無抵抗であるはずがない
ピクピク
レオネの頭にある獣耳が不自然に動く。
「バアル、少し不味いかも」
「ん?何がだ?杖を持つ奴らが後退したか?」
なら不味い、『封魔結界』は使い捨てだが杖の方は場所を移せば使えてしまう。
「ううん、違う、なんかこう首筋に少しだけピリピリとくる」
「…………」
気のせいだろ、と一蹴したいがエナのユニークスキルなど説明がつかない予知という物が存在している。もしこれが類似したその力だとしたら無視は危うい。
「どういった危険かわかるか?」
「わかんない、こういったことは私よりもエナ姉さんの方が詳しいよ」
そうは言うがすでにエナもあの戦地に赴いている。呼び戻すには遠いし、時間が掛かりすぎる。
(相手の変化に合わせて、状況を変えるしかないか)
後手に回ってしまうがこの際それも仕方ないと思い、戦況をつぶさに観察する。
するとクメニギスの軍に動きがあった。
(なんだ、あの鎧の集団?)
視線の先では白銀の鎧を着こんだ軍団が前線に移動している。
体を覆いつくす白銀の鎧に体一つ丸々隠すことができる大きな盾、白い刃の剣をそれぞれが持っている。
それらの正体は容易に判明した。
「フィルク聖法国の聖騎士団か」
それぞれの鎧や盾にはフィルクの紋様が描かれている。
そして聖騎士団は前線へと移動している。
「(………まずい)俺も出てくる」
「りょうか~い」
すぐさま『飛雷身』でレオンの上空に飛ぶ。
「よっと」
「!?バアル何しに来た!?」
地面に降り立つとレオンが目を白黒させる。
「レオン、手は空いているな?」
「当たり前だ、というか脆すぎてつまらん」
会話をしながら迫ってくる兵士に向かって腕を振る。吹き飛ばされた兵士は何度か痙攣すると動かなくなる。
「なら、頼みがある。今迫っている白銀の連中が見えるか?」
「ああ」
「あいつらの相手を用意してもらいたい」
「なぜだ?」
「簡単に言うと、あいつらが前に出てくると俺たちが勝ちにくくなるからだ」
今、最優先で行うのは杖の破壊。手順としては油断しているところに『封魔結界』を張り、混乱している状態を利用し一気に杖持ちのところまでなだれ込み壊す。
ここで重要なのは相手に退かせる隙を与えないことだ。『封魔結界』が設置型である以上、範囲外に出られたら破壊は難しくなる。そうしないために場を混乱させて兵の足並みを揃えさせなくさせている。仮に有能な指揮官が撤退を指揮したとしても混乱した人混みの中何人が素直に命令を聞くだろうか、いやできないだろう。
だが戦える援軍が到着してしまえば、兵は冷静さを取り戻して、撤退を判断してしまう。なのでこの状況を維持するためにあの部隊に足止めが必要になる。
「けどそれは突出して敵に囲まれながら白銀共を足止めするということ、生半可な奴らじゃ送り込んだだけで飲み込まれる。だから猛者を集めてあいつらを食い止めるしかない」
「ふむ、それでか」
「ああ、急いで腕利きを編成してくれ」
この状況下でわざわざ接近してくるのだ、ある程度は対策しているとみていいだろう。けど絶対的なアドバンテージはこちらが握っているのは変わらない。
そしてあの部隊の目的は杖の破壊の阻止。『封魔結界』の中に入り込み、杖を回収と撤退の補助をするための部隊とみるべきだ。
杖の破壊が時間内に片が付けばいいが、片付かない場合は敵軍の中で孤立してしまい、さらには『獣化解除』が再び発動してしまう。
(『封魔結界』中では普通の獣人でも十分圧勝できる、なら少ない実力者だけ集めてフィルクにぶつける方がいい)
そうすれば『封魔結界』内ではさほど殲滅速度を遅くする必要が無くなる。
なにせ今優勢を保っていられるのは『封魔結界』が発動している間だけ、その間に可能な限り、いや最大限杖を壊さなければいけない。
(本当にない物ねだりだな)
こちらの勝機は“封魔結晶”を使用している最中のも。なら限られた時間内で最低限のことを済ませなければ、それだけで致命的になりかねない。
「バアル!!聞いたぞ!どこに行けばいい!!」
「アシラか」
どうやらレオンが手配してくれたのはアシラの部隊だ。数は少ないが耐久力という面では随一を誇る部隊。
「(いい判断だレオン)いいか、アシラ簡潔に説明するからよく効け」
俺たちがいま取っている行動の目的、相手の出方、そしてアシラが何をすればいいのか。
「わかった、細かいことはわからんがあいつらをこっちに越させなければいいんだな」
「ああ、それと追加で“封魔結晶”を渡しておく」
アシラと近くにいる獣人にそれぞれの“封魔結晶”計10個を渡す。
「よっしゃ行くぜ!!!」
アシラはそういうと部隊を引き連れて、『結界内』からフィルクの舞台に突撃して行く。
「死ね!!」
「お前がな」
アシラを見送っているとクメニギスの兵士が剣を振るってくるのでバベルで切り返し、殺す。
「はぁ、後味悪いな」
指示を終えたのでレオネの元に戻る。
「おっかえり~」
レオネの声は戦争の最中とは思えないほど明るかった。
「……なんでそんな明るいんだよ」
初めて戦地に赴いたからか、おれでも少し気分が悪い。
「いんやね、バアルがお兄ぃに指示を出しに行ったことでさ、ピリピリが無くなったんだよ」
「俺にはわからない感覚だな」
レオネの横に腰を下ろし、戦場を見る。
「「「「「「「オォォオーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」
「「「「「「「ガァアアーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」




