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窮地に陥れる物

あれら、どうやらレシュゲルと声が被ったようだ。


「だれだ?」

「初めまして総司令官閣下、私はロザミア・エル・ヴェヌアーボといいます、この度特務独立部隊の指揮を執っております」


リンと副官を伴ってテーブルの前まで進む。


「独立部隊だと?なぜそんな部隊がここにいる?軍議の邪魔だから出ていけ!」


そう言って声を上げる肉ダルマ。


(確か肉ダルマのクラーダだっけ、軍内部でも相当酷評だったけど)


噂にそぐわない無能なのだろう。


「クラーダ殿、今は抑えろ」

「ですが閣下!?」

「ロザミア殿は王命にて動いている特殊部隊の指揮官だ。規模は違えど王命で動いている時点で我と同じ区分だと考えよ」

「っく!?」


第四師団長がそう言い放つとクラーダは私をにらみつける。


「(完全にお門違いなんだけどなぁ)もう一度言います、これからこの軍がとるべき手段は撤退一択です」


もう一度そう告げると、この場にいるほとんどが嫌な表情をする。


「理由を問おう」

「まず、私は後方だったが直に先日の戦闘を観察させてもらいました。そのうえで言うと、現状、この場所にいるのは確実に劣勢となります」


そう告げると、静かな視線の刃が私に突き刺さる。それは、続けろ、だが納得できない内容ならわかっているな?、と脅されているようだった。


「まず、獣人が使っていた魔法を使えなくする結界。アレは効果時間と範囲が存在しているのを確認しています」


そうですね?と視線で問うと、幾人かの指揮官が頷く。


「わが軍が獣人から勝利するにはこの魔法を使えなくする結界、封魔結界をどうにかしなければいけません」

「全く持ってその通りですね」


第五師団長が同意してくれたので話が進めやすい。


「当然ながら例の結界を使われたら効果範囲外に出る、もしくは時間まで耐える、という簡単な策があります、ですが」

「この地形では進むことはできても、配置換えや、退くという行動がしにくい、ですね?」


レシュゲルさんが私の言いたいことを代弁してくれる。


「その通り、この中央ルートは確かにほかの二ルートと比べて安全に通れるようになっています。そしてそのために軍の大部分がここから侵攻しようともしています」

「だが、それゆえに細かい動きがしずらいということだな」

「はい」


この中央ルートは二つの山脈に挟まれているという、一直線のルートだ。まずこのルートを通るとなると山脈からの奇襲横撃に備えるためにそれなりに層を厚くしなければいけない。なにせ少ない獣人が山脈よりやってくるなんてことも想定しえる。さらには効率的に魔法を使用するために決められた兵士の配列というのも層が厚くなる原因だ。


それゆえに行軍には最低限の隙間しか存在していない。だが、今回それが仇になる。


「仮に兵士の配置が組み換えしやすいようにある程度空間を開けての行進となりますと」

「弾幕が薄くなり、奇襲されやすいか」

「はい」


今回の対策のために軍を薄く配置すれば、それこそ弾幕が薄くなり、いかに『獣化解除ビーステッドディスペル』で【獣化】を防いだとしても【身体強化】をした軍勢に簡単に飲み込まれるだろう。


では逆に人を集め厚く配置すれば、それこそ、封魔結界の思うつぼとなってしまう。


「それで撤退か」

「はい、地形的にはこちらが圧倒的に不利です、それゆえに撤退の提案をしました。」

「………ふむ」


総司令は考え込む。


「思考中に申し訳ありませんがもう一つ」

「なんだ?」

「私の眼には『獣化解除ビーステッドディスペル』が効かない獣人の存在が見受けられました、おそらくはその存在を確認している者がほかにもいると思うのですが」

「はい、そういった報告は上がっています」


指揮官の声が上がると私の言葉に信用が生まれる。


「この度、戦争のために届けられた、『獣化解除ビーステッドディスペル』の魔法杖。即席とはいえマナレイ学院が総力を挙げて作り出した一品が、通用しなくなる」

「そうだ!このお前の祖父が作り上げられたこれが使えないのがいけないのだぞ!!」


クラーダの発言でこの場が冷え切る。


「口を慎みたまえクラーダ師団長」

「ですが、そうし」

「もう一度言う口を慎みたまえ」


反論しようとしたクラーダをにらみつけ、押さえつける総司令。


正解だ、もしここで総司令官が止めなかったら、マナレイ学院は今後この戦争のために何かを開発するなどのことは差し控えることになっただろう。


「ん、すまないね、続けてくれ」

「はい、今回、通用しなかった原因ですが、はっきりと原因がわかりません。もちろんマナレイ学院は原因追及を行いますが、その間に獣人のほとんどに通用しないという事態になってもおかしくありません」

「封魔結界と合わせると笑えない事態になるね」

「その通りです」


仮に封魔結界を何とかする術を見つけても『獣化解除ビーステッドディスペル』が発動しなければ結局は振出しに戻る。


「そしてもう一つ、撤退を提案したのには訳があります」


私はあらかじめ懐に入れていたある結晶を取り出す。


「これは?」

「これって……」


この結晶を知っている者とそうでない者、その違いはごく簡単、前線にいたかそうでないかだ。


「獣人が封魔結界を張るための物です」

「「「「!?」」」」


全員が驚き、私の置いた結晶を見つめる。

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