この寝不足は誰のせいだと思っている
「ぷっは~~いや~~おいしいね~~」
その夜、椰子の殻らしきもので果実酒を飲んでいるバカが一人。
「いや~いい気分~~どう、バアルも飲まない~」
「飲まん、それと絡みついてくるな!」
質の悪い酔っ払いとなったのはなぜだかやたらとべたべたとしてくるレオネだ。
「ほりゃ~のめ~わたしのさけがのめんのか~」
(本当になんでこんなに付きまとわれんだよ)
いくら拒否しても、ぐいぐいとくるので仕方なく受け取り飲む。
「ん?やけにあっさりだな」
「そりゃね~お母さんが大事にとっておいた奴をがめてきたからね、おいしいはずさ」
そういってレオナはぐびぐびと飲む。
「おお、いい飲みっぷりだな、ほらよ」
「おお~くるしゅうない~~」
諦めないなら、構えなくさせるだけだ。
それからはわんこそばの要領で飲み干したらすぐ注ぎ、飲み干したらすぐに注ぎを繰り返しべろんべろんにする。
「うにゅ、もう無理~~~」
スタスタスタ、トン
「スピ~~」
なぜだか寝入ると背中に回り、体重を任せる形で眠りにつく。
「まじかよ………エナ」
「自分で何とかしな、行くよティタ」
「……がんばれ」
エナはティタを連れて離れていった。
「はぁ~どうすっかな」
近くの奴らを見てみると全員が視線を逸らす。
その理由は
「…………………」ジィ~~~
レオンが鋭い視線でこちらを見据えている。
誰もレオンのあの視線を受けたくないのだろう。
「こら、いい加減割り切りな」
ムールが肉を持ってレオンに近づく。
「けどいずれ家長と為る身としてはだな、妹たちにいい相手を見繕う義務が」
「それは何も実力や性格だけじゃないでしょ」
するとビューラも果実を持ちながら近づいていく。
「ほら、血が増えやすい果実よ」
「いい、そんなもの食わんでも」
「また、そんなこと言って、ほら」
ビューラは無理やりレオンの口に赤黒い実を突っ込む。
「っうぐ!?」
「吐き出さないでね」
何とかレオンは飲み込む。表情から本当に食したくない果実なのだろう。
「うげ、これは渋いから嫌いなんだよ」
「だめよ、レオンは小さいころからこれが苦手だけどそろそろ克服しなくちゃ」
「そうはいってもな、嫌いなものは嫌いなんだよ」
そういうとビューラが延々とレオンに説教する。
「おうおう、やっぱレオンも尻に敷かれているな」
ルウがレオンを指さしながらからかう。
「も?てことはビューラもレオンの嫁なのか?」
「ああ、って、知らなかったのか?」
初耳だ、レオンに複数の嫁がいることは知っていたが。
「だから、ほら」
ルウの視線の先では、涙を流しながら地面を殴っている数人がいた。
「まぁモてない奴からしたら嫉妬狂いしそうになるわな」
「ルウはどうなんだ?」
「俺?俺は4人いるぞ」
ここにもいやがった。
「俺の弟もレオネに求婚したことがあるんだが拒否されてな」
「どう返してほしいんだ?」
嫌味なら言われても困るんだが。
「いや、弟は将来有望されていたんだが、そんな弟を拒否したのにお前にはべったりでな、不思議なだけだ」
「俺もなんでこいつがこんな、なのか知りたいぐらいだよ」
ルウも認めているほどレオネは実力者だという。
「お前、明日はヨク氏族に行くんだろう?ならきちんと体調を整えておけよ」
「いや、この状態をどうにかしたいんだが?」
「嫌なら、そこらへんに転がしておけよ。まぁそこまで酔っているんなら他の雄が襲い掛かるかもしれないがな」
ルウは笑いながらそういうと離れていった。
「はぁ~仕方ないか……よっと」
レオネを背負うとそのまま寝床に連れていく。
翌朝。
「ふぁ~~よく寝た~」
レオネはそういいながら俺の寝床から出てくる。
