一瞬の油断で
それから俺らは雲を観察することにした。
すると夜に山のとある場所に降り、朝日が昇る前に空に飛び立っているのが分かった。
「ということで今夜、あの雲が降り立つ場所に行ってみるが、どうだ?」
「賛成」
≪我も文句はない≫
ということで食い物を腹に詰める。
「にしても」
俺が二人(一つは一匹だが)を見ると視線を逸らす。
「なんで食料を持ってきてないんだよ……」
ダンジョンで倒した魔物は一部を残して消えてしまい、食料としては使えない。
「私は巻き込まれただけだから……」
≪我は10日ほどは何も食わなくても問題ない≫
てなことで食料を持っているのは俺だけなのだ。
「ならアグラベルグは食わなくてもいいな」
≪待て、食わなくても問題はないが空腹は感じるのだ≫
ということ食事を続けると亜空庫にある食料の八割を消費してしまった。
(さっさとボスを倒さないと俺たちが飢え死にするなこりゃ)
より一層ダンジョンボスを殺す決意をする。
月が見える夜、俺たちは山の一部に隠れている。
「……来た」
山に近づいてくる雲がある。
山の一部に覆いかぶさるよに広がり、次第に消えていく。
そして現れたのは灰色の鳥だ。
形は白鳥やアヒルに似ていて、尻尾は大きく広がれるようになっている。
そして特徴的なのは尾の横にある二つの長い羽だ。
「アレがそうか」
鑑定したいが奇襲が失敗になる可能性がある。
「で、ダンジョンコアはどこだ?」
ボスの近くにあると聞いていたのだが。
「……あれじゃない?」
クラリスは壁に埋まっている水晶を指さす。
「なるほど、じゃあ計画通り朝まで待つとするか」
何も別に厄介な奴がいる時に壊す必要はない。
ということで俺たちは朝まで待つことにした。
「……動いたな」
鳥が動くと同時に朝霧が生まれる。
「なるほど、これがあいつがばれなかった理由か」
そして霧自体が動き始める。
「あんなカラクリか」
霧がそのまま空に上がっていき雲になっていった。
「まさか霧を纏ってそのまま空に飛ぶとはな」
どうりで見当たんないわけだ。
「ほら、さっさとコアを壊して上に戻るわよ」
「あいあい」
俺とクラリスはダンジョンコアの元に移動する。
「売ったら高値が付きそうだな」
ダンジョンコアは大きな水晶に、中に魔法陣らしきものが刻まれておりとてもきれいだ。
「こっちは当たりだったな」
ここには俺達しかいない、雲の算段が外れている可能性があったので、アグラベルグには隠密の高い魔物がいる可能性の方を当たってもらっている。
「(まぁ探知系のスキルがないんだからこっちを担当するしかなんだけどな)さっそく壊すとするか」
近づき壊そうとするのだが。
「なんで急に霧が」
急に霧が立ち込めてくる。
「痛っ!?」
それと同時に肩が切り裂かれる。
「クラリス!!」
「私じゃないわ!!」
すぐさま俺たちは背中合わせで構える。
「なぁこれって」
「ええ、はめられたわね」
あの鳥は俺たちのことに気づいていた、そして空に飛び去ったと誤認させて、罠を仕掛けた、か。
(霧の中、つまりあいつの得意なフィールドに早変わりってわけか)
現に一切の姿を見せずに切りつけてきやがった。
霧を吹き飛ばしたいがここまで広範囲に広がっているなら多少の風などでは意味がないだろう。
(先にダンジョンコアさえ壊してしまえば)
無視してコアをこわそうとするのだが、すでに一メートル前すらギリギリという濃度だ。
「クラリス、お前探知系のスキルは?」
「ないわ」
「よな~~、敵の魔力は?」
「無理、魔力で作った霧だから判別付かない」
(これなら一人の方がよっぽどやりやすいな)
逃げるだけなら一人でできるし、何よりこうゆう状況だと広範囲攻撃が有効だがこいつを巻き込む可能性がある。
「っっっっっ」
「おい、大丈夫か」
「ええ、少し傷をつけられただけよ」
どうやらクラリスも傷を負ったようだ。
(しかし、本当にまずい)
俺たちは完全に動けなくなっていた。
「……クラリス、魔法は使えるか?」
「ええ、光闇以外なら少しは」
「なら風魔法でこの霧を取り払うことはできないか?」
「……厳しいわね使えるのは『エアカッター』『テールウィンド』『ヴェントゥスアーマ』の三つよ」
『テールウィンド』は風の強化魔法、『ヴェントゥスアーマー』は風の防御魔法だ。
(もう少し強い魔法があればよかったが)
無いのなら仕方がない。
「エルフは耳がいいって本当か?」
「ええ、人間よりは断然いいはずよ」
ならばやりようがあるな。
「クラリス少し響くかもしれないから気を付けろよ」
「な、何をするの?」
「こうするんだ」
パン!!
掌を叩き音を出す。
「……………そういうこと!!」
どうやらクラリスも何がしたいか理解できたようだ。
クラリスも同じように掌を叩き耳を澄ます。
今やっているのはエコーロケーション、つまりは反響定位を行っている。
これは蝙蝠やイルカ、クジラ、シャチなどが行っているもので各方向からの反響を受ければ、周囲のものと自分の距離および位置関係を知ることができる。
これは鋭い聴覚を持っている者ならできる可能性があり、視覚に近い役割を持つものだ。
「近くにはいないみたいね」
耳がいいエルフがいてくれて助かった。
「俺らだけじゃ、きつい、アグラベルグが必要だろう」
あいつならいくつかの探知系スキルを持っていたはずだ。
「そうね、今のうちに霧の外に移動しましょう」
クラリスもこの考えには賛成のようだ。
来た道を戻り、霧を抜けそうとするのだが。
「あれ?」
「どうした?」
「道が」
来た道を戻ろうとしたのだが道が途切れている。
「方向を間違えたか?」
「いえ、足跡を辿ってきたから間違ってないはずよ」
てことは
「壊されたか……」
再び警戒をする。
「逃げ場はなくなった」
「じゃあ戦う?」
「それもありだが、最初の目標のほうが楽だ」
「……ダンジョンコアね」
後ろに引けないなら前に進むしかない。
ということで当初の目的通りコアの破壊を行う。
パン、パン、パン
クラリスが手を叩きながら進んでいく。
「……こっちね」
俺にはわからないけどクラリスには周囲の様子が理解できているようだ。
パン
「あれ?」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
少しクラリスの足が鈍る。
そしてその瞬間クラリスの頭上に暗い影が落ちる。
暗い影から足が伸び鋭い爪で
「クラリス!!」
「え……」
切られた音ともに何かが地面に落ちる音がする。
アァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!




