ようやく見つけました
眼前の戦況はレオンが加わったことにより多少変化が起こる。
まずレオンが駆け付けたことにより、獣人陣は士気が上がり、人族陣は少しだけ動揺が見える。だがそれはほんの一瞬ですぐさま統率が取れた状態に戻ってしまう。
(妙だな、もう少し動揺が広がると思ったのだが……何かあるのか?)
少し探るため望遠鏡を取り出し、戦線で何が起こっているか確認する。
そして理解した、なんで人族が急に大攻勢に出たのかを。
「少し手を貸さないと不味いか」
少し足場が安定しているところに移動する。
戦線の一つの個所にて~
「*********!!!」
「死ね」
何かを叫びながら向かってくる獣人を切り殺し、前に進む。
「リン、少し前に出すぎだ」
「………ラインハルトさん」
「そうそう、はやる気持ちもわかるけどここで焦っちゃまずいよ」
頬に着いた血をロザミアさんが拭ってくれる。
「ですが」
反論しようとするとロザミアさんに両頬を押せつけられる。
「いいかいリンちゃん、たとえリンちゃんが一人で奥に行くことができたとしてもだよ、広大な未開の地でどうやってバアルを探すの?」
「それは……」
「本当にバアルを救い出そうと考えるなら、ぜっっったいに人手が必要になるの、ならば一人で突っ込むんじゃなくて軍を推し進めるように動くのがいいと思わない」
………ロザミアさんの言い分は頭では理解できる、だが気持ちでは到底納得はできない。
「それにさ【吹き飛べ】」
「****!?」
一人の獣人が襲い掛かってくるが、ロザミアの言葉で、まるで見えない何かに殴られたかのように吹き飛んでいく。
「こいつら、案外しぶといんだよね」
「そうですね」
いくら弱体化したといえども身体能力が破格な獣人だ、一人一人殺すのすら骨が折れる。
「それに魔力も無尽蔵じゃないからさ、私も結構いろいろ使ってるからさ」
「そうですね」
ノストニアの果実で最大値を増やしている私と違い、ロザミアさんは生来の魔力量しか持ってない。となれば早々に魔力切れになるのは目に見えている。もちろん装備などで魔力の回復速度を速めたり、最大値を増やしたりとしているがそれでも5000以上を持つ私には及ばなかった。
ガォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
一際大きい雄たけびが木霊す。
「ロザミア様、ご報告です」
「迅速に」
「は、新たな獣人の集団が出てまいりました、数は千を超えないとのこと」
報告をした人もロザミアさんも、落ち着いている。
「彼らも学ばないね」
「蛮族であるので当たり前といえば当たり前なのですがね」
ほんの少し仕事が増えた時のような口調で会話している。
「一応確認だけど、あの杖どこの部隊も壊してないよね?」
「はい、蛮国への進行の重要な道具ですので。レシュゲル様自ら慎重に扱うように言いまわったとのこと」
「ならいいけどね、あれを壊されたら厄介だからね」
二人の会話を傍目に迫ってくる獣人の集団を見る。
「………おそらくですが、手こずることになるかと」
「なんでだい?」
ロザミアさんはどうやら見えていないようだ。
「先ほどよりも圧が強いので」
先ほどの獣人とは違い、猛スピードで坂を下っているあの集団の獣人は、全員が揺らめく何かを纏っている。
そのおかげなのかは分からないが一人一人が手ごわくなった気がする。
「そ、おそらくはユニークスキルの類だと思うけどそれでも周囲に強化効果を促すだけなら、ね」
「ええ、問題ないでしょう」
先ほど最前線にいた獣人と入れ違いに戦線に入ってくるのだが、結果はほとんど先ほどと同じく、時間はかかるが徐々に押し込んでいる。
「さ~て戻ろ戻ろ、後ろに下がる許可も出たし」
「そうですね」
私たちの部隊が下がり、クメニギスの部隊がそのまま入る。
ガァアアアアアアアアアアアアア!!!
もう一度大きな咆哮が木霊すが、先ほどと違い少しだけ声色が高い。
(女性の方ですか、同情はしますが自業自得ですよ)
これは戦争だ、戦場で女性がどんな扱いになるかは想像に難くない。
(運がいいですね)
今回は捕虜はすべて奴隷として売り出すようで乱暴はされてない。それどころかある程度の傷は商品価値を上げるため癒してもいる。
「ほ、報告!獣人が後退していきます」
先ほどの報告を聞くと戦っていた獣人がすべて反転し逃げていくという。
「馬鹿だね、そんなことをすれば」
「全部隊!!追撃に入れ!!」
指揮官が追撃の号令を出す。当たり前ながら背を向けているときが一番倒しやすい。指令が行き渡ると戦士は前に出て魔法使いは詠唱を始める。
「ご愁傷様」
魔法が完成し放たれようとした、その瞬間。
ヒュン、ドン!!!!!!!
馬すら飲み込むほどの黄色の大槍が魔法部隊に衝突する。槍は一人に当たるとその瞬間特大の雷撃になって周囲に走り、ほとんどの者が動かなくなった。
それを見て心臓が強く跳ねる。
「なに!?どこだ!!どこにいる!!!」
何が起こったのか把握していない指揮官が何事か確認している間に次々に黄色の槍が放たれている。
その光景を見ていつの間にか足が動いていた。
「リン!?」
「リンちゃん!?」
人垣を飛び越えて一番前に出る。
「『風の羽衣』」
すぐさまユニークスキルを発動して槍が飛んでくる場所に移動する。
羽衣を纏っているおかげでかなりの速さで走ることができている、ある程度近づくとそのまま風で体を浮かせる。
「あぁぁああああぁぁぁ」
どれほど心配したか、どれほど辛かったか、どれほど傍にいたいと切望したか。
「ようやく見つけましたバアル様」
最愛の主人がそこにいた。




