魔蟲の王
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トントン
トントン
「…なんだ?」
ノックされる要領で体を叩かれると、意識が浮き上がる。
「おい、お前は誰と寝ているんだ?」
「……」
エナの声が聞こえてくる。
外を見てみると茜色に染まっており、あと少しで夕闇と呼ぶ時間になるだろう。
「で、何の用だ?」
「レオンが帰ってきた、そのことを教えようとしたんだが」
エナとティタの視線が隣に向く。
「なんか、知らない間にレオナと寝ているし」
「なんだ知っているのか?」
「……後々大変になるな」
「だな」
ティタの言葉が何か不吉な予言めいている。
「それより、レオンが帰ってきた、話を聞きに行くぞ」
ということで腕枕されている左手を無理やり引き抜いて、立ち上がる。
(やっぱ痺れている)
左手に力が入らない。
「……大丈夫か?」
「ああ、じゃあ行くか」
「……ああ」
ということでレオナを置いて外に出る。
「……死ぬなよ」
「?どういうことだ?」
ティタは問いには答えずにそのまま前を歩いて行く。
「おお~すげえな」
広場には体長10メートルはありそうな蠍がおかれている。
(焦げているのか)
蠍の尻尾は途中で引きちぎられており、足は折られ、何より決定的なのが肥大した鋏の甲殻が真っ黒に焦げており機能しなかったのだろう。
「それで、レオンは?」
「今はビューラのところで治療を受けていますよ」
「治療?怪我したのか?」
「らしいぞ」
近くにいた人に聞いてみるのだが、どうやら居残り組で詳細は知らないみたいだ。
ガシッ
「おい、仕事だ」
エナは襟首を掴んで問答無用で診療所に連れていかれる。
「ぐぅうううううううう」
一つの場所で血まみれのレオンがうなされている。
「ほら、さっさと治せ」
「いや、あのな」
レオンの様子を見ると左わき腹をかなり抉られている。下手すれば致命傷にまで発達するほどだ。ほかにも左腕の骨折も目立つ。重点的に左に攻撃を受けたのだろう。
(これほどの大けがならそれなりの対価を)
「これは命令だ、交渉なんてことはできねぇぞ」
低く、下手すればうなりだしそうな声だ。
「……わかったよ」
また何かしらの要求をしようかとも思ったが、この様子だと、下手な要求を出せばめんどくさいことになりそうだな。
「『慈悲ノ聖光』」
バベルを取り出し、回復をさせる技を発動させる。
光を浴びると、とりあえずは傷口がふさがり、ひとまずは安定して見せる。
「で、なんでレオンがこうなっているんだ?」
「それがな―――」
エナの聞いた話だと、レオンとルウの部隊は無事に蠍の『母体』と接触したらしい。
今回は全体に効率よく戦力を配置しているせいか、増援は少なく、順調に追い詰めることができたとのこと。
「で、順調でこれか?」
「ああ、とあるイレギュラーが無ければな」
「イレギュラーだと?」
「『王』の個体が出現したらしい」
レオンとルウは『母体』をあと一歩のところまで追いつめると、それが姿を現した。
「話している奴らの言葉を信じると、山ほどの大きさの百足だとよ」
話では体長は森の奥まで続いており胴回りは今回の蠍の『母体』もすっぽりと入ってしまうほど。
そんな『王』が現れると『母体』を庇う様に立ち回るのが見て取れたとのことだ。
「だけど、そんな巨体だと、今まで見つからなかったというのは不自然だろう」
「…そうでもない」
「ああ、報告ではそいつは地中から姿を現したんだよ」
話を聞くところによると突如として地面から出現したらしい。
「なるほど、で、戦闘はどうなったんだ?」
「一時的にレオンと一部の奴らが注意をひいている隙にルウが『母体』とどめを刺せたらしい」
「……その後に暴れだす『王』をレオンが傷を与えて何とか追い払ったと聞いている」
それゆえにレオンはここまでの重傷を負った。
「ほかのやつらは?」
レオンとともに『王』と戦った奴らもいるはずだ。
「……」
