魔蟲の習性
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先ほどまでいたバロンの城のような建物はサバンナと樹海の境目辺りにあり、数分馬を走らせるだけでどちらにでも風景が変わっていく。方角は西が樹海で東がサバンナとなっている。
ちなみに東のサバンナ地帯はアルバンナ、西の樹海はアマングルと呼ばれている。
そしてこの地の特徴は北と南に東西に広がる大きな山脈が存在している。北の山脈の上は海岸沿い近くでそこまで陸地は無いのだが南の山脈は大陸のちょうど真ん中に鎮座し、魔蟲との境界線となっている。
話を戻すが西の樹海アマングルを抜けた先は何の緑も存在しない死の砂漠が存在している。ここには生物が住むことができない環境になっている。魔蟲共がこちら側に来るには死の砂漠を通って来るよりほかはないそうだ。
森の中を進みながら説明を受けているのだが、疑問が出てくる。
「山を越えてはこないのか?」
「無理だ、あそこには様々な怪鳥が存在している。こちら側に来る前には必ず食べられるさ」
南の山脈はガルニクス山脈といい、強大な鳥系魔獣が多く蔓延っているらしく、魔蟲が仮に通ることができても一匹二匹ほどしか通ることができないらしい。
「そして10年に一度ガルニクス山脈の向こう側で群蟲の大きな争いが起こる」
「そこで敗れた奴は身を削りながらなんとか砂漠を渡り逃亡してくる。本当忌々しい奴らだよ」
「…」コク
いくらか数を減らしてこちら側に来たと言っても、数は万をくだらないという。
なので放っておくと樹海を食い尽くしサバンナの方までやって来て、すべてを食い荒らしてしまうのだとか。
「なるほどな、そしてその魔蟲と戦争が重なり合ったということか」
「そうだ、おかげでどちらにも戦力を割くことになって変に長引いているのさ」
「しかも今回に限って、やたらと魔蟲の数がバカでかいったらありゃしない、人族に割いている戦力なんてほんの三割だぜ」
思わずエナの言葉に驚く。
なにせたった三割の戦力でフィルク聖法国とクメニギス魔法国を相手取っているということになる。
(……いっそ、ゼブルス家も協力してこいつらを潰しておくのもアリか?)
魔蟲を倒し終えて、クメニギスとフィルクを倒し終わったら高確率でグロウスまで到達してしまう。
ならば、不安の種は摘み取る方がいいのではな
ゴン
「って!?」
「何を考えているかは知らんが嫌なにおいがした」
「だからって殴るなよ」
頭を押さえながら殴った人物に文句を言うが、気にも留めてない。
「知るか、オレはレオンとティタ、テト姉達と楽しく過ごせるようにしたいんだよ」
「じゃあ仮に魔蟲を倒し終えたとして、クメニギスとフィルクを退けた後はどうする?その二国を滅ぼすんじゃないのか?」
「同胞がこれからも危機に陥るなら滅ぼすかもな」
何のためらいもなくレオンがそう言い切る。
「そうだな、レオンの言う通りにだ」
「…エナが危険になれば迷わず」
エナもティタも迷わず言い切る。ごく一部意見が違うみたいだが誰も気にしない。
だがレオンの物言いに少し違和感があった。
「陥るなら、か…国に牙向く気はないんだな?」
「まぁな、あたしは生まれた地で生きて、生まれた土地で過ごし、生まれた地で死んでいきたい、そしてそれは家族や友人がいること前提だ」
「そしてそれはこのアルバンナに生きるみんなの想いだ」
「……その通り」
レオンもエナもティタも当然のように頷く。
(なるほど、つまりはこの地に攻め入らなければ全く問題はないわけか。ならフィルクやクメニギスが滅んでもグロウス王国は問題ないな)
なにせグロウス王国は奴隷制は無い、なので獣人を奴隷にしたりなどはしない。
奴隷関係でのいざこざは普通には起きえないだろう。
「なら、いいや、クメニギスでもフィルクでもさっさとぶっ潰してくれ」
