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『七行詩集』

七行詩 201.~220.

作者: s.h.n



『七行詩』


201.


神は今、どんな権利をお与えになり


君が連れ出した 風景の中


置き去りにするようなことをして


私は一人 悪夢に迷い込んだよう


ああ誰か、マッチを買ってはくれませんか


それとも やがて消え入る 炎になど


その身を投げはしませんか



202.


闇は今、深く私を包み込み


茹だり 凍える 風景の中


貴方一人を待つために


振り払った手の 報いだとでもいうのですか


ああ誰か、花を買ってはくれませんか


それとも年老い 枯れゆくものなど


もうその手には 取れませんか



203.


いつかこの道を 君が通ると知ったなら


僕は立ち止まり すれ違うのを待つでしょう


いつかこの場所を 君が望むと知ったなら


名を刻み 僕が居たことを 知らせましょう


君が此方より 遅い黄昏を 迎える頃


君を呼び 木霊する声が 届く頃


"彼は誰?"と 片割れの糸を 手繰るでしょう



204.


風は凪ぎ 記憶の浜辺に 辿り着く


手からこぼれる 砂は数える


君の名を 呼ぶのをためらった分だけ


足元に降り積もる時間


その砂を もし分け合えていたならば


ここには二つの足跡が


幾重にも 敷き詰められていたのかな



205.


"私"はあなたに 会ったことはない


記憶など まるで聞かされた昔話で


水底の"わたし"の部屋を 訪ねては


引き上げた手で 再び海へと突き落とす


刻まれた それほどの痛みを


今は忘れて 過ごせるのなら


それは別人と 呼べるでしょう



206.


人知れず 貴方は優しく 見つめては


光に隠れる 真昼の月


淡い横顔を 潜ませるのです


夜は世界が 目を閉じて


ともに星空の夢を見る


そこでようやく 顔を出すと


闇を照らし 恋人たちを見守るのです



207.


時間とは 積み重なる面だとしたら


走る速度でページをめくり


何億枚の絵の中で 僕の心臓は動いている


出会いとは 二つの道行きの接点で


すれ違い 枝分かれしても


続いてゆく物語のための


ただの通過点に過ぎない



208.


一つの同じ 地図をにらんで


二人の未来 まっすぐな道は描かずに


遠回りしよう 貴方に花を摘んでくるから


貴方は今日 パンを焼くために


市場へ行ってはくれないかい


二人が食卓に 持ち帰るものが


いつの日までも 温かいものでありますよう



209.


認め合うには 正反対であることだと


もしも誰かが言うのなら


出会った時 似た者同士でなかったなら


どんな風に 見つめていればよかったのか


歩いては 汚れた靴の 先を追い


僕はビー玉を拾った 君はお花を摘んでいた


たったそれだけの違いなんだ



210.


秋の暮れ 空は夕暮れ この道で


桜が散って 久しくも


朱に黄色に 輝く木々は


命を燃やしているようです


僕らも色を 塗り替えていく


同じ道を歩いていても


同じ話をしていても



 『常夏の 青に思わば 色彩も

  黄金(こがね)に光る 秋の夕景』



211.


それはただ 私のための物語


それは二人のためでなく


ただこの両目に映すため


再会を待つためでなく


ひとりで生きてゆくために


それは貴方のためでなく


それはただ 私のための物語



212.


不器用なら 言葉に悩めばいいでしょう


口にせずとも 分かる人は


ずっとその言葉を知らない


最初から全部 持っていれば


逃がさぬよう 縛り付け 手に滲ませる


血と涙の味しか知らない


悩む僕らには 歓びを知る 権利がある



213.


左右の歩調が合わないとき


それがどうしてなのか なんて


気にしたことすらないくせに


言葉と舌が合わないとき どうしたのかって


聞いたことすらないくせに


"君が分かる"とか"解らない"とか


そう簡単に 言わないで



214.


時計が告げる 午前0時


君はガラスの靴を履き


僕が積み上げた階段を


上ってくれはしないのだと


曇らせた目は 訴えた


薄情な鐘が 鳴り止むまで


凍てつく鏡が 割れるまで



215.


この目に心の見えない中で


貴方に歩み寄ることは


彼の岸にかかる透明な橋


叩いて渡ることもできず


足場さえ不確かな道で


疑い 迷った瞬間に


すぐ踏み外してしまうんだ



216.


それぞれに 一日の終わりを迎えて


残された夜は 形を変えず


寄り添う友を探している


たとえば今夜 眠りにつくとき


後に残し行く 世界を思い


いつ目を閉じるのかということ


私に選べるのは それだけだったのです



217.


私はそう どんなに背伸びをしてみても


口先だけの 人間だから


言葉だけは 貴方に寄り添っていて欲しい


貴方に必要な ほんの一押しを


私が与えてあげられるなら


きっとそのために 居るのだと


貴方が気づかせてくれるのです



218.


この部屋に 珍しいものがやってきた


自分に重ね 憐れに思い


毎日水を 与えても


壊してばかりの右手には


花の世話など できないのだと


やっと見つけた愛情さえ


たまらずに 窓の外へと 逃がしてしまう



219.


装いは この日を迎えるためにあり


街の灯りは 祝福する


たとえ毎日でなくたって


一日でも 優しくなれる日があれば


僕のすべては 赦される


今日だけは 鐘の音に祈り


新しく生まれ変わるように



220.


ささやかな 願いを町に 届けるため


赤い靴 踵を鳴らして 歩いてた


誰のもとにも 訪れる


恋人たちに 子どもたちに


すべての母に 善き隣人に


休める友に 小さき我が身に


メリークリスマス、よい一日を


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