「……」
二人の反応で察することができた。
「『王』に挑んだのは大体300人ほど、だって聞いている」
「……だけど、その300人はレオンを除いて全員が死んでいる」
ということらしい。
「ぐ、おい、誰か、いるか?」
レオンが目を覚ました。
「ああいるさ」
「エナか……それでそっちの方はどうなった」
自身のことを聞く前にキクカ湖での戦闘を聞こうとする。
「終わったよ、しかも無傷でな」
「そうか…よかった……すぅ~~~」
そう言うとすぐさま眠りにつく。
「自分の怪我の状態よりも現状確認か、まぁレオンらしい」
「……だな」
二人はそれをレオンらしさと捉えている。
「それで、レオンは寝たぞ、誰に話を聞く?」
「それはもう一人にだな」
そう言うとレオンとは違う部屋に移動する。
「おうおう、みじめな姿になったな、ルウ」
「グゥ!?黙れエナ」
なんと隣の部屋でルウが寝ていた。
こちらはレオンほどではないが胸に大きな切り傷を負っている。
「さて、お疲れのところ悪いが話を聞かせてもらうぞ」
「俺は怪我人なんだが?」
「でも口は動くだろう?すべてを話してくれたらその傷を治してやるからさ」
「たく、わかったよ」
そう言うと話し出してくれる。
まず、レオンとルウは予定通り岩場に到着すると、探知が得意なルウの部隊が広範囲に散り、『母体』を捜索。
その後、2時間ほどで『母体』を発見。すぐさまレオンと精鋭のみを温存していたルウがその場に急行し、戦闘開始した。
「レオンの戦いぶりは本当にすごかったぜ」
ルウの言う限りでは、蠍の外骨格に誰も歯が立たなかった。
尻尾の毒針を受ければ、数分で死に至り、鋏に掴まれれば真っ二つになる。
もちろん脅威は『母体』だけではない、岩場の陰に潜んでいる蠍もだ。なにせ死角から毒針を打ち込まれるだけで戦闘には支障が出る。ほかにも耐久力ある百足もいればそうやすやすと『母体』を攻撃できるわけがない。
だがそんな中レオンは、炎を纏うとそのまま敵陣に突撃を掛ける。
「レオンの炎はそこら辺の獣の炎とは一味違うからな、魔蟲は近寄ることはできないのさ」
そのまま『母体』と対面すると一騎打ちを始める。
「まずレオンは鋏を使えなくさせるように、鋏の攻撃を止めると鋏を炎で使えなくさせたんだ」
レオンの炎を食らうと、鋏は無事なのだが、中の筋肉が変質させ動かすことができなくなった。
「その後も、もう片方の鋏を使えなくしてな、そのまま背中に飛び乗ると卵を潰しながら尻尾を引きちぎったのさ!!」
ルウの表情は尊敬の色が見え隠れしている。
そう言うのはいいから簡潔に語れと言いたいが、今のテンションではおそらく聞き入れてくれないだろう。
「それで?『王』の個体が現れたと聞いたんだが?」
「ああ、それでレオンの行動でほかのみんなも奮闘することになるんだが、『母体』まであと一歩というときに地面が揺れたんだ」
「それが『王』か?」
ルウは静かにうなづく。
「まず最初に奴は『母体』とレオンの間に体を入れて分断したんだ」
その後に『母体』とともに下がり始めて逃げようとし、それを阻止するためにレオンと精鋭と呼べる実力者の数名が『王』への攻撃し何とか『母体』から引き離した。
そのチャンスを逃さまいと手の空いている残りの戦士が『母体』に群がり、何とか仕留めたのだが、その間にレオンは重傷を負いそのほかは亡き者となったというわけだ。
「もちろん、重傷を負っても『母体』は『母体』だ、俺達の部隊も無傷では済まなかったさ」
「ちなみに被害は?」
「わからない、そこはムールにでも聞いてくれ」
どうやらムールは退却の指揮を執ったらしくそこまで怪我を負ってはいないらしい。
「もういいか?」
「ああ、怪我人なのに無理をさせたな、養生してくれ」
「ああ、わかっているよ」
そう言うと目を瞑り、寝息を立てる。
「さて、じゃあムールに話を聞きに」
「レオン!!どこ!!」
診療所に件のムールの悲鳴が聞こえてくる。
「手間が省けたな」




