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(旧)赤い魔女の来訪

 どうやら結婚に焦ってる喪女が遥々海を越えてやってくるらしい。

 とんでもねえ事実を閣下から聞いた俺はファウストの事なんかすっかり忘れてラスト対策を考えながら男子寮に戻ると……


「来ちゃった♪」


 俺の部屋にラストがいた。

 俺のベッドにラストが腰かけていた。どうして!?


 あ、手紙を運ぶ船便に乗って一緒に来ちゃった奴かー……

 手紙何の意味もねえ。


 ラストの横にはアーサー君がいる。姉そっちのけで読書してる。クソ度胸あるなこいつ。ラストから漏れ出す最恐の暗黒オーラ無視できる人類がいたとは驚きだぜ。慣れか。


「えっちな本とかないのね。びっくりしちゃった」

「俺はあんたが部屋にいることに驚いてるよ。でも船にしては早くね? もしかして飛空艇使った?」

「ええ、せっかくの遠出だから船長も喜んでいたわ。五日で到着するんだもの、本当に便利よねー」


 ラストはリリウス・マクローエン商会のお得意様だ。伯爵の工房から買ってきた飛空艇やらホバークラフトを溢れる財力で購入してもらっている。

 ちなみに法的に完全アウトな商取引だから太陽の王家にはナイショだぜ。


「まさか姉上の飛空艇が君んとこで買ったものだなんて思いもしなかったよ。手広くやってるんだな?」

「あてこすりはやめてくれ。商売は真心第一、大事なお友達のためなら規制品くらい調達するさ」

「随分とボッタクリされたけどぉ?」

「天才科学者アルステルム伯コンラッド製の最新モデルだぞ、普通に流通させたら十倍はするよ」


 その前に太陽の王家から暗殺部隊送り込まれるけどな。

 飛空艇は国家機密だから外国に横流しなんてやっちゃいけねえんだ。軍事転用されたら世界大戦が始まっちまう。

 ラストは約束した事はきちんと守ってくれるから俺も安心して売れるんだ。兵器とかな!


 思い出話に花を咲かせてるとスパイ女中がやってきた。


「ぼっちゃーん。消灯時間ですよー……(硬直)」


 スパイ女中が悪い夢でも見たみたいな顔して去っていった。スパイだから他国の要人の肖像画くらい見たことがあるんだろうな。


「あらあら、今の子もしかして彼女?」

「昔うちの屋敷で働いてたスパイ女中だよ」

「それは働いていたっていうのか?」

「悪事の方ではあるわねえ」

「うん、自然にローズブラッド抜くのやめよっか。あんたのお見合い相手の部下だよ」


 説得成功。正義執行じゃなくて、お見合いに来たんだもんね。


 今夜はアーサー君のお部屋に泊まるというラストを送り届け、俺はめいっぱい息を吸う。


「アーサー君が女連れ込んでるぞぉぉぉおおお!」

「タレコミだぁあああ!」

「吊るせええ、アーサーを吊るせぇぇ……えええええ?」

「アーサー様が女遊びとか逆にビビるわ。どんな子だ!?」

「ガイゼリック、一眼レフ持ってこい!」

「スキャンダル貰ったぁー!」


 やじ馬どもがドドドと駆けつけてくるのを尻目に、俺はゆうゆうと自室に戻っていった。デブが帰ってこねえんだが朝帰りか?


 翌朝、男子寮の食堂でラストが普通にご飯食べてる。

 最近不法侵入者多くない? 男子寮の男子の部分が機能してねえよ?


