国という看板の利点
大雑把に獣人が対面している問題点を提起すると
・獣人は人族になめられており、一勢力としては見られていない。
・獣人に大きなまとまりがない。(今回だけは魔蟲の件があってまとまっていた模様)
・言語が違うので、言葉が交わせないことからお互いを敵視している。
・他国の人攫いに暴力でしか対抗できない。
大まかに言えばこの四つだ。
この四つを簡単に解決させるには、国を興すことが一番有効だろう。
国を起こせば、一定の武力を持っていると知らしめることができ、国の保護を受ける過程で一つにまとまる、さらにはうまく国との交流ができるようになるかもしれないし、奴隷制度については交渉で解決する場合が増えてくるだろう。
「だが、国といってもそう窮屈な物じゃなくていい、氏族間の同盟という形で何も問題ない。お前たちをより大きく見せるために必要な事だ」
「具体的にはどうするつもりだ?」
興味が出たのかマシラが食い気味に聞いてくる。
「まずは全氏族を集めて国としての体裁をとらなければいけない」
「あ~すまんが国の部分を詳しく説明してくれないか、あたしらは国とかの実感がなくてな」
「別に変に体制を変えなくていい、そうだな……すべての獣人が所属する大氏族を作るって感覚でいいぞ」
そういうと全員が何となく理解した風になる。
「有事の際は各氏族から戦力を出して対処するぐらいのつながりでいい」
「今の状態と何が違う?」
「何もかもだ、今は氏族ごとでしか組織的な動きはしていない、だがこれを全氏族間で運営していく組織とするわけだ」
「「「「「???」」」」」
全員がよくわかっていないようなので実例で説明する。
「仮に一つの氏族が全滅の危険に瀕した場合はどうする?」
「手を貸せるなら手を貸す………仮に無理なら自然の摂理に従っただけだ」
そう判断するのか。
「では仮に国がその危機を知り、すぐさま対処した場合はどうなる?この人数でだ」
どこまでの規模を考えているかわからないが、この人数だったら災害でも起らない限りどんな問題でも対処できるだろう。
「仮に国を作ることができたら、まずは派遣できる勢力、まぁここだと『獣戦士』とでも呼ぶか。『獣戦士』を一定間隔で集団で配置、周囲から救援を求められたときはその『獣戦士』が援護に向かう、場合によっては別の地区の戦士もだ。そうすれば格段に危機を乗り越えやすくなるだろう?」
「たしかにな」
アシラはこの例で理解できたようだ。
「もちろんそれだけじゃない、国という勢力を築くことにより他者からの、ここで言えばクメニギスやフィルクから攻め込まれにくくなる。お前らだって弱い獲物なら一人でも十分と考えるだろうけど、一人で無理な獲物ならあきらめるだろう?」
そういうとようやく全員が納得した。
「じゃあ国を作るか」
「「「「だな」」」」
(……………こいつら)
ある意味心配になる。俺は利益があるから協力しているため騙すつもりはないが、これが悪人だったらこいつら、簡単に騙されるぞ。
こいつらは仲間が助かりやすくなることを理解したらすぐさま賛同するぐらいだ。
「で、バアル、どうすればいい?」
「………………まずやるべきことは二つ、全氏族の長を呼び集めること、次に頭脳労働できる人材を呼び集めてくれ」
「「「「「「よし、わかった!」」」」」」
しぶしぶどういった方針を取ればいいのか教えるとレオン達は即座に動いていく。
「いや……おい、明日にはまたルンベルト地方に向かうんだよな?」
予定も何も作っていない状態で動いても………
「そこら辺の調整は私がやってやるよ」
静かに話を聞いていたマシラが立ち上がる。
「………」
「安心しなよ、これでも氏族長の伴侶をやってんだ、予定ぐらい立てられるさ」
そういうとマシラも立ち上がる。
「おい、ちょっと待ってくれ、今後の段取りは」
「ない、お前らはこのままテス氏族に向かってくれれば問題ない」
これはわざと俺に関わらせないようにしているのか、それとも本当に突発的な行動だけで問題なく済むかだ。
「………わかったよ、レオン達を信じることにするさ」
俺はこれからの行動に何も言わないことにした。
それから二日後、視線の先ではテス氏族の建物が見えてきた。
「ん?なんか人多くね?」
以前見た時よりも人が混んでいた。
「おうおぅ、どこもかしこも名がある氏族の戦士やないけ~~、フィブ氏族、ガム氏族、ザル氏族ほかにも――」
レオネは次々に氏族の名前を出すが、俺は混乱しっぱなしだった。
「なんでこんな早くに集まれるんだよ、普通はもっといろいろと手順を踏むんじゃないのか…」
長という立場でこんなにも身軽に動けるものなのかよ。
「そう?親父は好き勝手に動き回るよ?」
「……仕事は?」
「ないない、しいて言えば訓練とか修練とかかな、縄張り争い以外長の役割ってないようなものだから」
「力の象徴でしかないということか」
(うらやましい立ち位置だなおい)
書類仕事や雑務をしなくていい、修練とかを欠かさずやればその地位を保てるのだから。
「まぁでも、親父はお母さんたちと一日中イチャイチャしているけどね」
「………」
クメニギスに戻ったら男のアレだけ腐り落ちる呪いでも探してみるか。
「おい、二人とも何やっている」
声で振り向いてみると大きな獲物を肩に抱えているテトさんがいた。
「ただいまお母さん!」
「お帰り、レオネ」
レオネが抱き着くと、空いている腕でレオネを抱くテト。
二人を見えているとまさに親子という感じだった。
(にしても感情で尻尾が揺れるんだな)
二人ともネコ科特有の尻尾をしているが、それが揺れに揺れてうれしいのが傍目でもわかる。
(でもこの光景に違和感を覚えないのは………俺も毒されてきたのかな)
二人だけに焦点を当てれば、仲のいい親子で済むだろう。だが思い出してほしい、テトの肩には血だらけの大きな象がいるのだ、しかもそこから血が滴り落ちている。むしろそちらに焦点を当てるとどれほど異常なのかが浮き彫り出るだろう。
「それよりバアル、お前の号令で皆を呼んだのだろう?ならさっさとうちの亭主のところに行きな、もう全員集まっているんだからさ」
「ああ、了解だ」
テトに促されて以前バロンにあった場所に向かう