「?お前はクメニギスの出身じゃないのか?」
「ちげぇよ、俺はグロウス王国の出だ。俺は留学しに行っていただけだよ。まぁそいつに攫われたけどな」
「それは知らん」
エナは何の咎もない表情しながら前を走る。
数時間も樹海を走れば、当然日も落ち始める。
「今日はここまでだ」
「だな、じゃあオレが肉を獲ってくる、火の準備は任せたよ」
そういうとエナは森の中に姿を消した。
「「…………」」
そしてこの場は男のみとなるのだが、レオンとティタの雰囲気が少々邪険だ。
「…あ~なんか知らないが、この際だいくつか聞きたいことがある」
「なんだ?」
お互いから視線を外さずにレオンが応答する。
「俺たちはどこに向かっている?」
「ラジャ氏族の元だ、あそこが西の中で最も大きな氏族だ、魔蟲共を倒すための協力もしてくれている」
東のアルバンナはバロンが率いているテス氏族、西のアマングルはラジャ氏族が一大勢力を築いているとのこと。
「じゃあ次に魔蟲の生態について教えてくれ」
「まず、魔蟲は一つの群れを作る。だが群れと言っても一種類の蟲じゃない、いくつもの蟲共がお互い共生しながら生きている一種の氏族だ。毒を使う蟲、甲羅が固くて砕くことができない蟲、空を飛ぶ蟲、闇夜を進む蟲とかが多くいる。そして群れの共通点だが絶対的な『王』が存在している」
「……そいつを叩くことができれば群れは崩壊する。そうすれば種類ごとに固まるから、それを叩けばいい」
「その通りだ、一種類なら別段脅威じゃない。脅威になるのは蟲共がお互いの弱点をカバーしあっているからだ」
「なるほどだ、では魔蟲共に有効な手立てはあるのか?」
「「正面から叩き潰す」」
レオンとティタは当然のごとく宣言する。
「……それはあれだよな?なんかの作戦とか真正面からの攻撃に重きを置くということだよな?」
「な訳あるか、俺たちが獣と化し、ただ蹂躙するのみだ」
「……その通り」
そして理解した。
(獣人は脳筋しかいないのか!?)
テトの話だとレオンが軍を作ったと聞いた。つまりは総大将だと思っていいだろう、それなのに攻勢の答えがこれだ。
これがグロウス王国だったら考えられない事態だ。
(そしてレオンが軍のトップに居られるのならほかの奴らに期待するだけ無駄だよな……唯一参謀らしいのはエナくらいか)
ルンベルト地方の戦いを見れば参謀の立ち位置に最も近そうだ。
「お~い、戻った……どうした?」
「「何も」」
エナが戻ってくると、二人は視線を外し離れた場所で横になる。
「まぁいいや、レオン、火をくれ」
エナは石で燃え移らないように枯れ枝を囲む。
「ほいよ」
レオンが腕を掲げると指先に火が灯る。長い枝で火を貰うと枯れ木につけ始める。
「ティタ、手伝ってくれ」
「…ああ」
エナが取ってきた鳥の一匹をティタに渡すと羽をむしり始める。
「それでなんの話をしていたんだ?」
「蟲について少しな」
先ほどまでの会話を教える。
「ああ、おおむね間違いない。そしていくつか付け加えるなら『王』意外に『母体』もかなり重要になるぞ」
エナの話では、多種多様な魔蟲を統率するのが『王』で一つの種族を増やすための唯一の存在が『母体』だという。
「つまりは『王』を獲り、その後に『母体』を獲れば私たちの勝ちだ」
「だが『王』を獲ろうと思えば魔蟲共が盾になり、その間に魔蟲共が増えて再び盾になる」
「……『母体』を殺そうと考えようとしても、群れの奥深くにいるからそれもできない」
それは長引くな。
「しかも最悪なことに10日もすれば生まれた魔蟲は成虫になってしまうからな、殺しても殺しても追いつかないのさ」
「減らしても少ししたら増えてしまうわけか」
「ああ、しかも俺たちは人族同様に長い年月を掛けないと子供は育たない」
ということは持久戦に持ち込むことは無理だな。
「おし、羽の処理が終わった」
エナは羽をむしり終わると鳥の部位ごとにに分けて焼く。




