勝利と感謝
グルルルルルルルルルルル
(レオネ、なんでこの席を選んだ?)
よりもよってレオネに案内されたのはレオンやルウ、アシラ、エナ、ノイラ、エルプスの主要メンバーがいる場所だ。
「こら、レオン」
「そうよ、もう済んだことでしょ」
両隣にいるムールやビューラに注意され、うなり声はなくなったが、いまだに鋭いにらみつけは飛んできている。
「それにしてもよ~あんなんができるんならさっさとやっておけよ!」
「まったくだぜ」
ルウとアシラは肉にかみつきながら今日の出来事に文句を言う。
「無理言うな、俺もあんなことができるなんて今日初めて知った」
「そうなのか?」
「ああ、正直なところエナに教えてもらわなければ俺が【王】を殺せるなんて思わなかったよ」
それからは『天龍顕現』について聞かれまくった。
「そういえばレオン、今後はどうするつもりだ?」
「ん?ああ、そうだな」
【王】を倒したことにより、みんな浮かれてはいるが、ま【母体】一体残っているし、ほかの魔蟲が残っている。ほかにも人族の軍も早々に対処しにいたなければいけない。
「まず、【王】がいなくなった今、魔蟲にそこまでの脅威はない」
「だな」
「ああ、なんだったら俺のところだけでもやれるぜ」
「同意」
ルウ、アシラ、ノイラがそう息巻く。
それほどまでに魔蟲の勢力は弱まっていると言っていい。
「だよな~……ムール、どう思う?」
(へぇ~以外だ、ここはエナじゃないんだな)
エナならユニークスキルの力でいろいろとわかると思うのだが。
「そうね、レオンは除くとして、この中の誰かが残れば後はちょっと実力が劣る新人たちだけでも問題ないわね」
レオンに関しては軍の総大将みたいな立ち位置なのでここの問題があらかた終わったら人族との戦争の方に行かなければいけない。
「ちなみにどれくらい残す?」
「そうね、大体3000もいれば任せられると思うけど」
「それぐらいか、なら―――」
ムールが主体となり、誰の部隊からどんな人選をしてここに残すのかを話し合う。
「どう~決まった~~?」
レオネが横からのしかかってくる。
「いや、決めている最中だな」
「みたいだね~、ならこれ食べよ」
レオネが差し出してきたのは二つの骨付き肉。
「はむはむ、やっぱムー姉ぇが指揮を執るのか~」
「やっぱりなのか?」
普通に考えたらエナやレオンが適任だと思うんだが。
「ムー姉ぇはグレ婆ぁの孫だからね、いろいろと知識を教わっているのさ~。だからみんなムー姉ぇの知識を当てにしているのさ」
レオネの説明でムールは珍しく頭脳労働できるほうの獣人だと判明した。
(なるほど、だからある程度数を把握したり、人事に関わったり、作戦立案にも口を出しているのか)
「ムー姉ぇも自分で頭よくなってお兄ぃに迫ったって聞いたからね、間違いないよ」
「ソウデスカ」
そういう話は興味ない。
「では、人員はそれぞれ割り振れいいな?」
「「おう」」
どうやら話し合いが決まった。
魔蟲担当の人員としては単純にレオン、ルウ、アシラの部隊から1500ずつ出し、そして隊長はルウが担当することになった。
「ではそれ以外の者はできうる限りの速さでテス氏族の元まで来い、いいな」
「「「「了解」」」」
「じゃあ、この宴を存分に楽しめ!!」
「「「「おう!!!」」」」
そういうとレオンはムールの腰を抱きながら肉に食らいつく。
その姿を見て血の涙を流している者や、地面を殴って悔しそうにしている連中もいる。
(ま、こうなるわな)
もっている者は当然の権利だが、それを持っていない者からすれば垂涎の光景だ。
なのでモテてない存在からすれば嫉妬ものだ。
バサッバサ
頭上から二つの羽音が聞こえてくる。
「その宴、私も加わっていいか?」
「お~ハーストか、いいぞ、お~い二人にも用意してやれ~」
ハーストとファルコも輪に加わり、話が進む。
「それで、この後はレオンはどうするんだ?」
「俺か?俺は連中率いてルンベルトの方向に向かうさ」
当然ながら魔蟲を倒して終わりではない。次は人族との戦争が待ち構えている。
「それとハースト」
レオンは真剣な面持ちをすると自然と頭を下げた。
「この度の助力は本当に助かった礼を言う」
スッ
周囲の獣人もレオンにつられるように頭を下げる。
「我らもキクカ湖のような惨状は起こしたくなかったからな」
「だが、それは礼を言わないことにはならない、『母体』を探すときも、【王】を翻弄するときも世話になった、それを現さないのであれば、俺たちの流儀では死を意味する。だから感謝する」
するとハーストとファルコが居心地悪そうにする。
「わかった受け入れよう」
「ああ、この恩は忘れない」
「だな、お前は一度覚えた恩は忘れないからな」
「いや、あの事なら悪かったって!」
ハーストの一言でレオンが慌て始める。
真剣だった雰囲気が旧友と楽しむ空気になった。
「それでハースト、お前のところはどんな感じだ?」
「ほとんど無事だが、【王】にやられた連中は少なくない」
俺が知っている限り、ヨク氏族の戦士は10人余りが【王】にほか20人余りが蟲に殺されている。
ほかにも飛んでいる蜂を相手にしてもらったんだ、それなりの犠牲が出ていても何もおかしくない。
「遺体がない奴らは残念だが魂だけでも里に戻してやらないとな」
「それは手伝いたいが」
「まぁ無理だな、バアルならともかく、お前らだと長老たちが許しはしない」
「だよな~お前らのところは頭が固いからな」
「ああ、いずれはお前らとも手を取り合いたいものだな」
「!?叔父さん!?」
寝耳に水だったのかファルコはハーストの言葉にひどく驚く。
「ファルコ、こやつらは長老たちが言っているような者たちか?」
「それは……」
長老がどんなことを言っているかわからんが、いい言葉でないことは確かだろう。
「ハースト、お前が今回すんなりと協力を受け入れたのって?」
「想像に任せる」
エナの予想通り、ハーストの真の目的はレオン達、ここでいう地の者との確執をなくすことだったのだろう。
そのために建前に俺を使いレオン達に合流した。
「私はな、いい加減あの里は吹っ切れるべきだろうと思うのさ」
ハーストの言葉には切なる願いが確かにあった。
「それと次の人族との戦争は我らは参戦しない、いいな?」
「ああ、ここまで助けてくれれば十分だ」
ヨク氏族の戦士はこの宴が終わると里に戻り、日常に戻っていくという。
「じゃあ、今日は楽しんでくれ」
「そうさせてもらう」
レオンとハーストは酒を飲み干す。
「ほらほら~、バアルも!!」
「んぐ!?」
いきなり口の中に木の実を突っ込まれる。
こうしてひと時の休息を存分に謳歌していくのであった。




