自然にアデルアードとの一幕に戻る。そもそもレティシア・レンテホーエルとは何者かという疑問についてだ。


「レンテホーエルという家名は私も初耳だった。だが納得もした、教養をにおわせるところもあった、まさか貴族の出とは思いもしなかったがね」

「平民だと思っていらしたと。どちらでお知り合いになられたのです?」

「詳しく語ろうとは思わない、失恋の思い出なんてそう思い出したいものではないだろう? ただ私が彼女に恋をし、私をよく思わない皇族が彼女を殺した。帝都に南西に小丘があるだろ? 彼女はあそこに眠っている、私の永遠の愛と共にな」


「強い言葉で誤魔化しにきてらっしゃる」

「こんなん根掘り葉掘り聞けないよね?」

「そうですの? わたくしはむしろ強く興味を惹かれましたのに」

「ふふ、ちなみにここで退くとポイント高いぞ?」


 柔らかな微笑みでのたまうクリストファーだが、裏を返せば踏み込むからには覚悟を要求している。

 踏み込めばきっと二階でイケナイことをされてしまうにちがいない。ヴァイオレンスな奴だ。


「エレン嬢、ここがターニングポイントだ。退くなら今夜のうちにご実家に戻れ」

「またとない面白そうな事態ですもの。ぜひご一緒させてくださいませ」

「わかった。私から離れるなよ」

「はい」

「マリア、ナシェカ、お小遣いは足りているかい?」


 クリストファーがポッケの巾着を投げてきた。銀貨が十枚くらい入ってそうな重みだ。王子様の物にしてはショボい……


「ヴァカンスの最中に頼みごとをするかもしれない。働いてくれるか?」

「「ラジャ!」」


 二人揃って敬礼である。ダメな子ツインスパイ誕生の瞬間である。


 パーティーホールが騒がしくなった。二階からアデルアードが降りてきたからだ。先ほどの醜態をどうにか取り繕っているアデルアードは王子にして威厳が足りないが、まずまずの威風を利かせている。

 この短時間で立ち直れたのは背後のファウストも理由だろう。

 挨拶のために集まってきた大勢の前で、アデルアードが声を張り上げる。


「ぼ…僕には夢がある。それは帝国の古の姿を取り戻すことだ!」


 夜会参加者がどよめく。

 こいつはいきなり何を言い出す気だ? どよめきは混乱のように広がっていった。


「みなも知ってのとおり古の帝国は豊かな土地だった。頭を垂れるほどに実る小麦畑がどの土地でも見られるほどだった。だが今はどうだ、年々大地は凍りつくばかりで民は冷害に苦しんでいる。僕らの口に入る食物のほとんどは他国から奪ってきた戦争略奪品だ! 民の多くはそれさえも口にできずに寒さと飢えに苦しんでいる!」


「殿下は何の話をしている?」

「いまさらだな。我が国はずっとそうしてきたではないか」


 集まりの方々は否定的というか絵空事だと相手にしていない様子。

 皆この続きを察している。どうせ民を救いたいとかいうきれいごとだ。子供の考えるこうすればいいは大抵現実味がない。予算無制限で能力的にも限界のない不眠不休で働く超人類数千人を集めてどうにか実現できるプランなど放言されて、できない理由を怠慢や無能だと罵るのだ。


 実際に国政に参与して国家を動かしている者どもからすれば「じゃあ一人でやってみろよ」という話だ。領主からすれば「くだらない戯言」で終わる。民草はそう優しい相手ではない。常に不満を口にし我欲のために武器を持ち出して賊徒へと変貌する彼らの頭を抑えつけるのに苦労している領主も多い。


 これは意識と慣れの問題であり、帝国の貧しさに慣れているのは何も民だけではないという話だ。


「この不幸は国政を与る者の怠慢だ。民の命を握っているにも関わらず無限にはえてくる雑草にように考えている為政者の無関心が引き起こした悲劇だ。僕はこの国を変えたい! 民のすべてを救うことなど僕にはできないかもしれない、だが少しでも多くの悲劇をなくしたい。僕は……目にする民の顔を泣き顔ではなく笑顔に変えてやりたい。皆には協力を約束してもらいたい!」


 アデルアードが大きな羊皮紙を広げた。

 そこに書いてある文言を見た瞬間にみんなの冷笑が引き攣った。


 アデルアードを次期皇帝と仰ぎ、無制限の協力を強要する血の連盟状だ!


