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行軍の行き先


それから数日、身を隠しながら荒野を進むと進む方向に二つの山脈が遠巻きに見えてきた。


「あれがウェルス山脈とミシュル山脈ですか?」

「ああ、そしてその入り口だ」


山脈は岩肌だらけで大人数で登るのには適していないのが遠巻きにも分かる。


そして


「あれが、軍の駐屯地ですか」


視線の先では土を盛り上げて作られた防壁に何にも人が見張りをしている。


「ああ、ここはフィルク聖法国と共同で造った軍事基地だ」

「なるほど……この距離ならばたとえ夜でも見つかりますね」


軍事基地がおかれているのは平たい盆地で隠れて行動するには不向きの場所だ。


(さて、どうすっかな、イピリアに不自然に魔法を使って注意を引こうとも、こいつ(・・・)がいるからな)


ハイエナの獣人はレシュゲルと会話しているにもかかわらず、牢の前でずっと監視している。


それこそ、俺が起きている間はずっとだ。荒野に入ってから俺から離れるところは見ていない。


(本当にどうすっかな)


いっそのことイシュゲルをけしかけて、大声を出させようとも考えたが、軍人と言うことでこの辺りの地形には詳しい。


(まだ情報源を失いたくはない)


この土地に明るそうだし、もう少しここら辺の地形のことを聞きたい。


(さて、どうやってこの難所を突破するのかな)


ということで獣人がどのような動きをするのか監視する。









まず獣人は駐屯地を超えるようなことはせずに、隠れやすい場所を探し、そこで休息をとった。


火を焚けば、見つかるから夜は何の明かりも付けづにそのまま夜を過ごす。


だが、まだ春前なのだ、夜になれば正直言ってかなり寒い。


獣人は毛が多い人物だけ『獣化』し毛が無い人たちはそれの近くに固まって寝ている。


だが捕らえられた人質にそんなことをするわけもなく。


「「「「「「「「「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」」」」」」」」


寒さで眠れるわけもなく、体を震わせて歯がぶつかる音が鳴り響く。


(うるせぇ)


だが俺はそんな集団に入ることなく比較的に快適に過ごしている。


(本当にお前がいてよかったよ)

『このタイミングで言われても微妙なんじゃが』


イピリアが俺の魔力を使い、身体強化を発動してくれている。


なので体感では6月あたりの気温だ。


「き、君は、だ、大丈夫、な、なのか?」


レシュゲルが心配してくれるが、客観的に見て、大丈夫じゃないのはそっちだ。


「まぁ、寒さには強いですからね」

「そ、そうか、な、ならい、いんだ、きみは、ま、まだこ、こどもだ、わ、私たち、よ、りも、と、凍死、しや、す、すいから、気を、つ付ける、んだよ」


寒さでろくに口が動いてない。


「ああ、レシュゲルさんも気を付けて」


柵に背もたれながら返事をする。


フサッ

「ん?」


すると高等部に毛皮のようなものが当たる。


振り向いてい見ると、柵を挟んで背中合わせにしている獣人がいる。


(誰だ?)


光源がないので誰かを特定はできない。


すると腰に尻尾が回される。


(……温めようとしてくれているのか?)


ちょうど風が吹いている方向に腰掛け、尻尾を檻の中に入れてくれている。


(子供ということで同情してくれているのか?)


獣人は怨みしか持っていないと思っていたんだがそうじゃないのか。


(となると弱みを見せて同情を引いた方が良かったかな)


泣いたり、弱弱しい姿を見せればもしかしたら解放してくれそうでもあったが、道中での俺の態度で今更弱弱しくするのは違和感が大きい。


(にしても誰なんだ…ろうか……)


後ろに風よけ兼毛皮になってくれて、さらには腰に回してくれた尻尾でほんのりと温かさを感じ、眠気が襲ってくる。


「*****」


なにかをつぶやいたのは分かったがよく聞き取れなかった。








それから数日、この場所で足止めをされているのだがこの集団に動きはない。


「******」


朝起きると、檻の中にクッキーらしきものが置かれる。


「んで、相変わらずか」


クッキーを頬張りながら、いつも通り見張っているハイエナの獣人に話しかける。


「………」

「だんまりか、それとも理解できないのか」


この獣人を無視して周囲の獣人を観察する。


(変化はないと思うんだが……ん?まて、数人いなくなってないか?)


