乙女と令嬢
観客席で決闘を見ている。
「いや、今年はすさまじいですな」
「殿下もそうですが、ゼブルス公爵様のご子息もあそこまで戦えるとは」
「それもいまだにレベル1だそうですよ」
皆が公爵家のご子息に注目しているが。
私は殿下が心配でならなかった。
「ユリア、殿下が心配なら傍に居てあげなさい」
お父様はそういうが親切心だけで言っているのではない。
私の家、グラキエス侯爵家は元々第二王子派だから、殿下と仲良くしておくのが良い。
でも私が殿下に近づくのはそのためだけではない。
「では行ってまいります」
「負けるなよ」
………ほかの令嬢に後れを取るなよという意味ですか。
「それとだが、あのゼブルス家のご子息を何とか引き込め」
確かにゼブルス家は貴族の中でも上から5番に入るくらい力を持つ家だが。
「……努力します」
あの子、バアル・セラ・ゼブルスを引き込める感覚が少しも思い浮かばない。
「その際ある程度なら家の私財を使っても構わない」
貴族の私財とはいくつかの権利のことを言う。
「………では行ってきます」
私は侍女を連れて救護室に向かう。
「カーラ、ゼブルス家について知っていることを教えて」
「わかりました。まずゼブルス家はこの国における4つの公爵家の一つです。公爵家としては少し小さいですが膨大な領地を持っています」
「そこらへんはわかっています」
「ゼブルス領は豊かな土地で食料は国でも1、2を争うくらいの領地です。そして最近では魔道具をよく輸出していますね」
「魔道具ですか?」
「そうです、イドラ商会をご存じありませんか?」
「……最近、勢いを付けている商会の一つですね」
「そうです、イドラ商会はゼブルス家の息がかかった商会です。館でも魔道具の大半はすべてイドラ商会の商品です」
「そうだったのですか……ねぇ、ゼブルス家には鉱山はある?」
「確か小さいものなら数か所……ですがグラキエス家の鉱山みたいに大きな鉱床は無かったはずです」
「…なるほど(それは使えるかもしれませんね)」
ゼブルス家の情報を確認していると救護室に着く。
「では私は外で待っていますので、もしなにかあれば声をお掛けください」
「わかったわ」
中に入ると神官と二人が別々のベッドで横たわっている。
「これはユリア様、お見舞いですか?」
「そうです、すみませんが席を外してもらえますか」
私は神官を外に出すとイグニス様の近くの椅子に座る。
「う…ん………ムニャ……」
怪我が無いようで安心した。
(……お慕いしていますわ)
私は無礼ながらも殿下の頭を撫でる。
「………ん、ん~……」
撫でているのがくすぐったいのか身動ぎする。
(………かわいいですね)
いつまでもこの寝顔を見ていたくなる。
「ん、ん、すまんが逢瀬なら目の入らないところでやってくれないか」
(……)
邪魔をした忌々しい人を睨む。
「別に私たちは婚約者などではありません」
「……そっか」
居住まいを正す。
「バアル・セラ・ゼブルス様、提案がございます」
「なんだ?」
「第二王子の派閥に入ってください」
いきなりだな
「無論、ただとは申しません」
「では何をしてもらえるのですか?」
どんな提案をしてくるのか。
「ゼブルス家は特産に魔道具がありますよね?」
「ええ、かなりの評価をいただいてうれしい限りですよ」
「ではその値段が下げられるとしたら?」
「……はっきりと言え」
「では、第二王子派閥に入ってもらえるのであれば。我がグラキエス家の広大な鉱床から採れた鉱物をお安く提供する準備がございます」
へぇ……
「失礼ながら魔道具についてはどれほど知っていますか?」
「魔力を使って、様々な機能を使える道具としか」
「(それくらいか)では魔道具にどれほどの鋼材が使われているか知っておりますか?」
「残念ながら、ですが見た目からかなりの量と考えています」
「………いいでしょう交渉成立です」
俺はユリア嬢と握手を交わす。
「ですが、ひとつ条件があります」
「なんでしょうか?」
「私は修行でどの派閥にも入らないことを公言しております、なので自分からはイグニア殿下の派閥であるとは公言しません」
「それでは話が」
「ですが、殿下主催のパーティーはできるだけ出席をします。ほかにも陰ながら援助、具体的には他家を挟んで支援したいと思いますが、どうですか?」
傍から見れば俺が第二王子派閥であると見えるだろう。
「……分かりましたとりあえずはそれで構いません」
「では具体的な案件などは今度当主を交えて交渉したいと思いますがいかがですか?」
「お父様にこの話はしっかりと伝えます」
「それでは、そろそろ殿下が起きそうなので、私は退室します」
「お怪我などはよろしいので?」
「ええ、王城の神官は腕がいいのですね、体の痛みはすべてなくなっております」
まぁ、自分で気を失ったから外傷などは一切ないんだけどな。
退室するとその足で父上のもとに向かう。