「ラスト様、こちらをどうぞ」

「熱いのでお気をつけください」

「このハンカチをお使いください」


 ラストの正体を知らない男子に超ちやほやされてる。アーサー君の姉って情報だけ聴けば物静かで美しい姫様だからね。機眼持ちだけど。


 知る人ぞ知る機眼持ちというワードはやべー奴の証明書みたいなもんだ。俺でさえこれを持ってると確信できる人物はガレリアの複製人間を除けば数名しか知らないという、最強に至る道の一つとも数えられる超レアスキルだ。


 発芽条件は多くの生命を害してきたとかいうアレ。ラストは騎士団長でありながら異端審問官だからお察しだよね……


「みなさまありがと~~~~」


 男子から超ちやほやされてるラストがご機嫌だ。女としてのプライドが高まってるのが手に取るようにわかるぜ。こちかめの前半パート感ある。このあと伸びに伸び切った鼻っ柱叩き折られるんですね。


「でね、リリウス君あのね、お願いがあるの~~~~!」

「ガーランド閣下にアポ取れってんでしょ?」


 閣下はマジ鬼いそがしい癖にワーカホリックだから国内をビュンビュカ飛び回っている。これ比喩じゃなくて飛翔魔法でマジで飛び回ってて月に七日も帝都にいないんだ。

 当然スケジュールなんて把握できない。騎士団長のスケジュール公開されてたら反乱分子が大喜びしちまうからね。ま、昨夜は本部にいたしこのまま朝早くに押しかければいるでしょたぶん。


「さすがリリウス君ね、頼りになるわぁ」


 うん、なんかもうラストの泣きべそ見たくなってきたわ。

 もう逆にどんな恐ろしい事態になるのか見たくなってきたもん。一旦食堂で分かれて玄関に集合する。アーサー君も一緒だ。


「君はどうしてそんな重装備を……」

「ぜってえひでえ目に遭うの見えてるじゃん。ほら、ミスリルのシャツ貸してやるから下に着こんどけ。この煙草はレジスト力高める奴だ、念のために吸っとけ」


 当然ステルスコートだけ透明化させた状態で羽織っておく。ブーストポーションも飲んでおく。ラストお得意のドラゴンブレス級戦技対策には必須だ。あの喪女攻魔8800あるからな。計算上18000確保しておかないと消し飛ばされるんだ。


「アーサー君レベル幾つ? レベルアップもしておく?」

「……何が起きるんだ?」


 この世に地獄が顕現する。

 ラストのあの手紙を見ちまった時点でこれからのお怒りが目に見えるんだ。よしんば閣下がいい感じに切り抜けたとしても地獄は未来に投げられたにすぎない。


 玄関に行くとドレスアップしたラストがいたぜ。この美しい王女様も俺の目には巨大なエルダードラゴンにしか見えねえんだ。


「ではお見合いにいきましょ♪」

「「おー!」」


 セグウェ…じゃなくてリフターに乗って騎士団本部に押しかけるぜ!


 夜勤の交代時間もそろそろな騎士団のお姉様方がすげえ気さくに手を振ってるぜ。これ俺が地獄を引き連れてきたこと知らねえ奴だな。逃げな、なるべく遠くにさ!


「リリウスー、また化粧品の試供品もってきてー!」

「化粧水たくさんー!」

「あれ売り物だから買ってくれよ……」


 商会がクソほど赤字だから騎士団に試供品渡して顧客になってもらおうと思ってるんだが無料に味を占めてやがる。だから値引きは嫌なんだ!


「君は本当に手広くやってるんだな。相当儲けてるだろ」

「それが赤字で困ってるんだ」

「リリウス君のお店最高級品しか扱わないから顧客を選ぶのよねえ。品質が担保されてるからわたくしは助かるけれど」


「そもそも空中都市の富豪向けに始めた商売だからね。中間層向けの独自ブランドも立ち上げてるけどハイエンドの売り上げに頼り切りなんだよな」

「商品にお顔入れてるのは失敗だと思うのよね」

「やっぱり可愛いロゴマークとかに変えた方がいいかな? いやお前の顔なんか入れねえよ、ラスト商会になるじゃねーか」

「でもほらほら、可愛い可愛い♪」


 クソほど調子に乗ってやがる。男子寮の馬鹿どもにどれだけ自信貰ったんですか?

