長を張る実力
「にゃははは、父さん、大暴れしてるね~」
「…………これ、策とかいらなかったんじゃねぇか?」
レオネの隣で、戦場を俯瞰するが。
「……えぐい」
率直な感想を述べればこの一言だろう。
なにせバロンが突撃していった先が溶岩地帯になっているのだから。
「動く災害かよ」
バロンの体に亀裂が入るとただ聖騎士に近づいていく。ただそれだけなのにで一番近くにいた兵士が苦しみだしたのが始まりだ。
その原因はバロンを見ていることで理解した。
体に亀裂が入ったあと、バロンが残した足跡に変化があった。最初はただ土に形が付くだけだったのだが、次第に黒い部分が見られるようになり周囲にある草花が枯れる。また数歩歩くと今度は足跡が黒から赤い色に変化する、この時点になるとその足跡の周辺では草木は一瞬で灰になって消えていった。
「バロンの力は熱か?」
「うん、そうだよ」
レオネは隠すことなく教えてくれる。
バロンの【獣化】の元は“灰燼大獅子”という獣で、活火山で生活しているとのこと。そしてその特徴はその体から発する超高温の熱。ただ居座っているだけで周囲のすべてを灰にし尽くし、自身の周囲は溶岩となってしまうと。
「あれでもまだ抑えている方だよ。聞いたところ何回か前の魔蟲の時は父さん一人で全滅させたって話だから」
その代償に戦った場所はまるで火山のようになっていて、元に戻るまで十年の年月がかかったとのこと。
「今はアシラたちがいるからあれだけで済んでいるけど、本気になったら一人で壊滅できるんじゃないかな?」
「…………」
バロンに敵対しないでつくづくよかった。そして同時に俺は必要だったのかと自問自答しそうになる。
「そういえば他の三人は」
「うん、絶好調だね、母さんは鎧事切り裂いているし、テンゴさんの攻撃は防いでも意味ないし、マシラさんに至っては遊んでいるね」
テトは四足歩行の姿になっているのだが、体のいたるところから鋭い刃を生み出している。観察してみると毛が固まり刃になっていた。
「ガァ!!」
ジャキン
肩に生えた鋭い刃は鎧をものともせずに切り裂いてしまう。
(金属よりも固い体毛って存在すんのな……)
目の前の光景が非現実的すぎて思考放棄しそうになる。
「まぁ父さんもお母さんも派手だからね、テンゴさんも派手っちゃ派手だけど」
ドン!
ベチャ
「うぇ」
大きなゴリラとなったテンゴさんが掌で鎧を叩くと鎧から大量の血液が流れる。
「あれはどうなっているんだ?」
「あれね~、テンゴさんの掌は特別でね~掌の一撃はどんな防御も意味ないよ」
一応説明してくれるが、理屈は知らないとレオネは言う。
パァン!!
テンゴが上からビンタをすると兜が胴体の中に埋もれていく。
「うっ、アレは痛い」
やられた当の本人は痛いどころではないと思うが見ているだけで頭が痒くなる。
「それに比べてマシラは地味だな」
ただ俺が上げた鉄製の棒を自由自在に振り回し、攻撃していくだけだ。
「あ~うん、地味なんだけど、特殊な力がない奴からしたら一番厄介なはずだから」
見ている限りそうは思えない。
「はあ!」
「っは、せりゃ!!」
「くらえ!!」
「はははははは」
兵士がマシラを囲み立て続けに攻撃を仕掛けるがマシラはそれらを笑いながら迎撃したり回避したりする。
しばらくそのまま場は膠着する。
「…………なんか違和感があるな」
マシラの戦いに何らかの違和感を感じるだがそれが何かと聞かれても答えられない。
「うん、始まるね」
「???」
レオネの言葉の意味がよくわからなかったが、次の瞬間、言葉の意味が分かった。
「ふっ!!」
「「「「「「!?」」」」」」
一瞬のうちに六人の頭が吹き飛ばされた。
「はぁ!?」
「ね?」
先ほどの戦闘とは打って変わり、マシラは数秒と掛けずに一人、また一人を倒していく。
「ね?」
「いや、でも、なんでさっきはあんなに手古摺っていたんだ?」
「そりゃ、マシラ姐は学んでいたからだよ」
レオネの話だとマシラは戦いながら兵士たちの技を見定め、癖を見抜くために手を抜いていただけであって、十分学習し終えたのでもう用なしと本気でつぶしにかかったらしい。
「マシラ姐は見た動きを完璧に模倣することができるからね、だから人族の剣術やらなんやらを見るだけでマシラ姐は強くなっていくのさ」
つまりは達人の動きを見るだけで完璧になぞらえる事が可能だという。さらには獣人特有の身体能力の高さが合わさればどれだけ強くなれるのか。
「ああ、確かにそれは普通の人にとっては厄介だな」
動きを見られただけで同じ技量まで上がってきてしまう。そうなれば後は決して真似できない能力を使うか、身体能力で上回ることでしか勝機を見いだせない。
(これが【獣化】無しなら話は違ったんだろが)
今回はそうはいかない。
ピクピク
「バアル、ピリピリが無くなったからもう大丈夫だよ」
「そのようだな」
視線の先ではバロン達の活躍でアシラたちが窮地を脱していた。
「さて、今後はどうするか」
後のことを考えて頭を悩ます。




