強行突破
いくら猛進しても夜になれば休息をとる。
そして珍しいことに、今夜はハイエナの獣人がいない。
(イピリアを出して目印を残すなら今、なんだがな)
脳裏に寒い夜、背中に寄り添ってくれた存在を思い出す。
(……まぁ俺はこいつらとは違ってそこまで悪い扱いはされないだろう)
なぜだが、今は集団の行先が見て見たくなった。
ザ、ザ、ザ
そんなことを思っていると誰かがやってくる足音が聞こえる。
「******!!!!!!!!!!!!!」
「おいおいおい!!」
やってきたのは子供の獣人だ。しかもどこで拾ったのか、槍も持っている。
「***!!」
「このやろ!!」
なにかを叫びながら、槍を突き刺してくる。
(反撃できないと思いやがって)
無造作に突き出された槍を掴み引き込む。
「ぐっ!?」
「大人しくしろ、俺も騒ぎを起こしたくない」
槍を使い慣れていないのか掴んだまま檻にぶつかる。
「****!!!」
必死に槍を抜こうとするが何もしていない状況では俺の腕力には敵わない。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」
最後は檻に足を掛けて必死に抜こうとしている。
(ば~か)
必死に引っ張っているときに放してやる。
となるとどうなるのか、当然背中から倒れていく。
「ふ」
「!?********!!!!!」
鼻で笑ってやると、激高してまた懲りずに槍を入れようとする。
「*****」
するといつの間にか少年の後ろにハイエナの獣人がいた。
「*****?」
「******!!」
「******」
「****、****」
「******」
「***……**」
「*****!!!」
なにかのやり取りを行うと少年はとぼとぼ帰っていった。
「はぁ~」
ハイエナの獣人はため息を吐くと。
俺の檻に近づいてくる。
「*****」
なにかを言いながら腕を入れてくる。
少しだけ身構えるが、彼女の腕は俺の襟を掴み柵に近づける。
「****?」
(何をするつもりだ?)
危害を加えられることは少ないと思うが、少々緊張する。
「「………」」
どうやら先ほどの槍で傷ができたかどうかを確かめているようだ。証拠に体のいたるところを優しくなでられている。
「***」
安堵した表情をすると、この場から離れていった。
(本当に何なんだか)
とりあえず、楽なら態勢で眠りにつく。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ
日が昇ると、昨日と同じように猛進する。
「レシュゲルさん」
「なんだ?」
「このルンベルト地方は通り抜けるまでどれくらいかかります?」
「……人の足なら十日は掛かる、馬なら上手くいけば2日でいける、この集団の速度だと」
今の速度は馬よりも遅いがかなりの速さで移動している。
それも体力が切れることなく、大人子供関係なくだ。
(異常な体力だな)
普通に考えたら子供でこの速さについてこれるわけがない。
(クメニギスが労働力にしたくなるのも納得だ)
子供ですら、この集団についてこれている。
それから二日間、中央ルートをひたすら突っ走る。
そして中央ルートに入ってから三日目の昼。
「アレが軍本体ですか?」
「ええ」
距離は離れているが軍が遠くに広く展開しているのが見える。
「よかった、たすかった~~」
周囲でこのような声が上がるが、微妙なものだ。
(さて、獣人はどうするかな)
すると講堂でも見た獅子の獣人が先頭に立つ。
(こいつが集団の長みたいだな)
この青年の周りには常に襲撃した獣人が数人傍についているのを確認している。
「お手並み拝見だ」
獅子の獣人は大きく息を吸い込み始める。
そして
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
双の山脈に挟まれた場所であるがゆえに、その声は何度も反響していく。
山脈の間にいてこの声が聞こえない者はいない。
そしてそれを間近で聞いたものはどうなるだろうか。
「っ~~~~~」
耳を抑えながら悶える。
何とか立ち上がろうとしても、平衡感覚を維持できない。
(ほかの獣人は分かっていたのか?!)
檻の外を見てみると全員が耳に手を当てて、何とか防いでいる。それでも俺たちはまだいい方だろう。
なにせ獅子の獣人の前方では地面が捲れあがっている。
(あの衝撃を受けたらどうなっていたことか)
下手をすれば二度と聴覚が使えなくなってもおかしくないだろう。
「っ~、なにが」
俺に続いてレシュゲルも檻の外を確認する。
「*******!!!」
「「「「「「「「「「「「*******!!!!!」」」」」」」」」」」」
獅子の獣人に続いて多くの獣人が『獣化』する。
そして
「おいおい、まじかよ」
この集団は迷いなく軍の方向に進んでいく。
「正面突破!?正気か!?」
レシュゲルもこれには驚いている。
猛スピードで迫るのだが、当然軍は後ろにも警戒の目を向けている。
「後方より敵接近!!!!数百人規模!!!」
「迎撃用意!!」
後方に控えていた魔法使いたちがこちらを向き杖を構える。
(このままじゃ、魔法を撃たれるぞ、どうすんだ!?)
『動くか?』
(ああ、たの!?)
いつの間にか台車にハイエナの獣人と『ティタ』と呼ばれていた蛇の獣人が飛び乗ってきた。
「***」
ハイエナの獣人がなにかを指示すると蛇の獣人が俺の腕を掴む。
(な、っ!?)
掴まれた腕に強烈な痺れてくる。
腕から胴へ、胴から全身に毒が回り、床に突っ伏す。
(こいつが毒の元凶か!)
動けなくなってしまったので自力で脱出はできなくなった。
『どうする?周囲の奴らを焼き殺すこともできるが?』
(本当に殺しきれるか?)
獣人は『獣化』するとかなりの耐性を得るものが多い。それこそ研究発表で少年が火魔法に耐えられたように。
『絶対かと言われれば、微妙な線だな』
(ならば、本当に殺されそうなタイミングまで動かないでくれ)
今の現状取り押さえはされているが、殺される雰囲気はない。
「待て!!私はレシュゲル・エル・サラスファス、第七魔法師団長だ!!」




