一時的な帰宅
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ
「すごい光景だな」
宴の翌日、早速残る者以外はテス氏族へと向かって移動しているのだが、大人数が一斉に移動を始めている。
少し高い位置から見たその光景は、ある意味では壮大さを感じ取らせる。
「それでは我らも行くぞ」
空にはハーストたちがいる。彼らも帰る準備をしていた。
「ああ、また今度いろいろ話をさせてもらいに行くさ」
「わかっておる、あの土地が欲しいのならそこらへんも話し合いをしたいからな」
既に昨夜、ハーストには報酬で戦士の身分を手に入れることを話しており、そうしたら『飛翔石』が取れる場所を縄張りにしたいということを伝えている。
そして簡易的だが、その答えは『是』に近いらしい。ある程度の採掘場所を残してくれるのならばあとは好きにしていいとハーストは思っているらしい。
『飛翔石』が手には言えば、かなり面白いものができうると確信がある。
「ではな、戦友達よ!!」
ハーストがそういうとヨク氏族も羽ばたき戻っていく。
(あいつ、達って言ったな)
ということは宴の時の言動は本当らしい。
『いずれはお前らとも手を取り合いたいものだな』
ハーストは本当にそう願っているのだろう。
「はぁ~めんどかった~」
レオネが嫌な顔をしながらやってくる。
理由はある一人に攻めよられていたことだ。
「私はファルコなんて興味ないのにーー!!」
いつの間にかはわからんがファルコはレオネに惚れていた。
「やっぱりバアルのそばが気楽でいいな~~」
そういうと再び寄りかかる。
レオネは構うと、どんどんうっとうしくなるので構わずにいろいろ考える。
(さて、どうやって人族の軍に対処するか)
ただ力だけでしか解決できない魔蟲とは違い、人族となると搦め手が効く。
(クメニギスは俺の件である程度譲歩が引き出せる、フィルクの方もアレを使えばそう簡単には手出しはできないだろうし。あ、あと父上がよほどのバカでない限りは今回の戦争に支援の手を回しちゃっているか?)
その場合は少しだけ面倒になる。
(ただ、問題なのは交渉相手が誰になるかだな)
まさか、俺の名前で交渉するわけにはいかないし、契約書に名前を書かないわけにはいかない。
となれば
「お~い、バ~アル~」
「ん?どうした?」
「前、前」
顔を上げて、前を見ると先ほどまでいた軍の姿が一切見えない。
「もう、お兄ぃもムー姉ぇもエナ姉ぇも行っちゃったよ?早くいかないと怒られるよ」
「…………だな」
(こんな短期間でいなくなるなんて…………あいつら体力配分考えているのか?)
『なぁ、競争しないか?』
『いいぜ、じゃあ誰が一番に着くかな!!』
『ずりぃ!俺も混ぜろ』
『『『『『俺も俺も!』』』』』
「フッ……………」
脳裏で何があったかがとても鮮明に予測できた。
誰かが面白がり競争を持ちかけて、それが伝染して全速力で移動した。
もちろん今後のことも考えずに。
(………やばい、高確率でこれだと分かる)
今の表情は遠くの何かを見ていることだろう。
「それじゃあ私も行くけど、バアルはどうする?」
「いや、俺も行くよ」
本来なら『飛雷身』で移動したいんだが、残念なことに今日は雲一つ見えない晴天だ。
こんな状況下では消費魔力の効率が最悪だ。
だったら普通に【身体強化】を使用して走ったほうがまだ効率がいい。
「じゃあ行くよ~【獣化】」
レオネの体の一部がネコ科の特徴的なものになる。
(そういえば、レオネのステータスは見ていなかったな)
モノクルを取り出すと
――――――――――
Name:レオネ
Race:真獣人
Lv:67
状態:普通
HP:688/688
MP:743/743
STR:54
VIT:60
DEX:72
AGI:81
INT:40
《スキル》
【鋭爪拳:62】【鋭牙:7】【抉肉蹴:23】【跳躍:27】【雷魔法:42】【身体強化Ⅲ:56】【威圧:27】【野生の勘:421】【第六感:―】【天性勘:―】【暗視:】【四足歩行:225】【思考加速:37】【敏嗅覚:26】【感覚強化:67】【雷耐性:13】
《種族スキル》
【獣化[天勘狩猟豹]】
【獣化[迅雷狩猟豹]】
《ユニークスキル》
――――――――――
(……………獣化が二つ?)
スキル構成の前に気になるのが獣化が二つ存在していること。
(今まで見た獣人は変化できるのは一つだったが……レオネは二つ持っているのか)
「じゃあ、おっさき~」
「あ、おい……行っちゃったか」
また【獣化】について謎が出てきたが、とりあえずはテスの里を目指す。
「はぁはぁはぁ」
「にゃははははは、これぐらいでバテるなんて」
(そうは言うが、ぶっ続けで5時間は走っているんだぞ。ほんと、こいつらの体はどうなっているんだ。肉体労働させたらどれだけの効力生むか………クメニギスが奴隷にしたがるのもわかる、心情を無視するなら俺も欲しいぐらいだ)
既に太陽は落ちかけており、あともう少しで夜になるだろう。
「大丈夫、大丈夫、ここら辺はもうラジャの里の近くだからあと少しで着くよ」
「ふぅ~ああ」
ということでラジャ氏族の里に入るのだが
「……………何やってんだこいつら」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
あちこちで焼けた油のにおいと酒精の匂いが漂ってくる。
「おう、レオネ、バアルお前たちも到着したか」
「アシラ、何してんだこれ?」
「???見てわからんか、飲んでいるんだ」
「いや、そうじゃなくて」
「いいんだよ、何かを成し遂げたらパーッと騒がなくちゃな」
後ろから声をかけてきたのはマシラだった。
しかも片手に酒を持ち、もう片方に肉を持っている。
「それでバアル、何してんだとはどういうことだ?」
「いや、だってな」
これから人族との戦争で気を引き締めなければいけないときにこれだぜ?
「いいんだよ、ラジャ氏族まで道中に故郷がある連中はそっちで騒いでいる。戦士たちにも休息は必要だろう?」
「…………」
「それに安心しろ、あたしたちは確かにぶつかり合うことはある、だがそれは常識の範囲内で、友として、友だから助けにも行くんだよ」
(懸念していることも見透かしてくるか)
獣人も人と同じく感情を持つ。
なにを当たり前と思うかもしれないが、感情とは厄介なもので、生きたいという生存欲、死にたくないと思う恐怖は生きている限りは誰もが持ち得る。
それこそ頭では戦場に立って家族を守らなければいけないと分かっていたとしても直前で心が折れて逃げるという行動取ってもおかしくないぐらいに。
だから為政者は戦場までは恐怖や帰りたいという欲望をできるだけ抑えさせる。これがいわゆる士気というものといってもいい。指揮を保つため、負けたら家族がどうなるのかを語り、罰を作り、あるいは実を作ることで何とかしている。
もしここで戦士たちが家に帰り、死にたくないという欲を得てしまったらクメニギスとの争いに参戦しない可能性がある。なので本来は家に帰さずに最速でクメニギスに向かわせるのが普通のはずだった。
(……マシラの言葉を信じるならば大丈夫だろう)
仮にもラジャ氏族の長の妻だ、ある程度は信用に値する。
「はら~辛気臭い顔してないで飲も飲も」
レオネが腕を引っ張って席の一つに案内させる。




