イドラ商会で
「おお!バアル、無事だったか!」
「ええ」
グラス殿が近づいてくる。
「バアルが倒れた時、リチャード殿の慌てぶりときたら」
「その時の話を詳しく教えてください」
「ん、ん。体は何ともないかね?」
なんとか話をそらそうとする父上。
「ええ、幸いにもほとんど外傷はありません」
「……ほとんど、な~」
グラス殿が疑った目で俺を見てくる。
(さすが騎士団長、騙されてくれないか)
戦闘職の代表格があんな演技に騙されるはずもない。
「いや~、俺も鍛えているつもりでしたが、さすが殿下ですね難なく対処されていしまいました」
「……わかった、そういうことにしておこう」
どうやら意図を酌んでくれるようだ。
「それと父上お話があります」
「ん?」
俺は人気のない場所に行き、先ほど行った交渉のことを話す。
「どう思いますか?」
「ん、ん~問題ないと思うぞ。私もどこかの派閥に属しているわけでもなく比較的に中立を保ってきたからな。だが同じような要請は何度も来ていたぞ?」
「その要請の内容を覚えていますか?」
「……家に記録が残っているはずだ」
「ではその資料をみて吹っ掛けるとしましょう」
(我が息子ながらあくどい顔をするな………まぁゼブルス家が潤えば問題ないな)
それからなんのトラブルもなく晩餐会も終わり、自分の領地に戻るのだが。
「なにこの荷物の量」
馬車の上には大量の荷物が置かれている。
「いや~せっかく王都に来たんだから、エリーゼにお土産をと思ってな」
「……お金はどうしたの?」
「イドラ商会に借りた」
イドラ商会、俺が立ち上げた魔道具の商会だ。
「…いくら?」
「ざっと金貨90枚ほど」
「……わかりました、父上の裁量できる税金から引かせてもらいます」
「えっ……」
当然だろう、勝手に息子の金を使うやつがあるか!
「はぁ、行先変更イドラ商会に向かってください」
俺は御者に少し寄り道してもらうことにした。
王都イドラ商会。
「――ってことだ。すまないがすぐに本店から追加の資金と魔道具を運ばせるから」
「いえ、こちらとしてもまだまだ余裕がありますので問題ありません」
「ならいい」
どうやらそこまで問題がなかったようで安心した。
「それと会長、ほかの貴族様からいくつもの意見書が届いております」
「………どれ」
意見書は、簡単に言うとどんな商品を作ってほしいかというものだ。
「……ほとんどがくだらないものばかりだな」
仕事を代行してくれる魔道具、何もしなくても強くなれる魔道具、馬を思い通り操る魔道具などなど
(できなくもなさそうなのが数件と、後はできないものだらけだな)
「……残念ながら今のところラインナップを増やすつもりはない」
「そうですか……」
支店長は残念そうにする。
「近々、新しい魔道具を作るつもりだからな」
「ほ、ほんとうですか!」
「ああ、だが売りに出すかは要検討するがな」
「いえ、新しい魔道具が出る可能性があるだけでありがたいですよ。ここ最近やたらと我が商会に圧力をかけてくる貴族が多いので」
「…………そのことについて詳しく聞かせろ」
なぜ貴族がこの商会に圧力を加えているか、それは一言でいえば要求をのませようとしている、だ。
「……つまり要望を出したはいいが、それが聞き入れられないから圧力をかけていると?」
「………その通りです」
阿呆かそいつら。
「子供じゃあるまいし」
「……」
「なんだ?」
「い、いえ、その」
「はっきりと言え」
「で、では、会長もいまだにこどもです……よね」
………たしかにそうだが。
「お前は俺を子供だと思って会話をしているのか?」
「いえ!滅相もございません!」
首が外れるんじゃないかってくらい横に振る。
「……冗談だそこまで怯えなくていい」
「いえ、良かったです………あの噂が本当ではなくて」
「噂?」
すると支配人はしまったといいう顔をする。
「どんな噂だ?」
「えっと……」
「…………」
「…会長が貴族の支配人を解雇したとか、従業員をダース単位で解雇したとか、ほかにも様々な噂が飛び交っています。しかもそれが些細な内容だったため……」
睨むと素直に白状してくれた。
しかしアレが些細なことか。
「まぁ事実だな」
「うぇ?!」
「貴族の奴は帳簿を細工して懐に入れていたから解雇したし、従業員の奴らは裏でこっそりと商品を流していたから解雇、ほかには魔道具の製法を知ろうとした馬鹿がいたから解雇した」
「え、えぇ?」
どうやら噂と実際が違ったことに驚いているのだろう。
「真面目に仕事をしたら大丈夫さ」
「わ、わかりました、誠心誠意仕事をさせてもらいます!」
その後、ある程度の現状を確かめ馬車に戻る。