「ここにサインを! 署名せぬ者はけして帰さぬと思え!」

((馬鹿王子が馬脚をあらわしたー!?))


 言ってることは具体性皆無のゼロ演説だったけどお優しい方なんだろうなってちょっとだけ好評価してた方々まで驚愕しているぞ! 民に優しくしたいのはわかったが貴族に厳しいとかどんな理屈だよ!


「もしゃ…途中まではね」

「そうだな。途中まではちょっとだけいい奴かなーって思った、うん」

「正体あらわすの早かったわねー」


 三馬鹿プラスワンまでこの評価である。四人目がいたら怒鳴り込んで引っぱたいていたにちがいない。命令されたリリウスが……


 離宮を警備する騎士が出入り口を封鎖する。こんな仕事やりたくねーって顔でとおせんぼしているのである。


「さあ回答しろ! 僕と共に帝位を駆け上がるか否かを!」

「いい加減になさい!」


 なんか美しい淑女がズカズカと乗り込んできたと思ったら―――アデルアードを引っぱたいてしまった!

 ばしーん☆と頬を平手打ちされた第四王子が床を舐める。


 そこにさらに扇子による追い打ちをかけようとしたレディーはパートナーのどこかヒモくさい中年男に止められている。


「どーどー! プリンセス、あまり無茶は」

「ええい、お放しなさいマクローエン卿。この卑劣漢には鞭が必要なのです!」


 なんか知らんが愉快な連中がやってきた。


 背後から羽交い絞めにされて、ジタバタ暴れている愉快なレディー……いや、プリンセスに見覚えのある者もいるようだ。目を丸くして驚いている。


 だが第一王女スクリエルラの登場に誰よりも驚いているのは未だ立ち上がれないアデルアードだ。


「あ、姉上? どうしてラタトナに?」

「ファウル様からヴァカンスに誘われたからです! あまりにも情熱的に口説かれるのでつい付いてきてしまいましたが、どうやら正解だったようですね!」

「もうヤダ、なんであいつ王女様口説いてんの……」

「父上……」


 どよめく会場に実の息子二人の切なそうなため息が漏れた。


 会場のド真ん中で王子と王女がギャーギャー喚いている。


「大人しく王宮に帰りなさい。ブタ兄様に頭を下げるの!」

「い…いやだ! だってベル……とにかくいやだ! 姉上こそ宮廷に戻れよ!」

「わたくしはステキなおじさまとラブロマンスするの! あんただけ帰りなさい!」

「わがまま女!」

「弟の分際でぇぇぇえ~~~~~!」


 今にもとっくみあいになりそうな雰囲気だがファウルが止めているのはスクリエルラだけだ。アデルアードから殴り合いにいくことはなかった。


 それが彼の本質なのかもしれない。口ばかりうるさいのに何もできない。その口でさえ誰の心も動かせない。最も尊き血族に生まれながら何も持たぬ少年、それが彼の本質。


「あんたなんかがブタ兄様に敵うわけないじゃない。ダーティプレイは兄様の独壇場よ、あんたなんかすぅぐ暗殺されておしまいだわ!」

「うるさいうるさいうるさい! 僕のことなんも知らないくせに、僕は皇帝になる。絶対に譲らない!」

「むきー! では決着をつけましょう!」


 みんなスクリエルラには期待感を持っている。この何を言い出すかわからない馬鹿王子よりも外交親善大使なんかで他国に行く機会もあるスクリエルラの方がよほどまともな人物だと知っているからだ。