「いや~ごめんね、場所借りちゃって」
「おかげで外で寝ることになったがな」
俺はレオネを寝床に寝かした後、家の外で横になり寝ていた。
「けど大丈夫?今日はヨク氏族と一緒に行くんだよ?」
「…………」
昨日の絡み具合を覚えているのなら普通はこの言葉は出ないと思うのだが。
「あ、ほら、来たみたいだよ」
レオネの指さす方向を見ると空に何名かの人影があった。
とりあえずレオネと共に例の場所に向かう。
「待っていたぞ、人族の子」
ハーストを中心にした十人規模の集団が何やらピリピリとした雰囲気を放っている。
「バアルだ、それでどう移動する?」
「我々が抱えていこう、そいつもか?」
全員の視線がレオネに向く。
「そうそう、伴侶として当たり前なのさ」
「伴侶にした覚えなんてない」
息をするように嘘を吐くレオネ。おそらくは冗談の類だと思うのだが、訂正するのがいちいちめんどくさい。
「バアル、頼むぞ」
レオンから声を掛けられる。
「了解だ、そっちも事前通り、『王』と『母体』の捜索を続けてくれよ」
「もちろんだ、間引きもやっておくとしよう」
事前に指示した通りレオン達にはこのまま捜索と殲滅をメインに動いてもらう。
「では、行くぞ」
ハーストたちが翼[腕]を広げて空に舞い上がる。
「おい、俺はどうすれば?」
「両腕を上げろ」
とりあえず言われた通り、両腕を上げる。すると鳥足で二の腕を掴まれ、徐々に宙に上がっていく。
(鷹につかまったウサギの気分だな)
「うぉ~~すご~~~」
もう一人は純粋に空を楽しんでいる。
(落下したら死ぬのに能天気だな)
『飛雷身』で落下を防げる自分とは違い、対策がないであろうレオネは普通怖がると思うのだが。
「以外だな、もっと怖がると思ったのだが」
ハーストも同意見らしい。
「まぁな、空に飛びあがったのは何度かしたからな」
一年前は資料を作るため、領地内を駆けまわる時、ほとんど空にいたこともあったぐらいだ。
「それよりもその樹のことを詳しく教えてくれ」
「よかろう」
まずヨク氏族はウルブント山脈の南側に居を構えている。その理由が例の雷雲を纏った山頂、『雷閃峰』だ。
そこはウルブント山脈の真ん中の部分に存在していて、南北に分かれる境目になっている。
そしてなぜ南北で分かれることになるかというと、その『雷閃峰』には必ず分厚い雲が存在しており、その雲には触れるだけで感電してしまうらしく、耐性がない鳥の獣人には雲を突っ切ることはできない。そしてその雲なのだが決して晴れることはなく、峰の全貌を見た者はいないと言われている。
また、その雲が存在しているがゆえにヨク氏族は南側に唯一取り残された鳥の獣人の里だという。
試練の内容である不思議な樹木はその雷雲の中に存在していると聞く。
だが
(近づくだけで感電するほどの雷雲か、イピリア、どう思う?)
『まぁお主なら苦も無く抜けられるであろうな』
イピリアの予想に概ね同意だ。
なにせ『轟雷の天龍』は雷系のユニークスキルで当然耐性も備わっている。
『あ~一ついいかのぅ?』
(どうした?)
イピリアが何かを伝えようとしている、これはかなり珍しい。
『実はその場所に古い友人がいるのだ、少し寄り道してもらいたい』
(短時間なら問題ないぞ)
おそらくはそこまで苦労はないので少し寄り道するくらいは問題ないだろう。
「そら、見えてきたぞ」
頭上から声がして前を見てみるととてつもなく高い山が見えてきた。
「……確かに雲がかかっているな」
山はフードを被せてあるように分厚い雲に包まれている。
「あそこがヨク氏族の里だ」
『雷閃峰』の少し手前には、山の中腹に人の手で作られた里が存在した。
「それじゃあ、降りるぞ」
そういうと少しづつ降下していく。