襲撃した獣人の服は奴隷とは違いきちんとしている、なので見分けは比較的に簡単だ。


その中でいつも眼前ハイエナの獣人に寄り添っていた蛇の獣人と、ほかにもトカゲのような獣人の姿がない。


(何をしているんだ)


やはりじっと機を見ている訳じゃない、明らかに何かの動きをしている。


(イピリア、周囲にこの数人はいないか)

『どれどれ、すこし探してくるから待っておれ』


イピリアが飛び立つと集団の上空で旋回している。


『ふむ、おらんな』

(何か周囲に異常はないか?)

『異常?ふぬ何も起こっておらんよ』

(そうか、じゃあ数人だけでどこ行っ『しいて言えば、お主がいう駐屯地から紫の煙が上がっているぐらいだな』それだろ!!!!!)


思わず表情にも出てしまった。


幸い目の前の獣人はそこまで怪しんでいない。


(もっと詳細にわかるか?)

『詳細にか、煙を吸った人族はどんどん倒れて言っているな』


やられた。


(生存者、もしくは毒の影響を受けていない人物はいるか?)

『ふむ……残念ながら無理だな、全滅している。まぁ良くて虫の息だけだ、ほかは例外なく死んでいる』

「ッチ」


思わず舌打ちしてしまったのは仕方がないだろう。


ピクピク、ピクッ!


すると突然すべての獣人が立ち上がる。


「*****!!!」

「「「「「「「「「「*************!!!!」」」」」」」」」」


ハイエナの獣人が何かを叫ぶと呼応するように様々な獣人が叫び声をあげる。


「***」


すると一人の獣人が檻を掴み台車に乗せる。


もちろんそれは俺だけではなく他のみんなもだ。


「奥にも軍はいるのか?!」

「あ、ああ、あそこははあくまでも物資の集積所の役割が大きい。蛮国を攻めるための軍本体はほとんどが進行途中だと聞いている」

「規模は?」

「……それは言えない」


レシュゲルは獣人を見ている。


情報が漏れることを恐れているんだろう。


「ではどのルートでも確実に見つかる規模ではあるんですよね?」

「それはもちろんだ」


ということはこの先では確実に見つかるはず、なのだが。


獣人の表情に悲壮感がない。


(何らかの策があるのか?)


柵にしがみつき外の様子をつぶさに観察する。


全員が台車に乗せられるとすぐさま走り出す。


「な!?」

「なぜ!?」


ほかの人たちは砦から紫の煙が出ているのを見て何が起こっているのかわからず混乱している。


それよりも台車の進行方向をしっかりと確かめる。


(通るのはどこだ。東の砂場か、西の断崖か、それとも軍の主力が通っている真ん中の道か)


どの道を通っても獣人からしたら突破困難になると思うのだが。


そして砦の横を通り過ぎる。


(この方向は真ん中のルートか)


集団は迷わずに山脈の間を通ろうとしている。


(だがそこからどうする?軍の主力ルートならこの先には大軍が存在しているはずだ)


そこで終了だとしか考えられない。


「ん?」


すると戦闘で先導していた奴隷ではない獣人の数人が集団を離れていく。


(なんだ?山脈に向かっている?)


見える範囲になると理解できる。


この山は足場となる部分が極端に少ない。それゆえに山を使った行軍はまず無理だ。たとえ数が少ないこの集団だとしても山道は通れないだろう。


「****」

「「「「********」」」」


逸れていった獣人達が何かを会話すると分かれてウェルス山脈とミシェル山脈に向かい始めた。


「「「「「*****!!」」」」」


するとその数人が『獣化』し、体が変化していく。


(…………山羊か)


獣人には他にも様々いたのだが、山に向かったのは山羊の特徴がある獣人だけだった。


(となると彼らは山を越えていくつもりか……だがこいつらはどうする?)


例え数名が山頂から通ることができるとしてもここに大半がいるのだ、こちらをどうにかしなければいけない。



ガタガタガタガタガタガタガタガタ


一気に通り抜けるつもりなのか隠れることなく猛スピードで山脈の間を目指す。


「痛っ!?」


台車にはスプリングなどはついていないのですべての衝撃が直にぶつかってくる。


(もう少しだけゆっくり走ってくれよ)


一応、イピリアに『身体強化』を使用してもらっているのでそこまで衝撃はないが、ほかのみんなは地獄だろう。


それからは隠れるなどのことはせずにただひたすらまっすぐに進んでいる。


それこそ見つかっても何も問題ないようにだ。


ガタン!!

「ぐっ!?」


一際大きな振動で天井に頭をぶつける。


(もう、少し、ゆっくり、走りやがれ)


今はただこれだけを思うのであった。

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