 シャワー浴びたてで半裸シャツのウェーバーさんに取り次いでもらうぜ。


「朝も早くから他国の王族連れてくるなんて、相変わらずトラブルメイカーねえ」

「へへへ、ごめんね」


 女性的な雰囲気のある閣下の副官のウェーバーさんとは長い付き合いなんで笑って許してくれたぜ。閣下は中庭で素振りしてるってさ。


 中庭では上半身裸の閣下がミスリル銀のこん棒を振り回している。足さばきも重心の移動も水流のようにスムーズだ。武術を齧ってからあれを見ればわかる。閣下の超抜パラメータよりもあの極限まで磨きぬいた武錬こそが恐ろしい。

 あれはあれで九式竜王流とは違った形の武の頂に届こうとしているのだろう……


「ねえねえリリウス君、それ貸して?」

「はいよ」


 ラストにミスリルの大戦斧を貸してあげた。

 やべえ、流れるようにスムーズに地雷女に武器渡しちゃったよ!?


「しょ~~~ぶ♪」

「誰だか知らぬが面白い、受けて立つ!」


 閣下とラストの武器が衝突する。衝撃波が暴風となって俺とアーサー君を打ち倒していった!


 そして十五分後。

 両者肩で息をしながら座り込んでいる。とても満足のいく試合だったのだろう、互いにすっきりした面持ちで快活に笑い合ってるぜ。男子なら友情芽生えてるところだ。


 ラストが濡れタオルで閣下の汗を拭ってる。女子力勉強したんですね?

 閣下はなんだか呆然としてる。いつも眉間に寄せている皺もなく、どことなく呆けた顔つきでラストを見つめ続けている……


「可憐だ……」

「はい?」

「貴女は可憐で勇壮で好ましい。名も知らぬ女性よ、俺は貴女に出会うために生まれたらしい」


 ラストと閣下が抱き締め合い始めた。

 何だかよくわからないけどこれ何がどーなってんの?


「で、オチは?」


 俺の空しい言葉は風に消え、何だかよくわからない内に成立したカップルが互いを求め合うみたいにキスしてる。オチは?



 ◇◇◇◇◇◇



 あれから一週間が経った。閣下主催の社交界で正式に婚約が発表されてようやくオチがないのだと気づいた俺氏。


 なんかもうただただ呆然としてる。


「ガーランド・バートランドはこのラスト・フィア・ベイグラント王女と正式に婚約する。この運命の出会いを拍手で迎えてほしい」


 もう驚きすぎてこの一週間なにやってたか思い出せねえぜ。

 アーサー君なんかずっと泣いてるしな。嬉し泣きだわ。


「姉上…姉上……」

「ほらハンカチ貸してやっから」

「……(ずびー!)」 


 おろしたてのハンカチで鼻かまれたぁ。


 騎士学院からも参列者はいる。お嬢様もデブも目頭に涙浮かべて拍手してる。ドロア校長や他の職員も来ているぜ。


「無論二人の未来には様々な試練が待ち構えているだろう。だがラストと二人ならどんな試練も乗り越えていけるものと確信している。如何なる困難も跳ねのけ、式は来年の五月に行う。これはガーランドの名において決定する!」


 すげえ、浮名は流しても結婚すると決めたら怒涛の快進撃じゃないですか。

 男としてこうありたいとは思っていても中々できることじゃない。この世界の結婚や離婚って書類一枚でどうにかなるものじゃないから普通もっと慎重にやるものなんだ。特に貴族や王族となれば色んな関係も生まれるしね。


 この女に惚れたから結婚する。問題は一年以内に片づけるって正式に発表できる度胸は本当にすげえと思うぜ。

 ディアンマ持ちの様々な欠点伝えたのに「それがどうした」で一蹴されたしな。マジすげえよ。


「さあ乾杯だ、二人の永遠の愛のために!」

「「二人の永遠の愛のために!」」


 それから二人は騎士団本部の広大な敷地の隅っこにこじんまりとした仮家を建てて同棲を始めたらしい。それは夏頃のお話だ。


 う~~~ん、まだ驚いてる。まさか閣下がなあ。ゲームだと独身だったんだけどなあ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] おめでとうございます! [一言] え!?これ本編に引き継がれてくんですか!?
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