大きな提案
「いや、だからなレオネ」
「な~に?」
「この席はだいぶ居づらいんだよ」
俺の正面ではレオンの仏頂面が見える。
「それならお前の方がどこか言ってくれないか、レオネから離れて」
周囲はルウを除いたいつものメンバーだが。全員がまたかといった表情をしている。
「いい加減、その類の言葉は聞き飽きたんだが…………それよりも聞きたい、人族に対してはどのように対処する?」
全員が驚愕する。おれからこの言葉が出ることがそれほどまでに、という感じだろう。
「なぁ、バアル悪いことは言わないから、戦争には加わるな、確かに魔蟲の時は手伝ってくれたが、今回は」
「そうよ、あなたは同胞を殺すことになるのよ」
「そうじゃ、戦争が始まる前に返すから安全な場所にいなさい」
(優しいな……けど、上に立つ者がそれじゃあダメだ)
魔蟲の時の俺は単なる戦力扱いで何も問題ないが、人族の戦争ではそれじゃあ問題になる。
「なんだ?素直に返してくれるのか?毒は?」
「もちろん解除し「しない」」
全員の視線が一点に集中する。
「おい、エナ、笑えない冗談はやめ「冗談じゃねえ」」
ドン!!
アシラの拳が大地をたたき辺りを振るわせる。
「おい、言葉に気をつけろ、俺も限度がある」
「言葉?オレは一つしか言ってないぞ、バアルは人族には返さねぇし、毒も解除しない」
レオンとレオネ以外、エナに向けて怒気を放つ。
いや、殺気といってもいい。
「エナ、戦友を貶すのならさすがに温厚な俺でも許さんぞ」
「そうだ、それが『母体』と『王』を葬ってくれた恩人に対しての言葉か」
「心情は腐っていないと思ったが、そうでもなかったのかのぅ」
アシラ、ノイラ、エルプス、それぞれが【獣化】しかけている
「っく、ハハハハハハハハ」
その光景があまりにもおかしくて笑いが抑えられない。
「おい、バアル?」
「すまん、すまん、だけどアシラ、今回はエナが正しいぞ」
「なんだと?」
今度はこちらに視線が向く。
「……黙っいたほうがよかったんじゃないか」
「かもな」
そうすれば周囲に押されて無事解毒され、引き渡されるだろう。だが、それ以上の利益が手に入ることはない。
だがここで獣人に協力し、無事人族を撃退することができたのなら飛び地だが重要な資源地が手に入る。
(勝てば無事に資源の土地が手に入り、負けてもただクメニギス辺りに保護されるだけだ……その場合は土地は手に入らないが、どちらに転んでも損だけはない)
それに
「アシラ、仮に俺が返された場合、どんな待遇になると思う?」
「???ふつうに故郷に帰されるだろ?」
「そんな穏便に済めばいいな」
「おい、人族では違うのか?」
「違うに決まっているだろう。なにせ俺はお前らのことを知っている、そんな俺を穏便に返すと思うか?何かにつけて俺から情報を引き出し、地形の把握をしたり、人数、個々の強さ、指令系統がどうなっているかを把握するさ。もちろん場合によっては拷問も行われるだろう」
そうなれば俺は簡単に情報を吐くだろう。
「そうか………たしかにこれはエナの言う通り、まだ返さないほうがいいだろう」
「そうしてくれ、ただ代わりに俺は戦争には参加しないからな」
「それはもちろんだ」
あっさりと不参戦でもいいと言われた。
「さて、それでレオン一つ聞きたいことがある」
今までは魔蟲に余力を割いていたから、あまり気にしなかったが。
「人族と戦争になったのはどういった理由だ?」
戦争の引き金になった原因を知りたい。
なにも軍が動くためには利益だけではない大義名分、いわゆる第三者から見て都合のいい理由が必要になる。
「なにって、そりゃお前、人攫いに決まっているだろう」
それから戦争の経緯が詳しく話される。
まず戦争のきっかけは、予想のうちの一つであった。獣人誘拐に関係している。
ルンベルト地方、もっと言えばウェルス山脈とミシェル山脈の真ん中の地域はある程度気候も安定しており森もあることからこの場所に縄張りを持つ獣人もいる。
だが、この場所はクメニギスとフィルク聖法国の国境近くでもある。となると何が起こるのか、想像できるだろう。
人攫いによる獣人の乱獲が発生したわけだ。フィルク聖法国は奴隷制度を設けていないが、クメニギスは違う。
クメニギスの奴隷商が傭兵などを雇って氏族を襲撃し攫って行くこともあれば、無防備な子供だけを攫って行く場合もある。
そしてフィルクも奴隷制度は導入していないがクメニギスの奴隷商に話を持ち掛け、小遣い稼ぎをする奴らもいた。
もちろん獣人側もそれに対抗すべく戦闘を行う。
今まではこの状態で問題なかった、とは言わないが大々的になることはなかった。だが、ある時とある大氏族の子がその氏族に嫁いでいった。
まぁここまで言えばある程度予想はできる。
人攫いがその子を攫って行ってしまった。その事実でどう動くと思う?そう大氏族がその子を取り返すためにクメニギスのある町に襲撃を掛けた。
このことが街の領主の反感を買い、クメニギスに獣人がどれだけ危険な存在を触れて回った。
そうなれば奴隷商と懇意にしている貴族や奴隷の強制労働で儲けている貴族は諸手を上げて参戦を表明。ほかの貴族にも利権をちらつかせて戦争へと発展。
そしてタイミング悪く、フィルク聖法国のお偉いさんが襲撃された町に来ていて、被害にあった。
その件でフィルク聖法国はクメニギスと協力してこの件に対処すること決定。
こうして二つの国はルンベルト地方への進軍を開始した。
「なるほどな(フィルク聖法国の方はうまく利権に乗っかった感じが強いな)」
どれくらいの地位なのかは知らないが、フィルクは口実が都合よくあったからという色合いが強そうだ。
「で、お前らはどこまでやれば気が済むんだ?」
理由を聞いた次は落としどころを聞く必要がある。
「簡単だ、人族が二度と攻め込められないように叩き潰す。それと同胞を解放することだけだ」
「…………え?それだけ?」
周囲を見るとアシラと同意見のようだ。
(賠償金や奴隷、土地の返還とかを求めることはしないのか…………となればある程度は方針が決まる)
「仮にだ、交渉でどうにかなるとしたらお前らは交渉するか?」
「ん?話し合いで解決するならそれがいいに決まっている」
なんかこいつの言う話し合いって交渉とはかけ離れていそうだ。
「なんだなんだ、あたしも話に混ぜてくれよ~」
そういうとアシラの後ろからマシラがやってきた。
「げっ!?」
「なんだいアシラ、なんか文句でもあるのかい?」
「ないです!」
先ほどまで存在感を持っていたアシラが小さく見える。
「ったく、今回の魔蟲では活躍できなくて残念だよ、んっんっ、プハ」
「マシラ殿、我々は大事な話をしている絡み酒なら今はやめてもらいたい」
ノイラがそういうとマシラの眉がピクリと動く。
「へぇ~どんな話だい?」
宴に参加してからの話を全て伝える。
「あっそ」
すべてを伝えたのだがマシラの返答はたった三文字だった。
「それでバアルの案はなんだ?なにかあるからこの話を持ち出したんだろう?」
「まぁな」
そういうと全員の視線がこっちを向く。
「お前たち、国を興す気はないか?」




