急変する戦争
それから夜まで話し合った結果、国としての形が見えてきた。
まず氏族などはこのまま維持をする。これは今ある形を崩してまでの改革を必要とはしていないからだ。
次に統治者なのだが、レオン達の言葉で“獣王”と呼ぶこととなり、初代獣王はバロンが就任する。これは全氏族が一言で賛同した(主に後ろにいるテトの存在が大きい。というかみんな 逆らいたくないみたいだ)。
ここで獣王の役割は大きく三つに定める。
一つ目は以前話していた“獣戦士”の選定。有事の際に王が自由に動かせる直属戦力のことを指す。
二つ目は縄張りの管理。国を興してからは以前とは違い、新たに氏族を作る際や縄張り争いをする際には王もしくは獣戦士の仲介が必要になる。もちろん事の顛末の報告義務を課している。
三つめは外部勢力との交渉を行うこと。まぁこの部分に関してはほとんど形式だけで中身はスッカスカ、つまりは何もない。だが戦争が必要と判断すれば氏族に召集を掛けて戦に赴く。
そして役割とは関係ないのだが獣王にはその座をかけて戦いを挑まれると受ける義務を課している。これにより傲慢な存在が居座るのを防ぐことができるようにした。
そのほかの細々とした内容に関しては不備があれば修正していくことを約束させて、ようやく国としての考案が出てきた。
「では皆の物、盃は持ったな?」
「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」
「では国を祝って!!!!!」
「「「「「「「「「カンパーーーイ!!!」」」」」」」」」」
国についての草案がある程度揃うとその夜には氏族の長が集まり祝杯が上がる。
「はいは~い、私も私も!!」
レオネもお酒を貰って寄りかかってくる。
「バアルは飲まないの?」
「いや、おれはな」
今も自前の書類を取り出し、草案のまとめを行っている。
なにせ国といっても本当に中身スッカスカの張りぼてでしかないのが現状だ。うまく機能させるにはもっと構成をしっかりさせないとまず稼働しない。
(王の選定は一番強い奴がやるとして、問題は獣戦士の選別基準だ……現状は地理と暗黙の了解の理解度、戦士の基準や戦い方の問題を出してその正解率で決めるとしよう。ほかにも縄張りの主張だが二人以上の獣戦士の同伴にて誰も所有していない土地であることの確認とそして生活水準が規定以上であること、この二つが満たされていれば認めるとしよう。確認が取れたら獣戦士に報告の義務をつけて、レオンの元に管理情報を集めさせる。縄張り争いに関しても獣戦士が監督した状態で行わせることの義務付け、それも要報告。あとは管理場所としてバロンの土地に専用の建物を建ててもらおう、ほかにも書式をあらかじめ用意しておいて見やすく、ほかにも手に負えない魔獣被害や災害などには獣戦士が率先して仕事をしてもらう。そして肝心な税だが………どうすっかな、貨幣制度が整ってない以上物納になってしまうが、ここの物納といえばほとんどが生モノだ、どう考えても腐る………だめだここは後回しにするしかない。外部勢力との交渉なんだが………グレア婆さんみたいなのが絶対に必要になるな、それも数人じゃない何十人という規模でだ、これも当分は外部との接触を断って教育に専念してもらうしかないか。ほかにも――――)
やることは山ほどある。
「うへ~」
隣にいるレオネがびっしりと書き込んでいる書類を見て嫌そうな顔をする。
「レオネ、グレア婆さんみたいにフェウス言語を話せる連中はいるか?」
「い~や、私の知っている限りグレア婆さんだけだね」
ここにも課題点があった。
(それも追加して後は――)
ガシッ
不意に襟首をつかまれてネコのように持ち上げられる。
「おい、バアル祝いの席だぞ、辛気臭い顔をするな」
「あのな、バロン、これは必要な事「おい!?」?どうした?」
バロンにコンコンといかにこういったことが必要か説明しようとすると急に喧噪が止む。
「何があった?」
「いや、おい放せよ」
俺を掴んだままバロンは宴の中心部に戻っていく。
「おい!これはどうしたんだ?」
「大丈夫なのか?!待っていろすぐに薬師を呼んでくるから」
「何にやられた!?」
騒ぎの中心には傷だらけの男がいた。
「ひどいなこりゃ」
もう少し深ければ致命傷といえるほどだ。
「おい!バアル」
「はいはい、っせ」
バロンの手から抜け出しバベルを取り出す。
「『慈悲ノ聖光』」
「ぐっ、ああぁぁぁぁ」
光を浴びた怪我人は苦痛そうな表情から一転、穏やかな表情に変わる。その証拠に大きな切り傷は完全に治癒し、流れ出る血も完全に止まった。
「レオン!レオン!!」
「どうしたんだ?」
お礼を言う暇もなく男はレオンに駆け寄る。
「大変なんだ!軍が壊滅した!!!」
この一言で雰囲気が一変する。




