3曲目 時計塔
___3曲目 時計塔___
私たちは時計塔に入った。そこは、薄暗くて埃っぽくて不気味な場所だった。ギィギィと歯車が一定の速さで動き続けている。その歯車を取り囲むように設置されている螺旋階段。とても長くて、手すりも無くて、すごく怖い。
「Alice様?大丈夫ですか?」
階段を昇りながら震える私に問いかけた。
実は私は高所恐怖症である。こんな高い階段を昇れるわけがない。
「昇れないのなら....。」
そう囁いて、アンジェラは私の腰を抱いた。
「私が連れて行きます。」
そう言ってアンジェラは空中に何かを書き始めた。それは何故か金色に輝いている。きっと魔法陣と呼ばれるものだ。図書館の本で見たことがある。
「行きますよ。」
アンジェラの発した声がまだ届かないうちに私たちは歯車の隙間を通り抜けながら上へと昇っていくのだった。
―私が此処に居ることによって、周りの親切な人達をどれだけ傷つけたのだろう。―
――――――――――――
「ルイスさん...。ルイスさん!!」
アンジェラが最上階にあるドアを叩く。
此処の管理人はルイス・エドモンドというらしい。
「アンジェラ様ですか!?」
中から明るい少年の声が聞こえた。
するとすぐにドアが開かれた。
「アンジェラ様と....貴女は?」
まだ高い場所への恐怖が消えず、青ざめた顔をしている私の代わりにアンジェラが「Alice様です。」と言った。
「すいません。彼はいつも時計塔にいるもので。」
アンジェラは私に向かって苦笑した。
中にはいると、階段のところにあるよりも、たくさんの歯車がその部屋にはあった。
「遅いから心配したのですよ?」
そう言いながらルイスはテーブルに野菜やサーモンがたっぷり挟まれたサンドイッチを並べた。
それを3人で食べた。
私は疲れていたのであまり話さなかったが、アンジェラとルイスは楽しそうにずっと話していた。
あくまでも私の予想だが、この2人はお互いが特別な存在なのだと思う。それは....愛だと。
そんなこんなで昼食は食べ終わった。
「Aliceさんはどこに住んでいらっしゃるのですか?」
ルイスが聞いてきた。
「私はこの世界の人間ではないの。道化師に連れられて此処の世界に来たの。」
私が望んでいた非日常。これを手に入れれば全てが上手くいく。そんな考えはとんだ誤算だった。
「Alice様...今...道化師と言いましたか?」
血の気の失せた顔でアンジェラが聞いてきた。
「ええ...。時の道化師。」
道化師に何か問題でもあるのだろうか?
この世界の人にも被害を及ぼすような奴なのだろうか?
「彼は殺人鬼です。そして最強の魔術師でもあるのです。」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
まさか....、と私は思った。