「このラタトナにて模擬皇位継承戦を行います!」

「「はい……?」」


 みんな首をかしげてる。聡明な王女の口から耳を疑うような単語が出てきた。


 次代の皇帝を決定するのはレギン陛下だけだよ?って顔してる。下級貴族や騎士候家クラスでは皇位継承にまつわるデリケートな部分を知らない者もいる。純粋に皇室を崇めている者も多い。

 皇室をないがしろにしているのは上級貴族の一部だけだ。


 スクリエルラ王女が弟の頭がちからづくで押さえつけながら続ける。


「誰が最も皇帝位に相応しいのかこの場のみなさまに投票で決めていただくの。票集めの期間は一週間、本日から七日後の夜会にて投票を行い決定します。敗者は皇位継承権を放棄する。いいですね!」

「望むところ―――頭おかしいのかよ!? そんなの受けるわけがない!」

「あら、負けるのが怖いの? わたくしにさえ勝てないでブタ兄様に敵うわけがないじゃない。あんたはそれをここで認めるのね!?」

「ざけんな。わかったよ、いいよ、やってやろうじゃないか!」


 ここにラタトナを舞台とした模擬皇位継承戦の開催が決定された。

 この夜会に集った貴族234名によるポイント選挙制。ポイントは家格に比例して決まり、侯爵家50、辺境伯家を30、伯爵家を20、子爵家を10、男爵家は5、騎士候家は1とし当主格は倍のポイントとすることが宣言された。


 怒涛の宣言とおかしな成り行きに困惑する会場に……挙手をする男がいた。

 クリストファー第二王子だ。


「私も参加していいだろうか?」

「聞いてのとおり勝者には何もない泥試合でしてよ?」


 なのに負ければ皇位継承権の剥奪。何のメリットもない戦いに好きこのんで参加する必要はないはずなのに、クリストファーは面白そうに笑っている。その目は一瞬だけファウルへと向かい、互いにニヤリと笑う。



「せっかくのお祭りを蚊帳の外で過ごすのは辛いね。どうせなら派手にやろう」

「よろしい参加を認めましょう。期間は一週間、結果は最終日の夜会で! さあみなさまご存分に踊ってくださいましね! のちのちの事もきちんと考えて投票するのですよ! オーホホホホ!」

(そういえば……)

(こういう御方だった……)


 帝国第一王女スクリエルラは超がつくほどのドSだ……

 ほんの僅かな希望だけ持たせた弟をこの一週間徹底的に弄ぶ気だ……


 今夜のことはスクリエルラのご尊顔を初めて拝する者達にも、彼女の悪質な性根を一発で理解させるにあまりある出来事だ。



 ◇◇◇◇◇◇



 一方その頃ロザリアはリリウスお手製のエロすごろくで遊んでいた。


 とても簡単なゲーム性だ。サイコロを転がして駒を進め、マスに書いてある指示に従うだけ。


「三ね。え~~~と、隣の人の膝に乗る? 膝枕でもオーケー?」

「ロザリアここへ来い」


 胡坐に座るガーランドが膝を叩いているのでそこに乗る。ちなみにもう片方の膝にはラストが乗っている。


「むぅ、隣の人の好きなところを三つ言えときたか。まいったな……」

「ウフフ、ロザリア様の方へと逃げてもいいのですよ?」

「まいったなあ」


 エロすごろくで遊ぶのは初めてだが三人とも何かおかしいな?って思いながらゲームしてる。


 本来は恋人と二人で遊んで気持ちを盛り上げていく用途なので妹も交えて三人で遊ぶのはおかしい。そういえばこれを渡した時リリウスは含み笑いをするだけで何も説明していなかった。


「あらあら、隣の人の指を一分しゃぶる?」

「まいったなあ」


 ガーランドだけが妙に悶々とする夜が更けていく。

 でも三人はとても仲良くなれた。

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