エルフのイメージがだいぶ違う
(っめんどくさくなったな)
全力で森の中を走る。
『飛雷身』を使って逃げればいいのだろうと思うだろうが、それは悪手だ。
理由は二つ、まず発動条件で移動する場所を視認しておかなければならない。そして次に俺自身が雷になって移動するため雷光によりどちらに逃げたかがわかってしまうのだ。
「これが昼間だったら問題ないのにな」
今日は月が出ているので見える部分もあるので移動はできる。だが位置がばれるのはまずい。
ガサッガサッガサッ
「まだ追ってくるのかよ」
まぁ向こうは密偵の可能性も考えているのだからできれば捕らえたいのだろう。
(……殺すか?)
あいつらを皆殺しにすればこの場は逃げることはできる。
だがリスクが大きい、一人でも逃げ出せればすぐにでも増援が送られてくるだろう。
「っち、ここは何とか撒くしかないな」
ステータスに物言わせて全速力で移動する。
「……ついてこれるのか」
奴らには勝手知ったる森だ、ステータスで劣っていても十分追跡できるのだろう。
(計画的に追い立てられているな)
地形を利用して俺を追い詰めようとしているのだろう。
……仕方ない。
「俺で敵わないなら他の者に相手してもらうとしよう」
「姫様、あの者は北に進路を変えました」
「北……なるほど」
魔物の中を進み、我々を撒こうというわけですか。
「魔物避けの準備をして」
「了解です」
全員がとあるペンダントを取り出す。
そして魔力を流し込むと淡く緑色に光り体を包み込む。
「そのまま捕縛を続けろ」
ユニークスキル持ちでも魔力が尽きれば何もできない。
にしても
(もし、東や南での跡が、あのバアルという子供の仕業なら)
なんで逃げるのかが不明だ。
そして
(なぜ聖獣様がいないのか……)
聖樹がある場所を縄張りとしその地に入り込んだものを無傷で返すことはまずありえない。
私たちもそれなりの対価を払って無事を約束している。
それなのにあの者は全く問題なく縄張りにいた。
(まずは捕縛して話を聞き出す)
「おい、どういうことだ」
魔物は後ろの奴らに襲い掛かることは無く、俺の方向ばかりに向かってくる。
(なにか持っているのか?)
本来、あいつらにも襲い掛かっていくはずだ、だけどすぐ近くにいても問答無用でこちらに来る。
「まさかあいつらも魔物じゃないだろうな」
「失礼ね、ここの魔物と一緒にしないでよ!!」
ついに追いつかれたか。
「ほ、かの奴、らはどうした、んだ」
「遅れているんじゃない、貴方の足が異様に早かったからね」
「そり、ゃすまん、な」
魔物を対処しながら話す。
「ひとつ、質問だ」
「なに」
「なんでこ、こにいる魔物、は見境なく襲ってくるんだよ」
「それはわからないわ、未だに解明されてないもの」
「へぇ、それよ、りたすけてくれた、りは?」
「するわけないじゃない、降伏するなら考えてあげるけど」
「残念だが、しないさ」
とりあえず、すべての魔物を殺す。
「ふぅ、やっと一息付けたよ、で次はクラリスか?」
今までの戦闘で俺と戦うとは思えないんだが。
「そうね、君程度なら捕縛できそうだしやるとしましよう」
「………あ?」
こう見えても俺は自分の強さに結構自信がある。
「なら、捕縛してみろや」
(目印になってしまうがもういい)
ユニークスキルを使い帯電する。
なによりこいつを人質にとる方が逃げる確率が上がる。
「準備もできたようね、じゃあ始めるわ」
クラリスはそう言い弓を放つ。
だがその腕は上手とは言えない。
(速さもなければ威力もない)
ということで矢を切り払うと接近する。
(軽く当てるけど許してくれよ)
刃の無い場所で当てて気絶させる。
のだが
「そんな甘くないわよ」
クラリスは弓から手を離し、そして
ドン!!!
腹に強烈な衝撃が襲う。
「ごめんね、私は弓とかは上手じゃないの、代わりにこっちはとても得意だから退屈させないわ」
拳を握りしめながらそういう。
手にはグローブをしている、弓で傷つかないようにしていたかと思ってた。
「くぅ、女が無暗に拳を振り上げるものじゃないぜ」
エルフってのは弓か魔法が得意なイメージがあったんだが。
「どうしたの、拳で戦うエルフは初めて?」
目の前のこいつで完璧にエルフのイメージが崩れた。
(にしてもそれなりに硬い俺に痛みを与えるか)
「エルフってのは華奢なイメージがあったがな」
「間違ってはいないわ、魔力を使うことが出来なければ人に勝つことはまず無理なぐらいにね、でも」
クラリスは横にある樹に裏拳を入れる。
すると樹は大きくへこみ音を立てて倒れていく。
「身体強化を使えばドワーフにも劣らない力を出すことができるわ」
マジかよ。
「さてそっちが来ないなら私から行くわよ」
身を低くして襲い掛かってくる。
「なろ、!?」
もう手加減とか考えている場合じゃなくなった。
バベルを突き出すが、体に当たったと思ったら手ごたえが急に無くなり、体に衝撃が襲う。
「たく、幻みたいだな」
「あら、ありがとう」
突き出されたバベルがクラリスの右肩に当たると、その場で一回転し俺の力を上乗せした回し蹴りを放ったのだ。
(リンの『風柳』のようだったな)
全く手ごたえを感じさせずに受け流しカウンターを行う。
だがその際の対処法も理解している。
「ふぅ~~」
一度全身の力を抜く。
そしてゆっくりとバベルを構える。
「さっきよりも攻め込みにくくなったわね」
今の俺の状態は力を入れるのと抜くのの境界にしてあるので瞬時に動くことができる。
これは武術を習うものが中級者となる登竜門なのだそうだ。
「でもそんなの関係ないわ!!」
俺が動かないことをいいことに向こうから距離を詰めてくる。
「ふん!!」
近づけないようにバベルを振り下ろす。
それすらも紙一重で躱し、殴りかかってくる。
「っ痛!?」
「な!?」
歯を食いしばり、体を駆け巡る衝撃を耐える。
「放して!?」
拳を食らった時に腕を掴んだ。
「掴んだらこっちのもんだよ」
「舐めないで」
空いている腕で何度も殴りかかってくるが放さない。
「もう遅いさ、『放電』!!」
軽く放電を放ち、感電させる。
ドサッ
「ふぅようやく、終わったな」




