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価値のあるモノ

「なぜ?」

「簡単さ、俺をただ解放してみろよ、そんなことをしたらクメニギスが預かっている要人を拉致したという部分だけが残り、さらに侵攻に力を入れるぜ。なにせ戦争賛成の連中にいいネタが転がり込んできたんだから」


俺がクメニギスの貴族だとすれば土地が広がり、獣人という効率的な労働力が手に入るこの戦争を後押しするだろう。さらにそこにいいネタが転がってきてみろ、俺はそのネタを盾にしてさらに戦争を助長させるだろうな。


「????」

「………つまりはバアルを攫った、償いをしろということか」


レオンは意図を理解していないようだがティタは違った。


「そう、今レオン達には三つの、いや、四つの選択肢がある」


指を立てて一つずつ説明してやる。


「まず一つ、俺を攫ったことについてのことを清算してから、俺の協力を得て本格的にクメニギスとの戦争を終わらせる」


これが最もおいしい提案だ。俺も得をし、協力を得られる。


「二つ目、ただ俺を解放する。これについては何も保証しない」


つまりは敵対関係になっても文句は言うなということ。なにせ俺がグロウス王国に掛け合って戦争に参加させることも十分にできてしまう。そうすれば事前の交渉内容も新たにクメニギスと契約すれば十分戦利で獲得できてしまう。


「三つ目、俺を解放せず、拘束する。当然これもお勧めしない」


なにせクメニギスが対策を講じることができてしまえば再び戦争が起こりうる状態だ。さらに言えばこうなった時点で俺は逃亡する。既に薬も100日分は受け取っている、その間に解毒する方法を見つけることは不可能ではない。


「そして四つ目、今すぐクメニギス軍を追撃し、戦争する気を削ぐ」


だがこれは限りなく難しい。なにせ封魔結晶も少なく、さらには平地となると相手に数の利が生じてしまう。これを覆して勝利をするのは俺だったら不可能だ。


「オレ達が取れる選択肢ってのが最初だけだろうが!!」


エナがそう吼える。


そう、この選択肢は最初以外はすべて双方に損がある選択肢となっている。


最初は俺が協力した報酬に加えて、俺を誘拐した慰謝料が必要となるが、その後はむしろ平穏になるだろう。行動の先がわかるエナのユニークスキルならこれが嘘ではないというのも理解しているだろうし。


では二つ目、こちらに関しては悪手だ。なにせ俺はより多くの利が取れる手段を取る。俺が戦争に加わり、先んじて例の地を占有することができたのならレオン達に協力していた時よりも多くの利益が舞い込む。もちろんそれができない可能性も十分にあるが、まぁ仕方ない。毒に関しても解毒方法を見つけるか、人質を取りティタを脅せばいいなどの手段も十分にある。


三つ目はそれこそ相手に時間を与えるだけだ。こちらもバロンのように『獣化解除ビーステッドディスペル』を無力化する訓練の時間ができるが、どれほどの効果が出るかわからない。さらに、クメニギスの技術がバロン達ですら効果を出すようになったら元も子もないし、さらには『獣化解除ビーステッドディスペル』とは別の有効手段を編み出すかもしれない。また毒に関しては二番目と同様、危険ではあるがやりようがある。


四つ目は論外。山脈間の狭い空間という地形を利用しているから勝利しているのであって、その外に出れば負けるのは必然だろう。


「ん~~?なんかややこしい話になったが、一つだけわかった」


レオンにしては珍しく呑み込みが早い。


「俺たちはお前をこの国に連れてきたケジメを着ければ何も問題ないのだろう」

「………はぁ~そうだよ」


気のいいレオンと会話していると肩ひじ張ることなくこちらまで柔らかくなりそうだ。


「そうだ、それともう一つ言っておくが、俺の価値はそこら辺にいる奴らとは何桁も違うからな」


肩書だけでも公爵家の嫡男、さらにはイドラ商会会長、グロウス王国の研究機関の研究室長。これだけでもかなりの値が張る。


「では聞くがバアルは何が欲しい?」

「まずはティタ、今ここで俺の解毒薬を準備しろ」

「やっぱりか」


エナは悔しそうにつぶやく。


ティタに頑なに解毒を指示しなかった理由、それは俺が裏切る可能性が残っているからに他ならない。エナのユニークスキルがどこまで見通せるかわからないが、俺から死や損の匂いがしているのなら、解毒したくないのも無理はない。


たとえ協力することがわかっていても、ほんの少しでも裏切る確率を減らしたいのは理解できる。なにせこれからクメニギスに戻り工作途中で、はい、寝返りましたなんて笑い話にもならない。なのでエナは俺が裏切る確率を少しでも減らせるように軛を打っていた。だがこのまま毒で命を縛られ続けて選択肢が狭められるのはこちらとしても勘弁、ゆえに主導権を握り、解毒を迫っている。


「どうするエナ?俺の命をこのまま握ったまま協力させるか?それとも解毒して利益で協力するか?」

「…………」


エナは答えない、いや答えられない。


なにせ俺の毒を解毒してしまえば縛る物が利益以外になくなってしまう。仮に協力関係でも利が損に変わればすぐさま切り捨てられる可能性を孕んでしまっている。


そしてエナが解毒を渋っている理由は一つ目の選択肢に裏切りの要素がないと証明できないのが原因だ。


「ティタ、解毒してやれ」

「レオン!」

「仕方ないだろう、俺だって人族に奴隷にされて無理やり働かされていざ協力しましょう?はっ!俺だったら無理だぜ。だったらいまさらだが解毒して協力してくれた方がいい」

「…………ティタ解毒してやりな」


エナは長く悩んだ末に結論を出す。


「……いいのか?」

「ああ、こうなったら仕方ない」


エナがそういうとティタが近づいてくるが


「ちょっと待った、ティタから直接ではなく薬だけを渡してくれ」


そう言って距離を取る。


なにせ打ち込む際に打ち込まれたのが解毒薬なのかが判別できない。


なのでコップを渡しそこに薬を入れさせる。


「………これを飲めばいい」


コップに透明な液体が入ったのを確認するとモノクルを取り出す。


―――――

解毒薬[命蝕毒]

★×4


【解毒[命蝕毒]】


命蝕毒の解毒薬。皮下注射だけではなく口径接種でも十分効果がある。なお効果が表れるまで少しの時間が必要。

―――――


モノクルで鑑定した結果、本物の解毒薬であった。


それを飲み干しもう一度三人に向き合う。


「さて、解毒してもらって感謝、なんてするわけない」

「だろうな」


エナは何を当たり前なことを言う。


「さて次に俺を拉致したことと毒を注入したことの贖罪だが…………お前らのところじゃ貨幣なんて出回ってないわな」

「そうだな」


本当ならかなりの金額を吹っ掛けようと思っていたが、それができないなら仕方がない。


「となると俺の中で価値があるモノを貰おう。そうだなエナ、お前だな」


エナを指さしそう告げる。

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