開戦の狼煙
「うん、エナの言う通り進んできやがった」
「そうだね~」
離れた位置から望遠鏡で様子をうかがっているが、その動きは当初と比べるとやはり遅い。その理由は罠の解除に手間取っているからだ。
まず人族の軍は罠解除をできる人員とその護衛を集めて真っ先に先行させ始めている。そのあとに続くように主力部隊が続いており罠を無害化しながら突き進んでいる。
(罠を仕掛けた場所を抜けるのに一時間といったところか)
罠解除という特殊技能を持っている人たちを集めたのかかなりの速度で罠解除していく。
「一時間後か~なんかすぐにでもぶつかり合いたいんだけどな~」
隣にいるレオネは体を揺らして待ち遠しそうだ。
「我慢しろ、やるならある程度でも疲弊してからだ」
「は~い」
素直に返事をして寝転がる。
「ったく」
その緊張感すら感じさせない様子に呆れながら人族の観察を続ける。
罠を仕掛けたのはそれなりに緑が生い茂っている場所で、そこを抜けてしまえばアルバンナが目と鼻の先に見えてしまう。
(あの軍勢が広いアルバンナに展開し始めるなら、本当に取り返しが付かなくなるな)
軍の数がそう機能しないこの山脈間で倒すしか、獣人には勝機がない。
「どうだ、奴らの様子は?」
バロンが隣にやってきて一緒に軍を見る。
「問題なさそうだぞ」
「そうか、今回俺たちはお前に帰しきれない恩を受けた何かあったら家の連中に遠慮くなく言ってくれ」
「ならいろいろと頼りにさせてもらうさ」
恩には絶対に報いる、言葉はないがそれが伝わってくる。
(こちらとしても貰う物は貰うからここまで感謝されるのは少し居心地が悪いな)
もちろん声には出さない。恩を感じてくれるのだから余計な水は差さないほうがいい。
「それよりもこっちの準備は大丈夫か?」
「ああ、俺の倅が活を入れている最中さ」
今度は獣人陣営を見てみるとレオンが高台で何かを演説している。
「それと一つ頼みがある」
「なんだ?」
「……もし仮にだ俺たちが負けたらできるだけでいい、子供たちをお前の国で保護をしてほしい」
声色から茶化せるわけではなかった。
「了解だ」
「ありがとう、もちろんそれなりにしごいても構わないからな」
そういうとバロンは戻っていく。
「父さま、緊張しているみたいだね~」
「ん?そうなのか?」
俺には普段と変わらないようにしか感じない。
「まぁ父さまが暴れるとなれば、ね」
「……なんだ、その含みは?」
「にゃはははは」
レオネは告げようとせず背を向ける。
ザッザッザッザッ
最後の罠を解除し終えると最も深い場所を抜けて人族の軍がはっきりと見える。
「あ~あ~あんなに樹を切り倒して~森はすぐには戻らないんだよ!!」
人族の軍は歩を進めると同時に伐採し、十分な空間を確保している。
「さて、じゃあ始めるぞ。『雷霆槍』!」
「お~~~やれ~~~」
『雷霆槍』は軍の中心に向かって跳ぶが
バン!!
半透明な壁に阻まれて不発に上がる。
「総員!続け!!」
「お前ら、侵入者を追い返すぞ!!」
電撃音が鳴り響いた直後、双方の指揮官が声を上げると兵士が走り出す。
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして両軍がともにぶつかり合う。この一撃が開戦の狼煙となった。




