動き出す
その日の夜、山頂でリンと会話を交わす。
「へぇ~ひと悶着あると思ったがそうでもなかったのか」
『はい、私もただの山羊が獣人であるとは思わなかったといったら、むしろ同情されました』
意図していないとしても獣人を引き入れたとして少しはお咎めがあると持ったが、全くと言っていいほどなかったそうだ。
「で、今、部隊はどこにいる?近いうちにでかい衝突がある。その前にうちの連中は引かせたいんだが?」
『ご安心ください。現在、私たちは軍の最後方に配置されていますのでで戦闘に巻き込まれることはまずありません。ただロザミアさんの部隊だけはあの場に残ることになっております』
あの部隊は俺の救出部隊ではあるが、軍からしてみたらいっぱしの戦力だ。できるだけ後ろに下がらせたくないのだろう。
「それは上々。ちなみにこの連絡ができるのはお前たちががやったのか?」
『はい、軍の複数人に荷物となるといくつかの魔道具を配りました。もちろん道中にも問題ないようにいくつか無造作に捨てています』
ということで現在の山頂から人族の陣営にある魔道具を経由してリンの通信機の元に届いているとのこと。
「………魔道具に予備はあるか?」
『残念ながら、我々もそこまで準備していたわけではないので』
「そうか」
もしここからグロウス王国に通信が飛ばせるようになれば、いろいろ手を打てるのだが。
『もし、必要であればルナを使うことを提案します』
ルナ、つまりは裏の騎士団の事だ。
「今いるのか?」
『はい、国の要人でもあるバアル様がいなくなったのです何人かはその手の連中が同伴しております』
(………必要になるか)
考えた結果、必要と判断する。
「ではルナに連絡しろ、本国と何とか連絡できるように魔道具を配置しろ、と」
『わかりました』
これで、準備が整った。
『では早速手配します。バアル様ご武運を』
そういうと通信機が切られる。
「ご武運………ね」
眼前で灯りをともしている人族の陣営を見る。
(あっちもそろそろしびれを切らすよな)
実は二日前に仕掛けた罠が発見されたことにより軍は一日停止し。そこからはまさに牛歩と呼ぶべき速度で進行しているため何も成果が上げられな。そんな事態が続けば上の連中は確実に焦るだろう。
(リンが内部にいないから内情は詳しくはわからないが、功績を上げられない指揮官は下から突き上げ食らうはず。ならば動かざるをえなくなり、いくら慎重論をかざしても、上の連中は損失を上回る功績があれば何ら問題ないと思い動き出す)
たとえ一人の兵士が死んでも敵を皆殺しにできるならば推し進める。この手の人物が上にいるのは組織の中での必然、のし上がる際にまとわりつく弊害と言ってもいい。
「おい、バアル」
「ん?」
振り向くとティタにまたがっているエナがいた。
エナは本来山頂に登ることはできないのだが蛇になったティタに乗ることで移動が可能となる。
「どうした?」
「いや……そのな」
「………お前は同胞を手に掛けることに耐えられるのか?」
「あ、おい」
エナがなかなか切り出さないので、ティタが率直に物申す。
「なんだ、俺がいざ目の前にしたら手が鈍るとでも?」
「……大丈夫そうだな」
「まぁな」
人が死ぬのをこの目で見たことがないわけではない。むしろ領内の犯罪で斬首を行ったこともあるほどだ。
「バアル、ここまでしてもらったんだ、もう降りても誰も文句はない」
エナがそっぽを向きながらそう告げる。
「ぷっ、ははははは」
「何がおかしい!」
エナのその態度を見て不覚にも笑ってしまった。
「ここまで来てお優しいことだな。俺を無理やり連れてきて毒で利用してきたのにこういうところだけは甘いんだな」
「うるせぇ。戻るぞティタ大丈夫そうだ」
「……わかった」
そういうと山肌を伝いレオンの元に降りていこうとする。
「あ、そうだ、バアル」
エナが振り返り告げる。
「なんだ?」
「明日、あいつらは必ず攻めてくる」
「根拠は?」
そういうとエナは自らの鼻を刺した。
「なるほど、了解だ」
そういうと今度こそ二人は山肌を下りて行った。
「はぁ~戦争か…………ふぅ~月がきれいだな」
空を仰ぎ、真上にある満月を見ながら夜が過ぎる。
次の日の朝。
「諸君!蛮族は我々の力に慄き、姑息な手段を使いだした。だが安心しろ、それは我らの力が強大であるが故!!自身の力を誇れ!その力を隣にいる友のため家族のために捧げよ!そして蛮族に知らしめろ我ら人族の力を!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「オオオオオーーーーーー!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
そして大地を揺るがす怪物の足音が響き渡る。




