時間も敵となる
戦場ではちょうどアシラとフィルク聖法国が激突するところだった。
「壁としての機能は十分、あとはどれほど粘れるかだが」
アシラが一人の聖騎士と戦い始める。
(“封魔結晶”を使ったわけじゃないのに、『獣化解除』を使っていない。フィルクには貸し出していないのか、それとも使っても無意味だと思っているのか、どちらにしろまだ温存できているのは良好だ。けど)
「やっぱり足りないね」
アシラの場所は精々が1000ほど、それに対して救援に向かってきたフィルクの軍勢はその五倍は差がある。
(いくら接近戦に強いと言っても、けがをしないわけじゃない)
証拠にアシラの部隊の何名かが同じ戦士の肩を借りて下がっていっている。
「それに、フィルクは」
「え?あれ本当?」
俺とレオネはフィルクの部隊内の出来事が見えている。
大けがをした聖騎士を一か所に集めて、それを取り囲むようにさらに聖騎士が守りを固めている。次の瞬間、聖騎士は自身の怪我に手を添えて何かの魔法を発動する。淡い光が怪我した個所を包み込むとけがは一切なくなっており、すぐさま戦線に復帰している。
このように聖騎士は怪我してもすぐさま回復してしまう、それも即死、もしくは致命傷でなければ、少しの間戦線を下がり、数分で回復し復帰できてしまう。さらには防御の訓練もかなり訓練しているようで厄介さは相当なもの。
アシラとぶつかっても命を落としたものは片手で数えられるほどだろう。
「文字通りのゾンビアタックだな」
「アシラ、イラついているね」
ただでさえ数が少なく、囲まれているのに、何とか倒したと思ったらすぐさま前線に復帰する。俺だったらフラストレーションがどれほど貯まることか。
ピクピク
「バアル、三十本目壊したって」
「よしっ!!」
“封魔結晶”を奮発しただけのことはある。
だが
「「「「「「「「「ぐぁぁがぁ!!!」」」」」」」」」
突如、獣人側から叫び声が上がる。
「ッチ時間切れか」
クメニギス最前線で次々に【獣化】が解けている。
「レオネ撤退の合図を」
「了解」
レオネは声帯を変化させて大きな咆哮を上げて合図を伝える。
獣人はその咆哮を聞くと即座に動きを変え、少し前までクメニギスに殺気を放っていたのに今は近くにいる同胞に肩を貸して撤退をしている。
だがそんな中、一つの集団が撤退できずにいた。
「っ何してんだ、あいつ!?」
「まずいね、さすがのアシラでもあれが続けば死んじゃうね~」
唯一、フィルクの足止めに向かわしたアシラの部隊が撤退できずにいる。
「何やってんだ、さっさと“封魔結晶”を使えよ!!」
時間切れになった今、すでに『獣化解除』は発動できてしまう。先ほどまでは【獣化】した状態だったことに加えて、相手の魔法を封じていたことによりクメニギスの軍を容易に突破できていた。だがそれができなくなった今、フィルクを振り切ることもクメニギスの軍を再び突破する力も持てなくなっていた。
だが、そういう時のためにも“封魔結晶”を与えていたのだが、なぜだかアシラは使っていない。
「ッチ」
俺が直接救援に向かうか?いや、それだと撤退する際に援護できなくなる。撤退する際はさすがに援護なしでは被害が多すぎる、なにせクメニギスは魔法が発達している国、魔法を発動させないように牽制せねばどこまでも被害が広がるだろう。
(どうする。撤退の援護をしアシラを見捨てるか?それとも援護をせずにアシラの援護に向かうか?……………)
「バアル」
「なんだ、今はいろいろと考えて」
「たぶんアシラに援護はいらない」
「見捨てるのか!?」
獣人らしくない判断をしているレオネに驚く。
「ううん、というかこっから先は変に干渉しないほうがいいかもね」
「だから、なんでだよ?」
「ほら、あれ」
レオネが指し示す先では、レオン達が撤退している中、四つの影が軍に向かっていく。
「バアル、父さまたちが動くなら何も心配ないよ、むしろ、ごめんね」
「なんで謝る?」
レオネの謝罪の意味が解らない。
「まぁ見てればわかるよ」
レオネはもう終わったと気を抜き、バロン達のことを見ている。
「あれが、私たちの力の果てだよ」
この言葉には憧憬の感情がこもっていた。




